乳幼児の子育て意識に関する縦断調査(2) ―子育て意識の経年変化と影響要因の検討― *日本乳幼児教育学会第32回大会
乳幼児の子育て意識に関する縦断調査(2)―子育て意識の経年変化と影響要因の検討―1中村大輝(広島大学)、白川佳子(共立女子大学)、福丸由佳(白梅学園大学)、河合高鋭(鶴見大学短期大学部)、天野珠路(鶴見大学短期大学部)、松田佳尚(白梅学園大学)、松永静子(元秋草学園短期大学)、早坂めぐみ(高千穂大学)2022年12月3-4日日本乳幼児教育学会@オンライン全8枚
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研究の背景・目的 2⚫ 研究の背景近年、子育て環境が変化してきている• 共働き世帯の増加• 核家族化• 人間関係の希薄化• 0歳児の保育所等入所率の増加• 新型コロナウイルス感染症の流行• その他⚫ 研究の目的コロナ禍における保護者の子育て意識の経年変化を検討し、今後の保育の質の向上に向けた示唆を得ることを目指す。➡ 保護者の子育てに関する意識も変化?
研究の方法|時期と手続き 3⚫ 調査の時期と手続き◼ Wave 1(2020年11月)0歳児の保護者を対象とした質問紙調査• 東京都1116園に対して各園1部ずつ配布• 横浜市内926園、川崎市内46園に対して各園に10部ずつ配布➡ 有効回答数は1227件◼ Wave 2(2021年12月)1歳児の保護者を対象とした質問紙調査• 前年度の協力園396園に対して各園10部ずつ配布➡ 有効回答数は924件◆ Wave 1 とWave 2 の回答データを結合(マージ)両方に回答した人物を抽出➡ 有効回答数は214件秋草学園短期大学研究倫理審査委員会による承認を受けた(承認番号:2020-07)
研究の方法|調査項目 4以下の5つの要素について計85項目からなる質問紙を作成A. デモグラフィック変数回答者の基本属性と保育情報を尋ねる項目B. 育児感情荒牧(2020)の「親の育児感情尺度」を使用した(4件法,21項目)因子構造は「負担感」「不安感」「肯定感」の3つから構成C. 養育態度荒牧(2020)の「親の養育態度尺度」を使用した(4件法,15項目)因子構造は「受容的な関わり」「統制的な関わり」の2つから構成D. ソーシャルサポート身近な人物(配偶者、家族、親戚、友人、保育者など)がどの程度、悩みを聞いてくれるかを尋ねる4件法の6項目E. こころと体の状態子どもに時間を取られて,自分のやりたいことができず,イライラする(負担感)子どもをうまく育てていけるか不安になる(不安感)子どもを育てるのは楽しいと思う(肯定感)あたたかく優しい声で話しかけている(受容的な関わり)子どもにはできるだけ私の考えどおりにさせたい(統制的な関わり)
分析1|各要素の経年変化 5⚫ 各要素の経年変化Wave 1 と Wave 2 の各要素の平均値を比較対応のある標準化平均値差の効果量(Cohen’s dz)を算出➡ 効果量が大きいほど、経年変化が大きいと解釈(N = 214) FactorWave 1 Wave 2 W2-W1M (SD) M (SD) Cohen’s dz育児感情負担感 2.02 (0.55) 2.13 (0.56) 0.25*不安感 2.03 (0.62) 2.03 (0.62) 0.02肯定感 3.69 (0.42) 3.61 (0.51) − 0.16養育態度受容的 3.39 (0.36) 3.30 (0.36) − 0.27*統制的 1.84 (0.41) 1.87 (0.43) 0.07ソーシャルサポート 2.79 (0.57) 2.71 (0.57) − 0.17• 1年間を通して子育ての負担感が増加し(dz= 0.25)、子どもへの受容的な関わりが減少した(dz= −0.27)• 子どもの成長に伴い親の心的負担が高まる一方で育児不安は変化しないという先行研究の知見(e.g., 清水,2017)を支持する結果* p <.05
分析1|ソーシャルサポートの影響 6⚫ ソーシャルサポートの影響Wave 2 における「負担感」「受容的な関わり」を従属変数、Wave 1 における各因子を統制変数、Wave 2 におけるソーシャルサポート得点を独立変数とした重回帰分析独立\従属変数 W2_負担感 W2_受容的切片 1.132 * 1.193 *W1_負担感 0.663 * -W1_受容的 - 0.504 *W2_ソーシャルサポート − 0.127 * 0.145 *モデル適合 R2 = 0.476 R2 = 0.344• 前時点での負担感や受容的な関わりの影響を統制しても、ソーシャルサポートの影響は有意である• 保護者の家族や保育者といった身近な人物からのサポートを充実させることで、子育ての負担感が低減し、子どもへの受容的な関わりが増えることが示唆される* p <.05
まとめ 7• 本研究の目的は、コロナ禍における保護者の子育て意識の経年変化を検討し、今後の保育の質の向上に向けた示唆を得ることであった。• Wave1とWave2で子育て意識に関する各因子の得点を比較した結果、1年間を通して子育ての負担感が増加するとともに、子どもへの受容的な関わりが減少していることが明らかになった。• これらの変化に影響する要因として、ソーシャルサポートの影響を検討した結果、ソーシャルサポートが高まるにつれて子育ての負担感が低減し、子どもへの受容的な関わりが増えることが示唆された。• 本研究の知見に基づけば、今後の保育の質を向上させるためには、保護者の家族や保育者といった身近な人物の支援を充実させていく必要があると考えられる。
引用文献・付記 8• 荒牧美佐子 (2020). 幼稚園における預かり保育の効果検証─ 子どもへの養育態度を指標に─. 目白大学 総合科学研究, 16, 47-57.• 清水嘉子 (2017). 乳幼児の母親の心身の状態に関する縦断研究. 日本助産学会誌, 31(2),120-129.本研究は、文部科学省科学研究費基盤研究(C)「0歳児保育の質の評価と評価スケール開発に関する研究」(研究課題番号:20K646/研究代表者:天野珠路)の助成を受けて行った研究成果の一部である。