東京大学大学院 経済学研究科「ICTと産業」第7回での講義資料です https://catalog.he.u-tokyo.ac.jp/detail?code=291705&year=2023
ICTと産業第7回 「スタートアップ×ソフトウェアから見る飲食と配送の世界」Sotaro Karasawa / 柄沢聡太郎 / @sotarokSTAR FESTIVAL 取締役CTO
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自己紹介
自己紹介Sotaro Karasawa / 柄沢聡太郎@sotarokCTO経歴:中央大学大学院 理工学研究科 情報工学専攻卒グリー→Crocos→ヤフー→メルカリ→スタフェス属性:PHP、TypeScript、ビール🍺、くるま🚗、ゲーム🎮、子育て中
ソフトウェアエンジニアからシリアルアントレプレナーへ(1)学生時代● PHPにハマり、PHPコミュニティに参加したり、● エンジニアの友人とつるんで個人サービスを作ったり、● 本を書いたり、● OSSにコミットしたり...● (研究は?)グリー● グリーのCTOがOSSとして公開したPHPのフレームワークのコミッター● その後就職 → ソフトウェアエンジニアとして
ソフトウェアエンジニアからシリアルアントレプレナーへ(2)グリー時代 (2010~2011)● コード書くのが大好きな”尖った若者”● 初めての面談で「目指したい姿」みたいなやつ○ 「世界で使われるソフトウェアを作りたい」● 会社も急成長 (入社時120人 → 退職時 500人くらい)Crocosの創業へ (2010年末)● ozarn との出会い (怪しいちょんまげのおじさん...)● 「お金を稼ぐということに興味はないか?」という問い
Crocos (2011~2014)● ozarn + 岡元さん(社長) + エンジニア5人の友人と共同創業● 共同創業 取締役CTO● Facebook Japanの立ち上がりとともに伸びた● 1.5 年でYahoo! JAPANに売却💸ヤフー (2014~2015)● 子会社として2年間 + 吸収合併&転籍して半年ソフトウェアエンジニアからシリアルアントレプレナーへ(3)
メルカリ (2015~2019)● 80人くらいの時~ (辞める時1500人くらい … 急成長)● 執行役員CTO● 経営、マネジメント、採用、IPO、...● あらゆる経験を積みキャリアの礎にソフトウェアエンジニアからシリアルアントレプレナーへ(4)
スターフェスティバル (2020~)● 取締役CTO● 14期。 IPO目指して頑張ってるAlmoha (2020~)● 元メルカリの唐澤と共同創業● プロダクト開発中P2B Haus (2020~)● 吉祥寺にあるクラフトビールレストラン🍺今
P2B Haus Kichijoji
ソフトウェアxスタートアップから見た飲食と配送の世界🍺イントロ長かったな...!
スターフェスティバル● 2009年創業のレイトステージスタートアップ● フードデリバリー事業をメインに色々フードデリバリー業界ってどんな感じ?P2B Haus● ガチエンジニアが飲食店経営してる飲食店に関するソフトウェアって?というわけで今日の話
フードデリバリー業界について🚛
時代は大フードデリバリー時代へ出典: エヌピーディージャパン https://www.npdjapan.com/press-releases/pr_20230221/
toC / toB フードデリバリーtoB● 数日〜数ヶ月先の注文● 数個~数百個単位での注文● 「仕出し弁当」業界が近いtoC● 注文から概ね1時間以内● 1個〜数個の注文● 飲食店の営業免許でできる (テイクアウト扱い)みんながパッと思い浮かべるのはこっちかも
フードデリバリー時代の変遷インターネットに情報があること自体が価値テクノロジーが経済圏・可能性を大幅に拡張● メディア○ 美味しそうな写真と注文窓口● モール型○ 多くの商品が掲載され、選ぶことができる● 出前マッチング● スマホの登場○ ギグワーカー● 普通の飲食店の登場○ いつも食べている店がデリバリーでコロナで爆伸地域の経済圏「出前」● 店舗の配送範囲に配達○ 知ってる人が電話注文
出前館の例インターネットで「出前」できる● 2000年創業● 運ぶのは自社(加盟店) (~2018年)● 出前のできる店舗と、食べたい人のマッチングサービス● 取扱高(GMV) 年間 約2000億出典: 出前館 2023年8月期 第2四半期 決算説明会資料 https://ssl4.eir-parts.net/doc/2484/ir_material_for_fiscal_ym/133603/00.pdf
出典: 自営百科 自営業がとことん分かるメディア https://jiei.com/news/ubereats-parttimerUber Eats の例Uber Eats● ギグワーカーの登場○ 配達のできない店舗でも参入できる● 店舗と消費者が「直接」つながることが大きな転換点○ FAXでも電話でもない○ タブレットが置いてある○ 店舗が「自分で」やるテクノロジーで課題を解決した例
● 中間業者の排除 (消費者と直接つながるプラットフォーム)○ 仕組みが担保してくれる○ その代わり “店舗は自分でやらなければいけないことが増えた”■ 在庫管理、休業日管理、etc…● ギグワーカーという存在○ 大勢の一般人を、リソース化○ 課題はある■ 賃金問題、交通安全、etc■ 日本フードデリバリーサービス協会などがガイドライン作成● https://www.jafda.or.jp/テクノロジーを使ってできるようになったことは何か
Uber Eats 登場以前● オンデマンドのラストワンマイル配送は “できなかった!”● これをやるには飲食店が自社の配送網を持つ必要があった○ (自前で “出前” できる店舗)● 日本最大手出前館でそれができるようになったのは2019年○ Uber Eats の日本参入は 2016年9月ちなみにスタフェス (創業2009年)● 配送パートナーをもち自前で配送できない企業もデリバリー参入が可能● 二日前までに注文確定● toB なので可能フードデリバリーにおけるラストワンマイル配送問題
出前館、Uber Eats、Wolt、DiDi フード、デリズ、menu、Chompy、fineDine、foodpanda …国内古参、黒船、海外勢 (アジア、ヨーロッパ、...)、新興スタートアップ、様々!!時代は大フードデリバリー時代へ
出前館、Uber Eats、Wolt、DiDi フード、デリズ、menu、Chompy、fineDine、foodpanda …国内古参、黒船、海外勢 (アジア、ヨーロッパ、...)、新興スタートアップ、様々!!時代は大フードデリバリー時代へ相次ぐ参入、相次ぐ撤退(みんなまだ赤字)toC フードデリバリー難しい...
開発コスト● シンプルに作るものが多い● 飲食店管理(Web)、飲食店注文端末(アプリ)、配送員(アプリ)、喫食者向け(アプリやWeb)飲食店営業● 基本的に営業むちゃくちゃやらないと加盟店取れない薄利● 限界利益率で頑張っても20%とかフードデリバリー、スタートアップにとって辛い問題
スタフェス (ごちクル) の仕組み出典: スターフェスティバル株式会社 https://stafes.co.jp/business/projectoperation
スタフェス (ごちクル) の仕組みごちクル(Webサイト)社内の管理システム注文・いつ・何を・何食発注製造パートナー社内の管理システム製造🍱社内の管理システム配送パートナールート組、配達依頼ピックアップ配送
ごちクルの成長の因子と課題 (1) - 強み• タイミングが最適だった• 「インターネットに情報が掲載されていること」が強い• 特にtoB(仕出し弁当領域)• みんなが「それぞれできなかった」頃に機能を提供• 2010年代初頭からそれができていた• 配送を請け負えることが強い• 自社で配送できない製造パートナーを扱える• 商品開発機能が強い• 自社でお弁当を開発できない店舗が参入できた
ごちクルの成長の因子と課題 (2) - 課題• テクノロジーを活用した事業スケール• 規模の拡大に応じたスケールする運用体制の構築が必要• テクノロジーの進化に追随• スマホ、GPSが当然となった今の世の中• 製造パートナーもそうした機器を当然のように扱える• (Uber Eatsの功績も大きい)
飲食店 x テクノロジー🍻
飲食店にまつわるソフトウェア会計・経理レジ(POS)決済予約台帳顧客台帳仕入れ発注在庫管理WebサイトSNS注文管理配膳管理シフトタイムカード給与計算セルフ(モバイル)オーダー業務日報デリバリー
飲食店にまつわるソフトウェア会計・経理レジ(POS)決済予約台帳顧客台帳仕入れ発注在庫管理WebサイトSNS注文管理配膳管理シフトタイムカード給与計算セルフ(モバイル)オーダー業務日報デリバリーそれぞれのところにそれぞれのプレイヤーがいる(P2B Hausでもそれを活用している)しかし圧倒的勝者はいない(そこが難しい)連携できたりできなかったり...
飲食店にまつわるソフトウェア (予約台帳)会計・経理レジ(POS)決済予約台帳顧客台帳仕入れ発注在庫管理WebサイトSNS注文管理配膳管理シフトタイムカード給与計算セルフ(モバイル)オーダー業務日報デリバリー
飲食店にまつわるソフトウェア (予約台帳)独立系 統合ソフトウェア● トレタ・OpenTable・Ebica他数多...● 飲食専業ではないところも多数● 独自の機能やメディア連携を魅力に打ち出し● 大体固定価格が多い● リクルート (Airレジファミリー)● 顧客台帳やPOSレジなどとの統合機能が強みメディア系● 一休・ぐるなび・食べログ・Retty など● 掲載店舗がすでに顧客として存在● 利用者への利便性を提供しつつ店舗DXを推進● 送客課金が多い (低価格帯店舗には辛い)
トレタの例 (P2B Hausでも使ってる)
予約台帳システム● 元々紙だったものが置き換わったことにより● 店舗側のメリットだけでなく○ 台帳化できる○ 忘れない○ お客さんを把握できる (顧客台帳)● ユーザーメリットも出てきた○ すぐ予約取れる○ 電話不要○ 空いてるかわかる○ Google Maps などから直接予約取れる良い世界になってきたね
飲食店にまつわるソフトウェア (注文~POSレジ)会計・経理レジ(POS)決済予約台帳顧客台帳仕入れ発注在庫管理WebサイトSNS注文管理配膳管理シフトタイムカード給与計算セルフ(モバイル)オーダー業務日報デリバリー
スマレジの例 (P2B Hausでも使ってる)● レジスター端末 (5万くらい)置いてた時代● 「チキーン!」ってやつ↓● タブレットPOSレジ大手○ といっても上場したばかりのスタートアップ● アパレルから飲食まで幅広い業種12万店舗(すごい)● 安い! (安い!)● 決済連携、注文端末連携、データ分析出典: スマレジ https://smaregi.jp/product/register.php
diniiの例● 注文管理 + POSレジ● CRM (顧客把握)● 送客支援→ 一つ一つのサービス向上がファン創出へ繋がる仕組み出典: ダイニー https://www.dinii.jp/
楽天ペイの例 (P2B Hausでも使ってる)● マルチカードリーダーからBT接続したタブレットやスマホの決済アプリ● 実際に決済を行うのは楽天ペイのサーバー● (外部) POSアプリと連携ちなみに楽天ペイは● 企業努力が凄まじい!○ (ありがたい!)● 翌日入金 (凄まじい)● 普通は大体 月1 や 月2スマホタブレットカードリーダー端末BT楽天ペイサーバーPOS端末連携
「現金のみ」飲食店事業者の言い分...● 決済手数料 (2.9%~3.5%程度) がいやだ● キャッシュフローに不安がある● システムがわからない!↓とはいえそういう人たちも少なくなってきている出典: 経済産業省 キャッシュレス決済 実態調査アンケート https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210618002/20210618002-1.pdfクレカ コード決済
デリバリー連携は?● メニューなどはデリバリー向け○ みんな大体別で登録してる○ でもまあ、問題ない■ 決済はデリバリー側がやってくれるので● テイクアウトプラットフォームがなかなかうまく行かない理由○ 日本におけるテイクアウト文化のなさ■ モバイルオーダーは徐々に浸透○ 直接決済できてしまう○ menuはデリバリーヘ
飲食店にまつわるソフトウェア (仕入・発注・在庫管理)会計・経理レジ(POS)決済予約台帳顧客台帳仕入れ発注在庫管理WebサイトSNS注文管理配膳管理シフトタイムカード給与計算セルフ(モバイル)オーダー業務日報デリバリー
仕入・発注管理のデジタル化、の例● 毎月のカタログリスト● FAX・電話で発注● 郵送の請求書● メールやEC○ 商品一覧○ 受発注● 請求書の電子発行
課題は残っている● 結局カタログがWebサイトやメールになっただけ● 発注フォーマットが統一されているわけでもない● 情報がマスターデータ化されない○ 再利用不可能なデータは紙データと大差ない
課題は残っている● 結局カタログがWebサイトやメールになっただけ● 発注フォーマットが統一されているわけでもない● 情報がマスターデータ化されない○ 再利用不可能なデータは紙データと大差ないデジタル化って? メールになっただけ?
インフォマートの例● まさに目指すべきDXの姿● 出す側、受ける側双方を変えるアプローチ● 継続的開発が課題出典: インフォマート https://lp.infomart.co.jp/pf_DtoD/
Best Beer Japan の例 (バーティカル)ブルワリーごとの仕入● EC化● 情報を正規化● (でもまだただのEC-CUBE…)● こうした事例が色々な分野で出てきている● まだまだ発展途上● それぞれがそれぞれやってるというところもある意味課題○ (でもないより良い)Best Beer Japan https://www.bestbeerjapan.com/
ここまでみてきたところのまとめ● 個別の業務について○ それぞれの最適なシステムが使えるようになってきている○ これまでできなかった安価なシステム○ スマホ・タブレット時代● ただし、割とそれぞれがそれぞれ○ 中間の運用コストはかかる○ データちゃんと作れないと辛い■ → ここが結構難しい
P2B Haus の在庫管理 (ビール) … (いや、結構趣味の世界)● Spreadsheet as a Database (Sheetsはいいぞ)○ 仕入れ発注時にデータ投入○ on tap 時にデータ更新
ビールの在庫管理から各種システムへ連携レジ(POS)CSV在庫情報SNS投稿テンプレGASWebサイトCloudFunction印刷用メニュー(PDF生成)
マスターデータをちゃんと作るこの設計さえできれば後のシステムはできたも同然!趣味みたいな話だけど意外とどの業務でも重要だったりする
でも...こんなことやってる人あんまいないですよね...
テクノロジーの進歩でできるようになったこと消費者にとって● サービスレベルの向上○ 今までできなかったことができるように○ より便利に、より満足できるサービスを受けられるように飲食店にとって● 安価になった○ 個人店でも導入できるレベル■ 飲食店とにかくお金がない■ → でも...だからこその課題はある事業者が儲からない
ただし、飲食店・飲食業界のIT化・効率化はなかなか進まないミクロな視点で言えば「あんま変わらない」から● 個人店舗で生産性を向上させなくても生きていける● インターネット、スマホ、システム、難しい● 大規模・多店舗展開企業は別 (ファミレス業界等)○ 彼らにはスケールメリットがある
マクロな視点で見ると... 儲からない領域には投資されない● 飲食店向けシステムは儲からない● 儲からない領域には投資されない● 新しい・イケてるシステムが登場しにくい● 課題が解決されない● 生産性が向上しない● 飲食店が儲からないというループ...
出典: 帝国データバンク 特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2022 年 10 月) https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221110.pdfマクロな視点で見ると... 儲からない領域には投資されない● 飲食店向けシステムは儲からない● 儲からない領域には投資されない● 新しい・イケてるシステムが登場しにくい● 課題が解決されない● 生産性が向上しない● 飲食店が儲からないというループ...ただし人材不足は深刻→ 生産性向上は必須課題
出典: 帝国データバンク 特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2022 年 10 月) https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221110.pdfマクロな視点で見ると... 儲からない領域には投資されない● 飲食店向けシステムは儲からない● 儲からない領域には投資されない● 新しい・イケてるシステムが登場しにくい● 課題が解決されない● 生産性が向上しない● 飲食店が儲からないというループ...ただし人材不足は深刻→ 生産性向上は必須課題こういう領域にチャレンジしているスタートアップもある例: Timee https://business.timee.co.jp/
まとめ
インターネットと飲食業界• 飲食はなくならない• 食べることは人間の根源的な欲求• 「美味しい」は最高• インターネット、ソフトウェアによる伸び代しかない• 人手は今後も不足し続ける• 課題がたくさん。生産性の向上は必須課題。• 僕らが未来を作っていくのです
🔚