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2023年度ICT職専門研修(海外派遣研修)報告書 No.3

2023年度ICT職専門研修(海外派遣研修)報告書 No.3

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  1. 3 01 研修概要 渡航テーマ 「行政におけるパブリッククラウド活用の世界動向把握による庁内のDX及び区市町村のDX協働の推進力向上」 設定の背景 国・都ともに推進しているクラウドサービスの行政における世界の先進事例及び世界中で注目されている生成AIの 活用事例を把握したうえで、都のDX推進と共に区市町村のDX推進を図り、都民のQOL向上に繋げる必要がある と考え、上述の研修テーマを設定した。 国の動向

    2022年10月の「地方公共団体情報システム標準 化基本方針」により、デジタル庁が整備するガバメン トクラウドを活用して、2025年度までに全国の地 方公共団体の情報システムを標準化・共通化する方 向性 都の動向 2023年3月の「スマート東京実施戦略season4」 にて、職員が業務に使用する基盤システムのクラウ ド環境への移行や各局共通のクラウドインフラの構 築等、クラウドサービスの活用によって都政のQOS を更に高める方向性
  2. 4 01 研修概要 渡航先と日程 国のガバメントクラウド対象サービスに選定されている、Amazon Web Services(AWS)が開催するグローバル カンファレンス「AWS re:Invent」に参加するとともに、Microsoft本社及びAWS本社を訪問した。 なお、国内のパブリッククラウドサービス利用企業において、AWSとMicrosoftのクラウドサービスであるAzure

    は利用率が高い。 ※ 米国ワシントン州レドモンド・シアトル • Microsoft本社(12/1) DX支援・クラウドサービス・生成AIなどについてヒアリング • AWS本社(12/4) クラウドサービス・組織文化・生成AIなどについてヒアリング 米国ネバダ州ラスベガス • AWS re:Invent(11/27~11/30) クラウドサービスに関するグローバルカンファレンスに参加 ※ MM総研. “「国内クラウドサービス需要動向調査」(2022年6月時点)”.MM総研. 2022-08-24. https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=549 , (参照 2024-02-07).
  3. 渡航先一覧 AWS re:Invent 6 02 AWS re:Invent の概要 AWSが開催する、クラウドコンピューティングに関するグローバルな学習型カンファレンス。 2023年は11月27日

    ~ 12月1日の日程で米国ラスベガスにて開催された。 今回で12回目を迎え、基調講演や2,000以上のセッションを通して、最新の 事例や注目のアップデート情報が提供された。 世界中から50,000人以上が現地参加し、日本からも1,700人以上が現地参 加した。 会場は6つのホテルにまたがっており、会場間はシャトルバスなどの移動手段 が提供されている。 両端のホテルは約5km離れており、おおよそ都庁から皇居までの距離となる。
  4. 7 会場の様子 渡航先一覧 AWS re:Invent 02 天井からロケットが発射 される派手な演出 ホワイトボードを用いて対話し ながら進行されるセッション

    クラウドについてゲーム感覚で学べる仕掛け 自分の名前や組織の名前を書いて 参加の足跡を残せるボード キーノートの様子 一般的な聴講形式のセッション
  5. 8 セッションの選択 AWSが公共部門の参加者におすすめのセッションをまとめている「Worldwide Public Sector Attendee Guide」を参考にしつつ、自身が設定した研修テーマに合致するセッションに参加した。(以下は一例) • Empowering citizens

    through digital innovation(9ページ) シンガポール政府の最高デジタル技術責任者(CDTO)が政府のクラウド戦略について事例の紹介 • Advancing equity: The intersection of government, enterprise, and tech(10ページ) ワシントン州職員がコロナ禍に民間企業と連携し対応に当たった官民共創事例の紹介 • A new era: The path to generative AI in public sector (11ページ) AWSが公共部門においてどのようなステップで生成AIを活用していくべきか紹介 渡航先一覧 AWS re:Invent 02
  6. 9 シンガポール政府のクラウド戦略 テクノロジーを導入する上で「信頼と安全」を重要視 世界で初めてAWS Dedicated Local Zones(一般のAWSと同じ利点を持ちつつ、顧客が指定した場所または データセンター内に設置されるオーダーメイド構築のAWSインフラストラクチャ※)を採用。 →6ヶ月で構築し既に約70%のシステムがAWS Dedicated

    Local Zones上で稼働 クラウドサービスとの向き合い方 初めて家を出て大学に通う「若者」のようなものとして扱う。 →自由や可能性に満ちているが、同時にリスクや不確実性にも満ちている 政府のエコシステム(可能性)を広げることがクラウド採用の目的 国民の生活を改善し生産性と能力を高め、誰一人取り残されない社会にすることが政府の役割。 →クラウドを利用する環境を整えることで、AIなどのイノベーションも迅速に利用可能とし、監査の自動化やデータ センター管理からの解放によって実務へより注力可能な体制へシフト 渡航先一覧 AWS re:Invent 02 ※ Amazon Web Services, Inc.. “AWS Dedicated Local Zones の発表”.Amazon Web Services, Inc.. 2023-08-23. https://aws.amazon.com/jp/about-aws/whats-new/2023/08/aws-dedicated-local-zones/, (参照 2024-02-07).
  7. 10 クラウドを活用したワシントン州での官民共創 ワシントン州では、Vaccine Action Command & Coordination System (VACCS) Centerを立ち上げ、

    州職員とAmazon、Microsoft、Starbucks、Uber、Lyftなどの民間企業が官民連携して新型コロナウイルス感 染症に立ちむかった。 ※ 官民の強みを活かした連携 州職員は州内の約800万人にワクチンを接種するため、接種計画を策定。 民のチームは技術的支援として、クラウドサービスを活用し接種予約のチャット ボット・コールセンター(Amazonなど)やワクチン検索ツール(Microsoft、 Starbucksなど)を立ち上げたり、交通手段がない人にはライドシェア(Uber、 Lyftなど)による交通手段の確保が行われた。 ※ 州職員が考える誰一人取り残されない社会の実現に必要なこと 官民が連携しそれぞれの強みを生かしてできる限りの最善を尽くすこと。 ※ Department of Health. “COVID-19 Vaccine Action Command and Coordination System (VACCS) Center Final Report”.Washington State. 2021-10.https://doh.wa.gov/sites/default/files/legacy/Documents/1600/coronavirus/823-003_COVID-19-Vaccine-Action- Command-and-Coordination-VACCS-Center-Final-Report_100121.pdf, (参照 2024-02-07). 渡航先一覧 AWS re:Invent 02
  8. 11 生成AIの活用ステップ 改めて生成AIの定義を確認 テキストであれ画像であれ、何かしら「新しい」ものを生み出すAI。 プロンプト(AIへの指示)次第で翻訳、抽出、分析、評価、提案などマルチユース。 渡航先一覧 AWS re:Invent 02 ユースケースの具体例

    • 顧客体験の向上 チャットボットやバーチャルアシス タントなど • 従業員の生産性向上 要約やコード生成など • ビジネスプロセスの最適化 文章処理やサイバーセキュリティ など 実際の業務やサービスに取り入れるステップ ①ユースケースの定義 今ある課題で解決したいものを分類し実装手段を決定。 ②AIモデルの選択 一から独自のモデルを作るのは費用と時間がかかるため、多くの場合で既存モデルの選択が効率的。 ③AIモデルの調整 選択したモデルを評価し、十分な水準になるまでプロンプトエンジニアリング(モデルへの指示を最適化)や ファインチューニング(モデル自体の調整)を行う。モデルが学習していない情報が必要な時は追加で与え る必要がある。 ④アプリケーションとして実装
  9. 14 従来ではIT部門がシステムの構築・所有・運用まで行っていたが、クラウドサービス活用時においてはIT部門以外が それらを自律的に行っていけるようにするための中心的な組織「Cloud Center of Excellence(CCoE)」とし ての役割が求められる。 渡航先一覧 Microsoft 02

    クラウド活用時に求められるIT部門の役割変化 セキュリティやコンプライアンスなどの 組織ポリシーを満たしている再利用可 能な構築テンプレートの作成・展開 クラウドプラットフォームを策 定した運用手順に沿った状態 で維持管理 原課(委託先を含む) IT部門(CCoE) 開発・運用の土台作成・維持 実際の開発・運用 原課(委託先を含む) 実際の開発・運用
  10. 15 米国で広がる生成AIチャットボットサービス① ニューヨーク市:市民向けに起業や会社運営に関する質問について回答 https://chat.nyc.gov/ 質問の例文を表示することで、 初めての方でも手軽に利用で きる工夫 職員のチームが主導し、 UIや技術面でMicrosoft が協力・提案

    従来のように深い階層のページを次々 たどったり、リンク切れを気にすること なく24時間365日利用可能 20日間で使えるレベルの物 ができたが、テストを踏まえて 45日でリリース 渡航先一覧 Microsoft 02
  11. 18 AWS社への訪問概要 日時 2023年12月4日(月)9時~15時30分頃 場所 Amazon Web Services, Inc.(米国シアトル本社) 訪問目的

    クラウドサービス・組織文化・生成AIなどについてヒアリング 渡航先一覧 AWS 02 現地ヒアリングにて伺った内容は19ページから25ページのとおり
  12. 19 19 AWSが考える効果的なクラウド戦略に必要な要素 渡航先一覧 AWS 02 1 ミッション&ビジョン 要約された戦略目標 2

    費用と資金 詳細なクラウドのコスト管理と最適化計画 3 データ管理 データの保存、アクセス、管理 4 戦略指標 業績を測るKPI(主要業績指標)とKPO(主要業績目標) 5 資産管理 文章化されたクラウドポートフォリオ(内訳一覧) 6 セキュリティ 明確化された役割、責任、作成済みリソース 7 人財育成 技術支援と能力開発 何を目的に移行するの か分かりやすく明文化 しないと道を迷いがち 移行にかかるコスト評価が十分でな いとオンプレミス(システムに必要な 要素を自身で用意する従来型の環 境)への回帰が起こりうる 他社も含めて使用して いるクラウドサービス を全て含める
  13. 21 失敗から学び活かす 2014年にAmazon Fire Phoneという携帯電話を発表したが、翌年には撤退した。 →失敗したことをCEOは謝らなかった、むしろ、失敗から学びどう活かすかが大事という視点 どのように失敗できる文化を作るのか。 ①コストが低くリスクも低いこと→すぐに試せるようにする ②コストが高くリスクも高いこと→これは慎重に判断 ただし、顧客の信頼を失う失敗や、誰かの人生を奪うような失敗は認めない。

    リーダーから積極的に失敗話を共有し、話しやすい環境に。 →失敗が共有されることで、同じ過ちを繰り返さないことに繋がる 失敗の共有ができない組織は、地雷原を進むようなものでリスクが高い。 渡航先一覧 AWS 02 失敗するとわかっていれば、 その道を再び選ぶ人はいない
  14. 22 AWSの生成AIに関する取り組み Generative AI Innovation Center 2023年6月に設立され、AWS上での生成AIを活用した事例の構築や展開といった 一連のライフサイクルを支援するプログラム(無償)を提供 https://aws.amazon.com/jp/generative-ai/innovation-center/ 支援の選定基準は「どれだけ影響がある使用をしてくれるか、他の顧客へ紹介できるか」

    →4週間程度のスパンで事例の創出までを支援、2週間程度でデモの作成等も支援 渡航先一覧 AWS 02 日本国内での動向 2023年9月に大阪市と生成AIの活用について連携を結び、市民サービスの向上及び 業務の効率化などを推進 https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/city-of-osaka-and-aws- collaborate-for-genai/
  15. 27 03 まとめ 都政に還元したいこと① クラウド AWSのカンファレンスには公共部門の職員も多く参加しており、とあるセッションでは参加者の8割程度が公共部 門の関係者であると挙手をするなど、現場意識が非常に高かった。クラウドは特に技術進歩の著しい分野であるた め、利用者である職員自身が積極的に一次情報を取りに行き、最新情報や業界動向の素早いキャッチアップをして いく必要があると感じた。また、シンガポール政府の事例は先進的でセッションも満席に近いほど注目も高かったた め、戦略策定や人材育成、CCoEのような推進体制の確保の点でも参考になるのではと感じた。

    生成AI 世界では既にMicrosoft Copilotの導入をはじめた自治体もあると伺った。最新技術のスピード感を持った導 入の秘訣は「スモールスタート」と「スケーリング」であると学んだため、新たな技術を試用して検証・評価できる最小 環境の整備から始めるとよいのではないかと感じた。また、職員向け・市民向け双方で生成AIを活用したサービス の提供も始まっていた。先例ではチャットボット型のサービスが多く、2か月程度と短期に構築されている事例も あったため、既に公開されている情報を基にしたチャットボット型サービスの提供から進めると良いのではと感じた。
  16. 28 03 まとめ 都政に還元したいこと② 文化 失敗から学ぶ文化は、例え話で「地雷原を進む組織でいいのか」と問われたことで、取り入れていくべきだと感じ た。一方で失敗の共有をボトムアップだけで行うことが難しいことは米国であっても同じであり、米国ではリーダー が自ら失敗を共有するなど「オープン」な姿勢で積極的にトップダウンで変革を促しているところが印象的であった。 ポリシーベースの意思決定については例外時に素早い判断が行えないことを問題視しつつも、セキュリティ関係に は継続して使用されていることが発見であった。一方で、スピードアップのためには「フラット」に自立して意見出し

    や意思決定が行える環境が重要であるため、都民目線で両者の良いところどりをしていくべきだと感じた。 全体 日本と比べて官民の距離が近く、上下ではなくパートナーとして共創していたのが印象的であった。官だけでICT を活用していくのには量も質も限界があるため、都でも連携を深めていく必要があると感じた。一方で、利害関係者 ともなりうるため、考慮しつつ進めていく必要がある。都のICT職として海外政府のCDTOや世界を代表するIT企 業の考え、取り組みを直接耳にできたことは感無量であり、自身のキャリアパスの解像度を上げるきっかけとなった。