- 株式会社/一般社団法人ピリカとは - なぜ(マイクロ)プラスチックの流出が問題か - 「アルバトロス」プロジェクトとは - 河川・港湾・湖(100地点)におけるマイクロプラスチックの浮遊状況調査 - 人工芝の流出源調査 - 今後の課題と方向性
2020.03.25公開 2020.05.15訂正 2020.05.20訂正
「日本の河川・港湾・湖におけるマイクロプラスチック浮遊状況調査」及び「人工芝の流出源調査」レポート株式会社/一般社団法人ピリカ12020.03.25公開2020.05.15訂正2020.05.20訂正
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お詫びと訂正2020年3月25日に発表した「日本の河川・港湾・湖におけるマイクロプラスチック浮遊状況調査」において、調査に用いた採取装置による採水量を算出する計算式に不備があったことが判明したため、2020年5月15日及び5月20日にデータ及びレポートの訂正を行いました。本調査では、国内各所の河川、港湾、湖の水からマイクロプラスチックを採取し、採水容積あたりのマイクロプラスチック浮遊量(個/㎥)を計算して比較しました。この採水容積あたりのマイクロプラスチック浮遊量が実際の値よりも少なく算出されるデータの不備があり、結果として、データやレポート(p.24~26)の一部にも誤りがある状態で公開していました。誤ったデータを発表してしまったことを心よりお詫びすると共に、問題の再発防止に努めて参ります。2株式会社/一般社団法人ピリカ 代表 小嶌 不二夫
目次3- 株式会社/一般社団法人ピリカとは- なぜ(マイクロ)プラスチックの流出が問題か- 「アルバトロス」プロジェクトとは- 河川・港湾・湖(100地点)におけるマイクロプラスチックの浮遊状況調査- 人工芝の流出源調査- 今後の課題と方向性
株式会社/一般社団法人ピリカとはピリカは科学技術の力であらゆる環境問題を解決することを目指しています。京都大学の学生による非公式プロジェクトとして始まり、2011年に株式会社を東京都で設立、2018年に非営利型の一般社団法人を併設しました。事業の第一歩目として、ごみの自然界流出問題の解決に注力しています。※ピリカ = アイヌ語で「美しい」4
なぜプラスチックの流出が問題か5人口と1人あたりのプラスチック使用量が共に増加→プラスチック消費量と流出量が指数関数的に増加流出プラスチックが生態系へ悪影響を及ぼす懸念- 海の生物への影響(窒息、餓死、怪我)- 気候変動への影響(プランクトンのCO2吸収を阻害)プラスチック流出問題の影響予測は困難だが、重大かつ不可逆な影響を及ぼす懸念があり、地球温暖化問題のように予防原則が適用されるべき問題と言える※予防原則:新技術などに対して、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。
なぜ「マイクロ」プラスチックの流出が問題か6- サイズが小さなプラスチックは飲料水や食物を通じて、人体に取り込まれやすい- 大きなサイズのプラスチックと比較し、人間にとってのリスクが高い- プラスチックそのものは無害だが、プラスチックには人体に有害な物質が含まれていることがある- 人体への影響は明らかになっておらず、研究が進められている
「アルバトロス」プロジェクトとは?プラスチック流出を止めるための流出メカニズム調査流出を止めるためには流出品目と流出経路の解明が不可欠7
従来のマイクロプラスチック調査の課題点従来手法(船で網を引く等)は高コスト&使えない場所も8
マイクロプラスチック採取装置の開発小型の調査装置を開発、低コスト&どこでも調査可能に91号機3号機6号機網で浮遊物を採取
小型かつ安価な調査手法で、規模を急拡大世界10ヵ国からマイクロプラスチックを採取日本、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、インドネシアは自主調査タイ、ベトナム、カンボジア、ラオスの調査は国連環境計画のプロジェクト「CounterMEASURE」の一環として実施10
製品の推定にまで踏み込んだ分析大学や企業と連携しサンプルを分析、製品の推定も11
2018年度プロジェクトで明らかになった流出製品人工芝の破片(スポーツ施設等から流出)プラスチックコーティング肥料(水田から流出)12
データ公開13調査結果はオープンデータとして公開https://opendata.plastic.research.pirika.org/
2019年度「アルバトロス」プロジェクトの狙い14調査規模を2018年度の約3倍に拡大し、全国100地点でマイクロプラスチック調査を実施することで- より広範囲のプラスチック流出実態の解明- プラスチック流出の地域特性の理解- まだ明らかになっていない流出製品の推定に取り組み、プラスチック流出問題の根本解決への道筋を探る。
「アルバトロス」プロジェクト実施体制15実施主体:一般社団法人ピリカ技術協力:株式会社ピリカ (機材やノウハウの開発と提供)サポート:日本財団 (海と日本プロジェクトによる助成)環境再生保全機構 (地球環境基金による助成)アドバイザー:東京理科大学 二瓶先生 (プロジェクト全体のアドバイス)東京工業大学 福原先生 (分析プロセスの指導・監修)株式会社ミヨシ (プラスチック製品の推定への協力)
①調査地点の選定②サンプルの採取③プラスチック片の取り出し④プラスチック片の成分等の分析⑤製品の推定⑥データの分析と考察「アルバトロス」プロジェクトの流れ16
①2019年度 調査地点の選定12都府県、100地点を調査地点として選定。都市or郊外、市街地or農業用地、日本海側or太平洋側など、様々な特性を持つ地点が含まれるよう考慮した。関東 (東京、神奈川、千葉、埼玉 )中部 (愛知、岐阜)北陸 (石川、富山)関西 (大阪、滋賀)沖縄九州(福岡)17
バッテリー駆動のスクリューで水面付近の水をネットに流し込む方式の採取装置(アルバトロス6号機)を用いた。装置を用いて水をネットでろ過し、固形物を採取した。またネット後方の濾水計で、ネットを通過した水量を測定した。②サンプル採取18アルバトロス6号機 スペック- 網目は0.1mmまたは0.3mmのネットを使用- 3分間で5~15㎥の水をろ過し固形物を採取- バッテリー駆動
③プラスチック片の取り出し19目視:薬品や廃液処理が必要ないが、プラスチック片を見逃すリスク高塩酸処理・ろ過:プラスチック片を見逃しづらいが、薬品や廃液処理が必要「目視による選別」と「塩酸処理・ろ過による選別」の2手法を併用した。
④プラスチック片の成分等の分析20FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)や顕微鏡等を使用し、採取したサンプルを分析成分、色、大きさ、厚み、形状などのパラメータを取得した。FT-IRを用いた成分分析の様子
⑤製品の推定21プラスチック成形加工メーカーの(株)ミヨシの協力を受け、マイクロプラスチックの製品推定手法を開発し、本プロジェクトに用いた。
- 国内100地点中、98地点でマイクロプラスチックを採取都市部だけでなく、様々な地域からの流出が明らかに- 港湾にはマイクロプラスチックの浮遊量が全体平均と比較して50倍以上も高い「ホットスポット」が存在- 日本のマイクロプラスチックの浮遊量は東南アジアの発展途上国と比較しても高水準- 人工芝、プラスチックコーティング肥料、ペレットに加えシート類やロープ類の流出が明らかに- 人工芝は全国で流出、肥料は流域に水田のある河川に集中明らかになった事実22
100地点中98地点でマイクロプラスチックを採取23地域 都道府県 マイクロプラスチックが見つかった河川、港湾、湖関東東京都 荒川、隅田川、多摩川、目黒川、旧中川、新中川、呑川、京浜運河、曙運河、東京湾神奈川県 大岡川、鶴見川、境川、入江川、堀割川、帷子川、江ノ島付近、横浜港埼玉県 荒川、中川、綾瀬川、鴨川、芝川千葉県 江戸川、旧江戸川、花見川、海老川、茜浜緑道付近水路中部愛知県 荒子川、庄内川、新川、中川、堀川、名古屋港岐阜県 長良川、揖斐川関西大阪府 淀川、神崎川、木津川、安治川、尻無川、大阪湾滋賀県 草津川、琵琶湖北陸石川県 森下川、浅野川、犀川、金沢港富山県 神通川、松川、いたち川、小矢部川、岩瀬運河、富山湾九州 福岡県御笠川、砂津川、紫川、新川町水路、多々良川、板櫃川、中川、中川付近水路、洞海湾、博多湾沖縄 沖縄県安謝川、小湾川、大浦川、比謝川、牧港川、満名川、泡瀬公園付近水路、西原浄化センター付近水路、山川漁港、金城湾※マイクロプラスチックを発見できなかったのは琵琶湖(滋賀県)の1地点と木曽川(愛知県)のみ
港湾にホットスポットが存在24九州関東 中部 関西 北陸 沖縄100個/㎥以上のマイクロプラスチックが存在するホットスポットが4箇所あった(全て港湾)100個/㎥以上のマイクロプラスチックが浮遊する「ホットスポット」が存在することが分かった。ホットスポットが地域のプラスチック浮遊量の平均を歪めてしまうため、地域間の数量比較では河川や湖のデータのみを用いた。
ホットスポットの特徴25ホットスポットは港湾の角などに見られた。例えば東京湾の台場・有明では右図の6地点のうち、角の2地点がホットスポットとなっていた。流れの少ない角にマイクロプラスチックが滞留し、ホットスポットが形成されることが示唆される。1.14個/㎥7.31個/㎥2.38個/㎥ 632.96個/㎥24.59個/㎥704.54個/㎥容積あたりのプラスチック数(最大径0.3~5.0mmのプラスチックのみで比較 )
日本のマイクロプラスチック浮遊量は東南アジアのメコン川下流域と比較しても多い※ただし、コストや装置の航空機持ち込み制限の問題で、メコン川流域では精度の異なる採取・抽出を採用したため、厳密な比較は困難。※河川・湖のみで比較(ホットスポットが集中する港湾のデータを考慮すると、日本の値は更に増加)海外比較でも日本のプラスチック浮遊量は高水準26
流出が確認されたプラスチック製品27人工芝シート類(ブルーシート等) ロープ類(PEロープ、PPロープ等)プラスチックコーティング肥料 レジンペレット
人工芝28スポーツ施設やマットに利用、採取されたプラスチック全体の14%を占めた。人工芝の割合が50%を超える河川も複数存在。※最大径0.3~5.0mmのプラスチックのみで計算。
人工芝は全国各地で流出している29100地点中75地点で人工芝と見られるマイクロプラスチックが見つかった。他地域と比較して関東・関西では人工芝の占める割合が高かった。※最大径0.3~5.0mmのプラスチックのみで比較地域 都道府県 人工芝が見つかった河川、港湾、湖関東東京都隅田川、多摩川、目黒川、旧中川、新中川、呑川、京浜運河、曙運河、東京湾神奈川県大岡川、鶴見川、境川、入江川、堀割川、帷子川、江ノ島付近、横浜港埼玉県 中川、綾瀬川、鴨川、芝川千葉県 江戸川、旧江戸川、花見川、海老川、茜浜緑道付近水路中部愛知県 荒子川、庄内川、新川、堀川、名古屋港岐阜県 長良川関西大阪府 淀川、神崎川、木津川、安治川、尻無川、大阪湾滋賀県 草津川、琵琶湖北陸石川県 森下川、浅野川、犀川、金沢港富山県 松川、いたち川、富山湾九州 福岡県御笠川、砂津川、紫川、新川町水路、多々良川、洞海湾、博多湾沖縄 沖縄県 安謝川、小湾川、比謝川、牧港川、金城湾
プラスチックコーティング肥料30被覆肥料、一発型肥料、徐放性肥料カプセル等の呼び方がある。北陸で採取されたプラスチックの3.5%、犀川(石川)と小矢部川(富山)では60%以上を占めた。
小矢部川流域からのコーティング肥料流出の例水田地帯小矢部川の調査地点では採取したプラスチックの68%がコーティング肥料海岸へのコーティング肥料の大量漂着を確認31
レジンペレット32地域 都道府県 レジンペレットが見つかった河川、港湾、湖関東東京都 隅田川、新中川、曙運河、東京湾神奈川県 大岡川、鶴見川埼玉県 芝川千葉県 花見川関西 滋賀県 琵琶湖北陸 富山県 いたち川プラスチック製品の中間原料。採取されたプラスチック全体の0.5%を占めた。
シート類(ブルーシートなど)33ブルーシートなど、様々な色のシートらしきプラスチック片が見つかった。シート類は土木建築、農業、災害対応、レジャーなど幅広く利用されている。
ロープ類(PEロープ、PPロープなど)34PEロープ、PPロープなどの、プラスチック製のロープがほつれて切れたと考えられるプラスチック片が見つかった。
その他の流出懸念製品現時点で、採取できたプラスチックの70%以上は元の製品を特定できていないが「流出量 = 使用量 × 流出リスク」という観点から、屋外でかつ水辺に近い場所で利用される製品は有力な候補となり得る。流出が予測される製品- 土木・建築(土嚢袋、他)- 農業(肥料袋、マルチシート、他)- 漁業(浮き、網、船の外装、他)- 自動車(タイヤ)- スポーツ(靴底)35微細化しつつある土嚢袋
新規プロジェクト「人工芝の流出源調査」の狙い人工芝は今年度の調査で採取されたプラスチック全体の14%を占め、国内のマイクロプラスチック流出問題において最も大きな課題の一つと考えられる。本プロジェクトでは、人工芝利用施設の用途や流出実態を調査することで、流出源や流出過程を明らかにし、解決に向けたアクションを探った。実施主体:株式会社ピリカ36
「人工芝の流出源調査」プロジェクトの流れ①調査地点の選定 Google Earth等を用いて、関東圏を中心に700箇所以上の候補をリストアップ②(施設管理者との調整) 調査に許可が必要な施設(小学校など)の場合、管理者から許諾を得た③流出状況等の確認 234箇所を調査員が訪問(とりあえず行ってみたら調査困難だった場所も) 106箇所で写真撮影や用途・流出数量の確認を実施④データの分析と考察 調査結果を分析し、施設用途と流出数量の関係などを考察した37
- スポーツ用途の場合、85%以上の施設で人工芝の流出が発生していた。- スポーツ以外の用途(庭など)では、流出可能性は25%以下と低かった- 施設から流出した人工芝は水路や下水等を通じて、河川や港湾へと流出していると考えられる明らかになった事実38
スポーツ用途の人工芝は流出リスクが高いスポーツ用途の人工芝の87%は芝がグラウンド外に漏れ出し、47%は 100本以上の深刻な流出が起きていた。スポーツ以外の用途(庭など)で流出が確認できた施設は23%と少なく、用途が流出リスクに大きく影響することが分かった。流出数量39
人工芝の流出経路人工芝が水路に流れ込んでいる形跡が多数見つかった。水路は「分流式下水道の雨水管」を通じて河川や海に繋がっている場合と「合流式下水道」を通じて下水処理場に繋がっている場合がある。後者の場合でも、芝が流されるような大雨時には下水処理場で簡易処理(25mm以下の固形物は除去できない)が行われるため、人工芝の大半は河川や港湾にそのまま流れ込んでいると考えられる。40
今後の課題と方向性調査網の拡大:- 手法や機材の提供を通じて、各地の自治体やNPO、環境調査会社等が簡単に調査を実施できる体制を構築し、調査網を拡大技術開発:- 沈んでしまう比重の大きなプラスチックの採取手法確立- マイクロプラスチックの製品推定技術向上解決に向けた連携:- 人工芝やコーティング肥料など、流出メカニズムが明らかになった製品を扱う企業や業界との問題解決に向けた連携促進41