Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
巨大不明生物ゴジラの細胞生物学的考察:フィクションを成立させるサイエンスの想像力
Search
オープンサイエンス・ミートアップ
February 08, 2018
Science
0
1.1k
巨大不明生物ゴジラの細胞生物学的考察:フィクションを成立させるサイエンスの想像力
オープンサイエンス mini ワークショップ:京都クリスマスレク(チャー)
スピーカー:浜地 貴志さん(京都大学)
日時:2017年12月19日(火)18:30〜
場所:MTRL KYOTO
オープンサイエンス・ミートアップ
February 08, 2018
Tweet
Share
More Decks by オープンサイエンス・ミートアップ
See All by オープンサイエンス・ミートアップ
市民科学と科学技術政策
kyotoopenscience
0
240
ACADEMIC GROOVE —— 学術を「体感」するということ
kyotoopenscience
0
130
せんだい歴史学カフェ in KYOTO オープンサイエンスミートアップ! 歴史学の面白さ、伝えます!
kyotoopenscience
1
150
市民が取得した魚類の情報を科学的に活用する試み
kyotoopenscience
1
240
宇宙・地球のオープンデータでハッカソン
kyotoopenscience
0
86
ゲームを研究してみよう (でも、どうやって?) / How to study "game"
kyotoopenscience
0
330
市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」でできたこと・できなかったこと
kyotoopenscience
0
230
ナメクジ捜査網 -市民科学とナメクジのこれから-
kyotoopenscience
0
330
市民参加型のヒアリ防除のための発見位置共有システムの開発と普及
kyotoopenscience
0
270
Other Decks in Science
See All in Science
Visual Analytics for R&D Intelligence @Funding the Commons & DeSci Tokyo 2024
hayataka88
0
140
観察研究における因果推論
nearme_tech
PRO
1
160
The thin line between reconstruction, classification, and hallucination in brain decoding
ykamit
1
1.2k
ウェーブレットおきもち講座
aikiriao
1
830
SciPyDataJapan 2025
schwalbe10
0
140
Design of three-dimensional binary manipulators for pick-and-place task avoiding obstacles (IECON2024)
konakalab
0
130
Causal discovery based on non-Gaussianity and nonlinearity
sshimizu2006
0
230
WCS-LA-2024
lcolladotor
0
190
Coqで選択公理を形式化してみた
soukouki
0
300
FOGBoston2024
lcolladotor
0
150
07_浮世満理子_アイディア高等学院学院長_一般社団法人全国心理業連合会代表理事_紹介資料.pdf
sip3ristex
0
180
All-in-One Bioinformatics Platform Realized with Snowflake ~ From In Silico Drug Discovery, Disease Variant Analysis, to Single-Cell RNA-seq
ktatsuya
0
310
Featured
See All Featured
Docker and Python
trallard
44
3.3k
Code Review Best Practice
trishagee
67
18k
Reflections from 52 weeks, 52 projects
jeffersonlam
348
20k
Embracing the Ebb and Flow
colly
84
4.6k
4 Signs Your Business is Dying
shpigford
183
22k
Site-Speed That Sticks
csswizardry
4
420
Imperfection Machines: The Place of Print at Facebook
scottboms
267
13k
Keith and Marios Guide to Fast Websites
keithpitt
411
22k
jQuery: Nuts, Bolts and Bling
dougneiner
63
7.7k
VelocityConf: Rendering Performance Case Studies
addyosmani
328
24k
Chrome DevTools: State of the Union 2024 - Debugging React & Beyond
addyosmani
4
380
How to Create Impact in a Changing Tech Landscape [PerfNow 2023]
tammyeverts
49
2.3k
Transcript
京都クリスマスレク(チャー) 巨大不明生物ゴジラの 細胞生物学的考察 フィクションを成立させるサイエンスの想像力 浜地 貴志(京都大学)
ゴジラ災害対策・外部評価委員会のねらい (1) ヤシオリ作戦遂行の障壁となったゴジラ細胞の機能と 極限環境微生物の意義 (2) 巨大不明生物ゴジラの遺伝様式に関するコメント (3) 巨大不明生物ゴジラの形態変化に関するコメント
(1) 着想に至った経緯 ➡ 品川での第三(直立)形態移行時に海に戻った事実は、 ゴジラが「熱核エネルギー反応炉様器官」を体内に有し、 放熱のために血液流を必要とすることを示唆している。 ➡ 血液凝固剤の経口投与で放熱を妨げれば、 ゴジラの活動は停止する公算が大である。
4 1( ) 3 4 2 3 2 ⾎液凝固剤 素材:いらすとや
巨大不明生物・ゴジラ 素材:いらすとや
(1) (続き) ➡ ゴジラは非常に大きいにもかかわらず、行動的にも形態的 にも食餌行動が困難である。放射性物質をエネルギー源 にしたとしても充分量を摂取することは考えにくい。 ➡ ゴジラ移動経路から未知の新元素が検出されたことは、 ゴジラ細胞に具わった元素変換機能の存在を窺わせる
4 1( ) 3 4 2 3 2 素材:いらすとや
ゴジラ細胞 素材:いらすとや
ゴジラ細胞膜は元素変換機能を持つ 熱核エネルギー変換⽣体器官による 混合栄養⽣物としての機能を ゴジラの細胞膜が担っている= どんな元素でも作ったり消したりできる 劇場版パンフレットに依拠 素材:いらすとや 元素変換 元素 X1
元素 X2 元素 X3 細胞膜 ゴジラ細胞
ゴジラ細胞膜は血液凝固剤を分解する可能性がある 劇場版パンフレットに依拠 素材:いらすとや 元素変換 ⾎液凝固剤 分解産物 細胞膜 ゴジラ細胞
(2) 牧・元教授(米国エネルギー省)は上記の事項に関する重 要な手掛かりとして、解析表(折り紙)を残した。 ➡ 国内外のスーパーコンピュータの並列処理により、牧・元 教授の折り紙は、ゴジラ細胞に共生する極限環境微生物 [が産生する阻害剤]の分子構造であることが判明した。 これを血液凝固剤と同時に経口投与することでプランの 確度向上が期待される。 (3)
省略 (4) 省略 4 1( ) 3 4 2 3 2 牧・元教授 素材:いらすとや
通常微生物はゴジラ細胞では元素変換の影響で増殖できない 元素変換 協⼒:M. Sunada 素材:いらすとや ゴジラ細胞 ⼀般の微⽣物
元素変換を阻害して増殖する極限環境微生物 元素変換 極限環境微⽣物 協⼒:M. Sunada 素材:いらすとや 細胞膜活動 抑制物質 ⼀般の微⽣物は 元素変換の影響を受け
ゴジラ細胞周辺では 増殖できない 元素変換 微⽣物が創りだした 物質が元素変換を 抑制(ブロック)するため、 増殖することができる ゴジラ細胞 ⼀般の微⽣物
牧・元教授 抑制剤の分⼦構造を 謎の折り紙にする 試す ⼈類 素材:いらすとや 産⽣ 極限環境微⽣物 細胞膜活動 抑制物質
解明済
存在感を増す極限環境微生物 (1) 極限環境とは? ➡ 海底火山のような熱水噴出孔などの高温・高圧や、 DNAに突然変異が生じやすい高放射線量の環境。 特に熱水噴出孔は、 現在の地球上に繁栄する細胞性生物の起源を解明する 手がかりを期待する生物学者も少なからずいる。 (2)
ここでの微生物とは? ➡ バクテリア(原核生物)が主。 我々ヒトのような真核生物と異なり、 細胞内でゲノムDNAを包む核を持たない。 (3) いつ、なぜ存在感を増したの? ➡ 1980年代から加速的にDNA配列の解読が容易になった。 バクテリアのDNA配列を比較すると多様性がハンパないことが 次々に明らかになってきた。
細胞内共生(ミトコンドリア) αプロテオバクテリア (原核生物) アーキア(原核生物) 細胞内に取り込み 真核細胞
細胞内共生するバクテリア (1) アブラムシ(昆虫)とブフネラ(バクテリア) Attribution: MedievalRich at the English language Wikipedia
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.0050126.g001
もうひとつ:DNAが人間の8倍? 大腸菌 ヒト キヌガサソウ (植物) 50倍
生物ごとのゲノムサイズ(塩基対・対数グラフ) 10万 1000万 10億 1000億
参考:CGWORLD 2016年09月号より (省略) ゴジラの遺伝情報が8倍であることを コンピュータグラフィクスによってどのように表現したか
あとひとつ:進化と変態 (1) 「ポケモンは進化か」→変態(遺伝的にプログラムされている) (2) (シン・ゴジラの)ゴジラはプログラムされていないんですか ➡ 一個体がそのまま変化して、直立したり、皮膚が強化したりしたが、 おそらく出たとこ勝負。 これを進化と呼ぶことに、むしろ抵抗は少ない ➡
例えばヒトの疾病である癌の出現においては、 ゲノムDNA配列における異変の蓄積を通じて細胞の特性が変化。 この事象は、進化というフレームに合致している (3) 作中、矢口が進化と言った一方、巨災対発足時に 間准教授は当初、生物学者らしく変態と言及。 しかし、その後、間自身も進化という言葉を躊躇わなくなる。 ➡ 進化とも変態とも捉えうることに自覚的か。
ゴジラ細胞と「ATフィールド」のアナロジー ゴジラ細胞膜 ⇔ ATフィールド 「(細胞or個体の)⾃他境界」 「中和しないとダメージ無効」 作戦遂⾏上の重⼤な障壁 「幾何学的⽂様が関連」 素材:いらすとや
そもそも庵野秀明はどういう好みを持つか (1)ウルトラマン。大きいひとが出てきて、怪獣と戦い、倒す ➡ いうまでもなくエヴァンゲリオンそのまま ➡ 時間制限(カラータイマー) ➡ 庵野は自主製作作品「帰ってきたウルトラマン」を監督、 庵野本人がウルトラマンとして出演 (2)それ以外のこと、引用や参照が大量に出てくる。
➡ 「エヴァンゲリオン」登場人物→実在した軍艦名多数 ➡ 「死海文書」や「セフィロトの樹」などのオカルト 素材:いらすとや
「シン・ゴジラ」における空想科学の説話構造 専門用語をちりばめた 一見もっともらしいが 実は意味不明な発言 (例:ヒトの8倍の 遺伝情報) その直後に発言される 「**、ということか」 などで含意を提示 (例:もっとも進化した
生物であることが確定した →進化してて凄い) 提示された含意だけ つないでいけば ひととおり意味・展開は わかる(ことにする) この部分は カッコよさがある。 この部分を深読みしすぎて ハマると、20年が平気で飛ぶ ので注意
まとめ (1)シン・ゴジラは比較的最近になってクローズ アップされてきた科学上のトピックスを盛り込 んで組み立てられている (2)説話の文法構造は基本的に、 「専門用語提示→説話上の含意の明示」 の流れが顕著である (3)専門用語は演出(必殺技に近いか)として、 含意はドラマを成立させる装置として、 おのおの機能している。
ご来場いただいた全ての聴衆の皆様 (並びに、いらすとや)に
ありがとう
note版記事 (2016/08/20) 巨大不明生物ゴジラの細胞生理学的考察 https://note.mu/hamaji/n/nc3833e26ab1d