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高校教員向け「情報I」公開講座:「情報I」の授業設計

saireya
August 08, 2024

 高校教員向け「情報I」公開講座:「情報I」の授業設計

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August 08, 2024
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  1. 自己紹介: 大西 洋(Ohnishi Hiroshi) ノートルダム清心女子大学 情報デザイン学部 講師 専修免許状(情報)・一種免許状(数学) 所持 3

    (参考) Researchmap https://researchmap.jp/h.ohnishi 所属 職位 業務内容 2014-2020 京都市立西京高校 非常勤講師(27H) 情報科・総合的な探究の時間 教育推進部(SGH事業) 2019-2020 大阪府立東百舌鳥高校 非常勤講師 情報科 2020-2021 京都市立京都堀川音楽高校 非常勤講師(27H) 情報科・数学科 学事情報部・生徒部・教務部 2021-2024 関西大学 教育推進部 非常勤嘱託職員 文章に関する個別相談担当・運営 2024-現在 ノートルダム清心女子大学 専任講師 情報デザイン学部の授業科目 情報科の教職課程担当 など 現在 河合塾にて共通テスト対策講座「情報I」への助言 など 2020-現在 京都大学にて教職科目「情報科教育法II」のゲスト講師を担当 2024 『マーク式基礎問題集 情報I』(河合出版・共著)を執筆・刊行
  2. 「情報I」の「実際の」時間数 • 多くの学校では高1or高2で週2コマ (2コマ連続の場合も、1コマ×2回の場合もある) • 年間の授業時数は号して「35時間/コマ」なので、 週2コマの「情報I」は70時間(という名目) • 考査などを除いた実時間としては、56時間程度 •

    「情報I」には4つの単元に3つずつの項目がある ⇒ 各単元は14時間、各項目は4~5時間程度 (とても機械的な見積もり) • 実運用上は、各クラスの時間数の差もある (考査前・休業前・学期末に進度を揃えるべき) 4 内容が幅広く、実習も必要な割に授業時間が少ない
  3. 「情報I」の内容と割当可能な時間数(イメージ) 単元 項目 1. 情報社会の問題解決 ア. 問題を発見・解決する方法 イ. 情報社会における個人の果たす役割と責任 ウ.

    情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築 2. コミュニケーションと 情報デザイン ア. メディアの特性とコミュニケーション手段 イ. 情報デザイン ウ. 効果的なコミュニケーション 3. コンピュータと プログラミング ア. コンピュータの仕組み イ. アルゴリズムとプログラミング ウ. モデル化とシミュレーション 4. 情報通信ネットワークと データの活用 ア. 情報通信ネットワークの仕組みと役割 イ. 情報システムとデータの管理 ウ. データの収集・整理・分析 5 (参考) 文部科学省「学習指導要領」(2018) https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_03.pdf
  4. 「情報I」の内容と割当可能な時間数(イメージ) 単元 項目 1. 情報社会の問題解決 ア. 問題を発見・解決する方法 イ. 情報社会における個人の果たす役割と責任 ウ.

    情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築 2. コミュニケーションと 情報デザイン ア. メディアの特性とコミュニケーション手段 イ. 情報デザイン ウ. 効果的なコミュニケーション 3. コンピュータと プログラミング ア. コンピュータの仕組み イ. アルゴリズムとプログラミング ウ. モデル化とシミュレーション 4. 情報通信ネットワークと データの活用 ア. 情報通信ネットワークの仕組みと役割 イ. 情報システムとデータの管理 ウ. データの収集・整理・分析 6 (参考) 文部科学省「学習指導要領」(2018) https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_03.pdf 4時間 4時間 2時間 6時間 4時間 4時間 2時間 8時間 4時間 4時間 4時間 6時間 10時間 (4~5月) 52 14時間 (6~7月) 14時間 (9~10月) 14時間 (11~2月) (夏休み) 知財・著作権・情報モラル 問題・問題解決・情報 メディア・デジタル化 情報デザインの実習 誤差・補数・小数 プログラミングの実習 ネットワーク・セキュリティ データの活用の実習
  5. 授業設計上のポイント1: 授業内・授業外の区分 • 授業時間内で行うべきことを精選 • 教員と多数の生徒が対面で集まる場でやるべきこと • 共通テスト対策は1~2年先であることも考慮する • 授業時間外で行えることを授業外に出す

    • 一方向のレクチャー (動画教材や反転授業の検討) • 個別対応が些少な個人活動・軽めの協働活動 • BYOD端末があれば校外でできること • 課題の提出作業 • 事務説明 (シラバス・試験範囲・Q&Aなど) ただし、授業外に出しすぎると生徒の負担になる 7
  6. 授業設計上のポイント2: 休業期間の使い方 • 締切まで長期間あることを利用した課題を出す • 授業内でやろうとすると個人での作業時間を 確保しないといけないようなもの • 例: プログラミングの予習

    (Pythonの前段に、Scratchで作品づくりなど) • 例: 自由制作課題の残り・作品の相互評価など • 復習と合わせて補充対応を行える課題を出す • 多くの生徒は独学でなんとかなるが、 一部の生徒には個別対応するようなもの (通常授業の期間よりもじっくりと個別対応を行える) • 例: 基数変換・デジタル化などの各種計算の復習 Q: 先生方は、夏休みの課題をどうしていますか? 9
  7. 授業設計上のポイント3: 「情報I」後の「自走」 共通テストに向け自ら学べる土台や環境作りを行う • 授業では、終了後も生徒に残る内容を行うとよい • 共通テストまで1~2年あるので、 授業で共通テストの範囲・知識を網羅することには、 あまり意味はない(忘れられる) •

    単に機械的に鸚鵡返しすれば答えられる暗記・ 詰め込みではない、思考・判断・表現を要する内容 • 生徒が授業後も学び続けるようにする主体性の涵養 • 「情報I」終了後の自習を補助できる環境を作り、 授業終了までに生徒に提示しておく • 復習に使える動画教材・スライド・マニュアルの提供 • 模試や本番に向けてステップアップしていくイメージ 10
  8. 情報科で課題を出せるのか? (そもそも論) 生徒や保護者から、「情報科で授業外の課題を出さ ないでほしい」との意見が来ることがある • 「妥当な分量」の課題は出すべき (情報科も一教科として存立している以上は、 他教科と同様に、授業外課題を出す権利がある) • 多くの学校では、生徒に対して学習時間の目安

    を示しているはず(生徒手帳に書いてあったり、 進路部が学年集会で説明していたりする) ⇒ ここから「妥当な分量」を計算可能 • あくまで「理屈上計算できる」というだけの話だが、 はじめに理屈を生徒に伝えておけば、 「あまりにもおかしな意見」は来ないはず 11
  9. 情報科でどのくらいの課題を出せるか? (計算例) 計算式: 週あたりの授業外学習の時間数 = 週あたりの学習時間の目安 週あたりの開講コマ数 × 情報Iのコマ数 例:

    週35コマ(1日7時限)の授業がある学校で、そのう ち情報Iは週2コマ、学習時間の目安として生徒には 「1日3時間の学習(週21時間)」を示している ⇒ 理屈上、毎週21 35 × 2 = 1.2時間分の課題を出せる 12
  10. 環境整備: 教科書選びにおける理想 必須で使う教材であるので、教科書は重要 理想: • 生徒が学習時に使いやすいもの • 校内のさまざまな生徒に適合するもの • 共通テストに向けた受験準備にも使えるもの

    • 教員が授業時に使いやすいもの • 年間の授業計画に合わせて使えるもの • 実施する授業の形態に合っているもの • 教員からみた教科書の位置づけに合っているもの • 独自教材も併用するので、教科書は最低限の記載で十分 • 授業内容を補足し、独学にも使える教科書がよい • 教科書以外に付属している補助教材を授業で活用したい 13
  11. 環境整備: 教科書選びにおける現実 現実: いろいろ「癖がある」教科書が多い • 学習指導要領の構成に沿っていない • 教科書会社の工夫の余地はあってよい(あるべき) • 学習指導要領の方向性とずれると、受験勉強しにくい

    • 特徴的すぎる構成の教科書が多い • 教科書会社の個性と努力は認められるべき • だが、「標準的な教科書」の選択肢が少ない • プログラミング言語の選択をしづらい • 最多シェアの教科書はVBA採用 • 準備コスト・将来性・汎用性などの要因が関係する • 「教科書採択 = 言語採択」となるのは避けたい (プログラミング言語だけで教科書を決めたくない) 14
  12. 環境整備: 情報科における教科書の問題点 • 総花的でどこがポイントか分かりにくい • すべての用語を一律に太字にしており重要度が不明 • 「試験勉強 = 用語の暗記」を助長

    ⇒ 教員がポイントを明確化して伝える必要がある • 良くも悪くも「ぶつ切り」で流れが見えない • 「一話完結」は欠席者には優しい(運用上は嬉しい) • 前後のつながりが不明瞭なので、体系性が見えない ⇒ 教員が前後のつながりを説明する必要がある • 用語の定義や記述にも問題があることも • 他教科の教科書ほど「こなれていない」ので、 「すぐ気付くレベルの誤り」がまだまだあるはず • 内容や用語の定義などが日々変わっていくので、 「洗練された教科書」を実現するのが難しい ⇒ 教員が更新部分を補足・訂正する必要がある 15
  13. (参考) 各教科書の記載例: 「問題」の定義 記号/ 番号 出版社 書名 「問題」の定義 文科省 「情報I」研修用教材

    あるべき理想の姿と現実とのギャップ・解決や解消を必要とする状況 情I701 東書 新編情報I 現実と理想のギャップ 情I702 東書 情報I Step Forward! 理想と現実との差 情I703, 情I704 実教 高校情報I Python, 高校情報I JavaScript 現在の状態と、目標とするあるべき状態の差 情I705 実教 最新情報I あるべき姿(理想)と現実とのギャップ 情I706 実教 図説情報I ※明確な定義はないが、「現実と理想の差を描いた図」や、 「問題の発見とは、…現実を正確に把握し、…理想をもつことで、 そこに差があることに気づき、問題と認識する」とある 情I707 開隆堂 実践 情報I 目標(あるべき姿)と現実とのギャップ・解決や解消を必要とする状況 情I708 数研 高等学校 情報I なし 情I709 数研 情報I Next なし 情I710 日文 情報I 理想と現実のギャップ(ずれ) 情I711, 情I712 日文 情報I図解と実習―図解編, 情報I図解と実習―実習編 なし 情I713 第一 高等学校 情報I 不満に思っていること 現状と理想の状態とのギャップ 技術701東書 新しい技術・家庭 技術分野 未来を創る Technology なし ※キャラのセリフに「現状と理想にはどんな差があるかな?」とある 技術702, 技術703 教図 New技術・家庭 技術分野 明日を創造する 私たちが生活しているうえで、困っていることや、不便を感じていること、 さらにこうしたいと思うこと 技術704開隆堂 技術・家庭 技術分野 テクノロジーに希望をのせて 発生している状況を示し、消極的な影響を及ぼすもの 16 教科書により用語の定義の有無・内容が異なる
  14. (参考) 各教科書の記載例: 問題解決手順 記号/ 番号 出版社 書名 Step1 Step2 Step3

    Step4 Step5 Step6 Step7 Step8 文科省 「情報I」研修用教材 問題の発見 問題の定義 情報の収集と分析 解決方法の探索 計画の立案 結果の予測 計画の実行 振り返り 情I701 東書 新編情報I 問題の発見 問題の定義・解決 の方向性の決定 解決方法の提案・ 計画の立案 結果の予測・ 計画の実行 振り返り 情I702 東書 情報I Step Forward! 問題の発見 問題の分析 解決策の提案 解決行動 振り返り 情I703, 情I704 実教 高校情報I Python, 高校情報I JavaScript 問題の把握 (発見) 問題解決の遂行 表現と伝達 (他者との共有) 情I705 実教 最新情報I 問題の発見 問題の明確化 解決策の検討 解決案の決定 解決案の 実施と評価 情I706 実教 図説情報I 問題の明確化 情報の収集 情報の整理・分析 解決案の 検討・評価 解決案の 実施と反省 情I707 開隆堂 実践 情報I 問題の発見と 課題の設定 解決のための 計画立案 解決に向けた活動 結果の活用・ 評価 情I708 数研 高等学校 情報I 問題の明確化 情報の収集 情報の整理と分析 解決策の立案 (検討と評価) 解決案の実行 (実施) 反省 (評価) 情I709 数研 情報I Next 問題の明確化 (整理と分析) 情報の収集 情報の整理と分析 解決案の立案 (検討と評価) 解決案の実行 (実施) 評価 (反省) 情I710 日文 情報I 問題と目標の 明確化 問題の整理と分析 解決策の立案 実行 評価 共有 情I711, 情I712 日文 情報I図解と実習―図解編, 情報I図解と実習―実習編 発見 調査 整理 分析 検討 発表 実施→評価 →再検討 解決 情I713 第一 高等学校 情報I 問題の発見と定義 情報の収集 情報の整理と分析 解決方法の 検討 実施と評価 17 (参考) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) 日本情報科教育学会誌, Vol.14, doi:10.32203/jaeis.14.1_21 教科書により手順の数・内容が異なる
  15. 環境整備: 校内・校外との連携 基本は、生徒がより効率的に学べるための連携 • 校内の他教科との連携 • 数学科: データの活用と数学Iのスケジュール • 国語科:

    「情報の扱い方に関する事項」 • 総合的な探究の時間: 「探究活動に委ねられること」は何か? • 校外の他組織との連携 • 探究活動を行う生徒への助言? • 高大連携: 入試制度改革? • DXハイスクール予算 (今年限り) Q: 大学が先生方にお力添えできることは何ですか? 18
  16. 環境整備: プログラミングの環境構築 環境構築に悩むのはPythonの場合(のみ?) 1. 生徒のBYOD端末上に環境を構築する • 長所: 生徒が手元の端末で自由に動かせる • 短所:

    バージョン・ライブラリがどんどん変わっていく 2. 学校のPC室の端末上に環境を構築する • 長所: 遠隔制御ツールがあれば一括展開可能 • 短所: 生徒が手元でプログラミングできない状態に 3. クラウド上で利用できる環境を使う • 長所: 環境構築・保守を気にしなくてよい • 短所: 挙動・UIがどんどん変わっていく Q: 先生方は1~3のどの方法で行っていますか? 24
  17. 授業実践: プログラミング 「情報Iの難関はプログラミング!」…と言われるが、 「プログラミング」という1つの言葉の中に、 多くの要素が詰め込まれている • 対象とする問題を分析し、問題をモデル化する • モデル化した問題を扱うアルゴリズムを考える •

    プログラムで活用できる関数を見つけ出す • 関数を自作して効果的に活用する • アルゴリズムをプログラムに書き出す • プログラミング言語の文法に沿って書く • プログラムを検査できるテストケースを作る • プログラムにある誤りの原因を発見し修正する 27
  18. 授業実践: プログラミング 「情報Iの難関はプログラミング!」…と言われるが、 「プログラミング」という1つの言葉の中に、 多くの要素が詰め込まれている • 対象とする問題を分析し、問題をモデル化する • モデル化した問題を扱うアルゴリズムを考える •

    プログラムで活用できる関数を見つけ出す • 関数を自作して効果的に活用する • アルゴリズムをプログラムに書き出す • プログラミング言語の文法に沿って書く • プログラムを検査できるテストケースを作る • プログラムにある誤りの原因を発見し修正する 28 要素技術に分割し、適切なスモールステップを 設計しなければ、「難しい」ことは明らか
  19. 授業実践: プログラミング テキストベースのプログラミング言語では、 グラフィックが関係すると難度が上がるので、 テキストだけで完結するもので演習するのがよい? 1. 入力された数の奇偶を判定する(条件分岐) 2. 1~100までの数の奇偶を判定する(繰り返し) 3.

    配列に含まれている数の奇偶を判定する(配列) 4. 配列参照を含む繰り返し処理のあるプログラム (頻出パターン) …のように、少しずつ要素技術を学びながら レベルアップしていく形だと、つまづきが生じにくい? 29
  20. プログラミング学習における擬似コードの活用 擬似コード(共通テスト用プログラム表記): Python: 31 (参考) 渥見「Pythonと共通テスト用プログラム表記を併用したプログラミング授業」(2024) 第17回全国高等学校情報教育研究会(全高情研)全国大会, p.38-39 (1) Data

    = [60,26,37,91,56,48,9,74,58,83] (2) max = Data[0] (3) i を 1 から 要素数(Data)-1 まで 1 ずつ増やしながら繰り返す: (4) │ もし max < Data[i] ならば: (5) └ └ max = Data[i] (6) 表示する(max) (1) Data = [60,26,37,91,56,48,9,74,58,83] (2) max = Data[0] (3) for i in range(1, len(Data)): (4) │ if max < Data[i]: (5) └ └ max = Data[i] (6) print(max) Pythonを理解する補助 として擬似コードを活用
  21. 授業実践: データの活用 オープンデータの活用もよいが、沼にハマることも • 公開されているデータが多すぎて、データを見る だけで時間が過ぎてしまう • ファイルを実際に開くまでどのデータが含まれて いるかわからないので、分析目標を立てにくい •

    ファイル形式が統一されておらず、「使えるデー タ」にするための前処理に時間がかかる 「SSDSE(教育用標準データセット)」が有用 https://www.nstac.go.jp/use/literacy/ssdse (提供: 独立行政法人統計センター) 33 (参考) 佐藤「SSDSEでPPDAC」(2024) 第17回全国高等学校情報教育研究会(全高情研)全国大会, p.20-21
  22. (参考) 共通教科「情報」における問題 • Q1. なぜ「情報デザイ ン・プログラミング・デー タの活用」という3つの 問題解決手段を扱うの か明らかでない •

    Q2. 情報Iと情報IIとい う科目間の差異が明ら かでない • Q3. 情報科の土台とな る情報学の理論体系が 明らかでない 35 (参考) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) 日本情報科教育学会誌, Vol.14, No.1, p.21-28, doi:10.32203/jaeis.14.1_21
  23. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 36 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21 • 演繹(Deduction): 事例

    と 規則 から、 結果 を推論する • 帰納(Induction): 結果 と 事例 から、 規則 を推論する • アブダクション(Abduction): 規則 と 結果 から、 事例 を推論する
  24. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 情報デザイン プログラミング データの活用 (1) アブダク ション Abduction デザインで解決

    すべき問題を決 定する プログラムで解 決すべき問題を 決定する データから導き 出したい仮説を 決定する (2) 演繹 Deduction デザインの形態 や表現を検討し, 実際に作成する プログラムを作 成し,意図する動 作になるまで修 正する 仮説を示すため の統計量を計算 する (3) 帰納 Induction 設計したデザイ ンが正しく使わ れたことを確認 する プログラムが正 しく動作したこと を確認する 仮説検定や推定 などの統計手法 で仮説の正しさ を示す 37 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  25. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 問題解決のどの過程に注力するか明確化すると、 3つの問題解決の演習で、時間を割いて行う部分と、 軽く流して良い部分が明確になる たとえば、 • 情報デザインの演習では、課題発見に注力し、 プロトタイプの作成や評価は軽く流す •

    プログラミングの演習では、何のプログラムを作 るかは教員が決め、プログラムの作成に注力する • データの活用の演習では、所与の仮説、PCが計 算した結果を使い、結果の解釈に注力する 38 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  26. Q2. 「情報I」と「情報II」の違いは? No 情報Iの科目目標 情報IIの科目目標 (冒頭部分の文言) 1 情報と情報技術を適切かつ 効果的に活用 情報と情報技術を適切か

    つ効果的、創造的に活用 2 情報社会に主体的に参画す る 情報社会に主体的に参画 し、その発展に寄与する (箇条書きの文言) 3 効果的なコミュニケーション 多様なコミュニケーション 4 コンピュータ 情報システム 5 データの活用 多様なデータの活用 6 情報社会と人との関わり 情報技術の発展と社会の 変化 7 (なし) 新たな価値の創造を目指 し 39 (参考) 大西「Wittgensteinの思想の深化に即した「情報I, II」の差異の分析」(2024) https://speakerdeck.com/saireya/slide-jaeis2024
  27. Q2. 「情報I」と「情報II」の違いは? A) 新たな価値の創造による情報社会の発展 ➢ 情報と情報技術を「創造的」(No.1)に活用して「新たな 価値の創造を目指し」(No.7)、情報社会の「発展に寄 与」(No.2)する。 B) 現時点だけでない世界の経時的な俯瞰

    ➢ 現在という一時点における「情報社会と人との関わり」だ けでなく、過去から未来までの経時的な変化を視野に入 れた「情報技術の発展と社会の変化」(No.6)を理解する。 C) 単一でない多様な対象の理解と活用 ➢ 単一の視点に即して「効果的」かどうかを検討するのでは なく、「多様」(No.3,5)なコミュニケーション・データを扱う ことで、複数の見方・考え方があることを理解し、これらを 活用する技能を習得する。 D) 単体でない大規模な対象の協働による構築 ➢ 単一の「コンピュータ」よりも大規模な「情報システム」 (No.4)を理解し、他者との協働により構築する技能を習 得する。 40 (参考) 大西「Wittgensteinの思想の深化に即した「情報I, II」の差異の分析」(2024) https://speakerdeck.com/saireya/slide-jaeis2024
  28. Q2. 「情報I」と「情報II」の違いは? 前期Wittgenstein『論理哲学論考』: • 「永遠の相」と呼ばれる整理された論理体系からなる 静的(static)なモデル ⇒ 情報Iの役割 後期Wittgenstein『哲学探究』: •

    語の意味は前後の対話・文脈で定まるとする「言語ゲー ム」に基づく動的(dynamic)なモデル ⇒ 情報IIの役割 41 (参考) 大西「Wittgensteinの思想の深化に即した「情報I, II」の差異の分析」(2024) https://speakerdeck.com/saireya/slide-jaeis2024 言語ゲーム (後期『探究』) 永遠の相 (前期『論考』) アスペクト の転換 (『探究』第二部)
  29. Q2. 「情報I」と「情報II」の違いは? A) 新たな価値の創造による情報社会の発展 ➢ 情報と情報技術を「創造的」(No.1)に活用して「新たな 価値の創造を目指し」(No.7)、情報社会の「発展に寄 与」(No.2)する。 B) 現時点だけでない世界の経時的な俯瞰

    ➢ 現在という一時点における「情報社会と人との関わり」だ けでなく、過去から未来までの経時的な変化を視野に入 れた「情報技術の発展と社会の変化」(No.6)を理解する。 C) 単一でない多様な対象の理解と活用 ➢ 単一の視点に即して「効果的」かどうかを検討するのでは なく、「多様」(No.3,5)なコミュニケーション・データを扱う ことで、複数の見方・考え方があることを理解し、これらを 活用する技能を習得する。 D) 単体でない大規模な対象の協働による構築 ➢ 単一の「コンピュータ」よりも大規模な「情報システム」 (No.4)を理解し、他者との協働により構築する技能を習 得する。 42 モデルの転換やひらめきにより「新たな価値」へ 動的なモデルで捉えて「変化」に対応していく 臨床的な事例を通して「多様」な対象と関わる 対話による協働を通して「システム」を構築する
  30. (参考) 共通教科「情報」における問題 • Q1. なぜ「情報デザイ ン・プログラミング・デー タの活用」という3つの 問題解決手段を扱うの か明らかでない ⇒

    Peirce • Q2. 情報Iと情報IIとい う科目間の差異が明ら かでない ⇒ Wittgenstein • Q3. 情報科の土台とな る情報学の理論体系が 明らかでない ⇒ 記号論・基礎情報学 45 (参考) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) 日本情報科教育学会誌, Vol.14, No.1, p.21-28, doi:10.32203/jaeis.14.1_21 • 教科の枠組みの根拠づけ • 授業を効率的に実施可能に