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理科の固有性に関する基礎的研究―「自然科学の性質」と「歴史学の性質」の比較を中心として―/Nature of School Science(Rika): A Comparison of "Nature of Science" and "Nature of History"

Unzai Hiroshi
October 08, 2022

理科の固有性に関する基礎的研究―「自然科学の性質」と「歴史学の性質」の比較を中心として―/Nature of School Science(Rika): A Comparison of "Nature of Science" and "Nature of History"

大会名:日本教科教育学会第48回全国大会(愛媛大会)
開催日:2022年10月8〜9日
発表日:2022年10月8日
場所:愛媛大学

Unzai Hiroshi

October 08, 2022
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Transcript

  1. 研究の概要 3 自然科学 歴史学 根底となる問い 自然とは何か 人間とは何か 研究する対象 自然現象 社会現象

    立脚する認識論 (主として)実証主義 (主として)解釈主義 知識の捉え方 外在主義 内在主義 正当化の方法 (主として)観察・実験 (主として)解釈 正当化に用いる証拠 実験のデータ 史資料 再現性 再現可能な現象と再現不可能な現象が ある 現象の再現は不可能である 対象の特徴 過去に生成されたものもあれば, 今生成できるものもある 過去に生成されたもの 解釈 一意の解釈を追求する 多様な解釈を奨励する 共通点 ・程度の違いはあるものの,解釈には主観やバイアスが入り込む ・言説や理論は暫定的であり,変化する可能性がある ・創造的・想像的な営みである ・社会・文化に影響を及ぼし合う
  2. 自然科学の性質について 8 •自然科学の性質(NOS:Nature of Science)の定義(AAAS, 2001,p.15) 科学的世界観を構成する基本的な価値観や信念、科学者がどのようにして知識を生み出しているか、 科学的営為の一般的な文化を含むもの 例. 科学的調査には多様な方法が用いられる,科学的知識は新たな証拠に基づいて修正される可能性がある

    •「科学の性質」について ー理科教育の研究で「科学の性質(Nature of Science)」というキーワードがある ー科学の性質の定義は一意に定まっていない ーMcComas(2019)は比較的合意が得られている(次のスライド) ー最近は,ウィトゲンシュタインの「家族的類似性」を援用した考え方である Family Resemblance Approachが主流になってきている(レビューはCheung & Erduran, 2022)
  3. NOSの諸要素(McComas, 2019) 9 • 科学は工学や技術と区別される • 科学は暫定的、耐久的で自己修正的である • 科学には限界がある •

    証拠は科学において重要である • 法則と理論は似ているが異なる • 共有された方法 • 帰納、演繹、推論、探究、議論等 • 段階的な方法はない • 科学の中にはどこにも創造性がある • 科学には主観やバイアスが存在する • 社会・文化は科学と相互作用する McComas, W. (2019). Principal elements of nature of science: Informing science teaching while dispelling the myths. In W. F. McComas (Ed.), The nature of science in science instruction-rationales & strategies. New York: Springer.
  4. 歴史学の性質について 10 •歴史学の性質に関する文献 ー歴史学の性質が言及されるようになったきっかけの1つは『歴史とは何か』(カー, 1962) ー歴史学の教科書: 『The Pursuit of History』(Tosh,

    1991, 2002, 2015, 2021)が有名 •歴史学は科学か? ー「作者ー史資料ー解釈者」の三者の関係性 ー素朴実証主義 v.s. 解釈主義 ー知識はどこで生まれるのか? E. H. Carr 作成 解釈 作者 解釈者 史資料
  5. 結果 13 自然科学 歴史学 根底となる問い 自然とは何か 人間とは何か 研究する対象 自然現象 社会現象

    立脚する認識論 (主として)実証主義 (主として)解釈主義 知識の捉え方 外在主義 内在主義 正当化の方法 (主として)観察・実験 (主として)解釈 正当化に用いる証拠 実験のデータ 史資料 再現性 再現可能な現象と再現不可能な現象が ある 現象の再現は不可能である 対象の特徴 過去に生成されたものもあれば, 今生成できるものもある 過去に生成されたもの 解釈 一意の解釈を追求する 多様な解釈を奨励する 共通点 ・程度の違いはあるものの,解釈には主観やバイアスが入り込む ・言説や理論は暫定的であり,変化する可能性がある ・創造的・想像的な営みである ・社会・文化に影響を及ぼし合う
  6. 考察|共通点と差異点 14 •「正当化」に関する共通点と差異点 ー共通点:自然科学は観察・実験のデータ,歴史学では史資料に基づいて言明を実証する ー差異点(自然科学):観察・実験を行い,「今」「ここで」正当化に必要な証拠を生成すること •授業の文脈で考えてみる 理科の授業 社会科の歴史の授業 正当化の リアルタイム性

    子供はある仮説・言明に対し,観察・実験を通 して正当化に用いる証拠となる実験のデータを 「今」「ここで」即時的に生成し実証する 子供はある仮説・言明に対し,「過去に」「ここ ではないどこかで」記された史資料を統合的に解 釈して実証する 正当化の根拠の 特徴 実験のデータは,実験操作によって人為的介入 が伴うため不変ではなく流動的である 史資料に示された情報は固定的である
  7. 考察|理科の固有性 15 •理科の固有性 ー正当化に用いる証拠が即時的に生成されること ー生成された証拠が流動的であること •理科でしか育成できない認識・態度とは何か ー「誤差」概念の理解 ー即時的・流動的な特質をもつ「実験の結果」 ー「真値=測定値+系統誤差+偶然誤差」という考え方 ー実証主義的な正当化(実験)における吟味の方法

    ー予想とは異なる結果が得られたときに,①仮説そのものが妥当ではない,②仮説から推論した予想が妥当ではない ③実験操作に誤りがあったなど,多角的な観点から自身の正当化を吟味すること 測定には誤差や人的 ミスがつきもの 発芽は確率的