改正著作権法35条とこれからの課題

2018年11月4日に電子情報通信学会SITE&ISEC&LOIS研究会でお話しした時の提示資料です。元ファイルはこちら→ http://bit.ly/18site-src

著作物、著作権、権利制限、公衆送信とは何か、というあたりを省略して、35条の改正内容からお話しさせてもらいました。

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1. 改正著作権法35条とこれからの課題 広島大学 情報メディア教育研究センター 隅谷孝洋 <sumi@riise.hiroshima-u.ac.jp> 電子情報通信学会SITE・ISEC・LOIS研究会 (2018/11/3)
2. 自己紹介 2 1990 1995 2000 2005 2010 2015 総合科学部 情報メディア教育研究センター 情報教育 共用端末 LMS コンテンツ作成支援 ePF eラーニングコンテンツ 動画 著作権処理 2016年から、 AXIES-csdの著作権チームで活動してます https://axies-csd-cr.blogspot.jp
3. 「リンゴの唄」の著作権 3 TPP11 が2018/12/30発効 著作物の保護期間 50年 70年 1900 1920 1940 1960 1980 2000 2020 2040 作詞 ： サトウハチロー （1903-1973) 作曲 ： 万城目正 （1905-1968) 唄 ： 並木路子 （1921-2001) 2018 2023 2043 ♪ 2038
4. そもそもの問題：スライドに他人の著作物を転載利用したい場合に… 4 引用 32 条 授業目的の複製 35 条 どちらでもない プリント配布 ◦ ◦ × スライド提示 ◦ ◦ △ 授業の録画配信 ◦ × × LMSで配布 ◦ × × インターネットで公開 ◦ × × いわゆる 「異時公衆送信」
5. ڭһௐࠪ 授業資料に関する質問
    質問13: 授業するとき、スライドを使うことがありますか。 質問14: そのスライドに、他の方が作った図表などをコピーして使うことがありますか？ 質問15: そのスライドファイルを授業後にも学生がみられるように、LMS (Moodle, WebClass, Manaba, Blackboard など) に掲載していますか？ Q13:スライド Q14:他者図表 Q15:LMS 0 225 450 675 900 よく使う 時々使う 使わない 2017年AXIES調べ https://axies-csd-cr.blogspot.com/2017/12/axies2017.html
6. 2015年6月以降、「教育の情報化を促進するため」文化審議会で検討 1. 異時公衆送信 ✓ 授業の過程で行う異時の公衆送信 2. 教材共有 ✓ 教師間、教育機関間での教材共有 3. MOOCs ✓ MOOCsやOCW等一般向けの公開 6
7. 検討の過程 7 06/23 [2015-1] 電通のレポート 06/06 [2016-1] 07/04 [2016-2] 08/25 [2016-3] 12/27 [2016-4] 教育関係団体からの要望書提出 02/24 [2016-6]まとめ案提出 02/28～03/29 パブコメ募集 04/21 [2017-1] 04/26 「文化審議会著作権分科会報告書」 パブコメ結果報告 08/31 [2015-4] 09/30 [2015-5] 07/24 [2015-2]教育機関のヒアリング 07/31 [2015-3] 権利者団体のヒアリング 02/23 著作権法改正案国会提出 04/17 衆議院で可決 05/18 参議院で可決 05/23 改正著作権法公布 2015 2016 2017 2018 イマココ
8. 2015年6月以降、「教育の情報化を促進するため」文化審議会で検討 1. 異時公衆送信 ✓ 授業の過程で行う異時の公衆送信 2. 教材共有 ✓ 教師間、教育機関間での教材共有 3. MOOCs ✓ MOOCsやOCW等一般向けの公開 8 権利制限 検討継続 ライセンスで対応 2017年4月審議会結論 ↓ 2018年5月法律改正
9. 2018年度の著作権法第35条改正の内容 9 授業目的の 　　複製 OK 授業目的の 　　同時公衆送信 OK 35 条 1 項 35 条 2 項 35 条 1 項 35 条 2 項 35 条 3 項 授業目的の 　　複製、公衆送信、公の伝達 OK 上記の公衆送信については 　　補償金 を支払うこと ただし同時公衆送信については 　　補償金の支払い不要 第 104 条の 11〜17 で扱いなどを規定 改正 現行の著作権法 改正著作権法 2018/5/25 から 3 年以内に施行 隅谷孝洋 (2018) 「ぺた語義：教材の公衆送信と著作権法改正」 情報処理 vol.59, 図1
10. 「授業目的公衆送信補償金」 ‣ 教育機関の設置者が支払う ✓ 教員が個人では支払えません ‣ 全国で唯一の「指定管理団体」が受け取 り、配分する ✓ 指定管理団体はまだできてません ‣ 補償金額は、指定管理団体が決定し、文 化庁長官が認可する ✓ 金額も支払い方も未確定 10
11. 補償金額の決まり方 11 文化庁長官 文化審議会 文化審議会 (2) 補償金額を決定し申請 (2) 補償金額を決定し申請 (4) 補償金額を認可 (4) 補償金額を認可 （1） 意見を聞く （1） 意見を聞く 「指定管理団体」 「教育機関を設置する者の団体」 「教育機関を設置する者の団体」 （3) 諮問 （3) 諮問 （改正著作権法 104 条の 11） （改正著作権法 104 条の 13） 国立大学協会 国立高等専門学校機構 公立大学協会 私立大学連合会 ・ 日本私立大学連盟 ・ 私立大学協会 全国専修学校各種学校総連合会 全国公立短期大学協会 全国都道府県教育委員会連合会 全国市町村教育委員会連合会 日本私立高等専門学校協会 日本私立小学校連合会 国立大学協会 国立高等専門学校機構 公立大学協会 私立大学連合会 ・ 日本私立大学連盟 ・ 私立大学協会 全国専修学校各種学校総連合会 全国公立短期大学協会 全国都道府県教育委員会連合会 全国市町村教育委員会連合会 日本私立高等専門学校協会 日本私立小学校連合会 著作物の教育利用に関する関係者フォーラム（仮称）
12. 「指定管理団体」 12 指定管理団体 一般社団法人 権利者 団体 権利者 団体 権利者 団体 権利者 団体 権利者 団体 権利者 団体 改正著作権法104条12 　著作権者と著作隣接権者の団体を構成員とする 　（個人は構成員になれない） 1 公益社団法人日本文藝家協会 2 協同組合日本脚本家連盟(予定) 3 協同組合日本シナリオ作家協会 4 一般社団法人日本写真著作権協会 5 公益社団法人日本写真家協会 6 公益社団法人日本広告写真家協会 7 一般社団法人日本写真文化協会 8 公益社団法人日本写真協会 9 一般社団法人日本写真作家協会 10 一般社団法人日本スポーツプレス協会 11 日本肖像写真家協会 12 全日本写真連盟 13 日本自然科学写真協会 14 日本風景写真協会 15 一般社団法人日本美術著作権連合 16 一般社団法人日本美術家連盟 17 公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会 18 一般社団法人日本児童出版美術家連盟 19 日本図書設計家協会 20 一般社団法人日本理科美術協会 21 日本出版美術家連盟 22 一般社団法人東京イラストレーターズソサエティ 23 公益社団法人日本漫画家協会 24 一般社団法人マンガジャパン 25 一般社団法人日本書籍出版協会 26 一般社団法人日本雑誌協会 27 一般社団法人学術著作権協会 28 一般社団法人日本新聞協会 29 公益社団法人日本専門新聞協会 30 一般社団法人自然科学書協会 31 一般社団法人日本医書出版協会 32 一般社団法人出版梓会 33 一般社団法人日本楽譜出版協会 34 一般社団法人日本電子書籍出版社協会 35 一般社団法人日本音楽著作権協会 36 一般社団法人日本レコード協会 37 公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 教育利用に関する 著作権等管理協議会 2016年12月に発足 設立の 母体？
13. 現在、パブコメ進行中です ‣ 改正著作権法第１０４条の１３第１項の規 定に基づく「授業目的公衆送信補償金」 の額の認可に係る審査基準及び標準処 理期間に関するパブリックコメント（意見 公募手続） ‣ 募集期間：10月5日〜11月4日 ‣ 詳細は： http://bit.ly/hoshokin-pc 13
14. パブコメ対象の政令案 ‣ 審査基準 ✓ 授業目的公衆送信補償金の対象か ✓ 教育機関からの意見を適切に聴いているか ✓ 金額が適正か • 法律の趣旨に合ったものか • 公衆送信に関わる通常の額を考慮したものか • その他の事情を考慮したものか ‣ 審査期間 14
15. 今後のスケジュール（不確定要素多し） ‣ 権利者と教育機関の意見交換開始 ✓ 2018年11月下旬 ‣ 文化庁長官が「指定管理団体」を指定 ✓ 2019年初頭? ‣ 補償金額の申請〜認可 ✓ 2019年半ば? ‣ 補償金制度の開始 ✓ 2020年4月? 15
16. 新しい制度のイメージ？ ‣ 授業の過程で異時公衆送信を活用したい → 学生一人当たり〇〇円の補償金？ ‣ 教材の一般公開、FDなどでも公衆送信を 活用したい → 包括ライセンスを取得する？ 16 大学
17. 新しい制度のイメージ？ 17 教員 ‣ 授業の過程での複製と同等の範囲で、資料 を公衆送信できるようになる ‣ 「授業の過程での複製の範囲」をよく認識 する必要あり ‣ 上記範囲を越える利用については、ワンス トップのライセンス制度が利用できるはず
18. 課題：教育機関における啓発活動の必要性 18 Q3:著作物 Q9: 引用 Q6:授業での複製 Q4:保護期間 Q7:公衆送信 Q8: 非営利上映 Q5:著作者人格権と著作権 改正著作権法35の内容 0% 25% 50% 75% 100% ほぼ知っている 多少知っている あまり知らない 全く知らない 2017年AXIES調べ https://axies-csd-cr.blogspot.com/2017/12/axies2017.html
19. 課題：グレーゾーン 19 たとえば… YouTube
20. （学校 他 教育機関 複製等） 第三⼗五条  学校 他 教育機関（営利 ⽬的 設置 除 。） 教育 担任 者及 授業 受 者 、 授業 過程 使⽤ 供 ⽬的 場合 、必 要 認 限度 、公表 著作物 複製 。 、当該著作物 種類及 ⽤途並 複製 部数及 態様 照 著作権者 利益 不当 害 場合 、 限 。 20 ݱߦ
21. վਖ਼ 21 （学校 他 教育機関 複製等） 第三⼗五条  学校 他 教育機関（営利 ⽬的 設置 除 。） 教育 担任 者及 授業 受 者 、 授業 過程 利⽤ 供 ⽬的 場合 、 必要 認 限度 、公表 著作物 複製 、若 公衆送信（⾃動公衆送信 場合 、送信可能化 含 。 以下 条 同 。） ⾏ 、 公表 著作物 公衆送信 受信装置 ⽤ 公 伝達 。 、当該著作物 種類及 ⽤途並 当該複製 部数及 当 該複製、公衆送信 伝達 態様 照 著作権者 利益 不当 害 場合 、 限 。
22. （営利 ⽬的 上演等） 第三⼗⼋条第三項  放送 、⼜ 有線放送 著作物（放送 著作物 ⾃動公衆送信 場合 当該著作物 含 。） 、営 利 ⽬的 、 、聴衆⼜ 観衆 料⾦ 受 場合 、 受信装置 ⽤ 公 伝達 。通常 家庭⽤受信装置 ⽤ 場合 、同様 。 22
23. YouTube問題 ‣ その場で再生したものの表示 ✓ 自動公衆送信される著作物の「公の伝達」 ✓ 非営利無償の上映で権利制限されているのは放送 と有線放送のみ（38条第3項） ‣ 事前にダウンロードしたものの表示 ✓ 利用規約に「ダウンロードしてはいけない」と明記し てある ✓ 権利制限との衝突？（35条第1項） 23
24. 授業目的の複製・公衆送信でもグレー 24 引用 32 条 授業目的の複製 35 条 どちらでもない プリント配布 ◦ ◦ × スライド提示 ◦ ◦ △ 授業の録画配信 ◦ ◦ × LMSで配布 ◦ ◦ × インターネットで公開 ◦ × × ココとかココ
25. ガイドラインの必要性 ‣ どこまでが教育機関? ‣ 授業を担任する人とは? ‣ 授業を受ける者とは? ‣ 授業の過程における使用の「授業」とは? ‣ 必要と認められる限度は? ‣ 著作権者の利益を不当に害するとは? ‣ どこからが公衆送信? 25
26. グレーゾーンとの付き合い方：倫理テスト？ ‣ 普遍化可能テスト ‣ 可逆性テスト ‣ 徳テスト ‣ 危害テスト ‣ 公開テスト ‣ 専門家テスト 26 セブン・ステップ・ガイド (KIT版) より https://wwwr.kanazawa-it.ac.jp/ACES/docs/ssg.pdf
27. 著作者の利益 教育の公益
28. Reading List ‣ 著作権について全般的に ✓ 「クリエイターのための権利の本」 大串 肇, 北村 崇, 木村 剛大, 古賀 海人, 齋木 弘樹, 角田 綾佳, 染谷 昌利 著, ボーンデジタル, 2018 ‣ 改正著作権法35条について ✓ 情報処理11月号「ぺた語義」 隅谷孝洋「教材の公衆送信と著作権法改正」 情報処理 vol.59, no.11, pp.1034-1037, 2018 28