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Agentic AI フレームワーク戦略白書 (2025年度版)
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MIKIO KUBO
October 22, 2025
Research
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Agentic AI フレームワーク戦略白書 (2025年度版)
初学者のための導入ガイドと主要フレームワーク徹底比較
MIKIO KUBO
October 22, 2025
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Transcript
エージェンティックAI フレームワーク戦略白書 初学者のための導入ガイドと主要フレームワーク徹底比較(2025 年版) 1
1. エージェンティックAI とは? 従来のAI との根本的な違い 従来のAI ( 反応的) 入力に対し、定義済みのルールで「出力」を返す 例:画像分類器、標準的なチャットボット
エージェンティックAI ( 自律的・能動的) 目的を理解し、自ら 計画、意思決定、実行する 環境を認識し、ツールを使い、実世界で行動を起こす 2
パラダイムシフト:単なる「生成」から「実行」へ エージェンティックAIの本質的価値は、LLMの 推論能力に 自律的な「身体 ( ツール利用) 」 と 「意識 (
記憶) 」 を与えた点にあります。 インテリジェントなアシスタント ↓ プロアクティブな業務遂行者 これにより、複雑なプロセスの自動化が劇的に進化します。 3
AI エージェントの自律性を支える4 つのサイクル 人間の行動モデルを模倣した、継続的なフィードバックループで動作します。 1. 認識 (Perception) 環境からデータを取得し、状況を把握 2. 推論
(Reasoning) 目標達成のための計画を立案 3. 行動 (Action) 外部ツールを使い、実世界でタスクを実行 4. 記憶・学習 (Memory/Learning) 結果を記録・学習し、将来の判断に活かす 4
なぜLLM だけでは不十分なのか? エージェントフレームワークの必要性 LLMは強力な「脳」ですが、単体では自律的なタスクを完遂できません。 LLM 単体の限界 実行の不確実性: 多段階タスクで失敗すると自律回復が困難 記憶の欠如: 長期的な文脈や状態を維持できない
フレームワークが 構造と制御を提供し、LLMの推論能力を安定した「実行力」に変えます。 5
標準アーキテクチャ:Plan-and-Execute モデル 多くのフレームワークが採用する、信頼性の高いタスク実行アプローチです。 1. プランニング (Planning) 大きな目標を、実行可能なサブタスクに分解 2. モニタリング (Monitoring)
各タスクの実行結果を監視し、エラーを検知 3. リカバリ (Recovery) エラー発生時、自律的に計画を修正してタスクを続行 6
主要な構成要素 (1) ツール利用 (Tool Use) 思考を「現実世界の行動」に変換するメカニズム 外部のAPI、データベース、システムと連携 情報の検索、メール送信、データ更新などを実行 これが無ければ、エージェントはただの高性能チャットボットに過ぎません 7
主要な構成要素 (2) メモリ管理 一貫性と適応性を維持するための記憶 短期記憶 (Context Window) 現在の対話やタスクの文脈を保持 LLMのコンテキストウィンドウに依存 長期記憶
(Knowledge Base) 過去の経験や知識を永続的に保存・検索 継続的な学習と問題解決能力を強化 8
主要な構成要素 (3) マルチエージェントシステム 専門家チームのようにAI が連携・分業するアーキテクチャ 複雑なタスクを、専門スキルを持つ複数のエージェントに分担 タスクの並列処理により、全体の効率と精度を向上 例:情報収集担当、分析担当、レポート作成担当のエージェントが連携 9
主要フレームワークの分類 設計思想により、大きく2つのカテゴリーに分かれます。 ノーコード / ローコード 目的: 開発の民主化、迅速なプロトタイピング 例: Opal, n8n,
Dify SDK / コードベース 目的: 高度な制御、カスタムロジックの実装 例: ADK, LangGraph 10
Google Opal :爆速プロトタイピングツール 概要 プログラミング不要でAIミニアプリを構築できるビジュアルツール 強み 圧倒的な開発速度と優れたUX 非開発者でもアイデアを迅速にPoC (概念実証) へ移行可能
弱点 実験的ツールであり、本番利用の信頼性・サポートは未知数 エンタープライズレベルのセキュリティや柔軟性には課題 11
Google ADK :Google エコシステムのためのSDK 概要 Geminiを中核とし、マルチエージェントシステムの構築に特化 強み マルチエージェントを前提とした設計で、大規模な業務自動化に対応 Google Cloudサービスとの緊密な統合による高いパフォーマンス
弱点 Googleインフラへの ベンダー依存性が高い SDKベースのため、一定の学習コストが必要 12
LangGraph :グラフ構造による厳密な制御 概要 エージェントの実行フローを「状態遷移グラフ」として定義 強み 高い制御性・信頼性: 複雑な条件分岐やエラー処理を明示的に設計可能 高い監査可能性: 「なぜその行動を取ったか」を追跡しやすい LLMモデルに依存しない
弱点 開発の難易度が高く、初期のアーキテクチャ設計が複雑 13
n8n :既存業務へのAI 組み込み 概要 ローコードのワークフロー自動化プラットフォーム 強み 圧倒的な統合能力: 500以上の外部SaaSやDBとの連携が容易 既存の業務プロセスにAI推論をスムーズに組み込める 弱点
高度なエージェントロジックは外部LLMに依存 ゼロからの複雑なエージェント設計には不向き 14
Dify :オールインワン・プラットフォーム 概要 RAG、エージェント構築、アプリのデプロイまでをワンストップで提供 強み 構築したエージェントをWebアプリとして迅速に公開可能 高度なRAG機能とプロンプト管理機能を統合 弱点 プラットフォームへの依存性が高い 大規模なスケーラビリティや性能は環境に依存
15
比較分析:何を優先するか? フレームワーク選択は**「開発速度」 と「制御性・信頼性」**のトレードオフです。 抽象度 高 ( ノーコード/ ローコード) 特徴: 迅速な開発、既存システムとの統合が容易
代表: Opal, n8n, Dify 懸念: カスタマイズ性、監査可能性、高負荷時の制御 抽象度 低 (SDK/ フルコード) 特徴: 複雑なロジック、厳密な状態管理、高いカスタマイズ性 代表: ADK, LangGraph 懸念: 高い学習コスト、初期設計に時間がかかる 16
ユースケース別・戦略的選択 迅速なアイデア検証 (PoC) 最適: Opal (非開発者でも数時間でプロトタイプ作成) 既存業務の自動化・統合 最適: n8n (豊富な連携先を活かし、迅速にAIを業務へ)
複雑なロジックと信頼性 最適: LangGraph (厳密なエラー処理や人間による確認が必須な場合) Google エコシステムでの大規模開発 最適: ADK (マルチエージェントとGeminiの性能を最大化) 17
エンタープライズ利用での最重要項目 ミッションクリティカルな業務で最も重要なのは2つです。 1. 監査可能性 (Auditability) AIの自律的な行動は「責任の所在」の問題を生みます。 「なぜその判断をしたか」を追跡できるかが極めて重要。 LangGraphはグラフ構造により、この点で技術的優位性を持ちます。 2. ベンダーロックインのリスク
特定のクラウドやLLMへの過度な依存は、将来の柔軟性を損ないます。 ADKはリスクが高く、LangGraphやn8nはモデル非依存性が高いです。 18
フレームワー ク 開発パラダイ ム 主要な強み 主要な弱み 最適なユースケース Google Opal ノーコード
迅速なPoC、高い UX 実験的、信頼性 の限界 アイデア検証、社内ミニ アプリ Google ADK SDK マルチエージェン ト設計、Google統 合 ベンダー依存、 学習コスト 複雑な業務自動化 (Google Cloud) LangGraph Python/グラ フ 高い制御性・監査 可能性 高い開発難易度 ミッションクリティカル なカスタムエージェント n8n ローコード 500以上の外部連携 エージェントロ ジックは外部依 存 既存システムのワークフ ロー統合 Dify 統合プラット フォーム RAG統合、迅速なア プリ化 プラットフォー ム依存 RAGベースのエージェン トアプリ開発 19
未来の展望(1) :技術的進化 より堅牢なプランニングと自己改善へ 堅牢なモニタリング機能の強化 失敗経験からプランニング戦略を自動修正する**「自己改善ループ」** 単なるタスク遂行者から、 継続的にパフォーマンスを向上させる存在へ 20
未来の展望(2) :現在の限界への対処 ハルシネーション(幻覚)と信頼性の課題 自律性が高まるほど、誤った判断の影響は深刻になります。 対策 **外部ソース検証 (Grounding)**の強化 複数のエージェントによる クロスチェック **人間による介入
(Human-in-the-Loop)**の設計 21
未来の展望(3) :規制と倫理 「責任の所在」をどう担保するか EUのAI法など、高リスクAIには 高い透明性と 説明可能性が求められます。 企業のコンプライアンス確保には、 推論過程を追跡・監査できる機能が必須です。 LangGraphのような制御性の高いフレームワークが、技術的だけでなく戦略的に重要になりま す。
22
結論:初学者への戦略的提言 エージェンティックAIは、LLMを**「コンテンツ生成」から「業務実行」**へと昇華させまし た。 最初のステップ ( 初学者) まずOpalのようなノーコードツールで、自律的ワークフローの概念を視覚的に理解するこ とが推奨されます。 次のステップ (
エンタープライズ) 開発速度 (Opal, Dify) と 制御性・信頼性 (ADK, LangGraph) のバランスを戦略的に判断す べきです。 23
まとめ 1. パラダイムシフト: AIは「反応」から「自律的実行」の時代へ。 2. フレームワークの役割: LLMの推論能力に「構造」と「制御」を与え、信頼性を担保する。 3. 選択の軸: ユースケースに応じて「開発速度」と「制御性」のトレードオフを考慮する。
4. エンタープライズの鍵: 将来の規制とリスクに備え、**「監査可能性」**を最重要視する。 5. 未来: AIは自己改善ループを獲得し、人間との協調 (HiL) を通じて、より信頼性の高いパートナ ーへと進化する。 24
ご清聴ありがとうございました Q & A 25