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携帯電話事業者間ローミングと緊急通報

IIJ_techlog
September 14, 2022

 携帯電話事業者間ローミングと緊急通報

携帯電話事業者間のローミングと緊急通報の挙動について解説しています。
詳細・動画はこちらをご覧ください
https://techlog.iij.ad.jp/archives/3042

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September 14, 2022
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Transcript

  1. 3 本稿の目的 ローミングについて各方面から様々な意見が出ているようです。 本稿の目的 • そもそも「ローミング」はどのような動作をするのかについて説明 • 緊急通報についての特別な動作を説明 本稿で扱わないこと •

    「今後どうするべきか」という提案 • 現在存在しない、検討中の技術・方式 • MVNOとの関わり おことわり • 説明を簡単にするため、4G (VoLTE) を前提にします • 携帯電話網の機器・機能は、説明に必要な範囲で簡略化しています
  2. 5 本題に入る前の説明 LTEにおける「Attach」、およびVoLTEにおける「Registration」 電源を入れた端末(スマホ)が携帯電話網を利用するための最初の動作 • Attach (在圏・位置登録) • 端末が携帯電話網を使うための許可 •

    端末のどの基地局と通信しているかを携帯電話網が管理 • Registration (登録) • 端末が電話網を使うための許可 • 端末が通話ができる状態であることをVoLTE設備が管理 • VoLTE設備……音声通話の管理・中継をする設備
  3. 6 Attach・RegistrationとSIM Attach・Registrationには「SIM」が必要 電話網 インター ネット 加入者DB VoLTE設備 SGW MME

    HSS S-CSCF eNodeB RAN (基地局網) CN (交換機群) Attach (データ・音声) PGW(データ) SIM SIMの中に入っている情報(鍵)を、加入者DBの情報と照合することで正規の利用者であることを確認。 PGW(音声) Registration (音声通話) IMS (交換機群)
  4. 7 スマホが「待ち受け状態」になるまで 加入者DB VoLTE設備 携帯電話網 許可 待ち受け状態 スマートフォン 電源ON 付近の電波を受信

    データ通信 Attach要求 音声通話 Registration要求 音声通話 Registration処理 音声通話 Attach要求 データ通信 可能 音声通話 可能 MME データ通信 Attach処理 音声通話 Attach処理 許可を出すのは「加入者DB」
  5. 9 なぜローミングが実現できるか 現地の網(Visited PLMN)から、契約網(Home PLMN)に接続 携帯電話会社A 携帯電話会社X 海外旅行などで持ち出し 電話網 インター

    ネット Home PLMN Visited PLMN S8HR方式を想定 SGW MME HSS PGW(音声) S-CSCF eNodeB PGW(データ) Registration (音声通話) Attach (データ・音声) 加入者DB
  6. 10 一般的な「ローミング」のポイント 元々契約している携帯電話会社の設備が通信を許可している 電話網 インター ネット Home PLMN Visited PLMN

    S8HR方式を想定 SGW MME HSS PGW(音声) S-CSCF eNodeB PGW(データ) Registration (音声通話) ローミング接続を許可するかどうか判断 Home PLMNの 「加入者DB」がポイント Attach (データ・音声)
  7. 11 昨今起っている議論 非常時(災害、障害)に、国内事業者間ローミングを活用してはどうか 例: 国内A社の障害発生中に、国内B社・C社・D社に迂回して通信・通話を利用する。 様々な意見 • 緊急通報だけなら実現可能ではないか? • 緊急通報だけであっても、日本の法律に適合できないのではないか。

    • 非常時に限ってデータ通信についてもローミングを行えば良いのではないか? • 緊急通報以外(通常通話・データ通信)は難しいのではないか。 • データ通信はローミング以外の手段で実現すべきではないか。 「緊急通報」と「緊急通報以外の音声通話・データ通信」に分けて検討
  8. 13 緊急通報以外の音声通話・データ通信とローミング A社の一部の基地局に故障が発生している場合 • ローミングによって迂回が可能 電話網 インター ネット Home PLMN

    Visited PLMN SGW MME HSS PGW(音声) S-CSCF eNodeB PGW(データ) SGW MME A社基地局網 eNodeB B社基地局網 A社契約 故障 Registration (音声通話) Attach (データ・音声)
  9. 14 緊急通報以外の音声通話・データ通信とローミング A社の加入者DB付近に障害が発生している場合 (大規模影響) • ローミング接続もできない 電話網 インター ネット Home

    PLMN Visited PLMN SGW MME HSS PGW(音声) S-CSCF eNodeB PGW(データ) SGW MME A社基地局網 eNodeB B社基地局網 A社契約 故障 Registration (音声通話) Attach (データ・音声)
  10. 15 障害対策としてのローミング 元々契約していた携帯電話会社の加入者DB等が正常であることが前提 (一般的な「ローミング」を想定するのであれば) • 加入者DB周辺など、全国的な障害の場合、ローミングは機能しない • 局所的な基地局の障害であれば、他社基地局への迂回はあり得る ローミング接続に自動的に切り替えることは難しい •

    スマホの場合: 手動でローミング先の網を指定する必要がある • IoTデバイスの場合: 何らかの手法で障害を検知し、接続先を切り替える プログラムが必要 (どうやって障害を検知するかの条件設定がとても難しい) ※現時点で存在しない、新たな「ローミング」方式が開発されるのであれば話は別だが……
  11. 17 緊急通報は特別 実は、緊急通報は特別扱い だって緊急だから。 • 3GPPの規格上は、SIMがない状態でも緊急通報の発信は可能 • iPhoneもAndroidもSIMなしで通報する機能は持っている • 規格上は、実現のハードルは低い

    • ただし、現在日本ではSIMなしの緊急通報は不可 (後述) AttachもRegistrationもなしに、いきなり通話を発信して良い SIMなし状態で「緊急通報のみ」と表示されるスマホがあるが、実際には緊急通報はできない。 SIMがないのでAttachもRegistrationもできない ※LTEなどの規格を検討する団体
  12. 18 緊急通報の挙動 (3GPPの規格上の挙動) SIMなしの緊急通報はVisited PLMNから直接通報する • いわゆる「ローミング」とは別の仕組み 電話網 インター ネット

    Home PLMN Visited PLMN SGW MME HSS PGW(音声) S-CSCF eNodeB PGW(データ) SGW MME A社基地局網 eNodeB B社基地局網 A社契約 故障 電話網 PGW(音声) E-CSCF Visited PLMNから直接通報 Home PLMN加入者DBの 故障の影響を受けない
  13. 19 日本でSIMなし緊急通報が出来ない理由 「緊急通報特有の機能が実現できないため」 法律の要件が満たせないので、日本ではSIMなし緊急通報は利用されていない 事業用電気通信設備規則 第三十五条の二の四 (緊急通報を扱う事業用電気通信設備) 第三十五条の二の四 電気通信番号規則別表第十二号に掲げる緊急通報番号を使用した警察機関、海上保安機関又は消防 機関(以下「警察機関等」という。)への通報(以下「緊急通報」という。)を扱う事業用電気通信設備は、次の各号の

    いずれにも適合するものでなければならない。 一 緊急通報を、その発信に係る端末設備等の場所を管轄する警察機関等に接続すること。 二 緊急通報を発信した端末設備等に係る電気通信番号その他当該発信に係る情報として総務大臣が別に告示する情報を、 当該緊急通報に係る警察機関等の端末設備に送信する機能を有すること。ただし、他の方法により同等の機能を実現でき る場合は、この限りでない。 三 緊急通報を受信した端末設備から終話信号が送出されない限りその通話を継続する機能又は警察機関等に送信した電 気通信番号による呼び返し若しくはこれに準ずる機能を有すること。 ※以降省略 事業用電気通信設備規則の細目を定める件(昭和60年郵政省告示第228号) ※抜粋 三 携帯電話用設備及びPHS用設備 イ 緊急通報を発信した端末設備等に係る電気通信番号 ロ 発信に係る位置情報又は発信を受けた基地局に係る位置情報(緯度、経度及び精度情報)
  14. 20 緊急通報の仕組み (アナログ固定電話/PSTN) 緊急通報(110番, 118番, 119番)は電話網が持っている特殊な機能 • 通常の通話とは扱いが異なる 緊急通報 3.

    回線保留 (強制的に電話を繋げたままにする) 逆信・呼び返し (警察側から通話を折り返す) 1. 通報場所に応じた警察・消防署に接続 2. 契約者の氏名・住所・電話番号の通知 SOS https://www.soumu.go.jp/main_content/000488738.pdf 緊急通報指令台 に専用のボタンあり https://www.irasutoya.com/ • 通報者が話ができない状態でも位置情報頼りに現場に急行できる • 現場の様子が不明確な場合など、警察・消防から折り返し連絡できる アナログ固定電話
  15. 21 携帯電話での緊急通報 携帯電話では技術的にアナログ固定電話と同じ機能は実現不可能 (だった) • 携帯電話からの緊急通報でもアナログ固定電話と同等の機能が要請される • 2003年~2007年 • 電気通信事業における重要通信確保の在り方に関する研究会報告書

    • IT戦略本部決定「e-Japan計画 2003」 • 情報通信審議会(情報通信技術分科会 緊急通報機能等高度化委員会) • 現在の携帯電話(スマートフォン)では、以下の機能を実現 • 通報位置に応じた警察署・消防署・海保への接続 • 通報位置(GPS情報)の通知 • 緊急通報指令台からのコールバック • SIMなし緊急通報で課題になるのは「コールバック(呼び返し)」機能 アナログ固定電話とは技術的には異なるが、 概ね相当する機能を実現
  16. 23 これは規制緩和の問題なのか? 法令を改正(規制緩和)すれば、ローミング通報への道は開けるかもしれない • しかし、規制緩和すればそれでいいのか? • 規制緩和 = 緊急通報用の特殊機能が使えなくなること •

    「コールバック」が利用できない • 緊急通報受理機関(警察・海保・消防)は対応可能か? • 「コールバック」に依存しない運用が必要 • 緊急通報は通信(電話)だけの問題ではない • 通報~出動までの業務フロー込みで議論が必要では • 通報を行う市民(私たち)は何を優先するのか? 救急車の現場到着までの平均時間 約8.6分 (コロナ禍前) これを維持できるのか? 緊急通報に対応する機関 参考: https://www.soumu.go.jp/main_content/000481079.pdf 警察 (110番) 消防 (119番) 海保 (118番) 約50箇所 約600箇所 11箇所 都道府県警察本部 市町村消防指令センター 海上保安本部
  17. 25 まとめ • ローミングについて • Attach・Registration (携帯電話網の仕組み) • 典型的なローミングの動作 •

    非常時のローミング • 緊急通報以外の通話・データ通信 • 局所的な基地局の故障対策であればローミングは有効 • 全国的な障害に対してはローミングでは対応が困難 • 緊急通報 • 3GPPの規格上は「SIMなし」で通報が可能 • 日本では「SIMなし」通報は利用されていない • 「SIMなし」通報の実現は、通信だけの問題ではない • 2022年9月以降実施される総務省の検討会で議論が行われる予定