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[招待講演] 無線環境の可視化:空間統計学の基礎とその多次元拡張

Koya SATO
August 23, 2021

[招待講演] 無線環境の可視化:空間統計学の基礎とその多次元拡張

IEICE信号処理研究会 招待講演「無線環境の可視化:空間統計学の基礎とその多次元拡張」の発表スライドです。

発表日: 2021年8月23日(月)
発表場所: (オンライン)

当日のプログラム:
https://www.ieice.org/ken/program/index.php?tgs_regid=cb0654c999afe7fe2e1a821190ed08bd383d6b9b1ded7f62427b2789f35687e7&tgid=IEICE-SIP

予稿:
佐藤のresearchmapにてアーカイブしてます。
https://researchmap.jp/k_sato0122/presentations/33369284

Koya SATO

August 23, 2021
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Transcript

  1. 自己紹介 2 概要 名前: 佐藤光哉 / Koya SATO 出身: 宮城県塩竈市

    DOB: 1991年1月22日 Twitter (宣伝用): @ksato0122 所属 2018- 東京理科大学工学部電気工学科 助教 2013-2018 電気通信大学 博士前期/後期課程 研究テーマ • 無線環境の可視化 • 無線ネットワークにおける分散機械学習の設計 • これらの派生課題 キーワード 無線リソース, 空間統計, 無線ビッグデータ応用, etc.
  2. 主要テーマ1: 無線環境の可視化 (本講演) 端末が移動観測した結果を集約し受信電力を可視化 Ø 応用例: 無線リソース管理, UAVの経路設計, フィンガープリント位置推定, …

    関連発表 • K. Sato et al., IEEE Trans. Veh. Technol., Jan 2021. • K. Sato et al., IEEE Access, July 2019. • K. Sato et al., IEEE Wireless Commun. Lett., June 2019. • K. Sato and T. Fujii, IEEE Trans. Cogn. Commun. Netw., March 2017. クラウド 送信局 位置: (xi , yi ) 受信電力: Pi 位置: (xk , yk ) 受信電力: Pk 位置: (xj , yj ) 受信電力: Pj 観測ノード 5G 5G 5G 内挿結果 観測結果 ・ガウス過程回帰 ・ニューラルネット 等により空間内挿 平均受信電力 電波マップ
  3. 主要テーマ2: 分散機械学習の設計 ローカル学習と周辺端末との学習機の共有を繰り返す • 端末がデータを持ち寄り、狭いネットワーク上で事象を学習 • 特に、通信面のボトルネック解消に従事 関連発表 • K.

    Sato and D. Sugimura, IEEE Trans. Cogn. Commun. Netw., 2021 (Early Access) • K. Sato et al., IEEE ICC 2020, June 2020. 5 G 5 G 5 G 5 G 5 G 5 G ローカル学習 モデル共有 単独学習 完全協調(通信遅延なし) 分散学習
  4. 無線環境可視化のモチベーション (1/2) 6 周波数割当て@米国 (出典) NTIA, US Frequency Allocation Chart

    デバイス数 (単位: 10億) PC タブレット 携帯電話 M2M ファブレット スマートフォン (出典) Cisco Annual Internet Report (2018~2023年) 世界のモバイルデバイス数の推移 • 無線の需要が拡大 • 無線周波数の割り当ては1システム1周波数の排他的利用 Ø 周波数資源が不足
  5. 無線環境可視化のモチベーション (2/2) 7 周波数資源確保の基本的な方針:既存システムにおける周波数利用の効率化 • 送信電力 • 通信周波数 • 変調方式

    基地局 5G 5G 5G 受信電力の例 等の最適化により効率を改善できるが… • 無線における信号品質の変動は非常に複雑 • 現在は経験則や理論モデルの利用が一般的…だが精度に限界 Ø 結果的に、無線通信の効率にも限界
  6. 無線環境クラウドセンシングと課題設定 8 コンセプト概要 • 端末が移動観測した無線環境情報をクラウドへ集約 • 高精度に推定, 可視化した情報を通信設計へ活用 ここでの課題 •

    端末の観測のみでの全エリアの情報の取得は困難 Ø 限られた情報から歯抜けの情報をいかに精度良く推定するか? クラウド 送信局 位置: (xi , yi ) 受信電力: Pi 位置: (xk , yk ) 受信電力: Pk 位置: (xj , yj ) 受信電力: Pj 観測ノード 5G 5G 5G 内挿結果 観測結果 内挿・可視化 平均受信電力 可視化結果 (電波マップ) 主題
  7. (補足) 関連論文の例 9 可視化方法の確立 • R. Levie et al., IEEE

    Trans. Wireless Commun., vol. 20, no. 6, pp. 4001-4015, June 2021. • W. Liu and J. Chen, IEEE ICC 2021. • K. Sato et al., IEEE Trans. Veh. Technol., vol.70, no.1, pp.714-725, Jan. 2021. 無線リソースの高効率利用への応用 • Y. Zeng and X. Xu, IEEE Wireless Commun., vol. 28, no. 3, pp. 84-91, June 2021. • S. Bi et al., IEEE Wireless Commun., vol.26, no.2, pp.133-141, Apr. 2019. • K. Sato and T. Fujii, IEEE Trans. Cogn. Commun. Netw., vol.3, no.1, pp.13-25, Mar. 2017. 位置指紋に基づく端末位置推定への応用 • Y. Tao and L. Zhao, IEEE Trans. Veh. Technol., vol.67, no.11, pp.10683-10692, Nov. 2018. • C. Wu et al., IEEE Trans. Mobile Comput., vol.17, no.3, pp.517-528, Mar. 2018. • H. Zou et al., IEEE Trans. Wireless Commun., vol.16, no.12, pp.8118-8130, Dec. 2017. • Q. Jiang et al., IEEE Sensors J., vol.16, no.10, pp.3764-3774, May 2016. ※用語が乱立しているがどれもほぼ同一の技術を示す • Radio Map, Radio Environment Map, Signal Map, Channel Gain (Knowledge) Map, … 5G, 6G向け
  8. 空間統計学 (Spatial Statistics) 11 空間データ, 地理情報データ全般を取り扱う学問 [瀬谷-2014] • ある事象の予測を考える (例:不動産物件の価格)

    Ø 統計学:交通要因、周辺環境といった要因で説明する回帰モデルでアプローチ Ø 空間統計学:座標情報 (緯度, 経度)を活用してモデルの説明力の向上を目指す • 「空間的自己相関」 (距離が近いほど事象の性質が似る)を取り入れる • 大まかに「空間軸での回帰分析」と考えればよい 応用範囲は非常に広い • 鉱山学 • 気象分野 • 土壌学 • リモートセンシング • 無線通信 (ここ10年ほど) [瀬谷-2014] 瀬谷, 堤, 空間統計学 -自然科学から人文・社会科学まで-, 朝倉書店, 2014.
  9. 空間内挿の基本的な指針 x0 内挿対象 xi 観測地点 重み係数 近傍のデータには大きな 係数 遠方のデータには小さな 係数

    を与えることで精度を確保 →クリギングにより最適化していく 地点xにおける平均受信電力: 地点xにおける平均受信電力: 最小二乗法 により推定可 空間相関を考慮した加重平均 空間内挿の指針 [dBm]
  10. 回帰分析+常クリギングによる空間内挿 (1/3) セミバリオグラム:2地点間の距離に対するサンプルのばらつきやすさ x1 x2 xN x4 x3 2地点間の距離 [m]

    セミバリオグラム 参考: N. Crassie, Statistics for spatial data, Wiley-Interscience, 1993. 1. 距離減衰特性の推定&除去 2. シャドウイング成分の空間相関特性のモデル化 3. シャドウイング成分に対し加重平均
  11. 補足 18 • 前述のクリギング:ガウス過程回帰 (GPR: Gaussian Process Regression)を空 間軸に適用したものと同等 Ø

    カーネル関数がセミバリオグラムに対応 [Bishop-2006] C. Bishop, Pattern Recognition and Machine Learning, Berlin, Germany: Springer, 2006. • 空間統計学においては、観測対象ごとに多数の議論 Ø 観測値が場所ごとに二値 :Indicator Kriging Ø 場所ごとの生起数を取り扱う :Poisson Kriging Ø そもそもの統計的性質の議論 • 空間相関性、その異方性など
  12. 拡張1: 空間-周波数軸内挿 [Sato-TVT2021] 20 • 必ずしも推定対象の周波数上で事前に十分な観測が行えるとは限らない Ø 例1: 該当の周波数軸上での無線利用が法整備の段階である Ø

    例2: 近隣の他の送信局に干渉を与える危険性がある • 予め利用可能な他帯域で観測した情報を活用できないか? [Sato-TVT2021] K. Sato et al., “Space-Frequency-Interpolated Radio Map,” IEEE Trans. Veh. Technol., vol.70, no.1, pp.714-725, Jan. 2021. 観測値@高周波数 観測値@低周波数 推定対象@中間 • シャドウイングの周波数軸での相関に着目した設計を行う
  13. 拡張1: 空間-周波数軸内挿 [Sato-TVT2021] 21 シャドウイングの周波数相関に関する実験的検討の例 B. V. Van Laethem et

    al. (PERLett., 2012) • GSMシステム@屋外における Ø 900MHz-1800MHz間:0.84 Ø 900MHz-2100MHz間:0.79 Perahia et al. (IEEE VTC2001-Spring, Jan. 2001) • FDMAシステム@屋外におけるアップ/ダウンリンク間の相関性評価 Ø 0.7-0.9程度の相関 同様の検討 • Mogensen et al. (IEEE GLOBECOM’91) • Sato et al. (Electron. Lett., Jan. 2018) メインアイディア 複数周波数軸上のシャドウイング値を推定対象の周波数軸上の特性として 取り扱い、常クリギングを適用
  14. 拡張1: メインアイディア (1-Dを例に) 23 1. 通信距離-周波数の二変数に対する最小二乗法 2. データセットからシャドウイング成分を抽出 3. 周波数内挿:各周波数のシャドウイングを推定対象周波数上の値とする

    4. 推定対象の周波数上で常クリギングによりシャドウイングを空間内挿 周波数 f0 上の送信電力+距離減衰 周波数の影響 距離の影響 ※ f0 上で少数のデータが得られる場合、 f0 上の推定結果を補正する (本発表では省略) 通信距離の対数値 受信電力 [dBm]
  15. 拡張2: 送信軸の一般化 [Sato-Access2019] 27 • 任意の送信位置に対する通信品質予測のアプリも重要 Ø 車車間通信、無線LANアクセスポイント, … 送受信位置が異なるリンク間のシャドウイング相関

    送受信者の総移動距離に対し指数的に減衰 [Wang-TVT2008] 送信局 受信局 リンク j リンク i 送信局 受信局 Δd(i,j),Rx [m] Δd(i,j),Tx [m] 着想: 空間相関を送受信者の移動距離の和に対し定義することで送信位置を一般化 W : シャドウイング値[dB] σ : シャドウイングの標準偏差[dB] dcor : 相関距離[m] [Wang-TVT2008] Z. Wang et al., IEEE Trans. Veh. Technol., vol. 57, no. 1, pp. 52–64, Jan. 2008.
  16. 拡張2: 送信軸の一般化 [Sato-Access2019] 通信結果の アップロード 瞬時受信電力の グリッドごとの平均化 パスロスモデリング シャドウイング成分の 抽出

    セミバリオグラム モデリング 常クリギング 観測データ: ・送受信座標 ・受信信号電力 最小二乗法 (OLS) or ニューラルネット 送信位置 受信電力 セミバリオグラム Δd(i,d),Rx Δd(i,d),Tx +Δd(i,d),Rx 送信位置固定 分散環境
  17. 拡張2: 送信軸の一般化 [Sato-Access2019] 30 分散環境:距離減衰特性が送信位置や方角に応じて複雑に変動 • 距離減衰推定を最小二乗法から機械学習ベースの回帰に置き換える 平均受信電力 [dBm] ・

    ・ ・ 入力層 中間層 出力層 • 浅いNNで距離減衰特性を捉え、シャドウイングはクリギングで推定 Ø NNとクリギングの併用:Neural Network Residual Kriging [Kanevsky-1996] [Kanevsky-1996] M. Kanevsky et al., Geoinformatics, vol. 7, nos. 1–2, pp. 5–11, 1996.
  18. 空間統計による対応が困難な環境 33 要素 仮定 実際 x 2次元 3次元 P(x) 時間変動しない

    構造物の変化など により変動 η 等方的 角度依存+区分変化アリ W(x) 空間相関が場所に よらず等方的 場所や方角によって複雑 に変化 無人飛行機 屋内無線LAN 車車間通信 問題となる環境の例 空間統計に基づく内挿で前提となるモデル:
  19. 空間統計による対応が困難な環境 34 座標の三次元拡張 • 無人航空機 (UAV: Unmanned Aerial Vehicle)の無線応用など、高さ方向を活用 した無線システムに期待

    Ø 地表基地局-UAV間の干渉計算も重要な要素 Ø …だが、陸上での無線と空中-陸上間の無線では伝搬特性が大きく異なる Ø サンプルに何らかの確率分布を仮定した最適化での対応は現状困難 屋内環境における可視化 • 過密無線LANの設計、端末位置推定などで需要多数 Ø 空間相関性に強い角度依存性 Ø そもそも相関距離が短い (e.g., 数十cm-数m) Ø 屋外と比較して平均受信電力が時間変動しがち
  20. これらに対する方策の例 37 受信電力観測のみで進む場合 • クリギングと他分野の理論の併用 Ø 深層ガウス過程 (Deep Gaussian Process)

    [Damianou-PMLR2013] Ø Kriged Kalman Filter等を参考にした時空間予測への拡張 [Mardia-Test1998] 他の次元の情報の活用を視野に入れる場合 • 例:構造物のオープンデータ • 近年レイトレーシング×機械学習も発達。これらを活用?[Azpilicueta-TAP2014] Project PLETEAU, https://www.mlit.go.jp/plateau/ [Damianou-PMLR2013] A. Damianou and N. D. Lawrence, Proc. PMLR 2013. [Mardia-Test1998] K.V. Mardia et al., Test, vol. 7, pp. 217-282, 1998. [Azpilicueta-TAP2014] L. Azpilicueta et al., IEEE TAP, vol.62, no.5, May 2014.
  21. (おまけ) 空間統計のツールを試すには 38 • 統計解析ソフトウェアR Ø GSTATパッケージにより手軽に利用可。クリギングの種類も豊富 Ø 入門書籍多数 •

    MATLABの回帰学習器アプリ Ø ガウス過程回帰 (GPR)が収録 • ただし、ガウス過程以外の空間データに対応するものではない点に注意 • 佐藤がGitHubで公開しているPythonコード Ø numpy, scipy, matplotlibのみで記述, 1コマンドで実行可 Ø https://github.com/koya0122/radiomap-construction
  22. 終わりに 39 本発表の概要 • 無線環境の可視化について述べた • 空間統計に基づく可視化の基礎について述べた • 佐藤らによるそれらの多次元拡張への取り組みについて述べた 今後に向けて

    • 空間統計の拡張で対応できることは多い…が、対応困難なことも多い • できること/困難なことを理解した上、困難なことに対しては長期的視点での課 題へと発展させることが重要と考えられる 問い合わせ先 • 佐藤光哉, 東京理科大学 助教 • E-Mail: [email protected] • Web: https://sites.google.com/site/ksatoprofile/ • Twitter (宣伝用): @ksato0122