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2022知識社会マネジメント6_0520.pdf

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東京大学大学院技術経営戦略学専攻2022年度講義資料

Hajime Sasaki

May 20, 2022
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  1. TMI夏学期講義⾦曜2限 知識社会マネジメント Innovation management in the knowledge society 5⽉20⽇ 第6回

    Society5.0は⼈間中⼼な社会となれるか 佐々木一 Hajime Sasaki Ph.D. 准教授 東京大学 未来ビジョン研究センター 次世代知能科学研究センター(AI Center) 大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 地域未来社会連携研究機構
  2. 嘘をつくことができない世界 “生物として人間が一定の刺激に対して反応し てしまう”という「状態」の問題に置き換わる。 室温…チェック 発汗…チェック ⿃肌..チェック 「適温を送⾵します」 過去 未来 「(本当はちょっと寒いけど)

    これでいいや」 ブルブル “どのように意思して行動を選択するか” という自律的「行為」の問題ではなく、 「(本当はちょっと寒いけど) 僕は暑がり(嘘)だから 16度に設定しよう」 ⾃分の状態(いま暑がっているか/寒がっているか)の情報 を、⼈間の意図的な⾏為として積極的に伝達することなく、 センサーが⼀定の状態を情報としてくみ取ることができるよ うな対象として存在。 本当は寒いのに⿃肌を⽴てないということはできない。 本当は寒いのに設定温度下げることはできるが
  3. Source: Prepared by the author based on material from the

    Japan Business Federation (Keidanren) “Japan’s initiatives — Society 5.0”; Y. Harayama, “Society 5.0: Aiming for a New Humancentered Society”, Hitachi Review, vol. 66, no. 6, 2017, pp. 556–557 Society1.0 Society2.0 Society3.0 Society4.0
  4. 情報化社会とモノからの開放(Society4.0) 情報化社会︓化体させることなく (モノを経由することなく)情報と いう無体物の⽣産・流通し効率化さ せることができた。 モノの依存から解き放つことによる ⾼速・フラットな情報空間の実現 例) • ⾳楽配信︓メジャーレーベルとインディーズの

    壁がなくなり、分散化した主体による多品種少 量⽣産への市場変化。 • 電⼦書籍︓⼤⼿出版社によるベストセラーから 私家版(同⼈誌)までamazonでフラットに recommend。 かつて、情報を流通させるためには、 情報を物理的な存在として物質に固定(モ ノに化体)させ、複製・運搬するというコ ストが必要。 新聞、書籍、⾳楽媒体(CD,レコード) 「情報の化体したモノの⽣産・流通を本体 とする産業」に過ぎない。
  5. 結節点としての⼈間(による問題) モノの効率化としての⼯業化社会(Society3.0)と情報の効率化としての情報化社会 (Society4.0)は融合していなかった。 →モノと情報の間の結節点としての「⼈間」が不可⽋。同時にその結節点に由来する問題。 従来の情報の⼊⼝(物質から情報の獲得) 従来の情報の出⼝(情報から物質の制御) 例)POSレジ︓ 前提︓店員が客の「属性」を判断してレジのキーを押すことで、顧客の 属性と商品の動きの関係を初めてデータとして抽出。 →店員の故意や過失によるミスの存在は必然。

    例)カーナビ︓ 前提︓アドバイスに従うかどうかを決めるのはドライバー(⼈間)。 従わない、従えない可能性の存在。 (急にアドバイスされても従うのがよいか判断できない、外のことに気 を取られていた、新しく提⽰されたルートは通ったことがないからなん となくやだ)⾊んな理由で従わない、従えない。 フィジカルの世界とサイバーの世界の間に存在する摩擦(⼈間による) ⼤屋雄裕(2021) Society 5.0と⼈格なき統治, 総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第5巻第1号
  6. Society5.0で実現する⼈格なき統治 Society5.0の情報の⼊⼝(物質から情報の獲得) Society5.0の情報の出⼝(情報から物質の制御) ⼈間による意図的な⾏為→センサーによる状態への把握 (例︓IoT) 情報をもとにして機械(モノ)が制御され物理的な動作 (例︓⾃動制御、⾃動運転) ⼀連の過程において (⼈間の意図的な⾏為に 依存することなく)

    社会規模での最適化、効 率化のために処理実⾏。 意識的な⾏為(設定温度を変える)は有害とさえなる。 (快適な室温を実現し、冷やしすぎを予防し、社会全体におけるエネルギー消費 の効率化を阻害するので。)→最適な社会のために、個⼈の⾃由は犠牲に。 同時に、⼈間は観測や監視の客体であり、⾃ら決断し⾏為する 主体でなくなる。 • 環境保護と経済発展の両⽴ • SDGsの達成 • ⼈流物流を減らしつつ社会的な利便性の享受 • with/afterコロナでは、⼈との接触を(当事者の意に反しても)制限し社会機能 を維持することのできるレジリエントな社会システムの構築。 ⼤屋雄裕(2021) Society 5.0と⼈格なき統治, 総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第5巻第1号
  7. 嘘と不服従 法に反する⾏為は、ただちに悪であり、禁⽌され、 その可能性⾃体を奪われることが望ましいか。 法に反するが当事者がその正当性を確信し、世論 を喚起する等の⽬的でなされるそのような⾏為 (市⺠的不服従(civil disobedience))の可能性は 失われることはないか。 ときには事実と異なる建前を守るために ⾃らの利益を犠牲にすることが正しい⾏

    為であり、⼈間の尊厳と結び付いた⾼貴 な⾏ないになり得る センサー技術により収集された情報に依 拠する快適な社会においてそれが不可能 になることを、どう評価するべきか。 ⼤屋雄裕(2021) Society 5.0と⼈格なき統治, 総務省 学術雑誌『情報通信政策研究』 第5巻第1号
  8. 再発防⽌の落とし⽳ •⼤きな事件や事故が発⽣すると「再発防⽌」 の名のもとに⼤きな予算がつけられ、組織 や法律が新設。 •「再発する」可能性 は⾮常に⼩さいにもかかわらず,「再発防⽌」が ⼤義名分に なり,客観的に⾒ると費⽤対効果の悪い対策に莫⼤な予算がつぎ込まれる。 •私たちの思考の根本的⽋陥 •しかし本当に未然防⽌されたら、未然防⽌されたことに誰も気づかない。

    •マンホールの蓋問題。(蓋がズレていたマンホールに落ちた⼈を助けるのはヒーロに なれるが、マンホールの蓋をそっと直しても感謝されない。(ワクチン、マスク) •社会としては誰かが落ちる前に蓋をする⽅が望ましいはず。 •この⾮対称性が世の中の対応を「起こったこと」に偏らせている。 •起きていないことにどう対処すべきか。
  9. identifiable victim effect(特定できる被害者効果)のバイ アスは減らせるか。 実験 • 介⼊1. 特定の弱者に必要以上に寄付が集まり すぎていることを教える •

    介⼊2. 特定の弱者の情報に加えて、統計的情 報を加える 介⼊3. 最初に計算問題を解かせる 仮説 ・寄付は同情によって増幅されるので、直観による意思決定思考(システム1)が⽀配的である ・特定の弱者は同情・寄付を集めやすい ・統計的弱者(アフリカには100万⼈の恵まれない⼦供がいる等)には同情・寄付が集まりにくい ・論理的な意思決定思考(システム2)を刺激することで特定の弱者への同情が減り、寄付⾦額も減 るのではないか︖ 結果 いずれの介⼊も • 特定被害者への寄付を減らす効果はあった • 全体の寄附⾦額を上昇させる効果はなかった。 特定のところに寄付⾦が集中しすぎて、本当に援助が必要な⼈々のところ に⼗分な寄付がいってないのではないか︖(バイアス) 例)1987年にジェシカちゃんという18ヵ⽉の幼児が幅20cm、地下7mの井⼾ に落ちて2⽇後に救助され、このとき70万ドル以上の寄付が集まった Small et al. (2007) Sympathy and callousness: The impact of deliberative thought on donations to identifiable and statistical victims Organizational Behavior and Human Decision Processes, 102, 143-153
  10. スペキュラティブデザイン(次回前だし) 問題解決型のように 「未来はこうあるべきだ」と提唱す るのではなく 「未来はこうもありえるのではない か︖」 という憶測(speculate)の提⽰。 現代の⼈類が直⾯する課題の多くは解決不能で、これらを克服する ためには、私たちの価値観、信念、考え⽅を変えるという⽅法があ る。

    問題をあえて解決せず、思索するきっかけを与える「問い」を⽣み 出す。 科学と関わり︓ 科学の発展によって、起きるかもしれない世界を表現し、それを科 学者に戻すことで、研究の⽅向性を考えなおすきっかけを与える。 スプツニ⼦︕のRCA (英国王⽴芸術学院)時代の教官) ↓
  11. 知識社会マネジメント2022⽤ 講義関連共有フォルダ h$ps://bit.ly/37rqoPB ゲスト講師 ⻑⾕川愛 さん アーティスト。バイオアートやスペキュラティブ・デ ザイン、デザイン・フィクション等の⼿法によって、 ⽣物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社 会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。

    宿題 下記動画(1H程度)を視聴してください。 • https://www.youtube.com/watch?v=QbyX1ShomjE • 5/26(⽊)23:55JSTまで 10:10より待機室open 10:20より順次⼊室⼿続き していきます。 良い週末をJ 佐々⽊⼀ [email protected] 次回は5/27(⾦) 10:25- です。