ぶ──かつて当たり前だったこうした自然 体験が、 いまでは多くの子どもたちの生活 から姿を消しつつある。 実際、 日本を含む 高所得国では、 登山や昆虫採集、 野鳥観 察といった体験を一度も経験したことがな い若者の割合が年々増えている*¹。 この 背景には、 都市化の進展、 身近な動植物 の減少、 そして子どもを取り巻く生活環境 の変化 (安全面に対する過度な配慮、 自由 時間の減少等) など、 さまざまな要因が複 雑に絡み合うと考えられている*²。 こうした、 人々が日常の中で自然とふれ あう機会を失っていく現象は 「経験の消失 (extinction of experience) 」 と呼ばれ る*²。 人類史を振り返れば、 時代の変化と ともに多くの経験が失われてきた──狩 猟や火起こ し、 星を頼りに方角を知る といっ た営みのように。 しかし、 それらの多くは 技術や文明の発展とともに不要となった 経験であり、 失われても大きな問題とはな らなかった。 だが、 自然とのかかわりの喪 失はそれらと異なる。 自然にふれる機会 を失うことは、 心身の健康やウェルビーイ ングに影響するだけでなく、 生物多様性 保全への関心や行動にも悪影響を及ぼす からだ*³。 最近の研究によれば、 自然に親しむ機 会が少ない人は、 精神的な健康状態が良 好でない傾向があり、 鬱症状や循環器 ・ 免 疫系への影響も報告されている。 この現 象は 「自然欠乏症候群」 とも呼ばれる。 ま た、 自然にふれる機会の少ない人は、 自然 に対する肯定的な感情や行動が減る一方 で、 過剰な恐怖や嫌悪感といったネガティ ブな態度を抱きやすく、 生態系の保全活 動に消極的になることも知られている。 つ まり、 経験の消失は個人の問題に留まら ず、 社会や地球規模の環境課題にもつな がる重要な問題なのである。 こうした影響が学術的に明らかになる につれ、 経験の消失をどう防ぐかが社会 的 ・ 学術的に大きな関心事となっている。 自然体験を増やすためには、 自然とふれ あう 「機会」 と 「意欲」 の両方を高めること が不可欠であり、 どのようにしてそれを実 現するかが課題となる。 この観点から見 れば、 SANU 2nd Home には大きな可 能性がある。 大自然に身を置くことが難し い現代人でも、 魅力的な場所で手軽に自 然にふれる体験を提供することで、 滞在 そのもののモチベーションを高め、 自然と の関わりを取り戻す助けになるからだ。 *1 Soga, M. & Gaston, K. J. (2023) Nature benefit hypothesis: Direct experiences of nature predict selfʖreported proʖbiodiversity behaviors. Conservation Letters, 16, e12945. *2 Soga, M. & Gaston, K. J. (2016) Extinction of experience: the loss of human–nature interactions. Frontiers in Ecology and the Environment, 14, 94-101. *3 Soga, M. & Gaston, K. J. (2022) Towards a unified understanding of human–nature interactions. Nature Sustainability, 5, 374-383. •寄稿 東京大学大学院 農学生命科学研究科/准教授 曽我昌史 2019年11月より現職。 専門は生態学だ が、 その他に環境心理学や都市計画学、 公衆衛生学にも精通し、 人と自然の相互 作用に関する学際的な研究に従事。 Regenerative Action Report 2026 34 Chapter 1