Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
カーネルコードの歩き方
Search
Satoru Takeuchi
PRO
May 24, 2023
Technology
4
3.6k
カーネルコードの歩き方
以下イベントのセッションスライドです。
https://techfeed.io/events/techfeed-experts-night-19
Satoru Takeuchi
PRO
May 24, 2023
Tweet
Share
More Decks by Satoru Takeuchi
See All by Satoru Takeuchi
Linuxの時間を10秒止める
sat
PRO
2
58
プロセスへのメモリ割り当て4 - 実際に使うときにメモリを獲得するデマンドページング(実践編)
sat
PRO
1
23
プロセスへのメモリ割り当て(3) 実際に使うときにメモリを獲得するデマンドページング
sat
PRO
1
29
プロセスへのメモリ割り当て(1) mmap
sat
PRO
2
45
プロセスへのメモリ割り当て2-Pythonのようなナウい言語ではどうやってメモリ獲得するのか
sat
PRO
1
38
サイボウズのOSPO
sat
PRO
3
230
無いはずのパーティションがある Phantom Atari Partition
sat
PRO
1
42
仮想アドレスから物理アドレスにはどうやって変換するの?
sat
PRO
2
78
仮想アドレスと物理アドレスの対応を実機確認してみよう
sat
PRO
0
58
Other Decks in Technology
See All in Technology
「単なる OAuth 2.0 を認証に使うと、車が通れるほどのどでかいセキュリティー・ホールができる」のか検証してみた
terara
0
380
AIエージェントを現場に導入する目線とは
masahiro_nishimi
1
1.5k
開発生産性をむしろ向上させる セキュリティパートナーの作り方 / Dev Productivity Con 2024
flatt_security
0
360
セキュリティ研修 Day1【MIXI 24新卒技術研修】
mixi_engineers
PRO
0
160
dxd2024-生成AIに振り回された3か月間の成功と失敗/dxd2024-link-and-motivation
lmi
2
260
Luupの開発組織におけるインシデントマネジメントの変遷 ver.RoadtoSRENEXT2024
grimoh
1
270
VPoEの視点から見た、ヘンリーがサーバーサイドKotlinを使う理由 / Why Server-side Kotlin 2024
cho0o0
1
420
AIアシスタントの活用で品質の向上と開発ワークフローのスピードアップ
nagix
1
200
DevIO2024_レガシー運用からの脱却 -クラウド活用の実践事例とベストプラクティス-
jun2882
0
210
データ分析を支える技術 生成AI再入門
ishikawa_satoru
0
380
簡単に始めるSnowflakeの機械学習
nayuts
1
190
スタートアップにおける組織設計とスクラムの長期戦略 / Scrum Fest Kanazawa 2024
yoshikiiida
13
3.6k
Featured
See All Featured
Rails Girls Zürich Keynote
gr2m
93
13k
Making the Leap to Tech Lead
cromwellryan
127
8.7k
Optimising Largest Contentful Paint
csswizardry
18
2.6k
Ruby is Unlike a Banana
tanoku
96
10k
Web Components: a chance to create the future
zenorocha
307
41k
Why You Should Never Use an ORM
jnunemaker
PRO
51
8.9k
Intergalactic Javascript Robots from Outer Space
tanoku
266
26k
Large-scale JavaScript Application Architecture
addyosmani
506
110k
The Invisible Customer
myddelton
117
13k
Git: the NoSQL Database
bkeepers
PRO
423
64k
Writing Fast Ruby
sferik
623
60k
Designing the Hi-DPI Web
ddemaree
276
34k
Transcript
カーネルコードの歩き方 May. 24, 2023 Satoru Takeuchi twitter: satoru_takeuchi 1
はじめに • 著者 ◦ 社会人一年生から15年くらいカーネル開発 /サポートをやってきた ◦ 今も必要に応じてカーネルソースを見ている • 本LTで学べること
◦ Linuxのカーネルソースの読み方についての勘所 ◦ 汎用的な、あらゆるソースコードの読み方についても同様の知識 • 前提知識 ◦ なんらかのプログラミング経験がある ◦ Gitが使える 2
Linuxカーネルソースの規模感 • V6.3時点で > 3,000万行 • バージョン間の変化: v6.2 -> v6.3(リリース間隔は約2か月)
◦ コミット数: > 15,000 ◦ 増加した行数: > 47,000 3
Linuxカーネルソースの規模感 • V6.3時点で > 3,000万行 • バージョン間の変化: v6.2 -> v6.3(リリース間隔は約2か月)
◦ コミット数: > 15,000 ◦ 増加した行数: > 47,000 • 目的を定めずに「とりあえず読んでみるか」はかな り厳しい! 4
読むコツ • 明確、かつ、小さめの目標を立てる ◦ 「カーネルを完全に理解したい」 => つらい(3000万行) ◦ 「この機能でこのオプションを使ったときの挙動を知りたい」 =>
それならなんとか(1000行) • gitなどのツールを駆使して読まなければならないコード量を減らす • 読むだけでなく実際に動かしてみる • 本やWeb記事を読んで前提知識を適宜身に着ける(スライド末尾の付録参照) ◦ OSカーネルの専門知識 ◦ Linuxカーネルの独自用語 5
実例 • きっかけ ◦ 出版した書籍で言及していた /proc/sys/kernel/sched_latency_nsというファイルが存在しないと読 者に突っ込まれた ▪ https://zenn.dev/satoru_takeuchi/articles/cec2160c6b1b13 ◦
実機検証はしたはずだが …なぜだ!? • 問題のスコープ ◦ 読者のカーネル(v5.15)でファイルがなくなっているのかを確認 ◦ 本当になくなっていたのであれば、いつなくなったかの確認 6
まずやること • v5.15のソースをチェックアウトして読む 7
まずやること • V5.15のソースをチェックアウトして読む…のはめんどくさいので、まずは 実機で確認 • 読まなくても動かせばわかることがいっぱいある! 8
実機検証 • やること ◦ 特定のカーネルでブートしたシステムにログインして /proc/sys/kernel/sched_latency_nsファイルが あるかどうか確認 • 結果 ◦
自分の環境のカーネルバージョン (v5.4) ▪ ファイルはあった ◦ 読者のカーネルバージョン (v5.15) ▪ ファイルはなかった 9
どこのバージョンで変化があったか確認 • V5.4, v5.5, v5.6…と、カーネルバージョンを一個づつ変えて動作確認 10
どこのバージョンで変化があったか確認 • V5.4, v5.5, v5.6…と、カーネルバージョンを一個づつ変えて動作確認…は、め んどくさそうなので以下のようなことをした 1. V5.4のソース上でsched_latency_nsをgrepで検索して、このファイ ルを作っている処理を見つける 2.
V5.15のソース上で上記処理が存在していないことを確認 3. 上記処理がいつ無くなったかを、ソースコードのバイナリサーチ(後述) によって確認 11
ソースコードのバイナリサーチ 1. v5.4とv5.15の中間のv5.9をチェックアウトして、処理があることを確認 2. V5.9とv5.15の中間のv5.12をチェックアウトして、処理があることを確認 3. v5.12とv5.15の中間の…というのを繰り返す 4. 最終的にv5.13において処理が無くなったことを特定 12
大事なこと • 実はソースをあんまり読んでいない • 一見ソースを読まなければならないようなときも、読む前にかなりの絞り込みができ る • 「どこで読み始めるか」という最適解は無い ◦ 考えられる選択肢のうち「なんとなく一番たくさん楽できそう」なものから順番に試してみるのがヨシ
◦ 「なんとなく一番楽できそう」なものを推測するのは経験を積むほどうまくなる ◦ 最初から最善を求めると身動きできなくなるので、とにかく回数をこなすとよい 13
おわりに • Linuxカーネルはものすごく大規模 • まともに挑むと道に迷うだけ • 目的を明確化した上で読むべき場所を減らしていく • 読むための基礎知識をWebや書籍で適宜得る必要がある •
経験がものをいう • Happy Hacking! 14
参考書籍 • 詳解Linuxカーネル ◦ https://amzn.to/3IvCneV ◦ 昔の本だが概念の理解には役立つ。実装の説明は流し読みかスルーでいい • Linux Kernel
Development 3rd edition ◦ https://amzn.to/439tW0y ◦ これまた古い本だが概念の理解に役立つ。詳解 Linuxカーネルよりだいぶ読みやすい • Linuxのしくみ 増補改訂版 ◦ https://amzn.to/45keroj ◦ 概念の理解に役立つ。この中ではいちばんやさしい。ソースは出てこない • Linux Kernel Programming ◦ https://amzn.to/41USNnV ◦ いまのところ一番新しい本。 11月に第二版が出るらしい 15
参考サイト • Linux Kernel Newbies ◦ https://kernelnewbies.org/ ◦ カーネル関連用語解説や、どのバージョンでどんな機能が入ったかなどが書いている •
LWN.net ◦ https://lwn.net/ ◦ Linux Kernelのホットなトピックを扱うニュースサイト 16