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[2026後期火5] 論理学(京都大学文学部 後期 第3回)「∀ の規則と固有変数条件」

[2026後期火5] 論理学(京都大学文学部 後期 第3回)「∀ の規則と固有変数条件」

科学哲学科学史 (演習) 後期 第3回 論理学 (京都大学文学部・矢田部俊介)
「∀ の規則と固有変数条件」
2026年10月20日(火)1645〜1815(予定)

前期の最小命題論理の8規則に量化子の規則を足して、最小述語論理を作ります。今回はその最初として ∀ の導入規則と除去規則を入れます。「任意の x をとる」の「任意」を規則の側から言い直すのが固有変数条件で、まだキャンセルされていない仮定に x が出てきたら ∀ は導入できません。条件を破ると「x=0 かつ y=0 ならば、すべての自然数は 0」や「犯人は左利き、だから全員が左利き」が出てしまうことを確かめ、バークリの三角形の議論と並べます。∀x φ(x) が縮約によってどこまでも伸ばせる連言の役をすること、条件が ∀ の導入と除去を釣り合わせるためにあることも見ます。

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Shunsuke Yatabe

October 18, 2026

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  1. 科学哲学科学史 (演習) 後期 第 3 回 論理学 ∀ の規則と固有変数条件 (「任意の

    x をとる」の「任意」とは何か) 2026 年 10 月 20 日(火)16:45–18:15 文学部第 4 講義室 担当:矢田部俊介(西日本旅客鉄道株式会社) [email protected]
  2. 本日のメニュー 1. 出発点:最小命題論理に量化子の規則を足す 2. 前回の要約と宿題の答え合わせ 3. 数学の「すべての」 4. ∀ の導入規則と除去規則

    5. 固有変数条件 6. 条件を守った証明 7. 無限連言としての ∀ 8. 三層で見る:条件は何のためにあるか 9. 人間も LLM も、特別な例で一般化する 10. 演習と宿題 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 3
  3. 前期の体系:最小命題論理の推論規則 → の規則 [A]1 .. . B →I1 A→B A

    A → B →E B ∧ の規則 A B ∧I A∧B A ∧ B ∧EL A ∧ B ∧ER A B ∨ の規則 A ∨IL A∨B B ∨IR A∨B [A]1 .. . A∨B C C [B]2 .. . C ∨E1,2 ⊥と¬ ⊥ は規則を持たない命題定数。 ¬A は A → ⊥ の略記。 これで全部:8 規則(→ 2、∧ 3、∨ 3) 仮定をキャンセルするのは →I と ∨E。同じ仮定は何か所で使ってもよい(縮約) 。⊥ から何 でも出す規則(矛盾律)は入っていない。だから「最小」。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 5
  4. 最小命題論理 + 量化子の規則 = 最小述語論理 最小命題論理 前期の 8 規則 言語

    + 項・述語・量化子 (第 2 回) + ∀I・∀E 今日 + ∃I・∃E 第4回 最小述語論理 前期の規則は一つも変えない 8 規則はそのまま使う。A, B, C に、述語や 量化子を含む式(K(x)、∀x L(x) など)を 入れてよくなるだけである。足すのは量化 子の規則だけ。 この先の地図 矛盾律(⊥ の除去)を足す:直観主義 述語論理(第 6 回) さらに排中律を足す:古典述語論理(第 8 回) 前期と同じく、規則を一つ足すたびに「何が新しく証明できるようになったか」を見ていく。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 6
  5. 前回の要約:量化子の導入 述語と量化子 文から名前を抜くと述語ができる。K(x) =「x がメアリを殺した」。 ∀x(どんな x についても)と ∃x(ある x

    があって)。 有限の記号で、無限個の文をまとめて言 える。 束縛と順番 束縛変数は名前を替えてよい。∃x K(x) の x は誰の名前でもない。 ∀x ∃y と ∃y ∀x は違う。 束縛変数に勝手に代入すると主張が変わ る。 前回やり残したこと 式は読めて書けるようになった。だが、まだ証明はできない。「いつ、何を代入してよい か」を決めるのが、今日の ∀ の規則である。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 8
  6. 中学校の証明を思い出す 示したいこと どんな自然数 x についても、x が偶数ならば x + 1 は奇数である。

    ① 自然数 x を、何の条件もつけずに勝手に一つとる ② x が偶数だと仮定する(x = 2k ) ③ x + 1 = 2k + 1 なので、x + 1 は奇数 ④ 「x が偶数ならば x + 1 は奇数」(② の仮定を外す:→I) ⑤ x は勝手にとったのだから、どんな x についてもそうである ⑤ の一歩が ∀ の導入である。その根拠は ① の「何の条件もつけずに」だけである。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 10
  7. 一つの例で証明したのに、なぜ全部について言えるのか バークリ『人知原理論』序論 §16(1710) 証明するあいだ私が思い浮かべている観念が、たとえば 辺の長さの決まった直角二等辺三角形であっても、その 証明があらゆる直線三角形に及ぶことは確かである。直 角であることも、辺が等しいことも、辺の長さも、証明 にまったく関わっていないからである。[Berkeley 1710, Intro.

    §16; Works II, pp. 34–35] でも証明は それを使っていない 図には直角も等辺もある 日本語は英文からの拙訳。 今日の話の芯 特定のものを思い浮かべていてよい。その特別な性質を証明に使っていなければ、全部に ついて言える。これを証明の規則として書いたものが、今日の固有変数条件である。 バークリはここでロック『人間知性論』IV.vii.9 の「一般的な三角形の観念」を批判している(序論 §13 で引用) 。§16 とゲンツェンの条 件を同じ発想として並べる研究もある [Cellucci 2009]。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 11
  8. 逆向き:すべてについて言えるなら、一つについても言える 例 どんな x についても、x が偶数ならば x + 1 は奇数。

    ∀x (x = x) だから、2 が偶数ならば 3 は奇数。 もっと簡単な例 どんな x についても x = x。 だから 0 = 0。 0=0 1=1 2=2 好きなものを入れてよい こちらが ∀ の除去である。入れるものに制限はほとんどない(一つだけ注意が ある)。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 12
  9. ∀ の規則 導入規則 ∀I 除去規則 ∀E .. . A[x] ∀I

    ∀x A[x] ∀x A[x] ∀E A[t] t は任意の項(名前、変数、x + 1 など)。A[t] は、A[x] の自由な x をすべて t に置き換えた ただし固有変数条件:A[x] が依存している、 まだキャンセルされていない仮定のどれにも、 もの。 x が自由変数として出てこないこと。 最小命題論理の 8 規則に、この 2 規則を足す。 数学の手順 規則 導入 「勝手に x をとる」→「どんな x についても」 ∀I(条件つき) 除去 「どんな x についても」→「この t について」 ∀E 書籍原稿は ∀E を「∀x A[x] と項 r から」と、項を前提のように書いているが、項は論理式ではないので前提にはならない。ここ ではこう直した。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 14
  10. ∀E を使う:前回の Q[5] が出る 前回やり残した推論 「自然数は無限に存在する」∀x ∃y (x < y)

    から、 「5 より大きい自然数がある」Q[5] = ∃y (5 < y)。 [∀x ∃y (x < y)]1 ∀E ∃y (5 < y) →I1 ∀x ∃y (x < y) → ∃y (5 < y) 一歩で出た もう一つの書き方は? x に 5 を入れただけ。6 でも 100 でも同じ。前 回の「もぐら叩き」が、規則一つで片付いた。 ¬∃x ∀y (y < x ∨ y = x) からも出るか。∃ の規 則と矛盾の扱いが要る(第 4 回以降)。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 15
  11. ∀E を使う:ジャック 仮定 ∀x (K(x) → L(x)):メアリを殺した者は、誰であれ左利きだった。 ジャックが殺した。 K(j): ∀x

    (K(x) → L(x)) ∀E K(j) → L(j) K(j) →E L(j) x に名前 j を入れて、あとは前期の →E。 「誰であれ」は、どんな名前を入れてもよい、という約束である。ただし、その名前が本当 に誰かを指しているかどうかは、この規則は何も言わない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 16
  12. ∀E の注意:代入した変数が捕まってはいけない だめな例 ∀x ∃y (x < y) の x

    に、変数 y をそのまま入れると ∃y (y < y) 「自分より大きい自然数がある」。正しい前提から間違った結論が出てしまう。 何が起きたか 入れた y が、中の ∃y に捕まった。前回の「束縛変数に勝手に代入すると主張が変わる」 と同じ事故である。 正しいやり方 先に束縛変数の名前を替える:∀x ∃z (x < z)。それから y を入れる:∃z (y < z)。 規則としては「t の中の変数が、A の量化子に捕まらないときに限る」という条件になる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 17
  13. 固有変数条件 ∀I で A[x] から ∀x A[x] を出してよいのは、 A[x] が依存しているまだキャンセルされていない仮定に、

    x が自由変数として出てこないときに限る。 言っていること バークリの言い方なら x について、何も仮定していない。 つまり x は本当に「勝手にとった」もの である。 x の特別な性質を、証明に使っていない。 キャンセル済みの仮定は数えない。前期の →I でキャンセルした仮定は、もう結論の「条 件」ではないからである。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 19
  14. 条件がないと、何が起きるか 条件を無視した証明 [(x = 0) ∧ (y = 0)]1 ∧EL

    x = 0 ∀I ? ∀x (x = 0) →I1 (x = 0) ∧ (y = 0) → ∀x (x = 0) 結論がおかしい どこが悪いか x = 0 かつ y = 0 ならば、すべての自然数 は 0 である。 x と y に 0 を入れると、前提は真で結論 は偽。 ∀I をかけた時点で、仮定 (x = 0) ∧ (y = 0) はまだキャンセルされていない。そこに x が入っている。x は「勝手にとった」もの ではなく、「0 だととった」ものである。 2021 年度の授業と書籍原稿の例。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 20
  15. どこを見ればよいか (x = 0) ∧ (y = 0) ∧E x

    = 0 ∀I ∀x (x = 0) まだキャンセルされていない仮定 x が自由に出ている L ここで x について ∀I → 条件違反 点検の手順 1. ∀I をかける線から上へたどる。 2. 途中の葉(仮定)のうち、キャンセルの印 [ ] がまだついていないものを拾う。 3. その中に x が自由に出ていたら、∀I はかけられない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 21
  16. ジャックで同じ失敗をする 犯人を一人とって、その人について考える ∀x (K(x) → L(x)) ∀E K(x) → L(x)

    K(x) L(x) ∀I ? ∀x L(x) →E 出てきた結論 どこが悪いか 「全員が左利きだった」 。 犯人について調べていたはずが、ロンドン 中の人について言ってしまった。 x には「メアリを殺した」という条件 K(x) がついている。その仮定がまだキャンセル されていない。 言えるのは「犯人として x をとれば、x は左利き」まで。仮定 K(x) は結論から外せない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 22
  17. 用語:Eigenvariable(固有変数) ゲンツェン(1935) 自然演繹を作った論文で、∀I(と第 4 回の ∃E)で使う自由変 数を Eigenvariable と呼んだ [Gentzen

    1935, S. 186]。eigen は 「固有の」「自分専用の」 。その推論のためだけにとった変数、 という意味である。 条件のほうの名前 ゲンツェン自身は条件を Variablenbedingung(変数条件)と 呼んだ。日本語では「固有変数条件」とも「変数条件」とも言 う。英語では eigenvariable のほか proper variable とも訳さ れる。 G. ゲンツェン 記号 ∀ もこの論文から(前回) 。書籍原稿の脚注「 『固有の真の変数』とい う意味」の「真の」は原語にないので直す。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 23
  18. 先にキャンセルしてから ∀I 仮定を →I で外してから一般化する [(x = 0) ∧ (y

    = 0)]1 ∧EL x=0 →I1 (x = 0) ∧ (y = 0) → x = 0 ( ) ∀I ∀x (x = 0) ∧ (y = 0) → x = 0 条件を満たす 結論は当たり前のこと ∀I の時点で、x を含む仮定はキャンセル済 み。残っている仮定はない。 「どんな x でも、x = 0 かつ y = 0 ならば x = 0」。正しい。 ジャックでも同じ:K(x) を →I で外すと K(x) → L(x)、それから ∀I で ∀x (K(x) → L(x))。仮 定に戻っただけである。 条件は「一般化するな」とは言っていない。 「条件を結論に書き込んでから一般化せよ」と言って いる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 25
  19. 例題 1:∀x (A → B[x]) → (A → ∀x B[x])

    A には x が出てこないとする。 [∀x (A → B[x])]2 ∀E A → B[x] [A]1 →E B[x] ∀I ∀x B[x] →I1 A → ∀x B[x] →I2 ∀x (A → B[x]) → (A → ∀x B[x]) ∀I のところで条件を点検する まだキャンセルされていない仮定は ∀x (A → B[x]) と A の二つ。前者の x は束縛され ている。後者には x が出てこない。だから ∀I をかけてよい。 「A には x が出てこない」という前提が効いている。A が x = 0 だったら、この証明は通ら ない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 26
  20. 例題 2:束縛変数の名前替えが証明できる [∀x B[x]]1 ∀E B[y] ∀I ∀y B[y] →I1

    ∀x B[x] → ∀y B[y] 点検 ∀I の時点で残っている仮定は ∀x B[x]。 そこに y は出てこない(B の中に y が ないとする)。条件を満たす。 前回の話が、規則から出てきた 前回は「束縛変数は名前を替えてもよい」を約束として言った。今日の規則を使うと、 ∀x B[x] と ∀y B[y] が互いに証明できることが示せる。逆向きも同じ証明でよい。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 27
  21. ダミー変数 x が出てこない式にも ∀x をつけられる [y = 0]1 ∀I ∀x

    (y = 0) →I1 y = 0 → ∀x (y = 0) なぜよいか 逆に y で ∀I をかけると 残っている仮定 y = 0 に x は出てこない。 y = 0 から ∀y (y = 0) は出せない。残って だから条件は自動的に満たされる。こうい いる仮定 y = 0 に y が出ているからで う x をダミー変数と呼ぶ。 ある。 書籍原稿は「命題が x を含まないとき x は自由変数である」と書いているが、x は出てこないので自由でも束縛でもない。正しく は上のとおり、条件が自動的に満たされる、である。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 28
  22. ∀x φ(x) から、好きなだけ長い連言が出る [∀x φ(x)]1 [∀x φ(x)]1 ∀E ∀E φ(0)

    φ(1) [∀x φ(x)]1 ∧I ∀E φ(0) ∧ φ(1) φ(2) ∧I φ(0) ∧ φ(1) ∧ φ(2) →I1 ∀x φ(x) → φ(0) ∧ φ(1) ∧ φ(2) どの n についても 同じやり方で ∀x φ(x) → φ(0) ∧ φ(1) ∧ · · · ∧ φ(n) が証明できる。ただし n ごとに別の 証明であり、どれも有限の長さである。 前回の「無限に長い文は書けない」への答え:∀x φ(x) という有限の式が、どこまででも伸ばせ る連言の役をする。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 30
  23. 同じ仮定を何度も使う:縮約 いまの証明で起きていること 仮定 [∀x φ(x)]1 が 3 か所に出てきて、→I で 一度にキャンセルされている。n

    までの連 言なら n + 1 か所。 ∀x φ(x) 分岐(縮約) 前期第 4 回の言葉で 同じラベルの仮定を何か所でも使って、一 度にキャンセルしてよい。これが縮約 則だった。 φ(0) φ(1) φ(2) 書籍原稿の直し 書籍原稿は「縮約規則の『無限に前提をコピーする能力』 」と書いているが、一つの証明 でのコピーは n + 1 回で、有限回である。「必要なだけ何回でもコピーしてよい」が正確 である。 補足:∧ の導入で二つの枝が同じ仮定を共有してよい、と読むなら、縮約を使わずにすむ(線形論理の加法的連言 &) 。ジラールも 「∀x は & にとても近い」と書いている [Girard 1995, p. 12]。縮約の巻(第 2 巻)につながる論点。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 31
  24. [案 B] 局所のハーモニー:∀I のすぐ後に ∀E 遠回り 近道 Π[x] A[x] ∀I

    ∀x A[x] ∀E A[t] ⇒ Π[t] A[t] 証明 Π の中の x を、全部 t に置き換 える。 前期と同じ形 入れてすぐ出すのは遠回りで、消せる。前期の ∧・→ と同じ局所のハーモニーである。 ∀I は「どんな t でも作れる手順 Π[x]」を持っていて、∀E はそこに t を入れるだけだか らである。 では、x を t に置き換えても、Π[t] は本当に同じ仮定からの証明になっているのか。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 33
  25. [案 B] 条件がないと、近道が壊れる 条件を破った遠回り 近道にすると x=0 ∀I ? ∀x (x

    = 0) ∀E 1=0 ⇒ 1=0 仮定が 1 = 0 に書き換わってしまった。 仮定は x = 0。 固有変数条件の役目 x が仮定に出てこなければ、x を t に置き換えても仮定は変わらない。だから近道は同 じ仮定からの証明になる。条件は、遠回りを消せるようにするため、つまり ∀ の導入と 除去を釣り合わせるためにある。 遠回りの除去はプラヴィッツ(1965)の正規化の一部。前期第 8・9 回の正規化定理は、この条件のもとで述語論理にも延びる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 34
  26. 人間の側:図の特別な性質を使ってしまう 「すべての三角形は二等辺三角形である」 よく知られた誤った証明がある。図を描いて補助線 を引き、合同な三角形を見つけていくと、二辺が等 しくなってしまう。誤りは図にある。ある交点が三 角形の内側に来るように描いてあるが、それは仮定 からは出てこない。図の特別な性質を、証明に使っ てしまっている。 バークリの裏返し バークリ:図に直角があっても、

    証明が使っていなければよい。 この誤り:図にたまたまある性質 を、証明が使っている。 前回の予告の訂正 前回「早まった一般化」と予告したが、正確には違う。早まった一般化は、少なすぎる事 例から全体を推す帰納の誤りである。固有変数条件の破れは、事例が一つでも百でも起き る。特別な例を、任意の例と取り違える誤りである。 伝統的な誤謬の名前でいえば、限定つきで言えることを無条件に言えることと取り違える「逆偶然」(converse accident) が近い。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 36
  27. LLM の側:特定の場合で示して「すべて」と言う 数学オリンピックの証明を書かせた研究 2025 年の USAMO の問題で LLM に証明を書かせ、人間が採点した研究。答案の例に、 一つの添字

    j について示しただけで全ての j について結論したもの、特定の多項式を選 んで示しただけで全ての多項式について結論したものがある。[Petrov et al. 2025, App. C] 国際数学オリンピックの候補問題で LLM の証明の誤りを分類した研究は、「いくつか の具体例から、全部の場合の正当化なしに一般の結論を引き出す」誤りを独立の項目 (Proof by Example)として立てている。[Mahdavi et al. 2025, §3.2] 規則で言えば 固有変数条件の点検をしていない。x に何かを入れて確かめた、その「何か」の特別な性 質が、証明に紛れ込んでいる。 どちらもプレプリント。人間の答案にも同じ形の誤りは出る。違いは、点検する手順を持っている かどうかである。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 37
  28. 演習(3 問) その場で考える (1) 次の ∀I は固有変数条件を満たすか。 [K(x)]1 →I1 K(x)

    → K(x) ∀I ∀x (K(x) → K(x)) (2) 仮定 x < y から、∀I で ∀x (x < y) を出してよいか。∀y (x < y) はどうか。 (3) 証明せよ:∀x (K(x) ∧ L(x)) → ∀x K(x)。 ヒント:(1)(2) は「まだキャンセルされていない仮定」を拾う。(3) は ∀E で x を入れ、∧E、 それから ∀I。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 39
  29. 宿題 証明できる場合は、自然演繹で証明せよ A には x が出てこないとする。 問 1 (A ∨

    ∀x B[x]) → ∀x (A ∨ B[x]) 問 2 ∀x (F [x] → G[x]) → ∀x ( (G[x] → H[x]) ) 問 3 ∀x (F [x] → G[x]) → ∀x (G[x] → H[x]) → ∀x (F [x] → H[x]) 証明できないと思う問は、どこで詰まるかを書けばよい。 エクストラ(解かなくても不利にならない) ¬¬∀x B[x] → ∀x ¬¬B[x] ヒント:¬A は A → ⊥ の略記(前期) 。¬B[x] と ∀x B[x] から ⊥ を出し、…、最後に ∀I。 解くのにかかった時間も書くこと。∀I を使うたびに、固有変数条件を点検したことがわかるように 書くこと。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 40
  30. 今日のまとめ 1. 最小述語論理は、最小命題論理の 8 規則に量化子の規則を足したもの。今日は ∀ の 2 規則。 2.

    ∀E:「どんな x についても」から、好きな項 t について言える。代入した変数 が捕まらないように注意する。 3. ∀I:「勝手にとった x」について示せたら、どんな x についても言える。 4. 固有変数条件:まだキャンセルされていない仮定に x が出てきたら、∀I はか けられない。 5. 条件は「x について何も仮定していない」を記号で言ったもの。バークリの 「特別な性質を証明に使っていない」と同じ発想である。 6. ∀x φ(x) は、同じ仮定を何度でも使うこと(縮約)で、どこまでも伸ばせる連 言の役をする。 7. 条件があるから、∀I のすぐ後の ∀E という遠回りが消せる。 8. 特別な例を任意の例と取り違える誤りは、人間にも LLM にも出る。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 42
  31. 参照文献 スライドで引いたもの Berkeley, G. (1710). A Treatise Concerning the Principles

    of Human Knowledge. Introduction §§13–16. In The Works of George Berkeley, ed. A. A. Luce & T. E. Jessop, vol. 2, pp. 34–35. Cellucci, C. (2009). The Universal Generalization Problem. Logique & Analyse 205, pp. 3–20. Gentzen, G. (1935). Untersuchungen über das logische Schließen I. Mathematische Zeitschrift 39, pp. 176–210. (S. 186, 193) Girard, J.-Y. (1995). Linear logic: its syntax and semantics. In Advances in Linear Logic, Cambridge UP.(著者版 p. 12) Locke, J. (1690). An Essay Concerning Human Understanding. IV.vii.9. Mahdavi, H. et al. (2025). Brains vs. Bytes: Evaluating LLM Proficiency in Olympiad Mathematics. arXiv:2504.01995. Petrov, I. et al. (2025). Proof or Bluff? Evaluating LLMs on 2025 USA Math Olympiad. arXiv:2503.21934. さらに読みたい人へ Mancosu, P., S. Galvan & R. Zach (2021). An Introduction to Proof Theory. Oxford UP.(固有変数の語について p. 47 注 24) Prawitz, D. (1965). Natural Deduction: A Proof-Theoretical Study. Almqvist & Wiksell.(遠回りの除去) バークリ『人知原理論』大槻春彦訳、岩波文庫、1958 /宮武昭訳、ちくま学芸文庫、2018。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 45