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論文の読み方 -骨子の読み取りからプロジェクト背景の深読みまで-

論文の読み方 -骨子の読み取りからプロジェクト背景の深読みまで-

1つの論文から,「その論文が出るまでのプロジェクト背景」を深読みする方法の解説です.(1)骨子(アウトライン)を要約的に読み取って,(2)深読みの窓をこじ開け,(3)書かれていない背景を深読みする,という手順を具体的に説明しています.大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻の修士前期課程の講義で使用した資料を一部改変したものです.

Hisashi Ishihara

January 06, 2022
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Transcript

  1. 2 段階的に論文を深く読み込んでいく手順の一例を紹介 A) 論文の骨子の「要約的読み取り」  中核にある「問い」が何かを探る  「答えを導き出す方法」と「問いの答え」を確認 B) 複数観点で評価して「深読みの窓」をこじ開ける

     今回は日本機械学会論文誌の論文評価の指針に従う  価値不足が危惧される切り口や論点を3つ以上想定 C) 論文が出るまでの「プロジェクト背景の深読み」  必要だったであろうタスクを推定して列挙  プロジェクトのデザインとリスクマネジメントを推定 この講義の流れ ある論文を初めて読むという 設定でA,B,Cを順に実施 した例を紹介します 何を深読みしたいかで BとCの方法は変わります
  2. 3 まずは骨子(アウトライン)の読み取り! A) 論文の骨子の「要約的読み取り」  中核にある「問い」が何かを探る  「答えを導き出す方法」と「問いの答え」を確認 B) 複数観点で評価して「深読みの窓」をこじ開ける

     今回は日本機械学会論文誌の論文評価の指針に従う  価値不足が危惧される切り口や論点を3つ以上想定 C) 論文が出るまでの「プロジェクト背景の深読み」  必要だったであろうタスクを推定して列挙  プロジェクトのデザインとリスクマネジメントを推定 なにを深読みしたいかにかかわらず 6STEPで 過程を説明します 骨子がなにかは追って説明します
  3. 5 まずはAbstractの「構造」を把握 (A)論文の骨子の要約 STEP 2 研究対象の紹介 理想と現状の ギャップの指摘 実施した手法① 手法①の結果

    実施した手法➁ 手法➁の 結果と考察 結論 構造読み取りのヒントとなる語句を 探すように読む
  4. 6 Abstract構造から本文の「狙い読みの方針」を決める (A)論文の骨子の要約 STEP 3 研究対象の紹介 理想と現状の ギャップの指摘 実施した手法① 手法①の結果

    実施した手法➁ 手法➁の 結果と考察 結論 ①文量を割いているので,こだ わりがありそう.著者の対象の 捉え方をしっかり理解しよう. ➁ギャップ自体は指摘されてい るが,ギャップ解消を邪魔する 「問題」が明確に書かれていな いので,本文で確認しよう. ③手法は2段階で実施されたよ うなので,しっかり切り分けて 内容を把握しよう. ④発展的な研究に使えるウリが あるようなので,具体的な良さ を確認しよう.
  5. 7 狙い読み方針に沿って情報記載箇所にあたりをつける 1. 研究対象の捉え方の理解  きっとIntroductionの序盤に記載があるはず 2. 問題を本文で確認  Introductionの中~後半に記載されていそう

    3. 手法の大枠の把握  Introductionの最終段落に概説がないか見てみよう  Methodの冒頭に概説がないか見てみよう  Methodの節構造も確認してみよう 4. 提案手法の具体的な良さの確認  Conclusionの冒頭に記載があるはず (A)論文の骨子の要約 STEP 4 分野の論文を一定数読めば どこにどんな情報が書かれているかの 予想がつくようになります
  6. 8 あたりをつけた部分の本文を読んで情報を収集 1. 研究対象の捉え方 2. 問題を本文で確認 3. 手法の大枠の把握 4. 提案手法の良さの確認

    (A)論文の骨子の要約 STEP 5 Introの1段落目で発見! アンドロイドの顔は「入力が駆動指令,出力が表面変位分布のシステム」 Introの2段落目で発見! 顔機構は設計時に同定・調整が難しい非線形・履歴要素を含むので, 皮膚表面の各位置の変位の制御は重要であるが難しい ロボット(の顔) に指令を送って (顔表面変位を)計測して (入出力関係を)解析して それに基づいて 表面変位制御を試した Methodの節構成で把握! Conclusionで発見! 把握した特性値で設計結果を 予測できる.特性の異なる複 数駆動ユニットを使った表情 間遷移を実現できる
  7. 9 論理展開が繋がるように骨子をまとめる (A)論文の骨子の要約 STEP 6 周辺情報もあわせて 皮膚変形で情報を呈示するアンドロイドの顔では,表面変形を精密に制御できることが望ましい. 一方で,仕組みの複雑さもあってブラックボックスのまま利用されており,精密な制御は未達成. 課題 と

    問題 伝える情報の精確性・正確性を高めるうえでは,皮膚表面の変位とその時間遷移の制御の実現を 目指すべき.ただし,顔機構には設計時に同定・調整が難しい非線形・履歴要素が含まれる. 手法 そこで,指令に対する皮膚表面の変位を精密計測(光学式モーションキャプチャ)し,入出力関 係のモデル(シグモイド関数)を得,特徴を把握.そのうえで,その特徴を踏まえた制御器を設 計し,変位と時間遷移の制御が可能かを評価. Sensitivity,Hysteresis,Dyssynchlonyの特性値で各駆動ユニットの制御特性値を整理把握できた. 良特性の3駆動ユニットを組み合わせ,無表情から笑顔に至る遷移の作り分けに成功 結論 皮膚変形の精密計測とモデル化によって,アンドロイドの顔の機械性能把握のための特性値を見出 し,現代のアンドロイドの顔においても,時間的ニュアンスを表情に載せる制御が可能であること を示した. 理想 と 現状 結果 と 考察 この課題達成において問題はどのように解決可能か?が問い これが問いに対する答え これが答えを導き出す手法 これが 骨子
  8. 10 把握した骨子をベースに深読みの手がかりを得る A) 論文の骨子の「要約的読み取り」  中核にある「問い」が何かを探る  「答えを導き出す方法」と「問いの答え」を確認 B) 複数観点で評価して「深読みの窓」をこじ開ける

     今回は日本機械学会論文誌の論文評価の指針に従う  価値不足が危惧される切り口や論点を3つ以上想定 C) 論文が出るまでの「プロジェクト背景の深読み」  必要だったであろうタスクを推定して列挙  プロジェクトのデザインとリスクマネジメントを推定 骨子の要約ができたら… 3STEPで 過程を説明します
  9. 11 評価項目の理解に基づいて狙い読みの方針を立てる 1. 新規性(何が他よりも新しいのか)  「現状」と「結論」の差で把握できるはず.骨子で確認しよう. 2. 独創性(何が他と違うのか)  他との違いは「手法」に反映されているはず.骨子で確認しよう.

    3. 萌芽的発展性(どんな一歩を踏み出したのか)  結論に書かれているはず.骨子で確認しよう. 4. 信頼性と精緻性(結果や結論をどこまで信じてよいのか)  手法や結果の説明,考察や結論を導出する論理の中で確認できるはず.本文を確認しよう. 5. 工学的・工業的有用性(実際に役に立つのか)  考察あるいは結論に書かれているはず.骨子を確認しよう. 6. 機械工学・工業への寄与(応用可能性はいかほどか)  考察あるいは結論に書かれているはず.骨子を確認しよう. (B)深読みの窓をこじ開ける STEP 1 この評価が一番難しく, 手間がかかる 分野の論文の
  10. 15 狙い読みの方針にしたがって情報収集 (B)深読みの窓をこじ開ける STEP 2-4 4. 信頼性と精緻性(結果や結論をどこまで信じてよいのか)  信頼性確保の具体的手段や手続きが記載されており,基本的には信頼できそう 手法や結果の説明,

    考察や結論を導出する論理の中で 確認できるはず.本文を確認しよう. もちろん,これらの設定や手段が 妥当なものであるかは知識と照らし合わせて 判断する必要がある らしいとわかる
  11. 18 価値不足が危惧される切り口を考える (B)深読みの窓をこじ開ける STEP 3  新規性(何が他よりも新しいのか)  ブラックボックスであったアンドロイドの顔を入出力装置として機械性能評価した 

    独創性(何が他と違うのか)  アンドロイドの顔に対して精密計測や制御器設計を適用した  萌芽的発展性(どんな一歩を踏み出したのか)  時間的ニュアンスをアンドロイドの表情に載せて表現力を高める道を進めた  信頼性と精緻性(結果や結論をどこまで信じてよいのか)  信頼性確保の具体的手段や手続きが記載されており,基本的には信頼できそう  工学的・工業的有用性(実際に役に立つのか)  実際にアンドロイドの時間遷移制御が可能であることを確かめている  機械工学・工業への寄与(応用可能性はいかほどか)  現代のアンドロイドの機械製品としての技術達成度を明らかにすると共に,アンドロイド内 だけでなく,アンドロイド間でも性能を客観的に比較評価する手段を提供した 時間的ニュアンスが載る ことにどれほど期待が持 てるのか? 他の機械方式のアンドロ イドで使い物にならない 可能性はないのか? より複雑な時間遷移 を実現するうえでの 課題は? 「本当に?」「それで?」「なんで?」を問いかけて 機械性能評価は本当に必 要だったのか?別のアプ ローチもあったのでは?
  12. 19 書かれていない情報を想像で推定していく A) 論文の骨子の「要約的読み取り」  中核にある「問い」が何か  「答えを導き出す方法」と「問いの答え」を確認 B) 複数観点で評価して「深読みの窓」をこじ開ける

     今回は日本機械学会論文誌の論文評価の指針に従う  価値不足が危惧される切り口や論点を3つ以上想定 C) 論文が出るまでの「プロジェクト背景の深読み」  必要だったであろうタスクを推定して列挙  プロジェクトのデザインとリスクマネジメントを推定 深読みするための切り口(窓)が得られたら… 3STEPで 過程を説明します 正解とは限らないものの, 自分の研究のヒントが得られる可能性があります
  13. 20 必要であったであろうタスクを列挙 (C)プロジェクト背景の深読み STEP 1 それまでのアンドロイド がどう評価されてきたか の網羅的調査と問題特定 表情の精密計測やモデル 化の手段の比較検討

    精密な計測実施のノウハ ウの蓄積 それまでのアンドロイド がどう制御されてきたか の調査と問題特定 それまでのアンドロイド がどう性能比較されてき たかの調査と問題特定 実施内容の準備や, 判断根拠の収集を想像する
  14. 21 プロジェクトの流れを推定 (C)プロジェクト背景の深読み STEP 2 アンドロイド 評価法の調査 精密計測の ノウハウ蓄積 精密計測実験

    アンドロイド の制御器開発 アンドロイド の導入 構想 アンドロイド 制御法の調査 アンドロイド 比較状況調査 準備 精密計測 手段の比較検討 モデル化手段 の比較検討 手法 モデル化と 特性値把握 モデルに基づく 制御実験 特性値把握 の結果 制御の結果 結果 結論 結論 緑字部分が項目Cの STEP1で想像した部分 青字部分は骨子の要約と価値の推定 の結果に基づいて作成した部分 応用価値と 一般性の検討 赤字部分が項目Bの STEP3で考えた部分 難しいですが,プロジェクトの実施経験を積むごとに 推定精度を上げていけます これまでの読み取り結果に基づいて
  15. 22 価値 不足 動作再現性 不足 動作再現性 不足 プロジェクトのリスク要因の推定 (C)プロジェクト背景の深読み STEP

    3-1 アンドロイド 評価法の調査 精密計測の ノウハウ蓄積 精密計測実験 アンドロイド の制御器開発 アンドロイド の導入 構想 アンドロイド 制御法の調査 アンドロイド 比較状況調査 準備 精密計測 手段の比較検討 モデル化手段 の比較検討 手法 モデル化と 特性値把握 モデルに基づく 制御実験 特性値把握 の結果 制御の結果 結果 結論 結論 良い特性値を見出せない 制御性能が良くない 計測精度が低い 故障 計測精度が低い 問題解決に資する 手段がない よいモデルの搭載例が すでにある 応用価値と 一般性の検討 これも難しいので,プロジェクトの実施経験 を積む必要があります
  16. 23 価値 不足 動作再現性 不足 プロジェクトのリスクの影響度分析 (C)プロジェクト背景の深読み STEP 3-2 アンドロイド

    評価法の調査 精密計測の ノウハウ蓄積 精密計測実験 アンドロイド の制御器開発 アンドロイド の導入 構想 アンドロイド 制御法の調査 アンドロイド 比較状況調査 準備 精密計測 手段の比較検討 モデル化手段 の比較検討 手法 モデル化と 特性値把握 モデルに基づく 制御実験 特性値把握 の結果 制御の結果 結果 結論 結論 良い特性値を見出せない 制御性能が良くない 故障 計測精度が低い 問題解決に資する 手段がない よいモデルの搭載例が すでにある 発生確率が高そうなものは濃く, 発生時の影響が大きいものほど大きく記載 応用価値と 一般性の検討
  17. 24 価値 不足 動作再現性 不足 プロジェクトのリスクの優先付けと対処方法の想像 (C)プロジェクト背景の深読み STEP 3-3 アンドロイド

    評価法の調査 精密計測の ノウハウ蓄積 精密計測実験 アンドロイド の制御器開発 構想 アンドロイド 制御法の調査 アンドロイド 比較状況調査 準備 精密計測 手段の比較検討 モデル化手段 の比較検討 手法 モデル化と 特性値把握 モデルに基づく 制御実験 特性値把握 の結果 制御の結果 結果 結論 結論 良い特性値を見出せない 制御性能が良くない 故障 計測精度が低い 問題解決に資する 手段がない よいモデルの搭載例が すでにある 今回の実験に耐えられるようなハードウェア開発が肝だったんだろうな, と想像できる アンドロイド の導入 応用価値と 一般性の検討
  18. 25 1つの論文を段階的に深読みする手順を紹介しました  まずは骨子の「要約的読み取り」が大事  骨子とは何かをしっかり理解しておくことが必須  深読みのためにはよい切り口を見出すことが大事  各分野の学術誌の論文評価指針が役立つ

     その切り口から、プロジェクトの背景も想像できる  論文を出すまでのプロジェクト経験がないと想像は難しい  経験を積んで想像できるようになると,論文から多くの情報を得られる まとめ