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AIエージェントの開発に必須な「コンテキスト・エンジニアリング」とは何か──プロンプト・エンジ...

 AIエージェントの開発に必須な「コンテキスト・エンジニアリング」とは何か──プロンプト・エンジニアリングとの違いを手がかりに考える

AIエージェントの開発に必須なコンテキスト・エンジニアリングとは。
最近、「コンテキスト・エンジニアリング」という表現を目にする機会が増えてきました。本稿ではその概念を理解する手がかりとして、まずは従来から注目されている「プロンプト・エンジニアリング」との違いに着目しながら、両者の位置づけや関係性について整理したいと思います。

参考) 話題のAIエージェントの開発に必須な「コンテキスト・エンジニアリング」とは何か
https://note.com/masayamori/n/n343363451ccb

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Transcript

  1. 自己紹介 博報堂DYグループが目指す「人間中心のAI」の進化 アクセンチュア、楽天を経て デロイト トーマツにて先端技術・AI領域をリード(APACリード) 日本ディープラーニング協会 顧問 東京大学 共創プラットフォーム開発 顧問

    慶應義塾大学 xDignity センター アドバイザリーボード 森 正弥 (もり まさや) 博報堂DY ホールディングス 執行役員 CAIO(Chief AI Officer) / Human-Centered AI Institute 代表
  2. プロンプト・エンジニアリングの主要手法(おさらい) 1 役割の付与 「あなたは、飲料業界で多数の新商品プロ モーションを手掛けてきたプロのマーケタ ーです」と伝えることで、モデルが応答時 に専門的な視点や語彙を用いるようになる 。これは、単に「マーケティングの企画を 考えてください」と指示するよりも、より 実践的かつ深みのある出力を得やすい。

    2 少数の例の提示 「言語的説明よりも例示によって学習させ る」というアプローチであり、2~3件の入 出力例を提示することで、モデルに望まし いフォーマットや文体を暗黙的に理解させ る。たとえば、JSON形式で特定の構造を 持つ出力を得たい場合、該当例を示すこと で、意図が明確に伝わる。 3 思考の連鎖 推論過程をモデルに明示的に書き出させる ことで、応答の飛躍や漏れを防ぐ試み。「 ステップ・バイ・ステップで」「順を追っ て考えよう」といった指示を加えることで 、モデルがより論理的な展開を見せるよう になる。とりわけ複雑な課題や数理的な推 論を含む問いに対して有効性を発揮する。
  3. AIエージェントの構成要素(1-4) 1 モデル すべてのAIエージェントは、大規模言語モデル(LLM)などの基盤モデ ルを必要とする。代表的なものとしては、OpenAIのGPT、Anthropicの Claude、GoogleのGemini、またはオープンソースのLlamaやMistralなど が挙げられる。 2 外部ツール ツールとは、エージェントが外部システム──たとえばカレンダー、ファ

    イル管理、メール、データベース、APIなど──と連携するためのインタ ーフェースである。LLMはそれ自体では外部情報へのアクセスや操作を 行えないため、ツールを通じて初めて現実世界との接点を持つことがで きる。 3 知識と記憶 AIエージェントは、現在の文脈だけでなく、過去のやり取りやドメイン 知識を参照することで、より的確な応答を返すことができる。短期メモ リは直近の会話を要約し、コンテキストウィンドウ内に保持することで 、対話の一貫性を保つ。長期メモリは、ユーザーの好みや過去のやり取 り、タスク履歴などをベクトルデータベースに保存する。 4 状態管理 旅行予約や問い合わせ対応など、複数ステップを要するタスクにおいて は、途中の進行状況を把握・維持することが重要である。フライト予約 が済んだか、ホテルのチェックイン時刻が決まっているか、送迎の手配 が完了しているかなど、これらの状態を正確に記録し、文脈を保持する 。
  4. AIエージェントの構成要素(5-8) 5 音声と発話 音声による入力や出力が可能になることで、ユーザーはより自然な インタラクションを行うことができる。とりわけ高齢者支援や運転 中の操作といった状況において、音声インタフェースは利便性とア クセシビリティを大きく向上させる。 6 ガードレール これは、AIエージェントが安全かつ倫理的に動作するための制御機

    構である。たとえば、カスタマーサポートにおいて、ユーザーの挑 発的な言動に対して不適切な返答を返さないようにするなど、想定 外のリスクを回避するために設計される。 7 モニタリングと改善 AIエージェントは構築して終わりではなく、配備後もその行動ログ やユーザーとのやり取りを継続的に観察し、パフォーマンスや精度 、応答品質を分析して改善していく必要がある。運用環境での実証 を重ねることで、モデルの調整やプロンプト、ツール接続の改善が 実現される。 8 オーケストレーション これは、複数のAIエージェントが目的達成のために連携しながら動 作する設計思想を指す。たとえば、旅行予約に関わるエージェント と、経費精算に関わるエージェントが連携して行動するような場合 、それぞれのタスクを切り分けつつ、共通の文脈を維持し続けるた めのコンテキスト共有が欠かせない。
  5. コンテキスト・エンジニアの役割 構成要素の整理 AIエージェントに求められる構成要素──ツ ールの仕様、記憶へのアクセス、知識ベース の適用範囲、音声入出力の発動条件など── を整理する 連携方法の記述 それらをどのように連携させるかを正確に記 述するプロンプトを設計する 取扱説明書の作成

    こうして作成されたプロンプトは、エージェ ントにとっての「取扱説明書」となり、内在 する能力を効果的に引き出すための基盤とな る このプロンプト設計は一朝一夕には完成しない。多くの場合、理想的な構成に到達するまでには試行錯誤を要する。そのため、コンテキスト・エン ジニアリングには一定の時間と熟慮が求められる。
  6. Augment Codeの機能 高度な支援機能 デバッグ、テストコードの生成、リフ ァクタリング、あるいは大規模なコー ドベースのナビゲーション支援を提供 する。 クラウドエージェント 開発者がノートPCを閉じている間でも 、テスト修正やリファクタリングなど

    のタスクが自動的に進行する。 セキュリティと互換性 ISOおよびSOC 2認証を取得しており 、顧客のコードを学習データに使用し ない。対応するIDEも多岐にわたり、 VS Code、JetBrains、Vim、Cursorな どが利用可能。
  7. プロンプトとコンテキストの関係 プロンプト・エンジニアリング 「問いを設計する技術」 • AIとの対話の質を高める • 単一の会話や質問に焦点 • 出力の形式や内容を調整 コンテキスト・エンジニアリング

    「仕組みを構築する技術」 • 対話を成立させる文脈と環境を整備 • システム全体の設計に関わる • 複数の情報源を統合 この二つの技術が相互に補完し合うことで、AIエージェントはより柔軟かつ的確に振る舞うようになり、現実のタスク遂行においても最適な結 果をもたらす可能性が高まる。