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Human Autonomy Estonia

TKIP
May 06, 2019

Human Autonomy Estonia

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May 06, 2019
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  1. Human Autonomy デジタル国家エストニアが描く、都市2.0 Human Autonomyとは、「行動や意思の自由」を意味し、都市の根源的な存在理由である「人は好きなときに、好きなところで生活し、 働き、学び、友に出会い、人生を楽しむことができる」という概念を示す。 バルト海沿岸の欧州都市を結ぶ国家・エストニアでは、デジタルテクノロジーを最大限活用し、Human Autonomyを実現している。 1 エストニアは人と政府・行政・民間企業をデジタル上で同一フォーマット上で情報接続させることで、

    amazonやFacebookのように、国家を場所の制約を受けないプラットフォームとして存在させている。 国家のデジタル化 仮想国民の積極的受け入れ Platform Bank Energy Business Administration People 国民は一人ひとりにIDが付与され、行政や民間 企業のデータベースとデジタル接続される。 官民の隔たりなく、あらゆるサービスが単一のプラット フォーム上に接続され、手続きのワンストップ化、 場所によらずサービスの平準化が実現される。 エストニア国民のみならず、審査を通過した者は 電子上の「エストニア仮想国民」として、居住地や 国籍に関わらず、プラットフォームに接続できる。 将来的には、EUのシェンゲンビザとの互換を図り、 欧州で自由に活動できるハブとしての役割を担う 可能性がある。 Asia America Africa Border Platform Asia America Africa Border User User User User People People People Start-up Start-up 企業のプラットフォーム参加はオープンであり、 スタートアップ企業が容易にユーザーと接続でき、 新たな価値創造や利便性の向上が促進される。 また、仮想国民も接続していることから、サービスは 全世界に居住しているユーザーを対象とできる。 デジタル技術のオープン化 ヒ ュ ー マ ン オ ー ト ノ ミ ー Platform EU p.2 p.3 p.4
  2. 国家のデジタル化 場所にとらわれない自由なライフスタイルの創出 エストニアでは国民情報を一元的に管理するのではなく、各行政機関や民間企業が独自に持つデータベースをそのまま活用し、 X-Roadというインターネット上の道に接続させている。国民はX-Roadを通じて、自身の情報をポータルサイトでひとまとまりにしている。 すなわち、データ保有側は分散、ユーザー側は一元管理という体裁を取ることで、情報セキュリティと利便性を両立している。 2 X-Road 住民登録 センター 健康保険

    センター 自動車登録 センター 公文書管理 センター エネルギー 通信 銀行 国民一人ひとりの ポータルサイト データベース アダプタ サーバー セキュリティ サーバー 公的セクター 民間企業セクター 企業向けの ポータルサイト 自体向けの ポータルサイト X-Road 認証センター 分散したデータベースを 共通フォーマット上に接続配置 投資・運用コストの低減と、情報一括流出リスクを 考慮し、一元管理データベースを構築するのではなく、 各主体が保有するデータベースをそのまま活用し、 共通フォーマットであるX-Road上に配置した。 世界でも珍しく、公的セクターと民間セクターの データベースが共通プラットフォーム上で存在する 設計が実現し、ユーザーの利便性を向上させた。 ブロックチェーン技術による データ信頼性の向上 国民情報を巨大サーバーで管理するのではなく、 ブロックチェーン技術を採用し、分散化による 信頼性向上と運用コストの低減を図っている。 特に、データ書き換えの防止に威力を発揮し、 1秒ごとにデータの完全性の検証を行い、 リアルタイムでデータ改ざん有無を検知している。 スマートコントラクト、P2P取引による 新たなライフスタイルの創出 X-Road、ブロックチェーン技術はオープン化され、 スタートアップ企業が活用することにより、新たな サービスが創出されている。 電子上の契約認証により、サービス提供から行政 手続きまで自動化されるスマートコントラクト、 個人間での労務提供やサービス提供を可能とする P2P取引等、場所性や対面性が取り払われており、 自由な働き方、生活が享受できるライフスタイルを 獲得できる。
  3. 仮想国民の積極的受け入れ 人口減少の解決と海外投資の活性化 X-Roadで繋がるプラットフォームは場所性を伴わないことから、国内のみならず、国外からもアクセスが可能となる。この特徴を活用し、 一定の審査要件を満たした外国人に対して国民IDを発行し、仮想国民(イーレジデンシー)としてプラットフォーム利用を許可している。 イーレジデンシーはエストニアに居住せずともエストニアの電子システムを活用した経済活動が可能となる。 3 1990 1995 2000 2005

    2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 157万人 120万人 (予想) ・・・ 図 エストニアの人口推移 エストニアは人口減少の時代を迎えており、2040年 には1990年比で23.6%減少する見込みである。 人口減少により、国全体の購買力が低下し、世界 から見た市場としての存在感を失う。 外資系企業の撤退、海外投資減少を招き、国内 企業は売上規模や雇用を維持することができず、 若者が国外へ離脱するなど、国家基盤を維持でき ない恐れが生じる。 エストニアの人口減少問題 デジタル上の仮想国民 仮想国民制度によるメリット 国外 エストニア国内 X-Road 移民 外国人 労働者 ・治安の悪化 ・経済格差の顕在・固定化 インフラ、福祉基盤の維持 政策 懸念 ・技術移転問題 ・保険、送金、税務事務の課題 ・不法滞在対策 人口減少に対し、移民または外国人労働者政策が 模索されているものの、受け入れ側の懸念がある。 懸念の多くは、外国人の国内定住が起因の心理・ 社会・実務的事項である。 エストニアでは、デジタル政府の利点を活かし、一定 の審査要件を満たした外国人に対し、国外に居住 しながら、エストニアのデジタルサービスを利用でき る仮想国民(イーレジデンシー)制度を創設した。 仮想国民のメリット オンラインで 法人設立が 可能 居住せず電子 サービスの 利用が可能 電子署名での 契約が可能 (雇用・賃貸) エストニアのメリット 海外投資の 増加 人口増による 国内サービス 市場の活性化 治安対策、 収税、行政 手続き簡略化 現在、151ヵ国・4万人の申請者が集まり、3,500 社以上の起業に繋がっている。 日本からはすでに1,600人以上が仮想国民を取得。 (安倍晋三首相も登録している) あらゆる経済・社会活動がオンライン化され、 居住地・働き方を問わないライフスタイルを獲得 追加投資や治安悪化の懸念なく、人口と投資の 増加を享受できる
  4. デジタル技術のオープン化 デジタル国家システムがそのままスタートアップ企業のプラットフォームへ X-Roadとその基盤技術であるブロックチェーン技術は政府が管理するのではなく、あらゆる主体が活用できるよう、オープン化されている。 そのため、スタートアップ企業は基幹システムへの投資を必要とせず、X-Roadを活用してサービスをユーザーに届けることができる。 技術開発投資、ユーザーの新規開拓、信頼性構築といった新規事業ハードルの大幅な緩和が、エストニアでの起業を促進している。 4 利便性向上 コスト低減 新価値創出 コミュニティ創出

    価値軸 BtCサービス BtBサービス ジョバディカル 世界中を対象に求人から 雇用契約までワンストップで 対応 リープイン 企業設立、口座開設、 会計、税務まで、すべて サポート タクシファイ プラットフォーム上の情報を 用いたタクシー配車サービス トランスファーワイズ ブロックチェーン技術による 為替手数料のかからない 国際送金サービス ニューロメーション ブロックチェーン技術による AI技術者向けの技術売買 ヴェリフ 金融機関向けの顔認証・ 文字認証プラットフォーム アグレロ スマートコントラクトを 簡単に作成できるプラット フォーム ウィーパワー ブロックチェーン技術による 再生可能エネルギー売買の プラットフォーム デジタル国家を成立させているプラットフォームがスタートアップ企業のインフラとして機能。 まずエストニアで起業して、それを足掛かりに世界へ接続する流れで、投資を呼び込んでいる。
  5. デジタル国家を成立させた歴史的文脈 被支配の歴史と現代的文脈への接続 エストニアはバルト海沿岸に立地し、北欧・ロシアとの玄関口に相当する地理的特性より、古くから他国による支配の脅威に晒されてきた。 デジタル国家の構想・実現は、この非支配の歴史を受け、1991年のソ連崩壊に伴う分離独立によって強く希求されたものである。 ポスト冷戦時代で生まれたシステムは、やがて人口減少、グローバル化、地政学リスク、国家ブランド等の現代的文脈へと接続されていく。 5 1991年 エストニア独立 誰が国民なのか把握する 新しい法律を作る

    自国の通貨制度を整える 2001年 X-Road開始 1050年 要塞都市として誕生 デンマーク、ドイツ騎士団、 スウェーデン、旧ソ連、 ナチスドイツによる支配の歴史 2004年 NATO加盟、 EU加入 2014年 ロシアのクリミア侵攻 人口が30倍のウクライナですら 国際影響力を持てなかったことを 受け、ロシアの脅威に対し、仮想 国民の増加により国際影響力を 保持する 被支配の歴史とデジタル国家樹立を受け、「領土に縛られて生活する必要はない」という考え方が エストニア人の中で浸透しつつある。 非支配の歴史 分離独立 国家間競争力の獲得
  6. 日本の都市課題への応用 都市2.0をパラフレーズした思考実験 エストニアの都市課題は人口減少の他、首都タリンに人口の3分の1が集まる都市の一極集中が生じており、これは日本の都市課題と 重なる問題といえる。エストニアではデジタル化により都市と地方との格差を和らげることに成功しており、日本の都市課題解決を講じていく上で 重要な示唆を与えている。 6 都市2.0はデジタル化により、移動や決済処理、事務処理のハードルを徹底的に抑制し、 既存ストックの活用範囲を大幅に広げ、コンパクトシティの限界を打破できる可能性がある。 行政サービスのワンストップ化 出生や転居等の際、各種申請が必要

    なく、全てWEB上で年中無休で自動 完結し、行政窓口は存在しない。 行政と民間のデータ連動 納税の際、銀行収入データと税計算が 連動し、複雑な申請は必要なく、自動 的に納税額が決定され、納付まで自動 連動される。 医療サービスのワンストップ化 各病院のカルテがX-Road上で連携し、 初診の必要がない。 処方箋は電子上で完了し、調剤薬局に データ連携され、ユーザーは受領のみ。 スマートコントラクトの導入 契約はプログラミング化されており、 不確定条件は「もしも~の時は、…を 実行する」と全てコード化され、仮定 要素のまま契約合意、締結ができる。 また、契約履行も自動化できる。 住居の自由化、シェアリング スマートコントラクトと電子認証の技術 により、極めて短時間での居住に対して 確実に課金が可能となる。 モビリティとの連携 電子認証により、街中の移動媒体が シェアリング対象となる。自動運転技術 を組み合わせ、高齢の移動弱者対策が 可能となる。