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測ること・評価することが、人と支援を変える
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Daiki Enomoto / 榎本大貴
October 26, 2026
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測ること・評価することが、人と支援を変える
https://shibuya-qws.com/event/qws-academia20261021
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Daiki Enomoto / 榎本大貴
October 26, 2026
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Transcript
測ること・評価することが、 支援と人を変える KEIO-RRI ELSI/RRI Meetup, Vol.2 ソーシャルデータ/AIとELSI 榎本 大貴 株式会社LITALICO
執行役員/LITALICO研究所所長/AI統括部長 2026年10月21日 SHIBUYA QWS
支援を把握するための測定が、 いつの間にか人の行動を変えてしまう 研究評価や政策指標で起きる「数値が人を評価・選別する道具になる」現象は、 福祉や支援の現場でも、検査やアウトカム評価という形で現れます。 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21)
2
「測定」と「評価」を分ける 現場で混同されやすいこの2つを、まず整理して話を進めます。 測定(現状の把握) 評価(価値の判断) 状態や変化をありのまま捉える 支援の改善や振り返りの足場 現場で対話を深めるための道具 成果の良し悪しや資源配分に使う 外部への説明・調達・比較の道具 支援員や利用者の行動を変容させる
© LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 3
今日話すこと 話題1 測ることが支援を変える: 品質マネジメントとアウトカム評価 話題2 発達特性検査をつくる: 対話の共通言語と、分類が生む葛藤 話題3 現場にAIが加わると: 個別性とバイアス、平均への回帰
Discussionへ渡す問い: 会場の皆さんと深めたい論点 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 4
自己紹介 榎本 大貴(えのもと だいき) 執行役員/LITALICO研究所所長/AI統括部長 誰もがアクセシビリティを身近に感じ、実践したくなる社会を目指している 2012年に発達支援の現場から入り、研究所と発達ナビの立ち上げを担当した 大学院で画像認識AIを研究し、復帰後は品質マネジメントを経て、AIの普及 と研究開発を担当 @enochan
© LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 5
LITALICOについて 「障害のない社会をつくる」というビジョンで事業を展開しています。 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 6
今日の3つの切り口 障害を個人の欠如として捉えるのではなく、個人と環境との不一致として捉える視点から、現場での3つの実 践を振り返ります。 話題1 品質マネジメント: 支援の「質」をどう定義し、測ろうとしてきたか 話題2 発達特性検査: 指標が支援の共通言語になる一方、新たな枠組みを生む葛藤 話題3
現場のAI: 大規模なパターン化と「平均への回帰」が、個別性にもたらす影響 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 7
話題1 測ることが支援を変える 品質マネジメントとアウトカム評価への挑戦 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 8
なぜ測ろうとしたか 対人援助の価値は、支援者と利用者の関係性そのものにある それでも「良い支援とは何か」を言語化しなければ、支援の再現や人材育成、現場での改善が進まない 2018年頃からプログラム評価、ロジックモデル、心理尺度を学び、支援の質の可視化に取り組んだ ロジックモデルを用いて「何を狙い、どう支援し、どう変化するか」を定義・測定・改善していった その中で痛感したこと:支援の質は現場の工夫だけで完結せず、報酬体系や制度、地域差などの構造的要 因に大きく左右される 出典: ロジックモデルの実務は UNERI
インタビュー(2025-09-05、2026-10-17確認) © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 9
ジュニアのコンセプトマップ 日々の支援から、本人の変化、家庭や生活の改善までの道筋をロジックモデルで整理 出典: LITALICO Concept Note 2025(ジュニア通所・スタンダード Concept Map) ©
LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 10
コンセプトノートにした理由 当初は外部向けのインパクトレポート公開を検討していた しかし「インパクト」という言葉で、利用者やご家族、学校など周囲の関わりによって生まれた変化を、 支援事業者だけの成果であるかのように誇ってしまうことに強い違和感があった 単一の数値を追求すると、目の前の一人ひとりが持つ多様な生活の文脈や物語が見えなくなってしまう 外部へのアピールよりも、現場の支援員が自らの実践を振り返り、対話するための道具が必要だと考えた 完成されたレポートではなく、現場が書き込み更新していける「コンセプトノート」という形を選んだ 出典: UNERI インタビュー(2025-09-05、2026-10-17確認)
© LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 11
同じ数でも、向きが変わると意味が変わる 内向きの測定 現場の振り返りと改善 支援員の学習とスキルアップ 「どう関わると良いか」を話し合う足場 外向きの測定 外部への説明責任とアカウンタビリティ 資金調達や契約の根拠 事業所間の比較や資源配分の道具 現場の改善のための数字が、外部説明の評価に変わった瞬間、現場に強い緊張が走ります。
© LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 12
測定が評価に使われると、支援の現場で起きうること 見えるものが偏る: 測りやすい変化だけが「成果」として語られ、安心感や家族との関係のような、測りに くい変化が後回しになる 数字を良くすることが目的になる: 達成しやすい目標を立てたり、変化の出やすい場面に目が向いたりし て、本来の丁寧な関わりが薄れる 記録が支援を圧迫する: 測定と報告そのものが重い業務になり、目の前の子どもと過ごす時間を削ってしま う
指標が目標になると壊れていく構造(Goodhartの法則など)は、七丈先生のお話と地続きです。 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 13
現場で気をつけたこと 因果ダイアグラム(DAG)を用いて、現場の実践知と統計専門家の知見をすり合わせた 数値の結果を急ぐ前に、「どの変数を考慮すべきか」「何が前提条件か」の丁寧な議論を重ねた ロジックモデルは因果関係の厳密な証明のためというより、現場の目線を合わせる共通言語として活用 数値を「評価の結論」にするのではなく、「現場で一緒に考えるための足場」にする姿勢を徹底しました。 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup
Vol.2(2026-10-21) 14
話題2 検査をつくる 子ども理解のための数字が、同時に子どもラベリングしうる葛藤 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 15
LITALICO発達特性検査の概要 発達が気になる子どもと保護者を対象とした、オンライン完結型の特性把握ツール 医学的診断を目的とするものではない 保護者が子どもの日頃の様子に関する質問(約150問)に回答(対象年齢:3〜18歳) 特性を7つの大分類と18の小分類で多面的に可視化(学習、対人社会性、睡眠、感覚、運動など) その場で結果が得られ、子どもの特徴や関わり方のヒントとなる(「取扱説明書」のような位置づけ) 家庭内での理解だけでなく、園・学校や相談機関と状況を共有し、環境調整について話し合うためのツー ルとして活用 受検者数は約2,700人 出典:
発達ナビ公式解説(2024-05-15確認)/超多様インタビュー(2024-11-18、2026-10-17確認) © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 16
保護者の回答結果を受けて、スコアと困り程度が可視化 出典: 超多様インタビューの公開スクショ(2024-11-18) © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 17
数は会話の共通言語になりうる 公式の推奨用途は、子どもの特性の客観的な理解と、園・学校との具体的な相談・連携 家庭内だけでなく、学校や医療機関へ持参して「困り感」を具体的に共有するための足場として設計 数値を確定的な診断として使うのではなく、「何が子どもの生活に影響しているか」を関係者で一緒に探る 足場とする狙い 出典: 発達ナビ公式解説/超多様インタビュー(2024-11-18、2026-10-17確認) © LITALICO Inc.
KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 18
同時に、「枠組み」が生まれる 一旦カテゴリや分類名が流通すると、周囲の人々はその枠組みを通して子どもを捉え始めてしまう 粗点は同年代・性別の定型発達母集団を基準にTスコア(平均50)へと標準化される その結果、「困りが強い/やや強い/今は困っていない」といった評価語が付与される 支援のための「測定の道具」が、いつの間にか子どもをラベリングし選別する「評価と処遇の道具」へと 移行する境界がここにある © LITALICO Inc. KEIO-RRI
Meetup Vol.2(2026-10-21) 19
気をつけたこと 保護者の評定と、学校や園での見立てには当然ながらギャップが生じうる 環境や場面によって特性の現れ方が異なることを前提に、「ずれを出発点として対話するきっかけ」と位置 づけている 提示されるサポート案はあくまで「試してみる価値のある選択肢」であり、万能な正解ではない 開発側としても、スコアや提案を唯一の正解や最終判断として扱わないよう注意深く設計した 出典: 発達ナビ「結果の使い方」(2026-10-15確認)/超多様インタビュー(2024-11-18、2026-10-17確認) © LITALICO
Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 20
話題3 現場にAIが加わると何が起きるか 個別性とバイアス、そして「平均への回帰」 © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 21
現場で起きていること 支援現場の記録作成や情報整理において、音声認識や要約AIの活用が急速に進んでいる 典型的な行動パターンや既知の枠組みへの当てはめ・分類は、AIによって圧倒的に高速化される 一方で、既存のパターンに収まらない、名付けようのない違和感や困りを見つけ出す二層目の見立てが人 間に残される AIがもっともらしい文章を出力すると過信が生じやすいため、客観的事実の観測、モデルの推定、支援員 による意味づけを慎重に切り分ける必要がある © LITALICO Inc.
KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 22
AIは大多数のデータから学び、「平均」に引き寄せる 機械学習モデルは大量のデータから統計的パターンを学習するため、出力は多数派の平均に収束しやすい 一方で、発達支援や福祉が向き合っているのは、まさに分布の両端にある少数派の個別具体的な困り 「平均への回帰」が進むほど、端にある切実な声や独自の表現が薄まり、標準的な型に押し込められるリスクがある 図: SSBC 2026 講演資料「正規分布とLLMの学習」より引用 © LITALICO
Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 23
多数派の「当たり前」が、「良い状態」の基準になる 多数派のデータで最適化されたAIからは、分布の端にいる人たちの切実なニーズが「外れ値」や「ノイズ」 として処理されやすい 多数派の身体性や生活習慣が暗黙の「標準」とされることで、そこから外れる特性が不当に評価されたり 排除されたりする 支援技術が「健常者の標準に近づけること」を目的に設計されてしまう危険性(テクノエイブリズム) 「良い状態」の定義そのものが、AIによって単一の型へと狭められてしまう恐れがある © LITALICO Inc.
KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 24
委ねてよいかは別の問題 技術として実装可能であることと、現場の意思決定をAIに委ねてよいかは全く別の問題である 検査の数値やアウトカム指標と同様に、「計算できること」と「判断を任せてよい領域」を混同してはなら ない システムの実装精度を上げること以上に、「どこまでを機械に任せ、どこからを人が引き受けるか」という 委任の境界設計が不可欠である © LITALICO Inc. KEIO-RRI
Meetup Vol.2(2026-10-21) 25
まとめ:3つとも、「測定」が「評価」に変わる境目の話だった 話題1 品質マネジメント: 改善のための数字も、評価や資源配分に使われると現場の行動を変える。だか ら結論ではなく、一緒に考える足場として扱った 話題2 発達特性検査: 共通言語として対話を開く一方、評価語とカテゴリを配る。ずれを対話の出発点に し、スコアを正解にしない 話題3
現場のAI: 平均に寄るAIは、多数派の当たり前を基準にしやすい。何を委ね、何を人が引き受ける かの境界設計が要る © LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 26
Discussionへ渡す問い 1. 測定と評価の境を、現場ではどこに引くか 改善のための指標と、処遇や資源配分のための評価を、同じテーブルで扱えるのか 2. 検査やスコアが本人の物語を上書きしていないか 分類は共通言語として対話を開く一方、現場の豊かな解釈をあらかじめ縛ってしまわないか 3. AIに渡してよい判断と、人に戻すべき判断は何か パターンの当てはめを自動化した先に、少数派の困りや多様な「良さ」を誰がどう守るのか
© LITALICO Inc. KEIO-RRI Meetup Vol.2(2026-10-21) 27