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第3回 EdTechZineオンラインセミナー「AI教材への依存から活用へ、自律的な学習者を育てるために気をつけるべきこと」

第3回 EdTechZineオンラインセミナー「AI教材への依存から活用へ、自律的な学習者を育てるために気をつけるべきこと」

風間亮氏によるスライド

EdTechZine

June 03, 2021
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Transcript

  1. AI教材への依存から活用へ

    自律的な学習者を育てるために

    気をつけるべきこと


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  2. はじめに

    2
    本セミナーは、AI教材を批判するものではありません。

    (”AI教材”を”塾の教材”に置き換えても成り立つ話です)

    私自身が(それによって生徒も)

    「AI教材をこなす」という手段が目的化してしまったことによって、「学ぶ力」も「学
    力」も身につかない失敗をしてしまいました。

    (このセミナーを作りながら、その”瞬間”を思い出し、涙しました。)

    本来の目的と手段としてのAI教材の位置付けを再考し、

    「子どもの”いま”と”未来”」にとって

    最適な学習環境を検討する機会になれば幸いです。


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  3. 自己紹介

    3
    風間 亮(1990年生まれ、30才。)


    <教育のバックグラウンド>

    ● 学生時代、個別指導塾にて学生講師

    ● 認定NPO法人Teach For Japan派遣の元、

    福岡県田川郡の公立中学校・英語教員

    ● 学習塾 C.schoolを2019年5月に創業


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  4. C.schoolについて

    ・場所:東京都江戸川区平井


    ・開塾日:2019年5月20日


    ・対象:小中学生(高校生は来月オープン)


    ・形態:自立型個別指導


    ・メイン教材:すらら + 受験用の紙教材

    4

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  5. 少しだけ自分の話をさせてください


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  6. 高校生まで

    6
    お前らは必ず優勝するんだ!
    お前は、数学ができるんだから国
    公立理系でトップ目指せ!
    (理系は潰し効くよ)

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  7. 大学に入って

    7
    レ、レールがない...

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  8. 大学に入って

    8
    留学
    インターン
    研究
    サークル
    バイト ● 自分でレールを敷く人生のロールモデル

    ● 半歩先を照らしてくれる存在

    ● 「何したいの?」と聞いてくれる存在


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  9. 社会人になって

    9
    勉強でPDCA回し続けててよかった! 

    勉強しておいて本当によかった! 


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  10. 自分なりの目的を持ち

    自分で目標を決める機会


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  11. 自律的にPDCAをまわす力が身に付くもの

    かつ、基礎学力が身に付くもの

    ※私のスタンス

    上記2つが身につけば、教材は紙でもデジタルでも何でも良い


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  12. シンプルに、2つのゴールを決めました。


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  13. 〜〜だから

    ◯◯高校が良
    い!

    こんな未来を
    創る!

    社会を知る

    機会

    自分を知る

    機会

    選択肢を知る

    機会

    主体的な進路選択の実現


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  14. 自律的に学ぶ力の育成

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    志望校の設定

    テストの目標点数の設定 

    学習計画面談

    勉強(手段とし
    てのICT)

    勉強(手段とし
    てのICT)

    振り返り面談


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  15. 自ら学ぶ力を育成する

    「ステップ学習」

    STEP1
    会話暗記
    STEP2
    英作文
    STEP3
    練習問題
    Haruto
    Rui
    Kokoro Yutaro
    はじめの10分で解説→Step 1〜3の課題を提示

    →どのレベルまでやるかを自分で設定(その日のStepで評価はしない)


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  16. 自ら学ぶ力を育成する

    「個別学習」で自ら成長する

    自分で学習計画を立てる→週に1回進度を確認し、目標を再設定を繰り返す

    目標シート  学びの整理

    e-learning 用いることで、

    • 個別の進度に合わせた学習

    • 教師とのコミュニケーションの時間の確保

    を実現する。教師はアドバイザーに徹する。


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  17. 自己調整学習

    17
    「学習者がメタ認知、動機付け、行動において、

    自分自身の学習過程に能動的に関与していること」

    (『主体的・対話的で深い学びに導く 学習科学ガイドブック』(大島純、千代西尾祐司、北大路書房、P.54-55)

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  18. 自己調整学習

    18
    “何をどこまで学習するのか、学習の進め方、時間配分などについて、学び手
    が自分で調整・決定できるようにすること(自己決定性)を重んじることで学び
    ての主体性を促すことが大切です。”


    “自己調整学習を通して主体性を育むうえで考慮すべき要素として、動機付け
    も大切です。もともと観察学習について研究していたバンチューらは「自分はこ
    の課題ができるだろう」という自己効力感をもつことができれば、目標の達成に
    むけて努力をすることにつながり、結果としてよい学習成果をあげられると考
    えました。”


    “学び手の自己決定性が高ければ、自己効力感を持つことにつながり、学び
    手の主体としての動機付けは高まり、自分の感情や行動をコントロールできる
    ようになり、結果としてよい自己調整学習が実現できる”


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  19. 自己調整学習

    19

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  20. 具体的な実践

    20
    自分の現在地を確認して目標を立てて、

    自分で学習スケジュールや方法の計画を立てる。

    Plan

    Do

    Check

    Action

    自分で学習を進めて、自分の学習を管理する。

    自分の理解度や進捗を評価する。

    計画ややり方を見直す。


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  21. Plan

    21
    1. 一斉授業で計画の立て方を説明
    2. 自分で計画を立てる
    3. 面談でフィードバック
    4. 計画立て直し
    5. 進捗の記録と適宜フィードバック

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  22. Do

    22

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  23. Check&Action

    23
    学習計画
 学習理解

    AI教材による
    弱点特定
    データの可視化

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  24. Check&Action

    24
    テスト後、振り返り(主に学習方法)


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  25. AI教材への依存

    25
    「社会はAI教材がなかったのでできませんでした。」


    「理科の用語をAI教材で100点にしたんですが、

     テストはできませんでした。」


    「英単語のAI教材は100点にしました。

     次は何をすればいいですか?」


    「覚えられないんですけど、

     これ続けてれば覚えられるんですよね?」


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  26. AI教材への依存(生徒)

    26
    「社会はAI教材がなかったのでできませんでした。」


    「覚えられないんですけど、ゲージは増えてますよ。

     これ続けてれば覚えられるんですよね?」


    「理科の用語をAI教材で100点にしたんですが、

     テストはできませんでした。」


    「英単語のAI教材は100点にしました。

     次は何をすればいいですか?」

    AI教材(もしくは塾)への依存。

    学習方法を知らない。

    自分で学習方法を計画・修正することができていない。

    AI教材の評価への依存。

    適切な自己評価と自己効力感を持つことができていない。

    AI教材の学習計画への依存。

    自分の現在地と目標の差分を考えて、学習を見直すことができていない。


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  27. AI教材への依存(自分)

    27
    「社会はAI教材がなかったのでできませんでした。」


    「覚えられないんですけど、ゲージは増えてますよ。

     これ続けてれば覚えられるんですよね?」


    「理科の用語をAI教材で100点にしたんですが、

     テストはできませんでした。」


    「英単語のAI教材は100点にしました。

     次は何をすればいいですか?」

    AI教材への依存。

    学習方法の全体像を教えられていなかった。

    AI教材リテラシーを教えられていなかった。

    (また、理解していなかった。)

    AI教材の評価への依存。

    適切な自己評価を伝えられていなかった。

    (自己効力感の適切さを育むことができていなかった。)

    AI教材の学習計画への依存。

    自分の現在地と目標の差分を考えて、学習を見直すことができていない。


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  28. AI教材を手段の一つにするために

    28
    学びの全体像を伝える

    「理解→定着」における

    脳の仕組みと方法論

    学びの自己評価

    (定着の確認)

    学びの手段

    【多様な手段から自分で選択】

    AI教材でも紙教材でもやることは同
    じです。

    自分が使いやすい方を使えば良い
    ので、生徒に選択してもらっていま
    す。

    私たちの役割は「教材の選択肢の
    提示」と「選び方のアドバイス」

    【”勉強のやり方”を教える】

    そもそもどうすれば定着できるの
    か、テストで点数を取れるのかを繰
    り返し説明し、「教材」や「塾」への依
    存を回避します。


    参考:最新研究からわかる 学習効
    率の高め方

    【自己評価の方法論を教える】

    紙教材の場合、Edtech教材の場
    合、それぞれについて、自己テス
    ト、チェックの仕方などを丁寧に教
    えていきます。


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  29. 『カーピキー実験』

    出典:https://www.furomuda.com/entry/2020/10/04/031633 

    参考


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  30. 【勉強方法】

    40人がA~Dのグループに分かれ、それ
    ぞれ別の勉強方法で暗記をする

    【ケース】

    アメリカの学生40人が、

    スワヒリ語の単語を

    40個覚えようとしている。


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  31. 勉強方法は大きく2パターン。

    ①(答えを見ながら)単語の書き写し

    ②(答えを隠して)自己テストの繰り返し

    グループB:

    毎回40個の英単語をすべて書き写し、毎回すべてを自己テス
    ト

    書き
    写し



    テス
    ト

    書き
    写し



    テス
    ト

    書き
    写し



    テス
    ト

    グループC:

    毎回40個の英単語をすべて書き写し、前回までのテストで間
    違えた英単語だけを自己テスト

    書き
    写し



    テス
    ト

    書き
    写し
 自己
    テスト

    書き
    写し

    自己
    テスト

    グループD:

    前回のテストで間違えていた英単語のみを書き写し、毎回す
    べての英単語を自己テストする

    書き
    写し



    テス
    ト

    書き
    写し



    テス
    ト
 書き
    写し



    テス
    ト

    グループA:

    初めは40個の英単語を書き写し全てテストするが、それ以降
    は前回に正解していたものを除いて、間違えたものだけ書き
    写し&テストを繰り返す

    書き
    写し



    テス
    ト

    書き
    写し

    自己
    テスト
 書き
    写し

    自己
    テスト


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  32. 33%

    81%
 81%

    33%

    【結果】各グループの記憶率

    グループA グループB グループC グループD
    ・答えを隠して自己テストを繰り返してこそ、覚えたいものを暗記すること
    ができる

    ・覚えたいものをただ書き写したり、もしくはただ読んで眺めていても十
    分に覚えられない


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  33. 33%
    81% 81%
    33%
    覚えた実感と結果の比較

    グループA グループB グループC グループD
    51% 52% 55% 51%
    実感 結果
    ・たくさん書き写すことで覚えた気にはなっているが、実際はあまり覚えられていな
    い→通称「した気勉」

    ・自己テストを繰り返すことで、実感以上に覚えることができている(忘れずに頭に
    残すことができている)


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  34. “「弱点【勉強】・全【テスト】」の自宅学習をやっていた人は、「自分は生
    まれつき頭がいいから、成績がいいのだ」と思っていただろうし、
    「反復【勉強】」の自宅学習をやっていた人は、「自分は生まれつき頭が
    悪いから、成績が悪いのだ」と思っていただろうが、
    実際には、かなりの部分、単に、たまたま選んだ学習法の違いに過ぎな
    かったというわけである。”
    (最新研究からわかる 学習効率の高め方: 英語学習者、受験生、教員、親向け)

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  35. AI教材を手段の一つにするために

    35
    当たり前ですが、AI教材が

    ● 「完全に」定期試験や受験問題を網羅し、

    ● 「完全に」一人ひとりの「自己テスト→反復」を適切なタイミングで提示

    できるようにならない限り「AI教材での完結」はあり得ない。


    現段階では、

    ● 定期試験や受験問題の網羅性はまだまだ低く、

    ● AI判定の精度も完壁ではなく、

    また「自己テスト→反復」のタイミングは使い手に依存する

    AI教材だろうが、紙教材だろうが、「教材」や「塾」に依存せず、

    「弱点勉強・全テスト」をして定着までコミットする意識が必要。


    AI教材を使うに当たっては、その全体像の中で、

    「これをやれば大丈夫」ではなく、「何のために使っているのか?」を

    講師側も、生徒側も、しっかり理解している必要がある。

    「電車より飛行機の方が
    全然速いよね」っていう
    のが当たり前であるのと
    同じくらい
    「紙よりAI教材の方が正
    確で速いよね」が世界の
    常識になったらそこまで
    考える必要もないです
    が!

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  36. 今後の取り組み

    36
    ● 時間管理・学習管理(弱点勉強→全部テスト)の実行の記録とテストに対する
    自己効力感の適切性の向上

    ○ 具体的には、

    ■ 勉強ノート時間や学習の管理

    ■ テスト毎に予想点数と実績を明確にする

    ■ その差分について認識し、改善する


    ● AI教材を使わないでもできる枠組みを作り、AI教材を使う目的を明確にするこ
    とで、子どもたちがすべての学習について、紙でもAI教材でも選べるようにす
    る。(いまは英単語しかできてない)

    ○ 具体的には

    ■ 予習→全テスト→弱点勉強→全テストの流れを教材に依存せずにで
    きるようにする。例えば、単語帳とAI教材など。

    ■ AI教材は、最後の効率化の部分で活用する認識を持ってもらう


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  37. 保護者の声

    37
    ● 自分で目標を設定して、計画し勉強する。わからないことは、直ぐに聞けて繰
    り返し練習する。その基本スタイルです。その目標を考えるのに他分野の方の
    話を直接、会話が成立する距離感で聴けることが良い。自分の考えや思いを
    改めて気づけるから。また、すららは良く出来てますね。過去の自分を先日振
    り返って、オレこんなにできてなかった、そして今、七割取れるようになってる。
    自信を持てる発言してました。笑


    ● 沢山のお子さんが通塾してる中、娘の勉強だけでなく将来の相談も乗ってくれ
    たようで感謝しています。また、娘が何か作業をする時計画を立てて行うよう
    になったので、これも塾に通ってから変わったのだと思っております。


    ● とにかく通うのが楽しいようですし、理解する喜びが増しています。加えて、主
    体性を持ち目標を掲げ計画的に学習を進め、成功体験を自信に更に先を目
    指す。笑ってしまう程理想的なマインドを維持しています。


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  38. 生徒の声

    38
    ● 受験だけでなく学校のテストも計画を立て、自分自身で理解するまで問題に取
    り組むことができました。C.schoolは、自分のペースで勉強をすることができ、
    確実に解ける問題を増やすことができます。さらに僕は、分からないところを
    先生に教えてもらい、自分で説明することによって理解を深めることができまし
    た。


    ● 入塾前は、勉強の仕方すら分からなかったけれど、勉強の仕方から教えてい
    ただいてからは、徐々に勉強のコツを掴み、自分の苦手だった部分を克服出
    来ました。


    ● 私はC.schoolに通う前は家で勉強は全くせず勉強をする習慣がなかったので
    すが、C.schoolに入ってから自分にあった勉強方法を見つけ毎日勉強する習
    慣がつきました。


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  39. おわりに

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    AI教材を否定するものではないことがお分かりいただけたと思います。 

    一方で、AI教材は、「人の仕事を楽にする」という謳い文句から、ややもすると、 

    私たちの「考える力」すら奪ってしまう危険性を孕んでいるかもしれません。 


    「楽をするだけでなく、◯◯を調べるのには、図書館や現地に行くよりも、本当にググるだけで良
    いんだっけ?」「Googleが出した答えが必ずしも正解ではないかもしれない」 


    すなわち、


    「大人が楽をするだけでなく、本当に子供たちの学ぶ力と学力を育てるためには、 

     従来のやり方より、AI教材の方が良いんだっけ?」

    「AI教材が出した答えが必ずしも正しいわけではない」


    そんな問いとリテラシーを常に持ちながら、教育活動に励んでいければと考えています。 


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