本章ではトヨタのプリウスの開発過程を軸に「社会共生のマーケティング」について論じている。社会共生とは企業と顧客が売り手と買い手の関係を超えて、一緒に社会をよりよく生きようとする取り組みである。近年、CSR(Corprate Social Responsibility)からCSV(Create Shared Value)に企業の社会に対する取り組みが移っているが、本件はその先駆け事例であり、顧客と共に社会の「新しい常識(環境問題への関心)」を創り出した。
プリウスの生みの親である内山田氏は車の企画・開発経験が全くなかった。だからこそ、会社からは、常識にとらわれない新しい車の開発を期待されていた。企画が難航した際「技術などのハード面の話はやめよう。社会のソフト面から考えよう」と発送の転換をうながし、社会問題に注目し、プロジェクトを成功に導いた。
企業が社会的取り組みを実施する中で「自社の課題」と「社会の課題」のつながりに気づき、それを出発点とし、顧客と共に社会の新しい常識や未来の価値をつくりだすことが、マーケティングに期待される役割のひとつである。そして、「経済的価値」と「社会的価値」を同時に実現させるためには、企業と社会の対話の中で共生の関係を築くことが重要になる。