Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
マルチスレッドの実現方法 ~カーネルスレッドとユーザスレッド~
Search
Satoru Takeuchi
PRO
April 13, 2025
Technology
2
250
マルチスレッドの実現方法 ~カーネルスレッドとユーザスレッド~
以下動画のテキストです
https://youtu.be/3FzWDsJlB-8
Satoru Takeuchi
PRO
April 13, 2025
Tweet
Share
More Decks by Satoru Takeuchi
See All by Satoru Takeuchi
ソースを読むプロセスの例
sat
PRO
15
9.2k
メモリマップトファイル
sat
PRO
1
110
「Linux」という言葉が指すもの
sat
PRO
4
210
APIとABIの違い
sat
PRO
5
180
ファイルシステムへのアクセス方法
sat
PRO
0
71
ファイルシステム
sat
PRO
1
67
低レイヤソフトウェア技術者が YouTuberとして食っていこうとした話
sat
PRO
7
6.2k
ポーリングと割り込み
sat
PRO
1
120
Rook: Intro and Deep Dive With Ceph
sat
PRO
1
150
Other Decks in Technology
See All in Technology
新規事業におけるGORM+SQLx併用アーキテクチャ
hacomono
PRO
0
330
これがLambdaレス時代のChatOpsだ!実例で学ぶAmazon Q Developerカスタムアクション活用法
iwamot
PRO
8
1.1k
能登半島地震において デジタルができたこと・できなかったこと
ditccsugii
0
250
Performance Insights 廃止から Database Insights 利用へ/transition-from-performance-insights-to-database-insights
emiki
0
300
現場データから見える、開発生産性の変化コード生成AI導入・運用のリアル〜 / Changes in Development Productivity and Operational Challenges Following the Introduction of Code Generation AI
nttcom
0
150
このままAIが発展するだけでAGI達成可能な理由
frievea
0
120
エンタメとAIのための3Dパラレルワールド構築(GPU UNITE 2025 特別講演)
pfn
PRO
0
510
フレームワークを意識させないワークショップづくり
keigosuda
0
200
「改善」ってこれでいいんだっけ?
ukigmo_hiro
0
330
Implementing and Evaluating a High-Level Language with WasmGC and the Wasm Component Model: Scala’s Case
tanishiking
0
110
Zephyr(RTOS)にEdge AIを組み込んでみた話
iotengineer22
0
130
今この時代に技術とどう向き合うべきか
gree_tech
PRO
2
2k
Featured
See All Featured
What's in a price? How to price your products and services
michaelherold
246
12k
GraphQLの誤解/rethinking-graphql
sonatard
73
11k
Bootstrapping a Software Product
garrettdimon
PRO
307
110k
KATA
mclloyd
PRO
32
15k
Reflections from 52 weeks, 52 projects
jeffersonlam
353
21k
Imperfection Machines: The Place of Print at Facebook
scottboms
269
13k
CoffeeScript is Beautiful & I Never Want to Write Plain JavaScript Again
sstephenson
162
15k
Navigating Team Friction
lara
190
15k
RailsConf & Balkan Ruby 2019: The Past, Present, and Future of Rails at GitHub
eileencodes
140
34k
Designing Experiences People Love
moore
142
24k
Typedesign – Prime Four
hannesfritz
42
2.8k
I Don’t Have Time: Getting Over the Fear to Launch Your Podcast
jcasabona
33
2.5k
Transcript
マルチスレッドの実現方法 ~カーネルスレッドとユーザスレッド~ Apr. 13rd, 2025 Satoru Takeuchi X: satoru_takeuchi 1
はじめに • マルチスレッドを実現する方法は複数ある • 基本となるのは以下2つ ◦ カーネルスレッド: カーネル空間で実現 ◦ ユーザスレッド:
ユーザ空間で実現 • 📝 ここでいう「カーネルスレッド」は「カーネルの処理をするスレッド (psで”[kthreadd]”のように名前が”[” と”]”に囲まれているもの )」という意味でのカーネルスレッドとは別の概念 2
カーネルスレッド • スレッドごとにカーネルのスケジューリング単位が存在する ◦ このスケジューリング単位のことを LWP(Light Weight Process)と呼ぶ ▪ シングルスレッドプロセスは
LWPが1つだけ存在 ▪ マルチスレッドプロセスは LWPが2つ以上存在 • カーネルが提供する機能なのでシステムコールを発行して作成 ◦ glibcが提供するpthreadライブラリ(NPTL)で生成するスレッドはカーネルスレッド ◦ スレッドを作成するpthread_create()関数を呼ぶと、内部で clone()システムコールを呼び出して LWPを生成する ◦ スレッドの管理情報はカーネル内に存在 3
システムに存在するカーネルスレッドの一覧表示 4 $ ps -eL PID LWP TTY TIME CMD
… 756 756 ? 00:00:07 dbus-daemon 767 767 ? 00:00:03 systemd-logind 768 768 ? 00:00:00 containerd 768 802 ? 00:01:42 containerd 768 803 ? 00:00:00 containerd … カーネルのスケジューリング単位 LWP(Light Weight Process)のID
スケジューリングの様子 • システムに2つのプロセスP0,P1が存在 ◦ P0はシングルプロセス。 LWPはP0_0のみ存在 ◦ P1は2スレッドから成るマルチスレッド。 LWPはP1_0とP1_1の2つ存在 •
カーネルは3つのLWP(P0_0,P1_0,P1_1)に平等にCPU時間を与える 5 P0_0 時間 CPU上で 動作中のLWP P1_0 P1_1 P0_0 P1_0 P1_1 P0_0 …
ユーザスレッド • ライブラリレベルでスレッドを実装する ◦ スレッドを管理する情報はすべてユーザ空間に存在する • カーネルからはユーザスレッドが何個あるかは検出できない ◦ プロセス内に何個ユーザスレッドがあろうと ps
-eLではLWPは1つ • 📝 大昔のglibcのpthreadライブラリはユーザスレッドを使っていた ◦ pthread_create()を呼んでもLWPを作成するclone()システムコールは発行しない • スレッドライブラリがプロセス内のどのスレッドを動かすかを決める ◦ 例: 所定の関数を呼ぶとスレッドが切り替わる 6
スケジューリングの様子 • システムに2つのプロセスP0,P1が存在 ◦ P0はシングルプロセス。 LWPはP0_0のみ存在 ◦ P1は2スレッドから成るマルチスレッド。 LWPはP1_0のみ存在 •
カーネルは2つのLWP(P0_0,P1_0)に平等にCPU時間を与える • スレッドライブラリがP1_0内の2つのスレッドの実行を切り替える 7 P0_0 時間 CPU上で 動作中のLWP P1_0 P0_0 P1_0 P0_0 … P0_0 P1_0 • スレッドライブラリがP1_0内の2つのスレッドの実行を切り替える • カーネルはユーザ空間スレッドが2つあることを知らない
どっちがいいか • どっちも善し悪しあるので好きなほうを使うとよい • カーネルスレッドと比較したユーザスレッドの特徴 ◦ 生成コストが低い ◦ スレッド間のコンテキストスイッチが高速 ◦
一部スレッドがCPUを独占して動き続けてしまうリスクが高い ◦ スレッドがスリープすると全スレッドがスリープすることになる ◦ 複数スレッドがあっても 1つのCPU上でしか動作できない • カーネルスレッドとユーザスレッドのハイブリッドの実現方法もある! 8
プログラミング言語レベルのサポート • プログラミング言語レベルでスレッド機構を用意していることがある • 例: Go言語のgoroutine ◦ カーネルスレッドとユーザスレッドのハイブリッド ◦ 以下のようにすると関数を非同期的に呼び出せる
◦ ユーザはgoroutineが具体的にどう動かされるかは気にしなくてよい ◦ pthreadライブラリのようなものを直接動かすよりも楽 9 go func() { … }()
📝 スレッドの用語はめんどくさい! • 同じ概念を指す似たような用語がある ◦ カーネルスレッド ▪ カーネル空間スレッド ▪ カーネルレベルスレッド
▪ Light Weight Process(LWP) ◦ ユーザスレッド ▪ ユーザ空間スレッド ▪ ユーザレベルスレッド ▪ グリーンスレッド • ハードウェアの文脈でプロセスの文脈とは別の意味の「スレッド」がある ◦ SMT(Simultaneous Multi-Threading) ▪ 1つのCPUコアを論理的に2つ以上に見せる ◦ 📝 ハイパースレッディングは Intel社のCPUでSMTを実現したもの 10
まとめ • マルチスレッドの実現方法にはカーネルスレッドとユーザスレッドがある ◦ 両方使う場合もある • プログラミング言語レベルでマルチスレッドプログラムの難しさを隠蔽しているもの もある 11