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データコンペティション「消滅可能性都市における推計若年女性人口の推移」
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d-lab 北陸大学
September 01, 2020
Education
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データコンペティション「消滅可能性都市における推計若年女性人口の推移」
データコンペティション
消滅可能性都市における推計若年女性人口の推移
~変化から見る都市の差~
d-lab 北陸大学
September 01, 2020
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Transcript
1 消滅可能性都市における推計若年女性人口の推移 ~変化から見る都市の差~ 天池紘子*1・谷口巧*1・野尻裕樹*1・山田悠人*1・中西唯来*1 *1: 北陸大学経済経営学部マネジメント学科 1.研究のテーマと目的 日本では少子化の進行と大都市圏への人口流入により、地方では人口の減少を食い止めることが難しくな っている。そこで本論文では、初めて消滅可能性都市という概念について提唱した『地方消滅』(1)から 20
歳 から 39 歳の若年女性人口変化率データを取り上げ、数値の高い市区町村と低い市区町村を比較した。具体的 には、 『教育用標準データセット』と『日本の地域別将来推計人口』と『全都道府県・市区町村別の男女・ 年齢(5 歳)階級別の推計結果(一覧表) 』の市区町村データを用いて 2010 年と 2015 年を比較し、分析す る。 全国に存在する 1733(2010 年当時)の市区町村のうち、 『地方消滅』では 896 もの市区町村が消滅可能性 都市に指定されている。指定されていない市区町村は、837 である。その結果から消滅可能性都市の共通点 とそれに指定されていない市区町村との相違点を発見する。最後に、それらの背景にある消滅可能性都市の 課題を見出すことを目的とする。 2.研究の方法と手順 まず、2010 年における消滅可能性都市に指定されていない市区町村のうち若年女性人口変化率が上位の 5 市区町村を取り上げる。つまり、これらの自治体では 2010 年から 2040 年の若年女性人口変化はプラスであ り、かつ全国のトップ 5 でもある。次に、 『地方消滅』で消滅可能性都市に指定されており、若年女性人口変 化率がマイナスの下位 10 市区町村を取り上げて比較対象にした。 表1 2010 年における若年女性人口変化率の順位付け 上位 都道府県 市区町村 下位 都道府県 市区町村 1 石川県 川北町 1 群馬県 南牧村 2 秋田県 大潟村 2 奈良県 川上村 3 神奈川県 横浜市都筑区 3 青森県 今別町 4 福岡県 粕屋町 4 北海道 奥尻町 5 宮城県 富谷市 5 北海道 木古内町 6 群馬県 神流村 7 北海道 夕張市 8 北海道 歌志内市 9 奈良県 吉野町 10 北海道 松前町
2 該当市区町村における 2040 年地域別将来推計人口は 2010 年と 2015 年で異なる。そこで 2010 年に加えて、
2015 年を基準時点とした全自治体の若年女性人口変化率を算出して比較した。作業には BI ツールである Tab leau Desktop Ver.2020.2.4 を使用し、グラフにまとめた。そして、該当市区町村における転入出者、幼稚 園+保育所・在園者数を整理した。また各市町村と県庁所在地の自治体の関係の項目からそれらの数値の差 や地理的関係を分析した。尚、転入出者と幼稚園+保育所・在園者数は、SSDSE-2020A のデータを用いた。 3.データセットの加工 2010 年と 2015 年の若年女性人口変化率は以下の(1)式と(2)式で求めた。若年女性とは 20〜39 歳の女性 である。ただし 2040 年推計若年女性人口は 2010 年と 2015 年で推計値が異なるため、2015 年における 2040 年の推計若年女性データを使用し計算した。 2010 年若年女性人口変化率 = 2040年推計若年女性人口の合計−2010年若年女性人口の合計 2010年若年女性人口の合計 × 100 (1) 2015 年若年女性人口変化率 = 2040年推計若年女性人口の合計−2015年若年女性人口の合計 2015年若年女性人口の合計 × 100 (2) 表2では、2010 年に推計された 2040 年の若年女性と 2015 年に推計されたそれとの変化率を(3)式で求め た。誤差で片付けられない数値(変化率が 50%以上であるとした。0%に近いほど、変化が小さく、100% に近いほど変化が大きい。計算式は以下を参照)を記録した市区町村が多数存在したため、推計値は異なる ものであると判断した。 2010 年と 2015 年における 2040 年の推計若年女性人口の変化率 = 2010年における2040年推計若年女性人口の合計−2015年における2040年の推計若年女性人口の合計 2010年における2040年の推計若年女性人口の合計 ×100 (3) 表2 2010 年と 2015 年における 2040 年の推計若年女性の差 都道府県 市区町村 2040年の若年女性(2010年推計) 2040年の若年女性(2015年推計) 推計若年女性の変化率 北海道 夕張市 180 126 30% 北海道 歌志内市 87 25 71% 北海道 松前町 179 79 56% 北海道 木古内町 92 47 49% 北海道 奥尻町 64 44 31% 青森県 今別町 41 17 59% 秋田県 大潟村 336 156 54% 宮城県 富谷市 6828 5343 22% 群馬県 神流町 28 13 54% 群馬県 南牧村 19 8 58% 神奈川県 横浜市 都筑区 27,663 23,616 15% 奈良県 吉野町 174 79 55% 奈良県 川上村 15 7 53% 石川県 川北町 958 648 32% 福岡県 粕屋町 6959 6439 7%
3 使用したデータと項目をまとめ、表3に示す。 表3若年女性人口変化率の推計 4.データ分析の結果 4.1 2010 年と 2015 年の若年女性人口変化率 『消滅可能性都市』の定義について増田
(1)は、 「2010 年から 2040 年にかけて、20~39 歳の若年女性人口 が 5 割以下に減少する市区町村」としている。若年女性の減少により、子供の数が減り、それにより人口減 少、市区町村の衰退に繋がる。2010 年の若年女性人口変化率から数値の高い上位 5 市区町村と反対に数値の 低い下位 10 市区町村の 5 年後を比較し、図 1 に示す。また 2 つの若年女性人口変化率から、さらにその変化 率を求めグラフで表し、図 2 に示す。 図 1 のグラフは 2010 年と 2015 年の変化が少なかった市区町村を順に並べている。数値が 0 に近ければそ の市区町村は若年女性人口の流出を抑制出来ていることになる。2010 年と 2015 年を比較すると、どの市区 町村も 2015 年では数値が改善の方向に向かっていることが分かる。特に図 2 のグラフを見ると、富谷市、川 北町、横浜市都筑区、粕屋町は、約 80%の大幅な向上となっている。つまり、計算し直した 2010 年の若年女 性人口変化率はどの都市も-50%を下回り、消滅可能性都市であった。しかし、この 4 市区町村はその後の 図 1 該当都市の若年女性変化率(2010 年と 2015 年) 都道府県 市区町村 若年女性(2010) 若年女性(2015) 若年女性変化率(2010) 若年女性変化率(2015) 北海道 夕張市 10,922 505 -99% -75% 北海道 歌志内市 4,387 202 -99% -88% 北海道 松前町 30,359 430 -100% -82% 北海道 木古内町 5,341 248 -99% -81% 北海道 奥尻町 3,033 175 -99% -75% 青森県 今別町 3,217 114 -99% -85% 秋田県 大潟村 3,218 257 -95% -39% 宮城県 富谷市 47,042 5940 -89% -10% 群馬県 神流町 2,352 68 -99% -81% 群馬県 南牧村 2,423 59 -100% -86% 神奈川県 横浜市 都筑区 201,271 24,599 -88% -4% 奈良県 吉野町 8,642 486 -99% -84% 奈良県 川上村 4,972 55 -100% -87% 石川県 川北町 6,147 703 -89% -8% 福岡県 粕屋町 41,997 6513 -85% -1%
4 図 2 若年女性人口変化率の変化(2010 年と 2015 年) 実際の人口変化から、若年女性人口変化率が-50%を上回り、消滅可能性都市に該当しなくなったのであ る。一方、2010 年時点で消滅可能性都市に指定されている市区町村の変化率は高くて約
20%となっている その後の実際の人口変化から求めた若年女性人口変化率は、2015 年の推計人口で計算し直した 2010 年の ものと、2015 年のものも、変化率が-50%を下回っている。そのため依然として、これらの市区町村は 2015 年も消滅可能性都市に該当したままであるという結果になっている。 4.2.1 転入出者で市町村を比較 各市区町村の転出入者を SSDSE-2020A の転入者数(A5101)と転出者数(A5102)のデータを用い、図2に 表した。尚、神奈川県横浜市都筑区は、SSDSE-2020A では横浜市における区のデータが無く、横浜市で一括 の統計となっているため比較対象から除外した。 図 3 各市町村の転入出者
5 図 3 を見ると、殆どの市町村で転入者より転出者のほうが多い。唯一、粕屋町の転入者が転出者を上回っ ていることが分かる。また大潟村と南牧村では、転入者数と転出者数はほぼ同数である。 4.2.2 幼稚園+保育所数・在園者数の合計 各市町村の転出入者を SSDSE-2020A の幼稚園数(E1101)と保育所等数(J2503)
、幼稚園在園者数(E150 1)と保育所等在所児数(A2506)を合算してデータを用い、図 4 と図 5 に表した 図 4 各市町村の幼稚園と保育所の数 図 5 各市町村の幼稚園+保育所数・在園者数
6 図 4 のグラフが幼稚園と保育所の合計、図 5 のグラフが幼稚園と保育所に通う在園者数の合計となって いる。図 4 を見ると、幼稚園と保育所数が 2
を超えない市町村が多く存在する。川上村に至っては幼稚園も 保育所も無く、通う子供すらいない。一方で川北町、粕屋町、富谷市は1か所の施設あたり、100 人を超え る在園者がいることになる。この 3 市町は、2010 年では若年女性人口変化率上位 5 市町であるが、同じ状況 ではないのが大潟村である。保育所が1か所しか無く、かつ通う子供も少ない。市町村で在園者数に大きく 差があるのは、間違いない。 4.2.3 各市町村と県庁所在地の関係 各市町村が存在する場所とその県の県庁所在地を図の日本地図で表した。 図 6 各市町村と県庁所在地 この図の表記についてだが、赤色は県庁所在地、青色は消滅可能性都市に指定されている市町村、オレン ジ色は 2010 年若年女性人口変化率上位 4 市町村である。この図 5 からは、各市町村と県庁所在地との関係が 見えてくる。赤色とオレンジ色の距離は近く、赤色と青色の距離は遠くなっている市町村が多い。つまり、 上位 4 市区町村は、県庁所在地に近く、消滅可能性都市に指定されている市区町村は県庁所在地から距離が ある傾向にある。また、上位 4 市区町村は海に近く、平野である。対して群馬県と奈良県にある下位 10 の市 区町村は県庁所在地付近に存在しているにも関わらず消滅可能性都市であり続けていることが図 1 と図 6 か らわかる。立地的な面で上位 4 市区町村と比べると、海が遠く、かつ山が多いことが挙げられる。というこ とは、海が遠く山に囲まれている立地にあるという条件を満たす市区町村では、県庁所在地が近くにあるな しに関係なく、消滅可能性都市に指定されている可能性が高いことが 2015 年における若年女性人口変化率を 算出したことで推測できる。 5.結果の解釈 消滅可能性都市は、若年女性の流出が引き起こす地方衰退の問題である。そこで比較対象を消滅可能性都 市に挙げられた自治体のうち上位 5 市区町村、下位 10 市区町村にすることで市区町村がおかれている現状を 分析した。
7 まず、若年女性変化率を 2010 年と 2015 年で比較した。全体としてどの市区町村も 2010 年と比べて、女性 人口の減少を抑えていることが分かった。 もっと詳しく見ていくと、今回の研究で上位
5 市区町村は大幅な改善ができていることが明らかになっ た。その反面、下位 10 市町村に目立つほどの大きな向上は得られず、軒並み似たような変化率を示すグラフ となった。 このことから、依然として消滅可能性都市に指定されている下位 10 市区町村とそうでなくなった上位 5 市 区町村では、若年女性の減少に何か大きく差が生まれている要因があることが分かる。この差の原因を明確 にすべく、本研究では 3 つの視点から分析した。 始めに、転入出者の人数の比較だ。特に宮城県富谷市と福岡県粕屋町の人口移動が多くなっている。この 2 都市は元々の人口が多いがために、数値の変化が大きくでているのではないだろうか。殆どの市区町村は 転入者よりも転出者が多く人口減少が進行していることが覗える。唯一、粕屋町だけが転入者のほうが多く なっている。考えられる要因として、粕屋町は福岡市に隣接しているため福岡市で働く人のベッドタウンと して他の機能しており、なおかつ他のベッドタウンよりも1つ抜きんでた何かがあると考えられる。 次に、幼稚園+保育所数と在園者数を比較した。若年女性が育児を安心して出来る環境の違いとして比較 してみたが、ここでも上位と下位の市区町村の差が見て取れた。幼稚園数と保育所数を足しても 2 カ所以下 しかない市区町村が半数以上であり、若年女性の定着につながる育児をしやすい環境であるには少なく感じ る。富谷市と粕屋町が飛び抜けて多い理由としては人口そのものが大きいため需要に応じて建設されたか、 もしくは育児環境が整っているから在園者数も多く、多くの若年女性が腰を落ち着かせていることが考えら れる。それらに続き、川北町もその他の市区町村と比較して在園者が多い。通う子供が多いということは、 それだけ子供がいる世帯数が多く存在することを意味する。その地域に定住しやすい環境があることで、女 性の流出を抑えていると考えられる。一方、育児施設数の割に在園者数が少ない市区町村はそこで育児をす ることは好ましくないと考えている若年女性が一定数いると捉えることが出来る。川上村のような幼稚園や 保育所がなく、在園者もいない市町村も存在する。共働きが主流となりつつある現代で仕事と育児を両立す ることを考えると、子供を預かってくれる施設があり育児しやすい環境がある市区町村を若年女性が選ぶこ とは想像に難くない。また同時に、若年女性が魅了的だと感じるまちづくりを進めていくことが急務である と言えるだろう。 3 つ目は、各市町村と県庁所在地の立地関係を比較した。各都道府県の主要都市を県庁所在地とし、消滅 可能性都市に指定されている市区町村と上位 4 市区町村の違いを探した。結果として消滅可能性都市でなく なった上位 4 市区町村は県庁所在地に近く、依然として消滅可能性都市に該当したままの市区町村は県庁所 在地から距離がある傾向にあった。粕屋町の転入者増加要因の推測で、 「福岡市で働く人のベッドタウンと して機能している」と述べたが、粕屋町以外の 3 市区町村でも同じことが言えるのではないかと考える。つ まり、県庁所在地に近い市区町村は消滅の可能性が低く、離れている市区町村は高いと捉えることができ る。しかし地形という点で見ると、上位 4 市区町村と消滅可能性都市の市町村が海側と山側で分かれること も分かった。県庁所在地に近いことが必ずしも消滅可能性都市にならない要因とは言えず、地理的な部分で 違いを得ることができた。山側に消滅可能性都市が多くなる要因として考えられるのは、山に囲まれた市区 町村は都市部へのアクセスが難しく、交通インフラも充分に整備されていないことだと考える。本当に地理 的な要因が大多数を占めているのであれば、人口流出を防ぐ有効な手立てを打てない限り、山側の市区町村 は衰退の一途をたどる可能性が高いだろう。 図 1 と図 2 より 2010 年から 5 年間で若年女性変化率が向上したことは分析した良い結果として受け止める べきである。しかし、消滅可能性都市における若年女性の流出は完全に無くなった訳ではない。本研究では 3 つの視点から分析したが、それこそあらゆる視点からの分析と継続的な調査・研究が必要な問題である。 『地方消滅』で挙げられていた消滅可能性都市は上位 5 市区町村を除き依然としてそうであったため、その
8 違いを詳らかにし見えてくる違いや共通点から若年女性の流出を抑える取り組みを行っていくことが肝要で ある。 参考文献 (1)増田寛也編: “地方消滅――東京一極集中が招く人口急減” 、中央公論新社(2014) . (2)国立社会保障・人口問題研究所: “日本の地域別将来推計人口(平成
25 年 3 月推計) ” 、URL:http:/ /www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_2_1.pdf(最終参照日:2020 年 8 月 29 日) . (3)国立社会保障・人口問題研究所: “全都道府県・市区町村別の男女・年齢(5 歳)階級別の推計結果 (一覧表) ” 、URL:http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/3kekka/suikei_kekka.xls (最終参照日:2020 年 8 月 29 日) . (4)増田寛也: 「地域消滅時代」を見据えた今後の国土交通戦略のあり方について」 、https://www.mlit.g o.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf(最終参照日:2020 年 8 月 29 日) .