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化学プロセスシステム工学 第13回

 化学プロセスシステム工学 第13回

講義に入る前に 確認事項
前回までの復習
前回
スミス補償器 (スミス予測器)
スミス補償型制御
スミス補償型制御 別表現
スミス補償型制御と内部モデル制御(IMC)
モデル予測制御
ソフトセンサー
化学工場(化学プラント)
プロセス変数の時間プロットの一例
ソフトセンサー
ソフトセンサーを作成せよ!
できました!
ソフトセンサー
実際のデータを使用したソフトセンサー
プロセス変数
ソフトセンサー構築手法
推定結果
ソフトセンサー例 (ポリマー重合プラント)
ソフトセンサー例
医薬品製造プロセス
Process Analytical Technology (PAT)
PATとは?
PATとは?
PATとは?
一番シンプルなソフトセンサー
Real Time Release Testing (RTRT)
ソフトセンサー例 (選果プロセス)
ソフトセンサー例 (農業プロセス)
ソフトセンサー例 (生物プロセス)
化学プロセスにおけるソフトセンサー
ソフトセンサーの役割 1/4
ソフトセンサーの役割 2/4
ソフトセンサーの役割 3/4
ソフトセンサーの役割 4/4
ソフトセンサー運用までの流れと問題点・課題点
ソフトセンサー(人工知能)の研究の例

Hiromasa Kaneko

April 04, 2018
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Transcript

  1. 講義に入る前に 確認事項 このスライドはOh-o! Meiji の授業お知らせでダウンロード可能 出席︓Oh-o! Meiji 応用化学科 専任講師 ⾦⼦

    弘昌 • データ化学工学研究室 • 部屋: 第二校舎D館D409 • E-mail: [email protected] • Tel: 044-934-7197 • Website: http://datachemeng.com/ • Twitter: @hirokaneko226 1
  2. スミス補償器 (スミス予測器) むだ時間が大きいときに使うテクニック プロセス Gprocess (s) がむだ時間要素 exp(−tD s) を含むときを考える

    Gp0 (s) のモデル Gmodel (s) を使って、制御変数 Y を Gmodel (s)U(s) と予測 遅れて Y に現れる操作変数 U の影響を Gmodel (s) exp(−tmodel s)U(s) で計算 4 ( ) ( ) ( ) process p0 D exp G s G s t s = − Y(s) を、 Y(s) − Gmodel (s) exp(−tmodel s)U(s) + Gmodel (s)U(s) とすることで、むだ時間だけ先の値としてフィードバック
  3. スミス補償型制御 モデル誤差がないとき、つまり Gp0 (s) exp(−tD s) = Gmodel (s) exp(−tmodel

    s) のとき、 5 T(s) Y(s) Gp0 (s)exp(−tD s) − + U(s) + + D(s) Gmodel (s)(1−exp(−tmodel s)) GFB (s) + + FBコントローラ
  4. スミス補償型制御 D(s) = 0 として、T(s) から Y(s) への伝達関数を求めてみよう︕ 6 T(s)

    Y(s) Gp0 (s)exp(−tD s) − + U(s) + + D(s) Gp0 (s)(1−exp(−tD s)) GFB (s) + + FBコントローラ
  5. スミス補償型制御 FBコントローラとしてPIDコントローラを用いると、スミス補償型PID制御 一般的なフィードバック制御プロセスでは、 となる。一番上の式から、プロセスのむだ時間の分だけ制御変数の 応答は遅れるが、その他の影響は受けないことがわかる Gp0 (s) (= Gmodel (s))

    をプロセスとみなして、PIDパラメータを決めればよい • 正確なモデル Gmodel (s) を作ることが大事︕ 7 ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) p0 FB D p0 FB exp 1 G s G s Y s t s T s G s G s = − + ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) process FB process FB 1 G s G s Y s T s G s G s = +
  6. スミス補償型制御 別表現 D(s) = 0 として、T(s) から Y(s) への伝達関数を求めてみよう︕ 8

    T(s) Y(s) Gp0 (s)exp(−tD s) − + U(s) + + D(s) Gp0 (s)(1−exp(−tD s)) GFB (s) FBコントローラ + −
  7. スミス補償型制御と内部モデル制御(IMC) 10 T(s) Y(s) Gp0 (s)exp(−tD s) + + U(s)

    + + D(s) Gmodel (s)exp(−tD s) GFB (s) − + FBコントローラ Gmodel (s) + − IMCコントローラ GIMC (s) GIMC (s) を、Gmodel (s) で表してみよう︕
  8. スミス補償型制御と内部モデル制御(IMC) フィルタを F(s) とすると、 このとき、GFB (s) = ? 11 (

    ) ( ) ( ) 1 IMC model G s F s G s − = ( ) ( ) ( ) ( ) FB IMC FB model 1 G s G s G s G s = +
  9. モデル予測制御 ① 出⼒変数 y の値を予測するモデルを作る ② 設定値変更のとき、理想的にはどのように y を時間変化させたいか 決める

    ③ モデルによって予測された軌跡と、理想的な軌跡とが一致するように 操作変数の値を変える ①②③ を繰り返す 14
  10. ソフトセンサー 20 入⼒ 出⼒ オンラインで測定 過去のデータベース オンラインで推定 温度・圧⼒など 説明変数・入⼒変数 目的変数・出⼒変数

    温度・圧⼒など(X) 濃度・密度など(y) ソフトセンサー y = f(X) 濃度・密度など 例) 濃度 = f( 温度、圧⼒ ) = 1.5×温度+0.5×圧⼒ 測定が簡単 測定が困難
  11. ソフトセンサーを作成せよ︕ 22 上司 我が社もソフトセンサーを導入しよう︕ T1 (塔内温度) から AI (製品濃度) を推定するソフトセンサーを作成せよ︕

    はい︕ まずはデータ集め・・・ A君 塔内温度 [℃] 製品濃度 [mol%] 56.9 0.502 55.9 0.428 56.3 0.436 55.3 0.376 54.8 0.337 51.8 0.106 50.6 0.0444 塔内温度 [℃] 製品濃度 [mol%] 58.4 0.593 51.2 0.0966 58.8 0.616 51.4 0.109 56.9 0.498 51.3 0.0957 56.1 0.414 53.8 0.273 塔内温度 [℃] 製品濃度 [mol%] 55.0 0.332 59.8 0.690 51.8 0.127 55.8 0.421 52.8 0.194 56.2 0.434 52.5 0.165 54.8 0.347
  12. プロセス変数 26 記号 目的変数(予測したい変数) A 塔底の低沸点成分濃度 記号 説明変数(入⼒変数) F1 還流量

    F2 スチーム流量 F3 原料流量1 F4 原料流量2 F5 塔底流量 F6 塔頂流量 L1 塔底液レベル P1 塔内差圧 P2 塔内圧⼒ 記号 説明変数(入⼒変数) T1 塔内温度1 T2 塔内温度2 T3 塔内温度3 T4 塔内温度4 T5 塔底温度 T6 原料温度1 T7 原料温度2 T8 塔頂温度 F4/F3=R 還流⽐ F1/F6=F 原料流量⽐
  13. ソフトセンサー構築手法 最小二乗法による重回帰分析 Partial Least Squares (PLS) 法 • 線形手法 A

    = a0 + a1 ×(F1) + a2 ×(F2) + a3 ×(F3) +・・・ • 説明変数間に強い相関関係があっても頑健なモデルを構築可能 • ノイズの影響を受けにくい 27
  14. ソフトセンサー例 (ポリマー重合プラント) 29 対象としたプラント 三井化学市原工場 ポリマー重合プラント 目的変数y 説明変数X 密度、Melt Flow

    Rate (MFR) 反応器温度、反応器圧⼒、モノマー濃度、 コモノマー濃度、⽔素濃度など滞留時間を 考慮に入れた20変数 一つのプラントにおいて、コモノマーの種類や各種ポリマー物性の異なる 多種多様なポリマー製品を製造している
  15. ソフトセンサー例 (ポリマー重合プラント) 30 0 100 200 300 400 500 600

    700 800 900 0.92 0.925 0.93 0.935 0.94 密度[g/cm3] time[min] 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 0.92 0.925 0.93 0.935 0.94 密度[g/cm3] time[min] *: 実測値 ー : 上限下限 ー : ソフトセンサー推定値 ② リアルタイムに密度推定値が得られる ① 密度の値が得られるのは数時間後 時間 時間
  16. ソフトセンサー例 (ポリマー重合プラント) 31 0 100 200 300 400 500 600

    700 800 900 1.9 2 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 MFR[g/10min.] 適切なアクションにより迅速に制御可能︕ 時間
  17. ソフトセンサー例 フェノール製造プロセス ホルマリン製造プロセス 32 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2

    x 104 2 2.5 3 3.5 time [min] y Predicted y Actual y [1] H. Kaneko, K. Funatsu, Ind. Eng. Chem. Res., 54, 700-704, 2015. [2] H. Kaneko, K. Funatsu, Chemom. Intell. Lab. Syst., 146, 179-185, 2015. 1250 1300 1350 1400 1450 0 0.5 1 formic acid time [hour] Predicted values Actual values
  18. ソフトセンサー例 イソプロパノール製造プロセス 脱ブタン蒸留塔 33 [1] H. Kaneko, K. Funatsu, AIChE

    J., 62, 717-725, 2016. 2.45 2.5 2.55 2.6 2.65 2.7 2.75 2.8 2.85 x 105 0 50 100 time y Estimated y Actual y 200 250 300 350 400 0 0.2 0.4 0.6 time y Estimated y Actual y
  19. 医薬品製造プロセス 例) 錠剤 34 粉砕 混合 造粒 潤沢剤 混合 打錠

    フィルム コート 最終 製品 原薬 (有効成分) 添加剤 添加剤 添加剤 添加剤 粒度 混合均一性 粒度 ⽐容積 ⽔分 混合均一性 粒度 ⽐容積 溶出性 錠剤質量 ⽔分 含量均一性 素錠質量 硬度 崩壊性 最終製品 試験 工程内もしくはラボでチェック 最終製品試験に合格した製品のみ市場へ 不合格のときはロットごと廃棄 多大な損害︕
  20. Process Analytical Technology (PAT) 例) 錠剤 35 粉砕 混合 造粒

    潤沢剤 混合 打錠 フィルム コート 最終 製品 原薬 (有効成分) 添加剤 添加剤 添加剤 添加剤 粒度 混合均一性 粒度 ⽐容積 ⽔分 混合均一性 粒度 ⽐容積 溶出性 錠剤質量 ⽔分 含量均一性 素錠質量 硬度 崩壊性 最終製品 試験 最終製品試験に合格するように、プロセスで製品を作り込もう︕ Process Analytical Technology (PAT) 工程内もしくはラボでチェック
  21. PATとは︖ 38 PAT︓各工程において原材料・中間体の重要品質および性能特性を 適時リアルタイムに計測・監視して適切に管理を⾏う技術 +迅速・非破壊 近赤外線分光法 (Near Infrared Spectroscopy, NIR)

    入⼒ 出⼒ オンラインで測定 過去のデータベース オンラインで推定 NIRスペクトルなど 測定が簡単 測定が困難 NIRスペクトルなど(X) 有効成分含量など(y) ソフトセンサー y = f(X) 有効成分含量など X とy との関係を統計的に処理
  22. 一番シンプルなソフトセンサー 39 y X y = f(X) = aX +

    b (検量線) (ある波⻑における吸光度) (有効成分含量) サンプル
  23. Real Time Release Testing (RTRT) 40 粉砕 混合 コーティング 原薬

    (有効成分) 添加剤 ・・・ 最終製品 監視 制御 NIRスペクトルなど リアルタイム 混合均一性など 監視 制御 NIRスペクトルなど リアルタイム コーティング量など 添加剤 ソフトセンサー ソフトセンサー
  24. ソフトセンサー例 (選果プロセス) 41 y: 破壊しないと測定できない X: 非破壊で測定可能 内部品質のオンライン推定 糖度 -%、酸度

    -%、 蜜あり or なし、褐変あり or なし 糖度、酸度、 糖度、酸度、 蜜、内部褐変など 過去に得られた 果物のNIRスペクトル 過去に得られた 果物の内部品質データ 目視では判断できない内部品質を非破壊で測定 新しい果物の スペクトル ソフトセンサー y = f(X) [1] 山下洋輔, 荒川正幹, 船津公人. J. Comput. Aided Chem. 12, 37-46, 2011. [2] 菅間幸司, ⾦⼦弘昌, 船津公人. J. Comput. Aided Chem. 15, 1-9, 2014.
  25. ソフトセンサー例 (農業プロセス) 42 y︓⽔分量、窒素量、 炭素量など X︓⼟壌のIRスペクトル 実際 予測 例)⼟壌の⽔分量 マップ

    [1] 河村智史, 荒川正幹, 船津公人. J. Comput. Aided Chem. 7, 10-17, 2006. [2] 安藤正哉, 荒川正幹, 船津公人. J. Comput. Aided Chem. 10, 53-62, 2009. ソフトセンサー y = f(X)
  26. ソフトセンサー例 (生物プロセス) 43 下⽔ 工場排⽔ 処理⽔ H. Kaneko, K. Funatsu,

    Chemom. Intell. Lab. Syst., 126, 30-37, 2013. ソフトセンサー Membrane BioReactor (MBR) MBRパラメータ 将来のファウリング 0 5 10 15 20 0 5 10 15 20 25 TMP [kPa] time [day] Actual TMP after 7 days Predicted TMP after 7 days 7日前に予測された値 実測値
  27. 化学プロセスにおけるソフトセンサー ハードセンサー • 対象を直接測定するセンサー • 温度計、圧⼒計、流量計など ソフトセンサー • コンピュータ上の仮想的なセンサー ⁃

    ハードセンサーなどの測定値から間接的に推定 • ソフトウェア的なセンサー ⁃ ソフトセンシング技術 ⁃ 仮想計測技術 ⁃ ヴァーチャルメトロロジー(virtual metholorogy) ⁃ Process Analytical Technology (PAT) などとも呼ばれる 44
  28. ソフトセンサーの役割 4/4 効率的なプロセス制御 48 ソフトセンサー y = f(X) 入⼒ 出⼒

    最適なyの軌跡の選択 対応するXの時間変化 迅速かつ効率的に製品品質を 目標の値に変更可能︕ 目標値 y 時間 時間 時間 X y 時間 X 目標値 木村 一平, ⾦⼦ 弘昌, 船津 公人, 化学工学論⽂集, 41, 29-37. 2015.
  29. ソフトセンサー運用までの流れと問題点・課題点 49  データの信頼性の確保、データ選択  外れ値検出、ノイズ処理、プロセス変数の変換  モデリング手法の決定  オーバーフィッティング

     プロセス変数間の非線型性の考慮  プロセス変数の選択  プロセスの動特性の考慮  モデルの解釈  モデルの検証  モデルの適用範囲と予測精度  モデルの劣化  モデルのメンテナンス  異常値検出、診断 ソフトセンサー運用 までの流れ 問題点と課題点 データ収集 データ前処理 モデル構築 モデル解析 モデル運用