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Real Estate Market

TKIP
March 28, 2019

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  1. 不動産流動化の意義 不動産と金融の融合 不動産資産に対する投資には、現物不動産への直接投資、不動産会社の株式取得、証券化された不動産への直接投資が考えられる。 不動産流動化は少額の投資で不動産直接投資と同様の恩恵を受けられ、不動産市場への投資を飛躍的に拡大できる期待から、 世界から日本の不動産証券市場のさらなる活性化が求められている。 1 不動産は高額な取得金額と資産評価・管理に高度な専門性が要求され、ハードルの高い商品であった。 不動産流動化は金融の手法により、これらの課題を解消し、投資機会の拡大に繋げるスキームである。 投資額 現物不動産への直接投資

    莫大な投資額が 必要 不動産会社の株式取得に よる関節投資 小口分散化されて おり、少額の投資 証券化された不動産への 直接投資(REIT等) 資産流動性 通常、長期保有 となり、流動性は 限定的 上場銘柄は 流動性が高い 価格変動 不動産収益と 資産価値は 比較的安定 企業の不祥事、 他事業の収益悪化、 市況により大きく変動 不動産収益と 資産価値は 比較的安定 小口分散化されて おり、少額の投資 上場銘柄は 流動性が高い
  2. 不動産流動化の種類 モーゲージとエクイティ 不動産流動化は証券化が有力な手段であり、その対象が住宅ローン等の債権(モーゲージ)と現物資産(エクイティ)の二つに大別される。 一般的に、前者はリスク・リターンとも小さい傾向にあるが、サブプライムローン問題のように、組成によっては必ずしも安全とは言えない。 一方、我が国において活性化が期待されているのは、エクイティを対象とした不動産証券市場の活性化である。 2 エクイティ証券化のうち、投資信託のスキームを用いて、投資法人が運用するものをREITと総称する。 世界各国で制度が作られているが、我が国ではJ-REITとして法律上は投資信託商品として定義される。 担保 不動産価格

    上昇に対する 応答 流動性 リスク分散 期待ROI RMBS Residential Mortgage Backed Securities CMBS Commercial Mortgage Backed Securities 上場REIT Real Estate Investment Trust 私募REIT 私募不動産ファンド Mortgage Equity 住宅ローン債権 商業用不動産 ローン債権 債権回収率向上による 安全性の向上 投資法人が運用する 現物不動産 匿名組合等が運用する 現物不動産 不動産価格・賃料向上による 収益性の向上 債権回収率向上による 安全性の向上 不動産価格・賃料向上による 収益性の向上 不動産価格・賃料向上による 収益性の向上 上場により、投資家 同士で売買できる (クローズドエンド) 投資参加者が 多く、エージェン シー債も存在 エージェンシー債は なく、民間のみ 債務者が不特定 多数であり、回収 リスク分散可能 特定少数の債務者 収益物件では ないため、ROI 変動は限定的 不動産次第で、 大きな担保価値が 期待できる 一般的に多数の物件を 保有している やや保守的な運用 非上場のため、売買 に制限 (オープンエンド) 一般的に多数物件を 保有している スポンサー企業の 優良不動産を運用 できる場合がある 投信法に基づかないGK-TK、 TMKスキーム等 特定の投資集団、 管理組合による 運用に限定 少数物件の収益化、 オフバランスを目的と している 特定物件の収益 向上がROIに直結 する 投資法人が運用する 現物不動産
  3. 資金調達の優先劣後構造 リスク・リターンの異なる多様な金融商品の創出 ファンド資金調達にあたり、ひとつの証券化プールから、投資家へのリターン返済の優先順位が異なる複数の証券を発行する。 シニア、メザニン、エクイティという3階層を構成し、運用損失が発生した場合はエクイティから損失を吸収し、それでも吸収できなければメザニン、 シニアの順となる。逆に、超過利益が発生した場合は、超過分は全てエクイティが独占する。これを優先劣後構造という。 4 シニアは元本棄損リスクが少ない分ROIが低く設定され、エクイティはその逆となる。 シニア、メザニン、エクイティのリスクリターンは順にロー、ミドル、ハイとなり、この多様性が投資家を惹きつける。 資金調達と期待ROI シニア

    60 メザニン 20 エクイティ 20 投資額 (調達資金) 運用計画値 (利益 5%) シニア 61 メザニン 21 エクイティ 23 14% 5% 2% 期待ROI エクイティの超過利益独占 シニア 60 メザニン 20 エクイティ 20 投資額 (調達資金) 運用結果① (利益 7%) シニア 61 メザニン 21 エクイティ 25 25% 5% 2% 結果ROI 100 105 100 107 エクイティ・メザニンの損失棄損 シニア 60 メザニン 20 エクイティ 20 投資額 (調達資金) 運用結果② (損失 ▲20%) シニア 61 メザニン 19 ▲100% ▲5% 2% 結果ROI 100 80
  4. (参考)収支計画のイメージとエクイティROI計算例 5 運用開始時 運用1年目 運用2年目 シニア(借入利率 2%) 60.0 メザニン(借入利率 5%)

    20.0 20.0 エクイティ (うち出資金の返還) 財務キャッシュフロー(A) 資金調達・返済にかかわる収支 100.0 ▲1.2 ▲1.0 ▲2.8 ▲5.0 (▲1.0) ▲61.2 ▲21.0 ▲22.8 ▲105.0 (▲19.0) 物件の取得と売却 物件取得費用 (諸手数料、公租公課込み) ▲100.0 事業にかかわる収支 100.0 物件売却収入 (諸手数料控除後) 賃料収入(B) 運営管理 NOI(B-C) 6.5 6.5 営業経費(C) (管理費用+固定資産税) ▲1.0 ▲1.0 5.5 5.5 減価償却 ▲1.0 ▲1.0 その他経費 (AM費用含む) ▲0.5 ▲0.5 事業利益 4.0 6.0 事業キャッシュフロー(=A) ▲100.0 105.0 5.0 エクイティの期待ROI 運用結果 22.8 - エクイティ 20.0 エクイティ 20.0 = 1.4% 売却価格=購入価格ならば、運用年数で資産価値が 減少しなかったことと同義であるため、これまでの減価償却 分が利益に計上される。 換言すれば、会計上バリューアップしていることになるため、 利益に計上する必要がある。 (NOI 5.5+2年分の減価償却費 2.0 = 6.0) (億円) 減価償却分の配当は出資金の返還となる エクイティのレバレッジ効果 全体の中でエクイティの占める割合が低いほど、 エクイティは利益棄損リスクが大きい反面、高い リターンが期待できる。 全体投資額 100 エクイティ 20.0 = レバレッジ 5倍 計画を上回る運用ROIが発生した場合、 たとえばROIが1%向上すると、エクイティのROIは 1%×5倍=5%向上することになる。 事業全体のROIは5% シニアローンの利率はこれより小さく、メザニンローンの 利率は事業ROIと同値、エクイティはこれより大きな値に 設定する。
  5. あんてい 各プレイヤーへの影響 不動産流動化がもたらすメリット・デメリット 不動産流動化による各プレイヤーにはメリット・デメリットが存在する。 一般的に、不動産会社は証券化に伴う資金調達とオフバランス効果を享受し、投資家は投資対象拡大によるリスク逓減が期待できる。 ただし、不動産会社と投資家は俯瞰すれば不動産の売り手と買い手であり、AMは両者のバランスを慎重に確立する必要がある。 6 ファンドの運用最大化には、「不動産を安く買って、高収益で運用し、高く売却する」ことが原則である。 一方、不動産会社は高収益物件は自身で保有したい意向があり、利益相反が存在する。 プレイヤー

    メリット デメリット スポンサー企業 不動産会社 *投資法人/SPV/SPCはペーパーカンパニーのためメリット・デメリットはない AM 投資家 ・収益源として、安定的なフィーを得られる ・煩雑な不動産管理をせず、ファンドを運営できる ・資産所有のリスクを投資家に移転できる ・別の主体の信用を活用することで、 資金調達を容易にできる ・事業に関与することで、オフバランス効果を得られる ・運用の高度化により、高い報酬が期待できる ・資産を所有せず、キャッシュフローのみの管理の ため、低リスクの事業運営となる ・投資対象が拡大する ・商品の多様化により分散投資が可能となり、 リスクを逓減できる ・投資圧力が高まった場合、適正な不動産価格で 物件を購入できず、破綻するリスクがある ・受け入れ先は運用利回りを重視するため、不動産 価格はシビアに査定される ・出資者がスポンサー企業であり、運用の意向が 制限される場合がある ・不動産鑑定評価が当該物件の価値から乖離し、 地価の上昇等に影響された場合、収益性が担保 されない場合がある
  6. エージェンシー問題 不動産会社と投資家の利益相反 不動産会社と投資家の利益相反はAMがバランスを取り、運用されていく。 このAMの意思決定に出資者であるスポンサー企業の意向が加わり、かつスポンサー企業自身が不動産保有の担い手であった場合があり、 重大なエージェンシー(利益相反)問題が顕在化する可能性が指摘されている。 7 スポンサー企業 (不動産供給者の場合) 投資家 株主として、

    意思決定への関与 運用委託者として、 意思決定の監視 ・自身の保有する不動産を高値で買い取って ほしい ・運用期間が終われば、安値で買い戻したい ・運用利回りを高めるため、不動産を安く 購入してほしい ・運用期間が終われば、高値で売却してほしい 利益相反 不動産所有者がスポンサー企業となり設立したファンドにおいて、AMのステークホルダー間で利益相反が 顕在化する場合があり、投資法人の独立性が担保されるシステムが構築されていなければならない。
  7. 不動産タイプ別の特徴 建築用途による異なるリスク・リターンの関係 不動産投資はその建築用途によって、景気や立地による応答、成長期待に差異が生じる。 また、近年では高齢社会に備え、医療や福祉施設の不動産流動化が研究され、ヘルスケアリートが商品化されている。 不動産流動化で調達した資金は老朽化した病院施設の耐震改修に利用される等、社会的インフラの持続可能性を支える役割を担っている。 8 建築用途により異なるリスク・リターンの特性は分散効果を生み、安全なポートフォリオ形成に寄与している。 オフィス 商業施設 住宅

    物流施設 ホテル ・賃料水準が景気動向に 左右するため、景気への 連動性が高い ・都心・地方圏など、立地に よる差が大きい ・固定賃料でテナント長期 契約する場合は景気によらず 安定 ・大口テナントの体力、集客力 に依存 ・景気への連動性が低く、 安定的 ・価格上昇期待は小さい ・多数の入居者の分散効果が 働き、空室率の変動が小さい ・特定テナントと長期契約を 結ぶケースが多く、景気への 連動性はやや低い ・テナントの体力、業績次第で 退去リスクが変動 ・景気動向、立地に左右される ・運営会社への一括賃貸契約 で賃料水準の変動を抑制 ・運営会社の手腕の影響が 大きい(RevPAR、ADRの 維持向上)
  8. サブプライムローン問題の振り返り 不動産流動化が生んだバブルの教訓 不動産流動化を講じていく上で、サブプライムローン問題に端を発した2008年の金融不安(リーマンショック)は重要な示唆を与えている。 サブプライムローン問題は本来のリスクから大きく逸脱した信用拡大(モラルハザード)と不動産需要高騰(バブル)を生み、 ローン回収不能となった不良債権が瞬く間に不動産証券への信用崩壊、金融機関の経営悪化、株価暴落の悪循環へと陥った。 9 サブプライムローンの 延滞の増加 不動産価格の 下落

    不動産転売目的で組んだローンが返済できなくなる 破産による不動産競売の増加で、さらに下落が続く悪循環 不動産ファンドの 損失拡大 資金繰りの悪化 ロスカット目的の 物件の投げ売り 不動産流動化に対する 不振拡大 金融機関の 経営悪化 世界的な金融不安 どこの誰が、リスクを負い、 どれだけ損失を被っているか 誰も把握できなくなった 不動産価格上昇を 当て込んだ投機的な 住宅購入 住宅実需要に対する 供給過多 投資家が資産を急速に引き上げ、 株式市場が暴落 不動産流動化の功罪は、不特定多数の投資家が市場参加できる反面、ひとたび信用破綻が起これば どれほどの影響や損失が発生しているのか、適切に定量できず、広大な信用不安が広がる点にある。