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20210324 第3回全国リビングラボネットワーク会議 基調講演

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September 10, 2025

20210324 第3回全国リビングラボネットワーク会議 基調講演

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Kimura Atsunobu

September 10, 2025
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  1. 3 リビングラボが求められる社会背景:地方自治体の変化 地方自治体の運営は限界を迎える。持続可能な形で住民サービスを提供し続けるために、ICT活用によ る「スマート自治体への転換」と、公共私(自治体・コミュニティ・民間企業等)の連携による自治体の 「プラットフォーム・ビルダー化」が必須 ※自治体戦略2040構想(総務省、2018) スマート自治体への転換 • 新たな自治体や国の施策(アプリケーション)の機能が最大限発揮でき るような自治体行政(OS)の大胆な書き換えが必要

    • 破壊的技術(AI・ロボティクス等)を使いこなす自治体へ 公共私によるくらしの維持 (自治体のプラットフォームビルダー化) • 自治体は新しい公共私相互間の協力関係を構築する「プラットフォーム・ビ ルダー化」が必要:公 • くらしを支えるための地域を基盤とした新たな法人が必要:共 • 全国一律の規制見直し、シェアリングエコノミー等の環境整備の必要性:私 減少する地方公務員 ひっ迫する財政 増加するインフラ更新費用 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  2. 5 5 暮らしのビジョン 暮らしを支える サービス・政策・コミュニティ サービス・政策の土台となる 新しい社会のデザイン(地域経営) 新しい合理性の発見 新しい価値の発見 変化・共創の仕組み

    リビングラボ 「変えていける社会をつくる」共創の仕組み:リビングラボ ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved. サービス 政策 コミュニティ
  3. 6 新しい社会のデザインの例として 合理性・効率性を重視する現行の社会の課題を目指すのか 人間のWell-beingを重視する新しい社会の課題を目指すのか 病院の現状 (As is) 15分滞在で診察・ 治療が終わる (To

    be) 現課題 現行の医療システムを 前提とした問題解決 新課題 新しい医療のあり方を 構想した上での価値創出 普段の生活のよう に振る舞う中で診 察・治療が進む (To be) 長い待ち時間を 解消 患者としての振る舞いを 強制する空間を解消 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  4. 7 社会の潮流を踏まえた社会のデザインのモデル構築の実践 福祉政策起点で新しい人間観にもとづく まちづくり(パーソンセンタードシティ)を 目指す(福岡県大牟田市) 産業政策起点で日本的サスティナビリティに もとづく持続可能な社会 を目指す(奈良県奈良市) 地域住民 自治体

    企業 地域のソーシャル ワーカー等 大牟田 リビングラボ 真に解くべき課題を 探索・設定できる主体 ・奈良市在住の就業者の 約50% が市外で勤務 ・ベッドタウンとしての魅力+働く人の創造性を引き出す 文化財や自然が豊富にある特性を生かした多様な ワークプレイス(サテライトオフィス)がある地域をめざす ・子育て世代の支援 抜本的な公共私連携による解決策の創出 ・高齢化率(65歳以上人口) 36.8%※1 ※全国高齢化率 28.4%※2 ・10万人以上の都市では全国で2番目に高い 高齢化率※3 ・日本の中でも20年先をいく超高齢社会モデル都市 (一般社団法人) (一般社団法人) 地域住民 自治体 企業 奈良 リビングラボ 真に解くべき課題を 探索・設定できる主体 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved. ※1:2020年,※2:2019年,※3:2010年
  5. 10 リビングラボ構造モデル(デンマークと日本の構造的差異) 「リビングラボを、ワークショップや共創プロジェクトなどの実践の場で起きる現象 だけを見て理解する視点では、欧州と日本のリビングラボの構造的な差異を 捉えることができない」 ①実践の場 ②人々の特性 (マインドセット) ③社会システム 相互作用

    特定の特性を 持った人が参加 ※木村 (2021)「高齢者を支える技術と社会的課題」第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題、 (調査資料2020-6)国立国会図書館調査及び立法考査局 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  6. 11 リビングラボ構造モデル(デンマークと日本の構造的差異) 「リビングラボを、ワークショップや共創プロジェクトなどの実践の場で起きる現象 だけを見て理解する視点では、欧州と日本のリビングラボの構造的な差異を 捉えることができない」 ①実践の場 ②人々の特性 (マインドセット) ③社会システム Forening

    Flexicurity Hojskole 主体性 冒険性 対等性 ※木村 (2021)「高齢者を支える技術と社会的課題」第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題、 (調査資料2020-6)国立国会図書館調査及び立法考査局 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  7. 13 リビングラボの構造的差異を意識的に埋める仕組みの必要性 ②人々の特性と③社会システムを直接的に操作できない地域の現場におい て、意識的にその差異を埋める仕組みが、日本のリビングラボに有効 ①実践の場 ②人々の特性 (マインドセット) ③社会システム 相互作用 特定の特性を

    持った人が参加 ※木村 (2021)「高齢者を支える技術と社会的課題」第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題、 (調査資料2020-6)国立国会図書館調査及び立法考査局 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  8. 15 リビングラボの構造的差異を意識的に埋める仕組みの必要性 3つの仕組みの概要と事例 ①主体的に 動き出せる土壌 ②共創活動 ③総体的・連続的 に深める問い 主体性 冒険性

    対等性 概 要 主体性が内在的 に立ち上がるサ ナギ的プロセス 失敗の保障やわく わくする衝動を得 る仕組み 個人と個人のフラッ トな存在的関係があ る状況 価値を生みだす プロジェクトを 関係者同士でた ちあげる アクチュアリティを踏ま えた問いを深める仕組み をもつ 事 例 ・The New York Public Library ・芝の家 ・Forening ・欲望形成支援 など ・Flexicurity ・Hojskole ・Ars Electronicaセ ンター ・心理的安全性 ・創造的衝動 など ・わくわく人生サロ ン ・ヤンテの掟 ・ダウスオーデン (デンマークの対話 ルール) ・哲学対話 など LL研究・報告に多 数事例あり ・Ars Electronicaフェス ティバル・センター ・味本飯店(TOMOSU) ・SPACE10 など ※木村ら (2021) 地域の持続可能な発展に向けたリビングラボ概念の拡張,デザイン学会春季大会発表予定 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  9. 16 The New York Public Library 概要: 本を貸すだけでなく、コミュニティーの主要な教育機関となっていて、 教育や民主主義の考え方を推し進める存在となっている。人々が,今 社会で何が起きているかを理解でき、自ら知的な選択ができるように

    している。この図書館で見つけた文献をもとに世界初のコピー機が生 まれたことや,図書館でバレエ動画を見ていた移民男性がニューヨー ク・シティ・バレエ団の専属振付師になったエピソードがある. 主体:NYPL(1991-)(運営はニューヨーク市の助成金と民間の寄付) 共創の土壌となる活動: 移民への英語講座 ホームレスの住宅問題 子どもたちの課外授業 ネット環境のない人たちへのWifi端末の貸し出し アフリカ系の描かれ方についての講義 高齢者住民のダンス講座 成長のためのファッション図書館と題したパイロット事業 地域との関わり方: 図書館は誰もが利用できるし、社会のどんな階層の人たちもやって来 る。非常にお金のある人たちもいれば、とても貧しい人たちも、また 中間層もみんな、秩序を乱したりしない限り、この図書館を活用して いる。そのうえ司書も、誰しもに平等に接するよう訓練されている。 金持ちだからって特別な注意が払われることはないし、貧しいからと いって注意を払われないこともない 就職面接や結婚式、オーディション、卒業式、ダンス パーティーのために,ネクタイ、鞄、ハンドバッグを1回 につき3週間まで、無料で貸し出している ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  10. 17 芝の家 概要: 来訪者が誰でも自由に出入りできる地域の居場所.イベント毎にテー マはあるものの、居場所としてはどのような人でも居られる,自分も 相手も尊重できる場所を志向している。 子どもから高齢者まで誰でも訪れることができる芝の家では、過ごし 方も自由で,お母さんが子どもを連れて遊びに来たり、高齢者がお茶 を飲みながらおしゃべりを楽しんだり,日によっては近くのオフィス で働くサラリーマンが昼休みにやって来て、お弁当を食べてお茶を飲

    んでいくこともある. 主体:港区芝地区総合支所,慶応義塾大学(2008-) 共創の土壌となる活動: 「よるしば」大学生が中心になって開いている夜のお話し会 「芝のはらっぱプロジェクト」旧拠点跡地での空間造成活動 「芝の家界隈オリジナル地図作りプロジェクト」 「アロマ部」 「芝の家・まちの図書室」 「コマやけん玉、かるた、羽子板などのお正月遊び」 地域との関わり方: 結果としてこの活動は、地域の居場所になるだけでなく、次第に、来 場者が主体的に活動を始める場となっている。運営者らの事後分析研 究によると、存在が脅かされず安心して他者と過ごすことのできる居 場所とそこでの人間関係が、自己承認や自己効力感を得られる活動を 始める土壌を作る,と述べられている. ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  11. 18 Ars Electronicaフェスティバル 概要: 「アルスエレクトロニカ」とは、リンツ市が所有する公営企業、アル スエレクトロニカ社(Ars Electoronica Linz GmbH)が手掛ける、さまざ まな文化・教育事業の総称。社会的ミッションをもった事業体であり、

    リンツ市民に対する文化・教育面での社会サービスの提供が第一義の 事業目的である。現在、年間予算のうち、約3割がリンツ市からの資 金であり、残り7割は社自身の事業収益が支えている。 主体:Ars ElectronicaL(1986-) フェスティバルのテーマとして設定された問い:「アート・テクノロ ジー・ソサエティ」を軸として時代ごとの問いを探求している ・肉体要因 - 情報機械・人間 ・ネクスト・セックス - 生殖力のある余剰物の時代の性 ・グッバイプライバシー? - すばらしい新世界へようこそ ! ・ラディカルアトム - 我々の時代の錬金術師 ・エラー - 不完全の手法 地域との関わり方: フェスティバルが街中でも展示・開催され、暮らしの一部にアートや テクノロジーと溶け合う空間があることや、子どもと一緒に家族で楽 しめる体験型展示スペースにより、参加者に冒険と失敗の機会を提供 している。また、教育・文化施設では、インフォトレーナーと呼ばれ る人がおり、来場者とともに展示についての対話をし、作品の体験を 促してくれる ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  12. 19 味本飯店 概要: ひとりでに持続可能な地域や社会が生まれる場所をめざした奈良の BONCHIによるポッドキャスト。さまざまな領域の実践者や研究者が ゲストとなり,選んだ本(時代を読み解く500冊)に触発されて、時 代や社会、人や自然のことを巡る問いを、ホストと一緒に深めている。 主体:TOMOSU (2019-) 時代を読み解く問いの題材として取り上げられた書籍:新しい自然

    観・人間観など時代や社会に向けた問いを探求している ・サードプレイス−コミュニティの核になるとびきり居心地良い場所 ・べてるの家の「当事者研究」 ・突破するデザイン あふれるビジョンから最高のヒットをつくる ・南方熊楠 地球志向の比較学 ・カイエ・ソバージュ 1巻 人類最古の哲学 ・長生きできる町 ・どもる体 ・外来種は本当に悪者か?:新しい野生 THE NEW WILD 地域との関わり方: 地域の主体として,自然と調和的な循環・共生社会の実現に向けた問 いを探索・共有しつつ,共感して集まる市民や,奈良市内外の企業や クリエイター,行政の人々と共創し,奈良の暮らしの現場をより良く する活動や問いを体感できる場づくりに取り組んでいる.また,暮ら しの中の実践で深められた問いをさらに共有する循環を生み出してい る. ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.
  13. 20 リビングラボの構造的差異を意識的に埋める仕組みの必要性 活動が持続的に立ち上がっていく3つの仕組み 共創活動 総体的・連続的 に深める問い 主体的に 動き出せる土壌 やってみる どうあるべきか

    のんびりする やってみる ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved. 3つの仕組みを視野に入れることでリビングラボの可能性を広げることができる
  14. 22 リビングラボにおける生活者の役割 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved. • informant(情報提供者)

    生活者を生活の専門家として扱うスタンスともあるが、生活の専門家ではないという論点もある • tester(試験者) 既存のマーケティングアプローチと同等の扱い • contributor(サービスへの貢献者) 企画側に与えられた一部に役割を持って参画する。例えば、クラブツーリズム社のエコースタッフ (配送業務を担当) • co-creator(革新への共創者) 企画側に対してフラットな立場で主体的に参画する。例えば、初音ミクで有名なクリプトン社の N次創作者 地域 ※1 Leminen, S., Westerlund, M. & Nyström, A.-G. (2014a) ”On Becoming Creative Consumers – User Roles in Living Labs Networks“, International Journal of Technology Marketing, Vol. 9, No. 1, pp. 33-52.
  15. 23 主体的な関わり方の種類 ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved. 1. 外発的動機

    – 金銭的価値,関係性での動員・・・ 2. 客観的課題に対する内発的動機 – 技術に関心,社会課題の解決に関心,ワークショップでの議論に関心・・・ 3. 主観的課題に対する内発的動機 – 自分のわくわくを叶えたい,自分の悩みを何とかしたい・・・ ※木村 (2021)「高齢者を支える技術と社会的課題」第5章 リビングラボの可能性と日本における構造的課題、 (調査資料2020-6)国立国会図書館調査及び立法考査局
  16. 24 リビングラボの活動主体 ②行政サービス改善 (enabler-driven) -住民・NPOと自治体の関係性構築 -陳情や自治体の政策エビデンス獲得 -地域としての政策イノベーション by自治体・住民/NPO etc. ①サービス・技術開発

    (utilizer-driven) -サービス検証 -サービスイノベーション創出 by民間企業・大学etc. ③地域活性化 (user-driven) -地域関係者のつながり形成 -地域のにぎわいづくり(イベント) -持続的な住民生活の問題解決・価値向上 by住民/NPO・デベロッパー・自治体 etc. ※Leminen, S., Westerlund, M., & Nystrom, A. G.(2012).Living Labs as open open-innovation networks, Technology Innovation Management Review Review. ④方法論研究 (provider-driven) -方法論の実践 -方法論の体系化と展開 By大学・研究機関 etc. ©2021 Atsunobu Kimura, All rights reserved.