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ポストメタデータ時代のデジタルアーカイブ ―ジャック・デリダの〈痕跡〉概念をめぐって―

ポストメタデータ時代のデジタルアーカイブ ―ジャック・デリダの〈痕跡〉概念をめぐって―

レコードコンティニュアム理論およびジャック・デリダの〈痕跡〉概念が、大規模言語モデルにおけるように資料自体がベクトル化されていくデジタルアーカイブの未来において、重要な概念ツールとなると提起する。また対話型インターフェースと組み合わされることで、ユーザーの関心にレスポンシブに反応する、ユーザーに寄りそうデジタルアーカイブが構想可能であると主張する。

Kanta Tanishima

November 01, 2024
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Transcript

  1. 発表の構成 1. 発表の目的 2. レコード・コンティニュアム理論と〈痕跡〉 2.1. RCにおける〈痕跡概念〉 2.2. 〈痕跡〉としての日記資料の事例 2.3.

    オントロジーと検索可能性 3. ユーザーとオントロジー 3.1. DAのオントロジーに合わせる人間 3.2. 大規模言語モデルと〈痕跡〉としての資料 3.3. ユーザーの関心に直接寄り添うことのできるDA 4. まとめ 2
  2. 2.1. RCにおける〈痕跡概念〉 イメージ モデル図 資料が記録として位置付けられる 手前の段階が〈痕跡〉 図1. Upward (2000)より.強調は引用者 •痕跡:活動や出来事が記録として残る最初

    の段階で、記録の存在基盤。 •捕捉:痕跡を記録として正式に取り込む段 階で、管理可能な形にするプロセス。 •組織化:記録を体系化し、アクセスや利用を しやすくする段階。 •多元化:記録が複数の文脈や目的で利用 され、さまざまな意味や価値を持つ段階。 6
  3. 3.1. DAのオントロジーに合わせる人間 〇「として法」(レファレンス本の目的外使用) ユーザーの「関心」と記録を空間のオントロジーとを 仲介する専門家としてのレファレンス担当 20 ユーザーの関心: 「丸善の雑誌カタログはないか?昭和戦前期に日本で どんな美術の洋雑誌が読めたのか知りたい」 ☞図書館では販売書誌は所蔵していない

    「『日本美術年鑑』の昭和2年版から7年版には、文献の項に「外国美術雑誌」 がありますよ。それに載っていれば、当時、国内でその洋雑誌が読めたことにな ります」(小林 2022: 137) 記録空間のオントロジーにユーザーの関心を適合させる
  4. 4. まとめ 26 1.〈痕跡〉概念の可能性 「痕跡」概念は、資料の多元的な価値を捉えるツールとして有用であり、記録が一 つのオントロジーに限定されない可能性を示す 2.大規模言語モデルと〈痕跡〉概念 大規模言語モデル的パラダイムとDAをつなぐ際に〈痕跡〉概念は導きの糸になる のではないか 3.ユーザーとDAの新たな関係性

    LLMと対話型インターフェースを組み合わせは、ユーザーのニーズにより寄り添う DAを構想することを可能になる 4.ユーザー概念の問い直し これまでのDAが暗黙のうちに想定していたユーザーをいったん括弧に入れ、DAと ユーザーとの関係改めて問い直す必要があるのではないか
  5. 参考文献 榎原, 雅治. (2018). 地震研究と歴史学――異分野連携のもつ可能性. 科学, 88, 429. 小林, 昌樹.

    (2022). 調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス. 皓星社. 高橋, 治郎. (2012). 三輪田米山日記にみる安政の東海・南海地震. 愛媛大学教育学部紀要, 59, 187-190. 東京大学地震研究所 (編). (1987). 新収日本地震史料 第5巻 (安政元年十一月四・五・七日) / 別巻5-2. 東京大学地震研究所. 松山市史料集編集委員会 (編). (1984). 松山市史料集 第8巻. 松山市: 松山市役所. デリダ, ジャック. (2017). アーカイヴの病〈新装版〉. 福本修 (訳). 法政大学出版局. アップウォード, フランク.レコード・コンティニュアム.続アーカイブズ論 記録の仕組みと情報社会.スー・ マケミッシュ/マイケル・ピゴット/バーバラ・リード/フランク・アップウォード編, 安藤正⼈監修, ⽯原 他訳, 明⽯書店.2023, p.218. Upward, F. H. (2000). Modelling the Continuum as Paradigm Shift in Recordkeeping and Archiving Processes and Beyond-a Personal Reflection. Records Management Journal, 115 - 139. 27