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学習共創型デザイナーと分散型学習共創の考察 ―この1年間の研究活動まとめ―
Hitomi Yamagishi
September 28, 2017
Design
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学習共創型デザイナーと分散型学習共創の考察 ―この1年間の研究活動まとめ―
2016年9月〜2017年9月の1年間の発表資料をまとめ、さらに補足資料を追加したもの。自分自身のまとめ、および共有用の公開資料。
Hitomi Yamagishi
September 28, 2017
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Transcript
学習共創型デザイナーと 分散型学習共創の考察 学習共創型デザイナーと 分散型学習共創の考察 2017 9 28 Gaji-Labo ― この1年間の研究活動まとめ―
Index • 本資料の概要 • これまでの発表概要 • 最新の発表内容 • 社会構成主義的学習観とは •
終わりに
本資料の概要
本資料の概要 旧来のデザイン教育を受けた者だけがデザイナーという職種に就く時代ではなくなってきている。デザイ ナーという肩書に紐づく職能は多岐に渡り、デザイナー⾃⾝が必要なスキルを⾃ら選び取り、⾝に付けていく ことが求められる。 では、すでに社会に出ている社会⼈は、⽇々の中で何を学んでいくべきなのか。我々社会⼈も同様に、「知 識・技能と⽇常を地続きにしながら問題解決を⾏なう能⼒」をアップデートし続ける必要があるのではないだ ろうか。 特にデザイナーと呼ばれる職種においては、⾃らの職能を⾃覚し、実践的かつ意欲的に活⽤し、社会や周辺 コミュニティーに能動的に関わり合いながら、学びを繰り返していく姿勢を問われていると考える。 そうした出発点から、学習者の観察や学習モデルの構築などの試みを続けてきた。この資料はこの1年間の
発表資料をまとめ、さらに補⾜資料を追加したものである。⾃分⾃⾝のまとめとしつつ、共有⽤の公開資料と いう位置付けで作成する。
これまでの発表概要 • デザイン学校における学習者の観察 • Pull&Push型デザイナーと分散型学習共創モデルの考察 • グループ学習者の⾏動観察とその⼿法 • 学習共創型デザイナーと分散型学習共創の考察
1. デザイン学校における学習者の観察 2016年9⽉25⽇ 第20回情報デザインフォーラム にて発表 「誰もがデザインを活⽤する社会に向けて貢献しうる⾼度職業⼈ の育成を⽬的とした場」として設⽴されたデザイン中級者のため の学校で、学習者の観察を⾏った。 学習者同⼠の対話ややり取りを⼤⼈の学びのための協働と捉え、 ⾃らの職業やスキルを模索しながら学習する⼈々を分析すること
で、デザイン⽂脈における⼤⼈の学びに必要な要素を洗い出し、 実践と省察のサイクルによる協働学習プロセスを明らかにするこ とを⽬的とした観察である。 本発表では中間報告として、観察の概要と⼿法をまとめた。 https://drive.google.com/open?id=0B1eH6vdiEEXgV1VkRmNMclN2QWs
2. Pull&Push型デザイナーと 分散型学習共創モデルの考察 2017年5⽉7⽇ 第1回Xデザインフォーラム にて発表 旧来のデザイン教育を受けた者だけがデザイナーという職種に就 く時代ではなくなってきている。他⽅、⼀般教育においても「創 造性」が価値あるものとして謳われ、児童・⽣徒・学⽣に対し、 コミュニケーション能⼒や問題解決能⼒を向上させる教育が施さ
れるようになった。 では、すでに社会に出ている社会⼈は、⽇々の中で何を学んでい くべきなのか。特にデザイナーと呼ばれる職種においては、⾃ら の職能を⾃覚し、実践的かつ意欲的に活⽤し、社会や周辺コミュ ニティーに能動的に関わり合いながら、学びを繰り返していく姿 勢を問われているのではないだろうか。 そうした課題意識のもとに、これからの⼤⼈の学びについて考察 し、学習モデルの構築を試みた。 https://drive.google.com/open?id=0B1eH6vdiEEXgYlAzOWFUUTNzbUk
3. グループ学習者の⾏動観察とその⼿法 2017年5⽉27⽇ 2017年度春季HCD研究発表会にて発表 近年、ワークショップやアクティブラーニングが重要視され、学 習者のグループ活動機会が増えている。また、共創としてのデザ イン活動も注⽬されており、あらゆる場⾯でグループ活動に参加 する機会は増してゆくものと予想される。 この発表では、グループ活動を主とするXデザイン学校で⻑期間 に渡るグループ観察を⾏った結果を元に、発⾒したことや知⾒を
まとめた。 https://drive.google.com/open?id=0B1eH6vdiEEXgd3N3cnBsZ0tFb2M
4. 学習共創型デザイナーと 分散型学習共創の考察 2017年9⽉24⽇ 第3回Xデザインフォーラム にて発表 前回発表した『pull&push型デザイナーと分散型学習共創モデル の考察』をアップデートし、複雑さと不確実性の増す現代に適し た社会⼈デザイナーの姿を「学習共創型デザイナー」、学習共創 型デザイナーの成⻑にとって有⽤な学習⽅法を「分散型学習共
創」と定義し直した。 新たにデザイナーインタビューを⾏い、分散型学習共創のモデル について、引き続きの考察を試みた。 https://drive.google.com/open?id=0B1eH6vdiEEXgSDZaS0ItUWczaDA
最新の発表内容 • 「学習共創型デザイナー」とは • 「分散型学習共創」とは • 学習共創型デザイナーを主体とした分散型学習共創のモデル • デザイナーインタビューの概要 •
⽣成した共起ネットワーク • インタビューと共起ネットワークからわかったこと • まとめ
「学習共創型デザイナー」とは 学習共創型デザイナーとは、⾃分の⼿元(個⼈領域)から社会や周辺コミュニティー(全体領 域)に⾃らが⾒つけたことを積極的に差し出す姿勢と、すでに存在する知識を能動的に受け取る 姿勢の両⽅を実践できる能⼒、それらを繰り返すことで社会と⾃分の双⽅をアップデートする能 ⼒を備えたデザイン⼈材のことを指す。デザイン3.0時代のデザイナー像と⾔い換えることもで きる。 「分散型学習共創」とは 分散型学習共創とは、学習の⽅法や形そのものを同期・⾮同期両⽅の関わりかたで⼀緒に作り上 げていく共創的な学習プロセスを指す。社会構成主義に基づいた学習観だが、教科書に⾃らの発 ⾒を新しく追加するようなアプローチを⾏う点が特徴で、学習の主体は学習者にある。
プログラムのソースコードなどの変更履歴を記録・追跡するための分散型バージョン管理システ ム「git」から着想を得ており、gitにおけるpush・pullの考え⽅がベースになっている。
学習共創型デザイナーを主体とした分散型学習共創のモデル
デザイナーインタビューの概要 Xデザイン学校の研究グループにて、学習に前向きと思われる社会⼈デザイナーを対象にインタビューを⾏っ ている。デザイナーのバックグラウンドや意識を調査することを⽬的とし、「デザイナーとしてどんなふうに 仕事や勉強に取り組んでいるか」というテーマで今も継続中のインタビューである。 今回の分析では、インタビューデータを元に共起ネットワーク(出現パターンの似通ったものを線で結び、共 起関係を線で表した)を可視化し、結果を分散型学習共創モデルと照らすことを⽬指した。 分析内容 • インタビュー対象: 広義のデザイン領域に関わっている社会⼈
• ⼈数: 11⼈(2017年7⽉〜2017年8⽉の間にインタビュー実施した⼈が対象) • テーマ:デザイナーとしてどんなふうに仕事や勉強に取り組んでいるか • インタビュー⼿法: 半構造化インタビュー • 分析に使⽤したツール: KH Coder
⽣成した共起ネットワーク • 総抽出語数: 30,211件 分析対象⽂書に含まれるすべての語の延べ数 • 異なり語数: 2,931件 分析対象⽂書に何種類の語が含まれていたかを⽰す数 •
分析に使⽤した抽出語数: 13,022件 • 分析に使⽤した異なり語数: 2,540件
インタビューと共起ネットワークからわかったこと ⾃分と情報とのあいだにキーマンがいる 共起ネットワークでは「⾃分」と「情報」の間に「⼈」の語が⼊る。インタビューでも⾃分と情報のあいだに キーマンがいるという⼈が多かった。勉強⽬的ではなく、キーマンとなる⼈との出会いや交流を求めて勉強会 やイベントに参加すると答える⼈も⽬⽴った。 情報や知識は⼈に会う∕聞くことで得る 共起ネットワークでは「⼈」のまわりに「会う」「聞く」「⾏く」が密に結び付いている。インタビューでは、 ⼈に会って対話することで得ている情報を重視し、読書などから得られる情報とは区別していることがわかっ た。「情報」や「知識」といった語が「セミナー」や「勉強」という語に結び付いていない点も注⽬したい。 何かを作るとき、他の⼈ともつながっている
「⾃分」と「⼈」の両⽅と強く結び付いている語は「思う」と「作る」の2つである。⾃分⾃⾝が考えたり 作ったりする活動には、他の誰かとのつながりが必ずある。この結果からは、分散型学習共創の出発点である 社会構成主義的な考え⽅が、デザイナーが「作る」⾏為そのものに適⽤できることが読み取れる。
まとめ 複雑さと不確実性の増す現代に適した社会⼈デザイナーの姿を「学習共創型デザイナー」、学習共創型デザイ ナーの成⻑にとって有⽤な学習⽅法を「分散型学習共創」と定義して考察を進めてきた。また、社会構成主義 的な考え⽅がデザイナーの成⻑のために重要であるということの裏付けとして、デザイナーインタビューの分 析結果の活⽤を試みた。 従来のデザイナーは、職⼈的な専⾨性や技能を磨くことが成⻑とされてきた。しかし、オープンデザインやデ ザイン3.0が提唱される現在では、⾃分が成⻑することと同時に社会を成⻑させることを、より直接的・明⽰的 に求められ、積極的に担う役割になってゆくのではないだろうか。 今後は現代のデザイナー像についてさらに考察を深めながら、具体的な学習環境デザインや事例化、そこに潜 む課題の発⾒などに取り組む必要がある。
分散型学習共創のモデルは「 社会構成主義的学習観」をベースにしている
社会構成主義的学習観とは • 社会構成主義的学習観 • ピアジェの理論 • ヴィゴツキーの理論 • ブラウン&コリンズの理論 •
レイヴ&ウェンガーの理論 • 佐伯の理論
社会構成主義的学習観 • 知識は社会的な営みの中で構成される • 共同体の社会的な営みを通して学びを内化する 学習対象 1⼈で正解を探す学びは 階段状の学び 他者との納得解を得る学びでは らせん状に学ぶことができる
学習対象を 能動的に⾒て 理解する 学び⽅の 質的変化が起こる (発達する)
ピアジェの理論 ジャン・ピアジェ(1896年 - 1980年)スイス https://ja.wikipedia.org/wiki/ジャン・ピアジェ 知的機能の発達は、⼈が外界に働きかけ、その結果返ってくる外界からの刺激により⽣じる。 環 境 ⼈ 間
同 化 調 整
ヴィゴツキーの理論 レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー(1896年 - 1934年) https://ja.wikipedia.org/wiki/レフ・ヴィゴツキー 他者と学び合うことで到達できる能⼒の領域が変わる。 他者の 助けがあって できること ひとりで
できること 最近接発達領域 (Zone of Proximal Development) ここが ポイント
ブラウン&コリンズの理論 ジョン・S・ブラウン、アラン・M・コリンズ(アメリカ) 伝統的な徒弟制を認知的に理論化し、学習間の相互作⽤を4段階にモデル化した。 モデリング 弟⼦が師匠の作業を観察して学ぶ コーチング 師匠が弟⼦のレベルに合わせ、⼿取り⾜取り教える スキャフォールディング 師匠は弟⼦がひとりでできるようになったことは弟⼦に任せ、 できる⾃覚を持たせながら⾃⽴のための⾜場をかけてゆく
フェーディング 師匠は弟⼦の⾃⽴を促すため、⽀援を減らしてゆく
レイヴ&ウェンガーの理論 ジーン・レイヴ、エティエンヌ・ウェンガー(アメリカ) ⼈々が共に学ぶための単位を「実践共同体」と呼んだ。 相互に関⼼を寄せる 知識の領域 共に学び合い 解決する共同体 継続的な 実践活動 実践共同体
実践共同体への参加を通じて得られる役割の変化や過程 = 学習 = 正統的周辺参加
佐伯の理論 佐伯胖(⽇本) 学び⼿の(I)の⾃我、学び⼿に共 感的に関わる他者(YOU)との関わ り、その関わりの世界を経てより広 い社会的な世界(THEY)との関わ りを広げていくという学びのドー ナッツ論。 学び⼿ 「YOU世界」
共感、理解 「THEY世界」 ⽂化的実践との関係づけ
分散型学習共創のモデルは「 社会構成主義的学習観」をベースにしている
終わりに • 今後の課題 • 今、研究に取り組む理由 • 参考⽂献
今後の課題 ここまでの研究の継続として、次にやるべきことをリストアップしてみた。まだ抽象度が⾼く、何ができるか わからない部分が多いので、それぞれ実⾏可能な粒度に落とすところからはじめる必要がある。 • 現代のデザイナー像についてのさらなる考察 • 具体的な環境デザインと事例化(分散型学習共創の実践) • 観察データを分析・モデリングするための⽅法探 •
事例や観察から現場に還元可能な要素を抽出 • 活動時のサポート・リフレクション・評価など総合的な枠組検討 現時点では、チームやプロジェクトとの関わりかたという切り⼝で学習環境を⾒ることを考えている。キー ワードとして「密なチーム(プロジェクト)∕疎なチーム(プロジェクト)」を据え、それぞれの特徴や関わ りかたによる影響などを考えてみたい。
今、研究に取り組む理由 世界では様々な最新研究が進み、おそらく私が取り組んでいる内容も、誰かがすでに成果や結論を出してくれ ているのかもしれない(それはありがたいので早く⽂献を読みたい)。また、私⾃⾝の⼒不⾜により解釈が適 切でない部分や、発想に⾶躍がある部分が多々あり、研究としてじゅうぶんには成り⽴っていないことも承知 している(できないことを認めて⽇々精進する以外にない)。 それでも私が「デザイン」と「学習」の重なる領域に⾃ら取り組んでみたいと思う理由は、デザインする⾏為 と学習する⾏為は似ている(同じと⾔い換えてもいい)という実感、似ている部分を紐解くことでよりよい未 来につながる予感の2点を信じているからだ。つまり内発的でエモーショナルな動機と不確かなインスピレー ションが先⾏している。むしろそれらしか持ち合わせていないと⾔っても過⾔ではない。 それでも、研究という取り組みを現場の実践者が⾏ってみることに意味があると考えているから、続けている。
内容が⽣煮えだとしても、それを現場や発表の場に晒してみることが⼤事だとも感じる。⽣煮えであることは 格好悪いことなのかもしれないが、やってみることでたくさんの⼈から意⾒をいただくことができてありがた い。こうした活動を続けることが、⾃分の提唱する分散型学習共創の実践そのものになる。モチベーションが ある限り、信じて続けていきたい。
参考⽂献 1. ティム・ブラウン(著), 千葉 敏⽣(訳):「デザイン思考が世界を変える」, 早川書房 , 2014 2. ドナルド・A.
ショーン(著), 柳沢 昌⼀ , 三輪 建⼆(訳):「省察的実践とは何か―プロフェッショナルの⾏為と思考」, 鳳書房 , 2007 3. 上平 崇仁 : 協調的デザイン学習における⼈間中⼼設計プロセスの適⽤ , 専修⼤学情報科学研究所所報 (75), 2011 4. ⻄阪 仰 :「相互⾏為分析という視点」, ⾦⼦書房 , 1997 5. ジーン・レイヴ、エティエンヌ・ウェンガー(著), 佐伯 胖 , 福島 真⼈(訳):「状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加」, 産 業図書 , 1993 6. 諏訪 正樹 , 堀 浩⼀ :「⼀⼈称研究のすすめ : 知能研究の新しい潮流」, 近代科学社 , 2015 7. 佐々⽊ 正⼈ , 宮本 英美 , ⻩倉 雅広 , 三嶋 博之 , 鈴⽊ 健太郎 :「アフォーダンスと⾏為 ( ⾝体とシステム )」, ⾦⼦書房 , 2001 8. ⼩⾼ 有普 , 清⽔ 忠男 , 村中 稔 , 安島 諭 , 桑村 佐和⼦ , ⼤⾕ 正幸 : 戦後⽇本の教育における「創造性」の位置付け ─⼯業系⾼ 専に求められる創造性喚起のための教育─, デザイン学研究 63(3), 3_11-3_20, 2016 9. PISA: OECD, http://www.oecd.org/pisa/ 10. Tech Talk: Linus Torvalds on git, YouTube, https://youtu.be/4XpnKHJAok8 11. 江渡 浩⼀郎 , ⼟井 裕⼈ : 共創型イノベーションを創出する:ニコニコ学会βの活動を通じて , 情報管理 59(10), 666-675, 2017 12. 世界有数のデザインスクールが⾒据えるデザイン 3.0 の未来 [id KAIST] ¦ ISSUES ¦ WORKSIGHT, http://www.worksight.jp/issues/612.html 13. KH Coder, http://khc.sourceforge.net/
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研究活動を通してお世話になっている すべての⽅々に感謝します。 これからもよろしくお願いします。