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AIと働く実践 Agentがあなたの生産性を上げてくれない理由

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September 18, 2026

 AIと働く実践 Agentがあなたの生産性を上げてくれない理由

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September 18, 2026

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  1. DX & AI フォーラム 2026 東京 AIと働く実践 ー Agentがあなたの生産性を上げてくれない 理由

    2026年9月18日 データサイエンティス ト 尾崎 大晟 許諾なく撮影や第三者 への開示を禁止します ©︎MATSUO INSTITUTE, INC.
  2. 自己紹介 所属 株式会社 松尾研究所 データサイエンティスト 東京大学 松尾岩澤研究室 学術専門職員 大阪公立大学大学院 博士後期

    DynamicsDesign研究室 来歴 2023年:大阪公立大学工学研究科 修士課程 入学 2025年:同大学 博士後期課程 入学 2025年:東京大学及び株式会社松尾研究所 入職 学会 EMNLP / NAACL / AAAI / CHI / JSAI (優秀賞*2) / NLP その他 NLP & JSAI 若手の会委員 / GENIAC / AKATSUKI etc… 研究領域 VLM・LLMの開発 / LLM Agent 応用 Ozaki Taisei (尾崎 大晟) 10B級LLMのフルスクラッチ開発を主導 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. スポーツコーチングAgentを研究 2
  3. 松尾研究所について 「松尾研」の構成要 素 「変化の連鎖」が生まれるエコシステムを 創る 基礎研究・講義提供を担う 伴走 応用研究・社会実装を担う Our Mission

    Our Vision 松尾研の成果を産業界に繋げ 社会の発展に貢献していく 先駆者を育み,時代を変える エコシステムを創る ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 3
  4. Agentは十分に賢い.それでも生産性が上がらないのはなぜか ▼ 足りないのは賢さではない 本日の流れ 1 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 5
  5. 賢いモデルが生産性を上げるのではない 生成AIはほぼすべての生産活動を代替しうる水準に達し,業務の現場に入って久しい. しかし実際にはレビュー時間の増加と認知負荷によって効率化は限定的で,むしろ逆効果となる場合もあ る. AGIクラスのAIの登場 結局作業時間は変わってない? 情報整理 実作業 まとめ レビュ

    ー 改善 AI以前 AI導入後 アウトプット までは短縮 AIが50%の確率で完遂できる作業の長さ(人間の所要時間)|METR レビュー時間 が長大化 コード量が増えても,人の承認が詰まる 2026.04.07 Claude Mythos Preview|限定提供 PRマージ数 レビュー時間 2026.09.03 GPT-6 Astra|OpenAI発表 +98% +91% 10,000人超・1,255チームの観測データ.因果を示す実験ではな い. 出典:METR『Measuring AI Ability to Complete Long Software Tasks』(2025-03-19)https://metr.org/blog/2025-03-19-measuring-ai-ability-to-complete-long-tasks/ Faros AI『The AI Productivity Paradox Report 2025』(2025)https://www.faros.ai/blog/ai-software-engineering モデル発表:Anthropic(2026-04-07)https://www.anthropic.com/research/mythos-preview / OpenAI(2026-09-03)https://openai.com/index/safety-overview-gpt-6-astra/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 6
  6. ModelをAgentに変えるHarness “Harness(ハーネス)”の登場はAgent時代の幕開けを意味した.旧来のWebUIとは一線を画する. Harnessによって,AIはコーディングに留まらず自律的に動き,業務の中へ本格的に入り込んだ. ハーネスとは? Claude CodeやCodexの登場 AIエージェント = モデル +

    ハーネ モデルは誰でも同じものが使え ス 差がつくのは Web版のチャット る (ChatGPT,Claude) モデル外側の設計 資料を コピペ 人 チャット 人が貼付・ 実行・確認 コンテキストと成果物を運ぶのは人 Claude Code/Codex(Agent) 人 依頼 Agent 読む・書 く 実行 Web 検証 読んで,実行し,確かめる AIが自分で取りに行き,自分で確かめる 出典:Viv Trivedy『The Anatomy of an Agent Harness』https://blog.langchain.com/the-anatomy-of-an-agent-harness/ / Addy Osmani『Agent Harness Engineering』https://addyosmani.com/blog/agent-harness-engineering/ 松尾研究所 社内資料『AI時代における競争優位性構築に向けた考え方』 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 7
  7. Harnessはエンジニアのためだけのものではない “ハーネスエンジニアリングが重要”と言われる.エンジニア向けの話と思われがちだが,そうではない. Agentとの協調で効くのは,モデルの賢さ以上に,渡すコンテキストとツールである.全ユーザーに通ず る. ハーネスエンジニアリングとは? コンテキストエンジニアリングとは? 望ましい振る舞いから逆算して, モデルの外側の仕組みを設計すること 望ましい振る舞い 仕組み

    実データを 永続的に扱いたい Filesystem + Git 何をどう制御すれば, 安定して完遂・改善できるか Harness Context 何を見せれば, 正しく判断できるか Prompt Engineering どう指示すれば,望む出力になるか 新しい知識を 記憶し参照したい 長い文脈でも 性能を保ちたい Memory Files + Web Search + MCP 全ユーザーの仕事:業務を知る人が 「何を見せるか」を決める Compaction + Skills 出典:Viv Trivedy『The Anatomy of an Agent Harness』https://blog.langchain.com/the-anatomy-of-an-agent-harness/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 8
  8. 新入社員が会社にオンボーディングする過程にヒントがある 新入社員が優秀な部下になる過程では,会社のお作法,誰に何をどの形式で報告するか, その業務における良い仕事とは何かが業務の中で渡されていく.Agentに対しても同じことをすればよい. 新入社員に渡しているもの 社内知識を持つAgentが輝く 新入社員に渡すもの Agentに渡すもの 会社のお作法 ルールの文書 テンプレート・書式・用語

    AGENTS.mdなど 15種類の社内業務関連業務についてのQ&Aを3条件で解く ①社内情報を持たない状態のAI ②社内情報が保存されたNotionを検索するAI ③社内知識が定義されたSkillsを持つAI 正解率 87.3% 報告のしかた 権限と道具 誰に・何を・どの形式で どこを読み,どこに書くか 過去の資料と経緯 ナレッジベース 良い仕事の基準 評価基準(Eval) 96.0% 33.0% 社内知識なし Notion検索 Skills参照 出典:浮田純平「AI Agentに社内知識をオンボーディングする:SkillsとEvalの設計」松尾研究所 Zenn(2026-08-20) URL:https://zenn.dev/mkj/articles/aad5698672aef3 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 10
  9. あなたが持つ情報を過不足なくAgentにも与える 人間側の暗黙知やコンテキストが大量に要求される領域では,AIが極端にパフォーマンスを落とす. 人間が頭の中や組織内に抱えている背景情報がAgentに見えていないことが,自律性の最大の制約となる. 人が見ているもの 画面・ファイル 頭の中の基準 チャット 人 過去の経緯 会議の空気

    “Context is a critical but finite resource for AI agents." コンテキストは重要だが有限の資源である. Agentに見えているもの “there is a lot of intrinsic information … Claude will not have by default" 人が持つ固有情報を,Claudeは初期状態では持たない. 渡されたプロンプトだけ 如何にしてAgentにユーザーの固有情報を与えるか →与えることが,業務を任せる出発点になる. 同じものを見せて初めて,同じ仕事を任せられる 出典:Effective context engineering for AI agents, https://www.anthropic.com/engineering/effective-context-engineering-for-ai-agents How AI is transforming work at Anthropic, https://www.anthropic.com/research/how-ai-is-transforming-work-at-anthropic ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 11
  10. 同じものを見せて初めて,同じ仕事を任せられる.では,何を見せるか ▼ 渡すべきコンテキストは評価基準 本日の流れ 2 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 12
  11. 完了の定義がなければズレは見つからない 優秀な部下の“それっぽい”は体裁も論理も整って見える.前提のずれや根拠の欠落は読み込むまで見えな い. 何を完了とするかを先に定めれば,ズレは照合で見つかる.この完了の定義が評価基準である. ズレは読み込むまで見えない 完了の定義=評価基準 例:経営会議スライドの完了条件(指摘 5 つを基準の形に書く) すぐ見える

    体裁が整っている 論理の流れが通っている 分量も十分 ✓ 会社テンプレートで作る ✓ 決議事項を表紙に置く 読み込まないと見えない 前提が社内事情とずれる 数字の根拠がない 過去の経緯がない 決めてほしい相手と内容が無い ✓ 数字に出典を付ける ✓ 前提は社内の実数を使う ✓ 情報区分を規程に対応させる 評価基準= 何ができれば仕事として完了するのかの定義 出典:OpenAI「企業の AI 活用を次のフェーズへと進める evals の力」(2025-11-19)https://openai.com/ja-JP/index/evals-drive-next-chapter-of-ai/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 13
  12. 改善のループは評価基準の共有によって初めて回る 何度やり直させても,良否を判断する基準が上司と食い違えば,修正のたびに別の方向へ進む. 基準を共有した部下は自分で直せる.AIの学習も同じで,何を良しとするか(報酬)が行動を形づくる. 改善のループ 運用 AIエージェントを現場導入 部下でも,AIでも同じ データ蓄積 トレースをキュレートし Golden

    Dataとして蓄積 部下 基準を共有して初めて,自分で直せる. AI 何を良しとするか(報酬)が,行動を形づくる. ハーネス設計・改善 よりタスク成功率を上げるため に ハーネスを改善 評価基盤(Evals) Evalsを使い性能を評価 どちらも 基準が食い違えば,修正のたびに別の方向へ進む. これまでは,人の頭の中の基準で回していた. ここに評価基準が要る.無ければループは止まる. 出典:角谷「AI時代の競争優位はどこに宿るのか:PL思考からBS思考の投資へ ②」松尾研究所 Zenn(2026-08-07) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 14
  13. その評価基準はどこにも書かれていない 「この構成では役員会を通らない」「数字は出典がないと差し戻される」.判断できる人には自明な基準 が, 形式知としては存在しない.渡そうとして初めて,評価基準が暗黙知であったことがわかる. 頭の中にある基準の例 企業の長年の課題 暗黙知へ この構成では役員会を通らない 暗 黙

    知 か ら 数字には必ず出典を付ける 判断できる上司 社内 マニュアル 結論は1枚目に書く 昨年の差し戻し理由を踏まえる 競合の社名は出さない 形 式 知 か ら 形式知へ 共同化 表出化 暗黙知 → 暗黙知 暗黙知 → 形式知 内面化 連結化 形式知 → 暗黙知 形式知 → 形式知 表出化が,いちばん難しく,いちばん止まりやすい. 判断できる人には自明. だから,どこにも書かれない. 出典:SECIモデル,https://ja.wikipedia.org/wiki/SECI%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB 出典:野中郁次郎・竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済新報社,1996) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 15
  14. 評価基準は判断できる人の頭の中にあり,どこにも書かれていない ▼ 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 本日の流れ 3 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 16
  15. 最初はうまくいくことも多い 有志が役立ちそうな資料を集め,分類し,マニュアル化するところまで進めることはある. 日々の業務に追われて情報の追加や保守が滞り,発起人の退職なども重なって形骸化する. 有志が進めるところまで 1 2 集める 分類する 継続が難しい 使われる度合い

    ✓ イメージ 1 ✓ 2 形骸化 3 3 マニュアルにする ✓ 有志 チーム 作成直後 立ち上げの熱量で,ここまでは進む. ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 半年 1年 2年 1 新しい情報が足されない 2 直す人がいない 3 発起人の異動・退職 18
  16. コストを払っても,書き出せない暗黙知が残る 意識して辿れる判断は,時間さえかければ書き出せる.システム2が担う側の暗黙知である. 熟練者の直感的な判断(システム1)は書き出せない.規則を問えば,規則に頼っていた段階へ引き戻さ れる. システム2=考えて辿れる システム1=直感が下す 例:見積もりの作り方 1 この顧客は 危ない気がする

    この資料,なんか弱 い 過去の類似案件を探す なぜがうまく言えない 2 工数を積み上げる 3 リスクの係数を掛ける 4 上長の承認 初心者 規則に従う 中級者 上級者 熟練者 達人 論理思考が直感化 ✓ 手順書にできる 出典:Dreyfus & Dreyfus『Mind Over Machine』(1986)技能習得の5段階モデル ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 20
  17. 書き起こす負担が人に残り,書き出せない判断も残った.まず負担から崩す ▼ AIと作るナレッジベース 本日の流れ 4 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 21
  18. AIが編纂するwikiは,使うほど価値が積み上がる Agentの登場により,AIに記憶庫(knowledge base)を与え,その中で動いてもらえるようになった. KarpathyのLLM-Wikiがその型を示した.人は資料を置き,編纂と保守はAIが担う.wikiは使うほど育つ. LLM-Wiki の型(Karpathy) 何が新しいか 書くのはAI 人は生の資料を置き,問いを投げる.編纂・分類・点検はAIが担 う.

    製品ではなくファイル Markdownのフォルダが1つあればよい. 閲覧ツールもAgentも後から替えられる. 生の資料 変更しない LLM が編纂 wiki Markdown 使うほど育つ 読まれ,問われ,直されるたびにwikiが更新される.価値が積み 上がる成果物になる. ▪ schema:AGENTS.md 等が構造と操作を定める ▪ 操作:取り込み,問い合わせ,点検.閲覧は Obsidian 等 “the wiki is a persistent, compounding artifact.” 「wiki は,持続的に価値が積み上がる成果物である」 Google Cloud は 2026-06 にこの型を Open Knowledge Format(OKF)として公開した.vendor-neutral な共通形式. 出典:Karpathy『LLM Wiki』GitHub Gist(2026-04-04)https://gist.github.com/karpathy/442a6bf555914893e9891c11519de94f 出典:Google Cloud Blog『Introducing the Open Knowledge Format』(2026-06-12)https://cloud.google.com/blog/products/data-analytics/how-the-open-knowledge-format-can-improve-data-sharing ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 22
  19. 決めるべきは製品ではなく知識の置き方である AIが読むのはノートアプリの画面ではなく,保存されたファイルである.ノートアプリの起動は要らない. 先に定めるのは,どこに何をどの形式で置くかという取り決めである.揃えば製品は後から交換できる. キラーアプリがあるわけではない ✕ Obsidian を入れないといけない ✕ VS Code

    が要る オントロジー 出典:Palantir Foundry Documentation『Introductory concepts』(Object Layer の節) ✕ ターミナルが使えないと無理 ✓ ChatGPT のアプリと, フォルダ1つで始められる “The definitions of objects, links, and actions together make up what is called the Ontology.” 顧客 担当 提案 担当者 評価基準 根拠 提案書 経緯 過去の差し戻し 何を,どこに,どの形式で置くかの設計図 出典:Palantir『Introductory concepts』(閲覧2026-09-15)https://www.palantir.com/docs/foundry/getting-started/introductory-concepts ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 25
  20. 超簡単なAI-enhancedなKnowledge Base作り ChatGPTのアプリで作業フォルダを開き,この一文を頼むだけで,情報の置き場と取り決めができあがる. 専用の製品は要らない.フォルダ1つと,何をどこに置くかを定めたAGENTS.mdから始める. 1 アプリを入れる 2 フォルダ フォルダを 1つ選ぶ

    ChatGPT のアプリで 作業フォルダを開く 3 この一文を頼む 「ここにPKBを作りたい. 日々の業務の情報を格納す る ためのフォルダ。 それを使って何らかアウト プット する用の作業フォルダ。 そして、私との会話を通し て 暗黙知を取り出し、 その暗黙知を格納するため の フォルダ。 そして、これらを実践する ための スキーマファイル (AGENTS.mdなど) を 作ってください。」 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 4 できあがるもの my-pkb/ ├ AGENTS.md 取り決め ├ README.md ├ 00_inbox 受け皿 ├ 10_operations 業務 ├ 20_workbench 作業 ├ 30_tacit_knowledge 暗黙知 └ 90_system スキーマ 同じ依頼を Agent に投げて生成されたフォルダ(出力例) AGENTS.md は, 情報の置き場所と 成果物づくりの手順を定める 26
  21. 書き起こさないまま,評価基準が蓄積されていく 「この構成では通らない.昨年これで差し戻された」.AIの案を修正する際,人は理由を自然に口にする. 記録を目的として書いたものではない.修正のために出た言葉が,そのまま文脈として残る. FBに染み出る暗黙知 スキーマの重要性 AI 構成案です 背景 → 課題

    → 提案 → 効果 人 この構成では通らない. 昨年これで差し戻された.役員会は結論 が先 AI ルールとして残します rules/経営会議資料の評価基準.md ↓ 「役員会資料は結論 → 根拠 → リスクの順」 ① 対話から 取り出す決まり my-pkb/ ├ AGENTS.md 取り決め ├ .claude/ 設定 ├ .codex/ 設定 ├ rules/ 判断基準 └ skills/ 手順 ② KBに 整理する決まり ③ 成果物に 再利用する決まり 別の構成例.rules/ は26枚目の 30_tacit_knowledge に当たる AGENTS.md が重視されるのは, この3つを書く場所だから ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 28
  22. 使うほど自社に馴染み,馴染むほど使われる 修正の理由が蓄積するほど,Agentの出力は自社の業務に馴染み,任せられる範囲も広がっていく. 資産である理由は蓄積そのものではなく,蓄積するほど効果が増すという性質にある. 回り続ける仕組み 運用 AIエージェントを現場導 入 現場運用でのトレースや人間による フィードバックなどをキュレートし 収集

    ハーネス設計・改善 蓄積データを基に ハーネスを改善 よりタスク成功率を 上げるためにハーネスを 改善 評価結果を基に ハーネスを改善 評価基盤(Evals) データ蓄積 トレースをキュレートし Golden Dataとして蓄積 直した理由が ここに溜まり, 評価基準になる Evalsの改善 Evalsを使い性能を評価 モデル学習 蓄積データを活用し モデルを学習 Golden Dataが増えてきた& ハーネス改善では性能に 限界がありそうな場合(ex.システム1的暗黙知) 出典:角谷「AI時代の競争優位はどこに宿るのか:PL思考からBS思考の投資へ ②」松尾研究所 Zenn(2026-08-07) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 29
  23. 直した理由が溜まり,使うほど馴染む.この蓄積は誰のものか ▼ ナレッジベースは自社にしかない資産になる 本日の流れ 5 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 30
  24. 人的資本は借りるしかなく構造資本は所有できる 人の中にある知識を会社の資産へ変換することは,AI以前から続く経営課題である. 人材は退職とともに失われるが,構造として残した分だけは組織に蓄積され,次の担い手が使える. 人的資本=借りるもの 構造資本=持てるもの 人的資本 構造資本 概要 人に宿る能力・ 経験・意欲

    組織に残る 仕組み化された知 例 スキル・暗黙知・ 判断力 特許・ソフトウェア・ 業務プロセス・型 性質 退職で流出 借りる(雇う)ことしかできない 人が辞めても残る 会社が所有できる 「人的資本は所有できず、借りる(雇う)ことしかできない。一方、構造資本は企業が所有できる。」 レイフ・エドビンソン(吉岡「AI時代の競争優位はどこに宿るのか」より) 出典:吉岡「AI時代の競争優位はどこに宿るのか:PL思考からBS思考の投資へ」松尾研究所 Zenn(2026-07-09) URL:https://zenn.dev/mkj/articles/628742c785c51b ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 31
  25. 型は買えるが,中身は自社の業務からしか生まれない 揃えるべきはモデル,型(スキーマ),ツール,データの4つ.前の3つは市場から同じものを調達できる. 資産の条件は,モデルの進化で陳腐化せず,市場で調達できないこと.自社固有のデータがこれを満たす. 揃える4つ モデル 資産の条件 AIアプリケーション 短期間で陳腐化・代替されやすい API・公開モデル 下支えする仕組み

    独自データと暗黙知を積み上げる 型 (スキーマ) AGENTS.md の書式・プロンプトの 型 ツール MCP・SaaS データ 業務の記録・修正の理由・基準と手 順 型と部品は市場にある.中身は自社の記録から モデル モデルの進化で 陳腐化しない × 市場で 調達できない × 型 ◦ × ツール ◦ × データ ◦ ◦ AGENTS.md や Skills の書式は共通.そこに書く評価基 準や手順は,自社の業務の記録から作る. 出典:吉岡「AI時代の競争優位はどこに宿るのか:PL思考からBS思考の投資へ」松尾研究所 Zenn(2026-07-09) ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 32
  26. 業務プロセスの見直しにむけて ▼ AIと働く時代の責任問題 本日の流れ 6 / 7 1 足りないのは賢さではない 2

    渡すべきコンテキストは評価基準 3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 34
  27. 責任は動かない.関わり方が部下と同じになる AIの出力が増えるほど,人が全件を見て品質を保証するやり方は続かない. 上司が部下の出力を全件見ないのと同じで,育てて基準を渡すほど,確認は要点だけで足りる. 部下を育てるときと同じ形 部下 新人 会社のお作法と良い仕事の基準を OJTで渡す 一人前 Agent

    素のAgent Evalsと社内コンテキストを 十二分に作り込む 任せられる水準 育てる前:全件を見る 確認の量 育てたあと:要点だけ 抜き取りと,失敗が痛いところだけを見る 責任の所在は動かない.人が頑張る場所が,全件確認から計画・要件定義・仕様へ移る ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 35
  28. どこまで任せられるかは,正しさと失敗コストで決まる 正解を定義して確かめられるか,失敗したときの損失はどれほどか.この二つで任せ方と確認の形が変わ る. 同じ部下でも,やり直せる仕事と失敗が痛い仕事では任せ方が違うのと同じである. 任せ方の見取り図 大 Human in the Loop

    人間 独立した検証を挟み,権限を絞る 任せる範囲を絞り,判断点を決める 規程に関わる書類,顧客への送信 価格や取引の判断,人事評価 AI+ルールベース Human in the Loop まとめて任せ,自動で検証する 小さく試し,基準を育てる 定型の資料作成,議事録,コード 調査,アイデア出し,下書き 失敗時のコスト 小 可 不可 答えの定義 今日の話は,右の仕事を左へ動かす営み.基準を書けば,定義できる仕事が増える. ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 36
  29. ▼ まとめ 本日の流れ 7 / 7 1 足りないのは賢さではない 2 渡すべきコンテキストは評価基準

    3 暗黙知はなぜ外に出なかったのか 4 AIと作るナレッジベース 5 ナレッジベースは自社にしかない資産になる 6 AIと働く時代の責任問題 7 まとめ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 37
  30. まとめ 優秀な部下でも,会社のお作法や良い仕事の基準を知らなければ期待どおりに働けない.文脈の共有が要 る. 部下として認め,背景と評価基準を渡したうえで,任せる範囲と確かめ方を決める. 1 足りないのは賢さではなく,コンテキスト 2 渡すべきコンテキストの核心は,評価基準 3 評価基準は,AI

    と働くなかで染み出し,資産になる 優秀な新入社員に,会社のお作法と背景を渡す 基準を共有して初めて,AI は自分で直せる ナレッジベースに残り,使うほど馴染む Agentがあなたの生産性を上げてくれない理由は,賢さ不足ではない 評価基準が渡っておらず,任せ方も人が全件を見る形のままだからである ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 38
  31. KBはAX2,任せ方の刷新はAX3に当たる 段階は5つ.生成AIの導入から始まり,社内データの連携・統合,業務プロセスの刷新へと続く. ナレッジベースは2段目にあたる.3段目ではAI社員を運用し,4段目では自社固有のモデルを育てる. AX5段階と今日の位置 AX1 生成AI導入 目的 具体イメージ 定量的な効果よりもまずはAIを 使ってもらうことが目的

    AIツール導入・個人業務活用 主たる価値仮説 CV (現在価値) AX2 業務における生産性が向上し 社内データ連携・統合 施策単位でROIが出ることを目指す RAG等による自社データ活 用・ 業務への組み込み AX3 業務プロセス刷新 業務/部門/全社単位でROIが 出ており,経営指標にもインパク ト AIとの協働を前提とした 業務プロセスの再設計 AX3:AI社員 AX4 AIによる競合優位性確 立 模倣困難な知能資本を蓄積し 競争力の源泉になる 競争力源泉の頭脳として 自社固有AIを開発 AX4:固有モデ ル 事業パラダイム変革 蓄積した資産を起点に事業モデル の 転換・外部への展開まで進む 垂直LLM等サプライチェーン も含め大規模横展開 AX5 本日の話:KB FV (将来価値) 出典:AXエバンジェリスト講座 https://weblab.t.u-tokyo.ac.jp/lecture/course-list/axel/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 39
  32. 明日から,自分の1業務でナレッジベースを作る 最も多く作成している成果物を1種類選び,何が揃えば業務で使えるのかを評価基準として書き出す. あとは普段どおり依頼し,修正の理由を残していく.道具は手元のもので足りる. 明日やること 1 ChatGPT のアプリを入れ, フォルダを1つ作る 2 いちばん多く作る成果物を

    1つ選ぶ 3 「何が揃えば使えるか」を 言える分だけ書く 4 普段どおり頼み, 直した理由を残す 調べること スキーマ(AGENTS.md)の書き方 何を,どこに,どう置くかの取り決め. 最初の一歩:ナレッジベースのフォルダの一番上に AGENTS.md を置く 社内の情報の扱い 情報管理規程・契約・学習利用の設定を確認する. 最初の一歩:規程の「生成 AI」の項を探す 出典:OpenAI「ChatGPT is now a partner for your most ambitious work」(2026-07-09)openai.com/index/chatgpt-for-your-most-ambitious-work/ AGENTS.md 公式サイト(参照 2026-09-15)agents.md/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 40
  33. 部下として扱う以上,認証と認可が必要になる 人と同じ文脈を渡さなければ同じ成果は得られない.一方で,何でも渡せるほど安全な環境でもない. 誰の指示で動き,どの情報を読み,何を変更してよいか.人に任せる場合と同様に権限を定める. Agentの認証・認可 渡して良い情報を決める 公開情報 承認済みのサービス 社内情報 法人契約・学習利用なし 機密情報

    社内の閉じた環境・自社LLM 法人向けでは入力・出力を既定で学習に使わない OpenAI Business/Enterprise・Anthropic Commercial オープンモデルの台頭 「discover, onboard, protect, and govern」 Agent を人と同じく,所有者と最小権限で管理する 人間の認証認可だけでなく,Agentの認証認可も行うツールの登場 自社で強力なモデルを 持つのが最もセキュア その分コストが莫大 出典:Artificial Analysis,Intelligence Index v4.1 大手クラウドベンダーもAgentの認証・認可・監査を提供 出典:OpenAI(2026-01-08)openai.com/enterprise-privacy/ ・ Anthropic(2026-03-16)privacy.claude.com/…/7996885 Okta(参照 2026-09-15)okta.com/products/govern-ai-agent-identity/ ・ Entra(参照 2026-09-15)learn.microsoft.com/entra/agent-id Artificial Analysis,Kimi K3(2026-07)artificialanalysis.ai/articles/kimi-k3-achieves-3… ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 42
  34. 外部の文章に紛れた命令を警戒する 外部ページの文章に,Agentを誤作動させる命令が紛れることがある.プロンプトインジェクションであ る. 読ませる範囲と実行できる操作を定め,重要な操作は人が確認する. 何が起きるのか いまできる備え Web ページ 関所① 読ませるサイトを許可リストで絞る

    AI Agent 関所③ 権限は 業務に必要な分だけ 関所② 送信・購入は人が承認 社内のファイルとシステム 公開事例 Perplexity Comet(2025-08-20) AIブラウザがユーザーの命令とは別にWeb本文の隠された命令を実 行し, 別タブでユーザーのメールアカウントにアクセスした事例 読んだ内容は「指示」ではなく 「資料」として扱う 出典:Brave,Indirect Prompt Injection in Perplexity Comet(2025-08-20)https://brave.com/blog/comet-prompt-injection/ OWASP LLM01:2025 Prompt Injection https://genai.owasp.org/llmrisk/llm01-prompt-injection/ ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 43
  35. 蓄積した文脈は,いずれモデルの内部へ移る 書き出せた暗黙知はコンテキストとして渡せる.書き出せない側は,入出力の例や修正の記録として残す. その記録を学習に使い,モデル自体を更新し続ける.これが継続学習であり,次のパラダイムとなる. ハーネス改善 モデル改善 システム2 暗黙知 システム1 形式知化 毎回

    コンテキスト へ 汎用 モデル 暗黙知 モデル自体は学習しない 書き出せた暗黙知(システム2)は, コンテキストとして渡る 入出力対 ・選好 試行錯誤 モデル自体 が学習 重みのレベルで学習 書き出せない暗黙知(システム1)は, 入力と出力の対から学ばせる モデルを替えても,文脈は手元に残る 使うたびに学び続ける=継続学習 出典:松尾研究所 社内資料『AI時代における競争優位性構築に向けた考え方』31頁 ©︎MATSUO INSTITUTE, INC. 44