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提示する事象の数が変数の同定に及ぼす効果に関する予備的検討

佐久間直也
September 24, 2022

 提示する事象の数が変数の同定に及ぼす効果に関する予備的検討

2022年9月24日(土)
日本理科教育学会 第72回 全国大会(旭川大会)
1I02

佐久間直也

September 24, 2022
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Transcript

  1. 提示する事象の数が変数の同定に及ぼす
    効果に関する予備的検討
    筑波大学附属中学校 〇佐久間 直也
    広島大学 中村 大輝
    2022年 9月25日
    日本理科教育学会
    @オンライン
    全15枚
    Mail : [email protected]
    Twitter : sakunao_rika
    日本理科教育学会第72回全国大会(群馬大会)
    1I02 p.197

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  2. 理科教育における変数の同定
    ◼ 変数(variable)とは
    ⚫ 自然科学において,変わり得る値を取る任意の要素のこと。
    • 独立変数(independent-variable):何も影響を受けずに独立に変化する要素
    • 従属変数(dependent-variable) :独立変数の影響を受けて変化する要素
    • 制御変数(control-variable) :実験で一定または制御されている要素
    ◼ 変数を同定する活動の重要性
    ⚫ 実験活動の基礎を形成する中心的な科学的探究プロセスである(大嶌, 2015)
    • 問いや仮説を定式化することが可能となり,実験において統制するべき変数が明確になる。
    ◼ 変数を同定する思考操作が行われる過程
    ⚫ 問いの設定(吉田・川崎, 2019),仮説設定(中村・松浦, 2018),条件制御(Tschirgi, 1980)
    • 複雑な認知処理であり,学習者にとって難易度が高い(Arnold et al., 2018; Piekny & Maehler, 2012)
    2

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  3. 変数の同定を支援する方法
    ◼ 複数事象の比較に基づくアプローチの実践(佐久間・中村, 2021)
    ⚫ 一部の条件が異なる複数の事象を提示,
    事象間で何が違うかを比較するよう求める
    ⚫ 事前知識の乏しくても,変数を同定できるよう工夫
    ◼ これまでの成果と課題
    ⚫ 複数事象の比較が変数の同定を促進することが示唆された
    ⚫ メカニズムまでは明らかになっていない
    ⚫ 提示する事象の数によって,変数の同定にどのような違いが生じるか検討されてこなかった
    3

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  4. 研究の目的
    提示する事象の数によって,学習者の変数の同定にどのような
    違いが生じるかを明らかにすることを目的とする。
    4
    A B
    2事象 1事象

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  5. 本発表の目的
    ◼ 本調査実施に向けた予備的な面接調査の結果のみを報告する
    ⚫ 本調査実施に向けた調査デザインの妥当性の検討
    ⚫ 学習者の思考過程の大まかな傾向の解釈の妥当性の検討
    5
    予備調査 本調査
    本発表

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  6. 1事象
    研究の方法
    ◼ 調査の手続き
    ⚫ 条件の一部が異なる複数の事象を順番に提示
    ⚫ 考えていることを話しながら,変数を同定することを求める
    1. 最初に単一事象を提示した際の発話を記録
    2. 次に複数事象を提示した際の発話を記録
    3. 最後に「単一事象と複数事象の考え方の違い」「難しさを感じた場面」などを尋ねる
    • 面接の様子は,ICレコーダーで録音した
    • 1人あたり20分間での実施を目指した
    • 時間内に2つの課題の実施を目指した
    6


    2事象

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  7. 予備調査の実施
    ◼ 予備的な面接調査の実施
    ⚫ 調査デザインの妥当性や学習者の思考過程の大まかな傾向を把握するための実施
    ⚫ 国立大学法人筑波大学附属中学校第1学年の生徒6名を対象,2022年3月に実施
    ◼ 調査デザインの妥当性の検討
    ⚫ 提示された事象が理解しやすいか
    ⚫ 事前に想定した回答プロセスに従って回答が行われていたか
    • 単一事象では,知識や経験を基に変数を同定
    • 複数事象では,目の前の提示された複数の事象を比較し,違いを見つけ変数を同定
    ⚫ 調査問題の難易度が研究の目的を達成するために適当か
    7

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  8. 提示する事象の妥当性の検討
    ◼ 予備調査に使用した事象
    ⚫ 研究者1名と中学校教員4名で内容的な妥当性を検討
    • 既習の学習内容に依存しない問題となっていることを確認
    • 中学校4領域をできる限り網羅していることを確認
    8
    番号 題材 領域
    1 化学反応の強さ 粒子
    2 植物の種子の発芽 生命
    3 ばねの伸びの大きさ エネルギー
    4 一定の力で引くことによる物体が移動する距離 エネルギー
    5 振り子の衝突による物体が移動する距離 エネルギー

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  9. ◼ 番号1 化学反応の強さ
    ⚫ 試験管の中に入っている液体と固体により化学反応が起こっている。
    ⚫ この実験における化学反応の強さには,何が関係しているでしょうか。
    9
    条件の一部が異なる事象
    現象 反応強い 反応弱い
    試薬の量 少ない 多い
    試薬の種類 マグネシウム 亜鉛
    試薬の表面積 少ない 多い
    試薬の形 長方形 正方形
    試薬の量 少ない 多い
    液体の量 少ない 多い
    液体の温度 20℃ 40℃
    液体の種類 塩酸 硫酸
    液体の濃度 5% 20%

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  10. ◼ 番号2 植物の種子の発芽 ■ 番号3 ばねの伸びの大きさ
    ◼ 番号4 物体の移動する距離 ■ 番号5 物体の移動する距離
    10
    提示する事象

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  11. 変数同定の思考過程とその根拠(一部抜粋)
    ◼ 単一事象
    ⚫ 既有知識や過去の経験
    11
    ◼ 複数事象
    ⚫ イラスト間の比較
    ⚫ 水と温度と、もう1個...なんだっけ...。
    • 学校で習ったから。正直なこと言うと。
    ⚫ 土をつめ...過ぎた...。
    • おばあちゃんが農家で...土ふわふわにする
    とよいって言ってたので...。
    ⚫ 湿度は関係ないですよね...水,気温一緒,
    水もあげた。...日光って関係ないですよね。
    ⚫ この子(肥料)...に問題があった...。
    • ...気温も一緒じゃないですか。...肥料くん
    しかいないんじゃないか。
    ⚫ 提示する事象の数によって,生徒が変数を同定する根拠の拠り所が異なる可能性が示唆。
    ⚫ 知識が豊富な場合は単一事象,少ない場合は複数事象を利用することが有効である可能性が示唆。

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  12. 同定する変数の吟味(一部抜粋)
    ◼ 単一事象
    ⚫ 既有知識を根拠に吟味
    12
    ◼ 複数事象
    ⚫ イラストを根拠に吟味
    ⚫ ...肥料,発芽に関係なかったはず。
    ⚫ 湿度って関係するっけ。...あんま関係ない
    のかな…低いと遅くはなりそう...。
    • ...家で,湿度は50~60にするのがいいって
    みんな言っているから...人間もそうだから、
    みたいな...。
    ⚫ ...違うの湿度って言っても...関係したっけ
    なって思ったんで,...肥料くんしかいない
    んじゃないかって。
    ⚫ 湿度って,...関係しているのかな...低い方
    で育つって、なんか違和感...。
    ⚫ 複数事象では単一事象と比べて,変数を同定するためにより深く吟味する可能性が示唆。
    ⚫ 複数事象利用することで,変数の同定で確証バイアス避けることができる可能性が示唆。

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  13. 拡散的な思考(一部抜粋)
    ◼ 単一事象
    ⚫ 次第に思考が拡散する傾向
    13
    ◼ 複数事象
    ⚫ 集束する傾向
    ⚫ ...この人...お茶を入れてたかもしれない。
    ⚫ 種の密度が高いっていうか、この(シャーレ
    の)中に1000個とか入れたら...
    ⚫ ボックスに変な機能はついてないですよね?
    ⚫ ...この箱に空気シャットダウン機能があ
    るって思ったんですけど,...両方...空気が
    あるっていう条件が一緒だから,比べる必要
    もないのかな...。
    ⚫ ...お茶を与えられてたら,発芽しなかった
    んじゃないかな...。
    ⚫ 知識が豊富な場合,思考が拡散する傾向が見られたが,複数事象では集束する傾向も見られた。
    ⚫ 複数事象利用することで,より教師が着目させたい変数を同定させることができる可能性が示唆。

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  14. まとめ
    ◼ 成果
    ⚫ 事前に想定していた回答プロセスに従って回答が行われていることが確認できた。
    ⚫ 提示する事象の数によって,生徒が変数を同定する根拠の拠り所が異なる可能性が示唆された。
    ⚫ 事象に関する知識を豊富に保持している場合は単一事象,知識が少ない場合や確証バイアスを避け
    たい場合,教師が意図した変数を同定させたい場合は複数事象を利用することが有効である可能性
    が示唆された。
    ◼ 課題
    ⚫ 本研究は予備調査段階であり,現時点では調査対象者が少ない。
    ⚫ 提示した事象はイラストであり,自然の事物・現象を扱う理科授業においても同様の効果が
    得られるのか検証する必要がある。
    ◼ 今後の方向性
    ⚫ 調査対象者を増やした本調査や授業実践を実施していく予定である
    14

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  15. 引用文献
    15
    1.Arnold, J. C., Boone, W. J., Kremer, K., & Mayer, J. (2018). Assessment of Competencies in Scientific Inquiry Through the Application
    of Rasch Measurement Techniques. Education Sciences, 8(4), 184. MDPI AG.
    2.中村大輝・松浦拓也(2018)「仮説設定における思考過程とその合理性に関する基礎的研究」『理科教育学研究』第58巻,
    第3号,279–292.
    3.大嶌竜午(2015)「英国の科学的探究能力育成教材における変数同定の指導方法の特質‐認知的活動の促進という観点からの
    分析‐」『理科教育学研究』第55巻,第4号,405–414.
    4.Piekny, J., & Maehler, C. (2013). Scientific reasoning in early and middle childhood: The development of
    domain‐general evidence evaluation, experimentation, and hypothesis generation skills. British Journal of
    Developmental Psychology, 31(2), 153-179.
    5.佐久間直也・中村大輝(2021)「複数事象の比較を通した仮説設定の段階的指導の効果:中学校理科「電流とその利用」の
    単元を例に」『日本理科教育学会全国大会発表論文集』第19巻,p. 156.
    6.佐久間直也・中村大輝(2021)「複数事象の比較を通した仮説設定の段階的指導の効果―中学校理科「電流とその利用」の
    単元における継続的指導を例に―」『日本理科教育学会全国大会発表論文集』第36巻,第1号.
    7.Tschirgi, J. E. (1980). Sensible reasoning: a hypothesis about hypotheses. Child Development, 51(11), 1–10.
    8.吉田美穂・川崎弘作(2019)「科学的探究における疑問から問いへ変換する際の思考の順序性の解明に関する研究」『理科教
    育学研究』第60巻,第1号,185–194.

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  16. 補足資料
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    番号 題材 領域
    1 化学反応の強さ 粒子
    2 植物の種子の発芽 生命
    3 ばねの伸びの大きさ エネルギー
    4 一定の力で引くことによる物体が移動する距離 エネルギー
    5 振り子の衝突による物体が移動する距離 エネルギー
    ◼ 実際に使用した調査問題

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