Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

キャリアコンサルティングの継続利用がキャリア自律に及ぼす効果の検証

 キャリアコンサルティングの継続利用がキャリア自律に及ぼす効果の検証

一般社団法人日本キャリア・カウンセリング学会 第30回記念大会にて研究発表した内容です。
本研究は、社内キャリア・コンサルティング施策である「キャリア対話」が社員のキャリアオーナーシップ(CO)やエンゲージメントに与える効果を検証しています。

More Decks by PERSOL CAREER Dev | techtekt

Other Decks in Business

Transcript

  1. © PERSOL CAREER CO., LTD. 4 会社概要 社 名 本

    社 創 業 資 本 金 事 業 内 容 従 業 員 数 パーソルキャリア株式会社 東京都港区 1989年6月 1,127百万円 人材紹介サービス、求人メディアの運営、転職・就職支援、 採用・経営支援、副業・兼業・フリーランス支援サービスの提供 7,048名 (有期社員含む グループ会社出向中の者は除く 2025年3月1日時点)
  2. © PERSOL CAREER CO., LTD. 6 倉持 裕太 Yuta Kuramochi

    パーソルキャリア株式会社 人事本部 人事IT推進部 人事PMグループ コンサルタント 大学院で若手人材の職場学習に関する研究に取り組んだ後、 2022年にパーソルキャリアへデータアナリスト職として新卒 入社。入社後一貫して人事領域のデータ活用業務に従事。現在 は、主に心理学や計量経済学領域の統計解析手法を用いた人事 データ分析、分析で得られた示唆に基づく人事IT企画の立案・ 推進や、人事施策の効果検証に取り組んでいる。
  3. © PERSOL CAREER CO., LTD. 8 働く環境の変化に伴い、キャリア自律の重要性が高まっている。 背景:環境変化とキャリア自律の必要性 • 少子高齢化に伴う労働力の長期化,

    国際競争の激化, 雇用情勢の不安定化といった社会経済的背 景から, 従来の企業主導型キャリア形成モデルは変容を迫られている。 • こうした状況下において, 働く個人は生涯にわたり主体的にキャリアを築くことが求められて いる(秋森, 2020)。 • 企業にとっても, 従業員の自律的なキャリア開発を支援することが, 人材力強化・イノベーショ ン創出において重要とされている(宮城, 2012)。
  4. © PERSOL CAREER CO., LTD. 9 キャリア自律を促す具体的な施策として、キャリアコンサルティングが注目 背景:キャリアコンサルティングの政策的・実務的役割 • 労働者の職業の選択,職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ,助言及

    び指導を行うこと(厚生労働省, 2002) • 2015年の職業能力開発促進法改正および2016年の国家資格化といった制度的整備 → キャリアコンサルティングの政策的な重要性を示唆(労働政策研究・研修機構,2017)。
  5. © PERSOL CAREER CO., LTD. 10 国外ではメタ分析や厳密な手法により、キャリアコンサルティングの有効性が確認 背景:キャリアコンサルティングの効果に関する研究(国外) • 実証研究が活発:多様な手法を用いた多角的な検証が行われている。

    • 有効性の確立:メタ分析によりその有効性が示されている(Francis & Nicole, 2025)。 • 方法論の厳密さ:事前事後比較研究, 介入群/統制群を設定した準実験的手法…など、 信頼性の高いエビデンスを継続的に蓄積。
  6. © PERSOL CAREER CO., LTD. 11 国内ではキャリア自律に焦点を当てた厳密な実証研究が不足… 背景:キャリアコンサルティングの効果に関する研究(国内) • 社会的重要性や国外の状況とは裏腹に,

    国内におけるキャリアコンサルティングの効果の実証 研究は十分に蓄積されていない。 • 特にキャリアコンサルティングが自律的キャリア開発を促進する効果を直接的に検証した厳密 な研究は限定的。 • 「どのような観点から, いかに効果を示すか」という議論は未成熟な段階に留まっており, 客観的なエビデンスの蓄積が強く求められている(労働政策研究・研修機構, 2017)。
  7. © PERSOL CAREER CO., LTD. 12 先行研究の課題と本研究の目的 • 先行研究における課題: •

    国内におけるキャリアコンサルティングの実証研究が限定的。 • キャリアコンサルティングがキャリア自律を促す手段として注目されているにもかかわらず、 その有効性が実証的に検証されていない。 • 本研究の目的: • キャリアコンサルティング施策が従業員のキャリア自律指標に及ぼす介入効果を実証的に明 らかにすること
  8. © PERSOL CAREER CO., LTD. 14 調査対象 • 調査対象:A社(話者所属企業)の社内キャリアコンサルティング施策「キャリア対話」 •

    目的:従業員のキャリアオーナーシップを育むこと。 • 内容: • 社内の対話担当社員による個別キャリアコンサルティング。 • 独自ルーブリックを用い、自己分析と目標に向けた行動計画の策定・実行を支援。 • 期間:半年から1年程度の定期的なミーティングを継続し、従業員が目標とした基準を達成し た時点で支援を終了とする。
  9. © PERSOL CAREER CO., LTD. 15 実験計画 • 計画法: 準実験計画法

    • 群の設定:期初にキャリア対話の対象従業員をランダムに2群に分類。 • 介入群 (N=42):施策を実施。 • 統制群 (N=62):施策を実施しない。 ※両群への分類はランダムに実施したが、アンケート回答および施策への参加・継続が 任意であったため、最終的な有効回答数に差が生じた。 • 測定時点:介入群については、2時点でオンラインでのアンケート調査を実施。 • 1時点目:ヒアリング終了時 • 2時点目:支援終了時 ※統制群については, 介入を行わず, 介入群のヒアリングから支援終了までの平均期間に合わ せ, 1時点目の回答から9ヶ月後に2時点目のアンケート回答を求めた。
  10. © PERSOL CAREER CO., LTD. 16 測定項目 分類 測定尺度名(略称) 項目数

    尺度の構成(抜粋) 出展 キャリア自律 主体的キャリア形成意欲 3 キャリアへの関心度や充実させたいという意欲。堀内・岡田(2016)を一部改 変したパーソル総合研究所 (2021) キャリア開発行動 1 職種や業界動向に関する情報収集行動。 ワーク・エン ゲージメント UWES-3 (WE) 3 活力(Vigor)、熱心さ(Dedication)、没頭 (Absorption)の3側面。 Schaufeli et al. (2017) / 日 本語版:島津 (2014) A社独自尺度 キャリアオーナーシップ・ インジケータ (COI) 9 現状理解、自己選択、キャリアの積み重ねなど。 A社独自開発 未来の整理 2 将来の在りたい姿の具体性、目標実現に向けた 計画性。 期待役割との整合性 2 現在の役割と将来の目標との関係性の理解度。 業務改善行動 2 日常業務の改善に向けた取り組みの程度。 キャリア不安 1 将来やキャリアに対する漠然とした不安の程度。 • 実務上の制約から, キャリア自律については4項目のみを使用。 • 本施策がA社の人事施策であることに鑑み, 施策担当者と協議の上, 学術的・実務的な関心事項を網羅する複数項目を使用。 • 測定結果の多角的な解釈と、施策改善のための具体的な示唆を得ることを目的として、因子分析による統合は行わず、各項 目を個別に分析に使用。
  11. © PERSOL CAREER CO., LTD. 17 倫理的配慮 • アンケートには回答結果が業務上の評価に一切影響しないこと, および収集した回答データは,

    個人が特定されない統計データとして研究や広報目的で使用・公表される可能性があることを 明記し, その内容に同意する場合のみ回答を求める形式とした。 • 本調査の実施にあたっては, 施策内容, アンケートでの同意取得フロー, および取得データの取 り扱いについて, 事前にA社のコンプライアンス部門による厳正な審議と承認を得て実施した。 【承認日:2024年6月19日】
  12. © PERSOL CAREER CO., LTD. 19 予備的分析の結果1:回答者数とベースラインの確認 回答者数と基本的なベースライン特性には大きな偏りがないことを確認。 • 最終回答者数:

    • 介入群:N=42 • 統制群:N=62 • ベースライン特性の確認:性別、年齢、在籍年数、管理職比率などに 統計的に有意な偏りは認められなかった。 • (補足)不均等なサンプルサイズについては、無作為割付後の任意回答によるもの。 →ANCOVA適用により影響を統制(後述)。
  13. © PERSOL CAREER CO., LTD. 20 予備的分析の結果2:分析手法の検討 事前スコアの不均一性と「平均への回帰」の可能性を統制するため、ANCOVAを適用 • 課題(1)ベースラインの不均一性:1時点目の事前スコアのANOVAの結果、一部項目で両群

    間に有意差が見出された。 • 課題(2)平均への回帰:事前スコアと事前・事後差分スコアの間に有意な負の相関を確認。 • 分析方針: • 介入効果の純粋な評価のため、事前スコアの不均一性や平均への回帰といった交絡因子を統 計的に統制する必要があると判断。 →共分散分析(ANCOVA)を適用し、事前スコアを共変量として事後スコアを調整した上で、 介入効果を検証。
  14. © PERSOL CAREER CO., LTD. 21 予備的分析の結果3:ANCOVAの前提条件確認と多重検定への対処 ANCOVAの前提条件を確認し、多重検定の問題に対しては厳格な手続きを用いて対処 • 前提条件の確認:ANCOVAの前提である回帰直線の平行性を検証:

    • 独立変数と共変量の交互作用項を評価した結果、4項目を除き平行性の前提が満たされてい ることを確認。 • 分析対象:前提を満たした15項目のみを対象としてANCOVAを実施。 • 多重検定への対処:Holm(1979)の逐次棄却手順による p 値補正を適用し,調整済み p 値が 0.05 未満かどうかで有意性を判定した。
  15. © PERSOL CAREER CO., LTD. 22 ANCOVAの結果 • 各測定項目の事後スコアを従属変数, 介入群を独立変数,

    各測定項目の事前スコアを共変量とし たANCOVAを実施。 ※太字の項目に有意差あり(Holmによる調整済み)
  16. © PERSOL CAREER CO., LTD. 24 考察1:キャリア行動・計画化の促進 キャリア対話は、具体的な行動の促進と、目標設定・計画化といった認知的な側面に貢献 • 内省と計画化の影響:「未来の整理」「期待役割との整合性」で有意な効果。

    →継続的な対話がキャリア目標の明確化と計画立案に寄与。 • 行動的側面の変化: COI「行動_2」で有意な効果を確認。 →立てた目標や計画に向けた行動の支援ができている可能性を示唆。 • 業務行動の変化なし:「業務改善行動」には効果なし。 →施策がキャリア開発に特化しており、日常業務のパフォーマンス向上とは異なる効果を示唆。
  17. © PERSOL CAREER CO., LTD. 25 考察2:意欲的側面への効果の欠如と背景 意欲的側面への効果の欠如の背景には、参加者の高い事前意欲による天井効果の可能性が示唆 • 「主体的キャリア形成意欲」の3項目すべてで介入効果は認められなかった:

    • 天井効果の可能性:従業員の事前スコアが全体的に高く、天井効果が生じている可能性。 • A社が転職支援サービス運営企業という特性上、従業員が元々キャリアに高い関心を持ち、 介入前の意欲が既に高水準であったと推測される。 • 研究の限界:元々高いスコアを持つ対象者に対する効果を、本研究では十分に検証できなかっ た可能性が示唆。
  18. © PERSOL CAREER CO., LTD. 26 考察3:ワーク・エンゲージメントへの波及効果 キャリア関連指標だけでなく、業務に対するエンゲージメントにも有意な好影響 • ワーク・エンゲージメントの2項目(活力、没頭)で有意な介入効果。

    • 以下のようなメカニズムが示唆: 1. キャリア目標や日々の業務の意義が明確化される。 2. 業務に対する内発的動機づけが高まる。 3. 結果として、業務へのエンゲージメントが向上した。 • キャリアコンサルティングが、職務満足度や生産性に関連する組織的なアウトカムにも影響を 及ぼす可能性を示唆。
  19. © PERSOL CAREER CO., LTD. 27 研究の限界と今後の展望 • 測定尺度の限界: •

    実務上の制約から、キャリア自律の概念を十分に網羅した尺度を使用できていない。 →より広範な指標を用いた検証が求められる • 知見の一般化可能性: • 特定企業(A社)の事例に留まる。 →多様な企業文化や集団を対象とした研究を行い、知見の一般化可能性を検証が求められる • 効果の持続性とメカニズム: • 介入前後の2時点データのみであり、効果の長期的な持続性は不明。 →長期間の追跡調査により、効果の持続性を検証が求められる。 →多時点データ収集により、変数間の時系列的な因果メカニズムを詳細解明が求められる。
  20. © PERSOL CAREER CO., LTD. 29 結論 • 本研究により、企業内で実施される継続的なキャリアコンサルティング施策は、従業員のキャ リア自律に関連する行動的・計画的側面およびワーク・エンゲージメントに対し、有意な効果

    を及ぼすことが実証的に示された。 • 先行研究の課題に対する貢献: • 国内におけるキャリアコンサルティングの実証研究が限定的: →特定の企業のキャリアコンサルティング施策を、介入群と統制群を設定した準実験的手法 により厳密に分析し、国内事例として客観的なエビデンスを提示。 • キャリアコンサルティングがキャリア自律に貢献しているか不明: →キャリア自律に関連があると考えられる行動的側面および計画・内省的側面を、施策が有 意に促進することを実証。
  21. © PERSOL CAREER CO., LTD. 30 エンジニアブログのご紹介 さまざまなテーマで事例や知見を学ぶ IT・テクノロジー人材のための勉強会コミュニティ 「TECH

    Street」当社の事例を公開しています。 「techtekt(テックテクト)」は、 パーソルキャリアのエンジニアブログです。 “みんなの「はたらく」をテックでつくる”をコンセプトに、 技術、組織、学びなど、さまざまな情報を発信しています。