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AI駆動開発における人とAIの責務境界モデルの提案 ― 境界仕様に基づくBSDDの実践 ―
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matsui-dmm
September 11, 2026
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AI駆動開発における人とAIの責務境界モデルの提案 ― 境界仕様に基づくBSDDの実践 ―
matsui-dmm
September 11, 2026
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Transcript
AI駆動開発における人とAIの責務境界モデルの提案 ― 境界仕様に基づくBSDDの実践 ― 合同会社DMM.com ◦松井 高宏 E-mail:
[email protected]
©
DMM 1 CONFIDENTIAL
自己紹介と研究テーマの着想 松井 高宏 合同会社 DMM.com /プラットフォーム開発部門 バックエンド開発リーダー • • ユーザーレビューを管理する共通基盤を開発・運用
AI駆動開発の導入と開発プロセス改善を推進 ユーザーレビューの表示例 実務上の問題意識 実際の開発で生成AIを活用する中で、仕様が肥大化する問題に直面した © DMM 2
1章. 研究背景と課題 AI駆動開発における仕様と責務境界の問題 © DMM 3
背景:AI駆動開発とSDDの登場 • 生成AIにより,自然言語から設計・実装できる開発が広がった(Vibe Coding等) • しかし仕様を定めないと,画面項目やAPI設計まで,AIが補完し意図しない実装を招く • そこで,設計意図を事前に仕様化するSDDが登場した 仕様を定めない開発 都度指示
AIが実装 設計判断が見えにくい 意図しない実装 © DMM SDD(仕様駆動開発) 仕様 AIが実装 ◦ 設計意図を共有できる 認識ずれを抑える 4
課題:仕様範囲の拡大 • SDDは設計意図を明示できる一方,期待どおり実装させると仕様が詳細化しやすい • 具体的には, 内部設計・実装方針まで人の記述範囲が広がる • 結果, 軽量な変更でも仕様が1,000行規模となり, 仕様作成・レビュー負荷が増大した
仕様 AIが実装 背景:人とAIでは前提や解釈を 完全には共有しきれず、その 差を埋めようとする側面がある 再実装 仕様を追記 © DMM 期待と異なる 5
課題の本質:人とAIの責務境界の曖昧さ • 仕様を定めない開発:人が決めるべき設計までAIに任せ, 意図しない実装を招く • SDD:AIに任せられる事項まで人が仕様を書き, 作成・レビュー負担が増える 仕様を定めない開発 (Vibe Coding等)
SDD(仕様駆動開発) AIに任せすぎる 人が書きすぎる 意図しない実装 作成・レビュー負担 共通原因:人とAIの責務境界が曖昧である では,人は何を決め,どこからAIに任せるべきか? © DMM 6
研究目的 • 人が確定する範囲と, AIに任せる範囲の責務境界を明確にする開発プロセス Boundary Spec Driven Development:境界仕様駆動開発(BSDD)を提案する 例:API契約のように合意が必要なものは人が確定し, 実装はAIに任せる
研究課題 © DMM RQ1 RQ2 RQ3 人が確定する仕様 範囲はどのように 変化したか 実運用上で 開発プロセス として成立するか どのような 問題が生じ どう見直したか 7
本研究で扱う開発 • • マイクロサービス型の開発 • 複数のサービスが連携して、一つの機能を実現する開発を対象とする • PO・FE・BE・INFなど、異なる開発ロールがそれぞれの責務を担う PO サービス間合意
• このような開発で発生する事前合意を、 本研究では「サービス間合意」と呼ぶ FE サービス 間合意 BE INF © DMM 8
本研究の新規性 • • SDD • 合意事項に加えて, 内部設計・実装方針まで人が仕様として記載 • そのため, 仕様作成・レビュー範囲が広がりやすい
BSDD • 人とAIの責務境界を「サービス間合意が必要か」で判断 • 合意が必要な事項 → 人が決定 • 合意不要な内部設計・実装方針 → AIに委譲 → 人の仕様作成・レビュー範囲を縮小 © DMM 9
2章. BSDDの提案:境界定義層 人が合意すべき事項を仕様として確定する © DMM 10
人とAIの責務を分けるモデル • プロダクト目的を起点として人とAIの責務を二層に分ける • 境界定義層(人):サービス間で事前合意すべき仕様を「境界仕様」と定義する • 実行層(AI):境界仕様をもとに, AIが設計・実装を具体化する © DMM
11
境界定義層の全体フロー 1. 人:目的を起点に関係者間で要求を把握 2. AI:目的・要求からサービス横断で必要な候補を抽出 3. 人:候補をレビュー・議論し,境界仕様として確定 この境界仕様を,実行層への入力とする 人:要求把握 AI:仕様候補を抽出
人:境界仕様を確定 © DMM 12
境界仕様の判断基準 • AIは, 案件の目的・要求から判定基準に基づき境界仕様候補を抽出する 判定例(API改修案件) ①この案件の 定義対象か? NO 記載しない 候補
YES ②サービス間 合意が必要か? YES ①定義 ②合意 判定 画面構成 NO − 記載しない API I/F YES YES 境界仕様 内部設計 YES NO 実行層 NO 境界仕様 実行層 人が確定 AIが具体化 人の確定範囲を境界仕様に限定し, 仕様作成の負荷・レビュー対象を縮小させる © DMM 13
BSDD適用例:一括削除機能の境界仕様 • 管理者が最大1万件の不適切なユーザーレビューを一括削除し,履歴を記録する機能に適用 • 前述の判定基準に基づき、AIが境界仕様候補を抽出 → 関係者が合意して境界仕様を確定 境界仕様 • •
© DMM 削除作業の効率化 操作履歴の確保 構造・契約 振る舞い 目的・価値 • • 実行条件 処理の流れ • • • 画面構成 API契約 論理データモデル 14
境界仕様の抜粋:振る舞い / 論理データモデル 振る舞い 論理データモデル 一括削除の実行条件と、FE・BE間の処理の流れを定義 削除履歴のモデルを定義 *重要事項は,UML・図等で構造化し,人とAIの双方が理解しやすい形で整理 © DMM
15
境界仕様の抜粋:画面構成 / API契約 画面構成 削除操作と、削除結果・履歴の表示を定義 © DMM API契約 入出力・上限・主要エラー・履歴を定義 16
3章. BSDDの提案:実行層 AIが仕様を実装可能な作業へ展開する © DMM 17
実行層のプロセス • 境界仕様を起点に, AIが主体となり実行計画〜実装・テスト〜PR作成を進める • 人はこれらの実行過程をAIに委ね,実行計画とPRで妥当性を確認する 境界仕様 © DMM AI
実行計画 実装・テスト PR作成 人 実行計画の確認 この間を AIが自律実行 PR確認 18
実行層の構成例:Harness Engineeringを活用 • 境界仕様と実行コンテキストをもとにAIが内部設計・実装方針を具体化 • 境界仕様で「実現内容」を定め、実行コンテキストでは「AIが守る前提・制約」を与える 境界仕様 既存コード API/DB定義 開発ルール
① 実行計画 (=何を実現するか) ② 実装エージェント群 実行コンテキスト (=守るべき前提・制約) 修正・再検証 ③ CI・AIレビュー PR作成 OK 合意が必要な事項は人が決定 内部設計・実装方針は実行層でAIが具体化 © DMM 19
実行層の構成例:一括削除機能の開発フロー • 一括削除機能を例に、境界仕様からPR作成までの流れを示す 実行計画 境界仕様 PR 作業内容 エージェント 一括削除機能 PR1
API契約 • Open API • 削除上限 • 画面:結果・履歴 • API入出力 PR2 データ層 • DB・Domain PR3 BE機能 • Use Case・Handler PR4 FE実装 • Storybook PR5 API接続 • API Connect PR3の実行例 Use Case・Handler 実装・テスト CI ・AIレビュー + 実行コンテキスト 人が確認 © DMM PR作成 人が確認 20
4章. 品質確保の考え方 BSDDではどこで品質を確保するか © DMM 21
境界定義層:人の確認する仕様を境界仕様に絞る • • 従来:SDDで詳細な仕様を人が確認しようとすると, 重要な合意事項が埋もれやすい BSDD:サービス間で合意が必要な事項だけを境界仕様として確認・確定する SDD適用時 要求定義 基本設計 実装方針
テスト観点 重要な合意事項 認識ずれが後で発覚 BSDD 境界仕様 重要な合意事項 関係者で合意・確定 重要な合意事項を境界仕様に限定し、仕様段階での認識ずれを早期に発見する © DMM 22
実行層:人の確認ポイントを実行計画・PRに絞る • • 従来: AIに実装を委譲しても人の確認点が明確でない場合, 実装上の問題を見逃しやすい BSDD:実行計画とPRを人の確認点とし, 実行中の検証はCI・AIに委ねる 境界仕様 実行
実行計画 実装・テスト 検証 PR 自動検証 (CI・AI) PR確認 (人) 確認・検証 実行計画の確認 (人) 人の確認を要所に集中させ、実装上の問題を早期に検出する © DMM 23
5章. 評価と考察 提案したBSDDを実案件で評価する © DMM 24
評価方法 • BSDDによって, 人の仕様範囲・開発負荷・運用がどう変化したかを評価する RQ 評価観点 RQ1 人の仕様範囲 • 同一20案件
• 人が確定する仕様範囲・仕様量 RQ2 開発負荷・運用 • • 従来 SDD/BSDD 各8件 BSDD 8件×各 6ヶ月 • • 仕様策定時間/実装時間 障害・RB・重大な手戻り RQ3 問題と見直し • BSDDの試行運用 • 発生した問題と見直し © DMM 評価対象 評価内容 25
評価:RQ1 ― 仕様範囲・RQ2 ― 開発負荷と運用 RQ RQ1 評価観点 結果 仕様範囲
(同一20案件) • 境界仕様に限定 仕様行数:1,213行 → 228行(84.5%削減) 開発負荷 (従来 SDD/BSDD 各8件) • • 仕様策定時間(〜確定)4h → 1h(75%短縮) 実装時間(〜PRマージ)8h → 6h(25%短縮) 運用 (BSDD 8案件×各 6ヶ月) • 重大事象(※):観測0件 RQ2 ※本番障害・RB・再合意を要する仕様手戻り 合意事項に絞り、仕様作成負荷・レビュー対象を縮小 負荷を削減しつつ運用上の重大事象は観測されず © DMM 26
評価: RQ3 ― 問題と見直し 試行段階で実行コンテキストの追加と境界仕様の見直しを行った 問題 対応 ①AIの知識が不足 ②人の境界判断が不十分 ①
不足したルール・知識を 実行コンテキストに追加 ②サービス間への影響を確認し、 境界仕様を再定義 AI側に不足する知識は実行コンテキストへ追加し、 人側の境界判断に不足があれば境界仕様を見直す © DMM 27
研究課題への回答(RQ1〜RQ3) RQ1 仕様範囲の変化 RQ2 成立性 RQ3 問題と見直し 人が確定する仕様を 境界仕様に限定 開発時間を削減し
実運用可能性を確認 試行段階を通じて 責務境界を調整 BSDDの実運用上の初期的な成立性を確認 © DMM 28
今後の展開 • 本実践は, マイクロサービス機能の既存改修を対象に評価した • 今後は,新規開発やモノリス構成など, 異なる開発形態も検証する。 • 合わせて, 品質評価指標も拡張し,
評価も厳密化する 今後の検証 今回の対象 • © DMM 検証範囲 • 適用範囲 • 評価方法 マイクロサービスの機能改修 既存改修(ブラウンフィールド) 新規開発(グリーンフィールド) モノリス構成 品質評価指標の拡張・厳密化 29
結論 • 「サービス間合意の要否」を基準に, 人とAIの責務境界を設定 • 合意が必要な事項は境界仕様として人が確定 • 内部設計・実装方針を実行層でAIが具体化 → 仕様作成負荷・レビュー対象を縮小し,
実装時間も短縮 • 本研究の意義は,AI駆動開発において 「人が重要な合意・判断に集中し、それ以外をAIに委譲する責務分離プロセス」 を示した点にある 人が決めるべきことを決め,AIに任せるべきことを任せる。 © DMM 30