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新課程入試の実施に向けた高大接続の現状と課題(ICKT2024)

saireya
March 16, 2024

 新課程入試の実施に向けた高大接続の現状と課題(ICKT2024)

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March 16, 2024
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  1. 導入: 情報学分野における高大接続の例 高校 • 共通必履修科目「情報I」 • 教科書・副教材 受験 • 共通テスト

    or 総合型 • 予備校・問題集・模試 大学 • 全学共通科目・学部専門科目 • 数理・DS・AI教育プログラム 2
  2. 導入: 自己紹介 高校 • 京都市立2校・大阪府立1校の高校で非常勤講師(~2021) • 情報科・「総合的な探究の時間(SGH)」(・数学科) (基礎情報学に基づく情報科教育の体系化) 受験 •

    予備校の情報科教育アドバイザー(共通テスト講座への助言) • 新刊: 『マーク式基礎問題集 情報I』共著(河合出版, 2024) 大学 • 今月: 文章作成に関する個別相談の担当・運営 (関西大学) • 来月: ノートルダム清心女子大学 情報デザイン学部 講師 (担当科目: 情報科教育法・データベース・情報検索 など) 3
  3. 背景と目的 背景: 2024年度で新課程対応の移行期間が終了 • 2024/4: 高校が新学習指導要領へ移行完了 (全学年が新課程の教育課程で学ぶ) • 2025/1: 大学入学共通テスト「情報I」が出題

    (既卒生向けに今回のみ「旧情報」も出題) 本発表の目的: 新課程対応の移行期間終了が迫る現時点での、 高校・受験・大学についての現状と課題を整理し、 現在行っている各種の取り組みを報告する ⇒ 今後の高大接続を検討する上での認識を共有 4
  4. 高校の現状: 新課程情報科の実施にあたって 学習指導要領・学習指導要領解説・教科書以外に、 • 教員研修用教材 情報I: https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ zyouhou/detail/mext_00017.html 情報II: https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/

    zyouhou/detail/mext_00018.html • 授業動画: https://www.nttls-edu.jp/joho/ • 実践事例集: https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/ zyouhou/detail/mext_01833.html …などが文科省から公開され、教材は充実している 8 (出典) 文部科学省「高等学校情報科に関する特設ページ」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1416746.htm
  5. 高校の現状: 教科「情報」の構造 共通教科「情報」※: 「問題解決」を中核と する構成に変更 • 情報I (必履修) • 情報II

    (選択) 問題解決の手法として、 • 情報デザイン • プログラミング • データの活用 を扱う ※他に専門教科「情報」もある 9 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  6. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 情報科の問題解決の手法・過程と、Peirceによる 推論形式の分類※1・探究段階の理論※2を対応付け ※1: アブダクション・演繹・帰納 ※2: アブダクション→演繹→帰納 • 情報デザインによる問題解決:

    アブダクション(Abduction)の過程が重要 • プログラミングによる問題解決: 演繹(Deduction)の過程が重要 • データの活用による問題解決: 帰納(Induction)の過程が重要 11 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  7. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 12 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21 • 演繹(Deduction): 事例

    と 規則 から、 結果 を推論する • 帰納(Induction): 結果 と 事例 から、 規則 を推論する • アブダクション(Abduction): 規則 と 結果 から、 事例 を推論する
  8. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 情報デザイン プログラミング データの活用 (1) アブダク ション Abduction デザインで解決

    すべき問題を決 定する プログラムで解 決すべき問題を 決定する データから導き 出したい仮説を 決定する (2) 演繹 Deduction デザインの形態 や表現を検討し, 実際に作成する プログラムを作 成し,意図する動 作になるまで修 正する 仮説を示すため の統計量を計算 する (3) 帰納 Induction 設計したデザイ ンが正しく使わ れたことを確認 する プログラムが正 しく動作したこと を確認する 仮説検定や推定 などの統計手法 で仮説の正しさ を示す 13 (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  9. Q1. なぜ3つの問題解決手法なのか? 問題解決のどの過程に注力するか明確化すると、 3つの問題解決の演習で、時間を割いて行う部分と、 軽く流して良い部分が明確になる たとえば、 • 情報デザインの演習では、課題発見に注力し、 プロトタイプの作成や評価は軽く流す •

    プログラミングの演習では、何のプログラムを作 るかは教員が決め、プログラムの作成に注力する • データの活用の演習では、所与の仮説、PCが計 算した結果を使い、結果の解釈に注力する 14 配当時間が少ない情報科の授業を効率的に実施可能に (出典) 大西「Peirceの探究段階論に基づく「情報I, II」の構造分析」(2021) https://doi.org/10.32203/jaeis.14.1_21
  10. Q2. 「情報I」と「情報II」の違いは? 情報Iの目標: • 情報に関する科学的な 見方・考え方を働かせ, • 情報技術を活用して問 題の発見・解決を行う 学習活動を通して,

    • 問題の発見・解決に向 けて情報と情報技術を 適切かつ効果的に活 用し, • 情報社会に主体的に参 画するための資質・能 力を…育成することを 目指す。 情報IIの目標: • 情報に関する科学的な 見方・考え方を働かせ, • 情報技術を活用して問 題の発見・解決を行う 学習活動を通して, • 問題の発見・解決に向 けて情報と情報技術を 適切かつ効果的,創造 的に活用し, • 情報社会に主体的に参 画し,その発展に寄与 するための資質・能力 を…育成することを目 指す。 15 (出典) 文部科学省「高等学校学習指導要領」(2018) https://www.mext.go.jp/content/20230120-mxt_kyoiku02-100002604_03.pdf “使い手”(user) “作り手”(creator)
  11. 受験の現状: 大学入試センターの動向 大学入試センターが試作した問題が公開: • 試作問題(検討用イメージ)(2020/11): https://www.ipsj.or.jp/education/9faeag 0000012a50-att/sanko2.pdf • サンプル問題(2021/3): https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jou

    hou/r7/r7_kentoujoukyou/ • 試作問題(2022/11): https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jou hou/r7/r7_kentoujoukyou/r7mondai.html • 「情報関係基礎」は近年、少しずつ情報Iに接近 21
  12. 受験の現状: 大学入試センターの作問方針 • 新学習指導要領で示されている「情報I」で育成 を目指すこととされている資質・能力を重視 • 試作問題は以下の考えの下で作成: • 日常的な事象や社会的な事象と情報との結び付き, 情報と情報技術を活用した問題の発見・解決に向け

    ての探究的な活動の過程,及び情報社会と人の関わ りを重視する。 • 社会や身近な生活の中の題材や受験者にとって既知 ではないものも含めた資料等に示された事例や事象 について,情報社会と人との関わりや情報の科学的 な理解を基に考察する力を問う問題などとともに,問 題の発見・解決に向けて考察する力を問う問題も含 めて検討する。 22 (出典) 大学入試センター「令和7年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テストの 出題教科・科目の問題作成方針に関する検討の方向性について」(2022) https://www.dnc.ac.jp/albums/abm.php?d=511&f=abm00003128.pdf
  13. 受験の現状: 受験産業からのサポート 予備校による模試が開始: • 河合塾 全統模試 (情報I・旧情報) • 東進模試 (情報Iのみ)

    • 進研模試 (情報Iのみ) 各社から共通テスト対策の問題集が刊行: • 『マーク式基礎問題集 情報I』(河合出版) • 『2025 実戦攻略 情報Ⅰ 大学入学共通テスト問題集』(実教出版) …など(10種以上ある?) 23 (出典) 米田ら『マーク式基礎問題集 情報I』河合出版(2024), ISBN:9784777227358 https://www.kawai-publishing.jp/book/?isbn=978-4-7772-2735-8
  14. 受験の現状: マーク式問題の作成における課題 マーク式で可能な回答形式: • 択一式: 複数(最大14個)の選択肢から選ぶ • 数字式: 計算結果などの数字を直接マークする 他教科と同様に、答えが1つに定まる必要がある

    • 一般的な設問は次の文言の形式: 「~として最も適当なものを、 次の⓪~③のうちから一つ選べ」(4択の場合) • 積極的に選択肢を1つに絞れなかったとしても、 消去法でも1つに定まればOKという形の文言 (ただし、DNCも消去法になるのは避けたいはず) 24
  15. 受験の現状: マーク式問題の作成における課題 • 技術の進歩で正解が変わる 例: HTTP通信の暗号化に使われる技術は? 10年前なら「SSL」は正しかったが、 今は「SSL/TLS」or「TLS」が正解、「SSL」は× (旧課程の教科書は「SSL」のみの記載も多い) •

    実装の変化で正解が変わる 例: HTTPS通信を使っているか見分けるには? 5年前なら「鍵(錠前)マークが表示されている」 は正解だったが、最近のブラウザでは鍵マークは もはや表示されない • 用語が統一されておらず併記や注記が必要 例: 1キロバイト = 1,000B or 1,024B ? (教科書により記載の状況が異なる) 25
  16. 大学の現状: 共通テストの利用状況 • 東進「大学別「情報I」利用状況 国公立大学編」 https://www.toshin.com/shingaku_info/ shinkatei/search.php 大学別・入試区分別の配点比率を網羅的に掲載 • 大学別の利用状況については、

    3/20の講演でも紹介予定 (@ノートルダム清心女子大学) 27 (出典) ノートルダム清心女子大学「3/20 特別講演「大学入学共通テスト 『情報I』で問われること」」 https://www.ndsu.ac.jp/blog/article/?c=blog_view&pk=1707977395d96a2108bd490f 09a1b6ff2d687341bf
  17. 大学の現状: 選抜の状況 • 情報IIを学ぶなど、情報系を専門とする高校生を、 選抜する体制は整っていますか? 例: 共通テストの配点比率、独自の試験問題 • 情報系の探究活動を行った高校生を、 選抜する体制は整っていますか?

    例: 情報処理学会「中高生情報学研究コンテスト」 • 情報系の資格を持つ高校生を、 選抜する体制は整っていますか? 例: ITパスポート、基本情報技術者、… 28
  18. 大学の現状: 新課程の準備状況 • 2025年度からの学科のカリキュラムは、 新課程を踏まえた内容になっていますか? • 教職課程における情報科教育法の授業は、 新課程を踏まえた内容になっていますか? (これからの履修学生は新課程しか教えない) •

    教職課程の「教科に関する科目」の必修科目は、 新課程を踏まえた内容になっていますか? (特に、コミュニケーションと情報デザインの領域) 29 大学は学習指導要領に沿う義務はないが、 高校での学習との接続を考慮することは必要