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エージェントベースモデリングに基づく生産システム運用の高度化

 エージェントベースモデリングに基づく生産システム運用の高度化

オムニバス講義(主として経営システム工学科の2年生向け)のスライドです.

hajimizu

July 13, 2020
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Transcript

  1. ⽣産システム運⽤の難しさ • 動的な環境:処理時間の変動,品質不良,機械故障,新注⽂ の到着などの不確定事象の発⽣にともなって状況が確率的に 変化していく,動的な環境下での意思決定である. • 分割統治的:情報の取得可能性や計算複雑性などのためシス テム全体の運⽤の意思決定を実時間にまとめて処理するのは 難しく,問題を分割して部分別に処理することになる. •

    ⼈間参加型:⾃動化されている意思決定もあればそうでない ものもあるため,システム全体の運⽤はまさに⼈と機械の知 的協働であり,クルマの⾃動運転にも似た難しさが⽣じる. • ゲーム的状況:部分的な運⽤を担う担当者間には利害の対⽴ や情報の⾮対称性が⽣じ得る.そうしたゲーム的状況におい て,いかにして協調的な⾏動を促すかも重要な課題となる. 4 Hajime Mizuyama
  2. ⽣産の計画と統制のフレームワーク 5 中央での ⽣産計画 現場での ⽣産統制 ⽬標,制約条件, その他のシステ ム全体に関する 情報

    実際の進捗, その他の各現場 の状況について の情報 実現状況に基づく詳細で 局所的な実時間の意思決定 予測に基づく⼤まかで 広範囲な事前の意思決定
  3. エージェントとABM エージェントとは システムの構成要素を捉える⾒⽅ – 環境の観測結果を⼊⼒しそれに基づいて⾏動を出⼒する. – ⾏動の帰結を予測するための内部モデルをもつ. – 帰結の好ましさを評価するための効⽤関数をもつ. –

    経験から内部モデルを更新する学習能⼒をもつ. エージェントベースモデリング(ABM)とは 単⼀あるいは複数のエージェントを内包した形でシステムを 捉える⾒⽅ 7 Hajime Mizuyama
  4. なぜABMか? • 複数の⼈や⾃動化されたアルゴリズムによって分散的に処理 されている⽣産システム運⽤の意思決定の全体的な枠組みを 表現するのに適している. • 各担当者(⼈)の意思決定やそのための情報収集,さらには 経験を通じた学習などのあり⽅を,担当者の視点から⾃然に モデル化することができる. •

    上記の全体的な枠組みや各担当者の振る舞いを変化させると どうなるか,という if-then 分析に繋げやすい. • ⽣産システムの運⽤を⾃動化したい場合,計算時間や変化へ の適応性などの⾯から⾃律分散的なアルゴリズムが望まれる. ABMはそうしたアルゴリズムを考案・評価する基盤となる. 8 Hajime Mizuyama
  5. ⽣産システムの2層フレームワーク 10 Hajime Mizuyama ⽣産システムの物理的な挙動を捉える層 作業指⽰に基づき各作業を開始 遅れ,不良,故障などの 不確定事象が確率的に発⽣ ⽣産・物流の 作業指⽰(ex.

    差⽴て) システム状態の 観測(ex. 進捗情報) どの担当者が何に基づいて いつ何を決めるのか 担当者間ではどのような 情報が共有されるのか ⽣産システム運⽤の意思決定を捉える層
  6. ⽣産システムの状態の時間発展の捉え⽅ 担当者はシステムの状態(の⼀端)を観測し,それに基づいて,⾃分 ⾃⾝の⽬標達成を⽬指してシステムへの介⼊の仕⽅(⾏動)を決める. 12 システ ム状態 s0 観測 システ ム状態

    s1 介⼊ システ ム状態 s2 システ ム状態 s3 システ ム状態 s5 各担当者は知識やスキルを備えて⽬標達成 を⽬指すエージェントとして捉える. 観測 介⼊
  7. ⽣産システムの状態の時間発展の捉え⽅ 担当者はシステムの状態(の⼀端)を観測し,それに基づいて,⾃分 ⾃⾝の⽬標達成を⽬指してシステムへの介⼊の仕⽅(⾏動)を決める. 13 システ ム状態 s0 観測 システ ム状態

    s1 介⼊ システ ム状態 s2 システ ム状態 s3 システ ム状態 s5 複数エージェントの場合は,エージェント 間のコミュニケーションも考慮する. 各担当者は知識やスキルを備えて⽬標達成 を⽬指すエージェントとして捉える. 観測 介⼊
  8. 担当者エージェントのモデル 14 意思決定アルゴリズム 内部モデルと それに基づいて 決まる⼊出⼒変換 システムへの 介⼊⾏動 (作業指⽰) システム状態

    の捉え⽅に 応じて決まる ⼊⼒変数群 担当者の意思決定は,この⼊出⼒変換で捉えられる.⼊⼒・出⼒の空 間の定義,変換のタイミング,学習能⼒の捉え⽅なども重要である.
  9. 意思決定の質を基礎づける要因 知識・スキル • 状況認識のスコープや粒度, 状況変化の予測モデルなど • 意思決定のアルゴリズムや タイミングなど 各担当者の意思決定に有⽤な 知識・スキルの本質は何か?

    知識・スキルの習得や実適⽤ を効果的に⽀援する⽅法は? インセンティブ構造 • 状況についての選好,効⽤ 関数,達成したい⽬標など • 他者モデル,他者の存在を 考慮した戦略など 担当者間に⽣じ得るゲーム的 状況とはどのようなものか? 有効な協⼒・協調を引き出す ためにはどうすればよいか? 17
  10. ABMを基盤とした研究の4象限 18 知識・スキルの 習得や実適⽤の⽀援 協⼒・強調を引き出す メカニズムデザイン 知識・スキルや その習得過程の解明 ゲーム的状況の 理解と帰結の予測

    ⽣産システム のABM 科学的視点 Scientific analysis 工学的視点 Engineering design 各エージェントの 知識・スキル Micro -> Macro システム全体の 環境・制度 Macro -> Micro
  11. 各担当者の意思決定の本質に迫る ⾏動科学的アプローチ • 担当者が意思決定を⾏う現 実の状況の本質をシリアス ゲームの中で再現する. • そのシリアスゲームを⼈に プレイしてもらい,そこで の⾏動データを収集する.

    • 得られた⾏動データを分析 することによって,担当者 の意思決定に関する理解を 深める. 計算科学的アプローチ • 担当者の意思決定を基礎づ けるある種の規範をアルゴ リズムで表現する. • それを計算機上で駆動させ, どのような振る舞いが⽴ち 現れてくるかを観測する. • 得られた振る舞いを現実と 対⽐することなどで,当該 意思決定を基礎づける規範 についての考察を深める. 20 Hajime Mizuyama
  12. 両アプローチの技術基盤 ⾏動科学的アプローチ • 実験経済学 • ⾏動ゲーム理論 • シリアスゲーム • 参加型シミュレーション

    • 模倣学習・逆強化学習 • ウェブアプリ開発 計算科学的アプローチ • 静的最適化(の繰返し) • ゲーム理論・進化ゲーム • メカニズムデザイン • 強化学習(SA /MA) • マルコフ決定過程(MDP) • マルコフゲーム 21 Hajime Mizuyama • 離散事象シミュレーション
  13. 相補的アプローチの全体像 22 (a) 対象⽣産システムのエージェントベースモデルを作成 (d) 上のゲームのプレイ ログを収集し分析 (e) シミュレーション実 験とその結果の分析

    (f) 上の(d)と(e)の結果を⽐較・検討することによる知⾒の導出 (b) 上のモデルに基づく シリアスゲームの開発 (c) 上のモデルに基づく シミュレータの開発 知⾒(f)に基づきモデル(a) を改善し,分析を繰返す 知⾒(f)の実際への活⽤
  14. 29 本社 顧客 下⼯程 ⼯場 上⼯程 ⼯場 素材 発注 素材

    納⼊ 製品 発注 製品 納⼊ 商品 発注 商品 納⼊ 拠点間のコミュニケーション(情報共有) を変化させて,地震などの⾮定常的な変動 に直⾯した際のパフォーマンスを⽐較する. 製鉄企業の社内サプライチェーンの事例
  15. 研究事例の主な成果 #1 製鉄企業の社内サプライチェーンの事例 H. Mizuyama, T. Nonaka, Y. Yoshikawa and

    K. Miki: ColPMan: A Serious Game for Practicing Collaborative Production Management, Simulation and Gaming in the Network Society, Springer, pp.185-197 (2016) T. Nonaka, K. Miki, R. Odajima and H. Mizuyama: Analysis of Dynamic Decision Making Underpinning Supply Chain Resilience: A Serious Game Approach, 13rd IFAC/IFIP/IFORS/IEA Symposium on Analysis, Design, and Evaluation of Human- Machine Systems, Sep. (2016) T. Furukawa, T. Nonaka and H. Mizuyama: A GWAP Approach to Analyzing Informal Algorithm for Collaborative Group Problem Solving, 4th AAAI Conference on Human Computation & Crowdsourcing: HCOMP 2016, (2016) T. Furukawa, T. Nonaka and H. Mizuyama: Capturing Information Sharing Strategy in a Problem-Solving Team Playing ColPMan Game, 5th AAAI Conference on Human Computation & Crowdsourcing: HCOMP 2017, (2017) T. Furukawa, T. Nonaka and H. Mizuyama: A Framework for Mathematical Analysis of Collaborative SCM in ColPMan Game, IFIP Advances in Information and Communication Technology, Vol.514, Springer, pp.311-319 (2017) 36 Hajime Mizuyama
  16. 研究事例の主な成果 #2 製鉄企業の加熱炉前スラブヤードの事例 H. Mizuyama: Agent-Based Modeling and Analysis of

    Dynamic Slab Yard Management in a Steel Factory, Proc. of the International Conference on Advances in Production Management Systems: APMS 2020, Sep. (2020) to appear. 飲⾷店のフロア業務の事例 野中朋美, 清⽔⾹那, ⽔⼭ 元: 顧客の予測退店時刻を考慮した飲⾷店におけ る動的な座席割当てシステム, ⽇本機械学会論⽂集, Vol.82, No.842, p.16- 00166 (2016) H. Mizuyama, A. Yoshida and T. Nonaka: A Serious Game for Eliciting Tacit Strategies for Dynamic Table Assignment in a Restaurant, Lecture Notes in Computer Science, Vol.10711, Springer, pp.394-410 (2018) F. Nishimura, E. Kinoshita, T. Nonaka, and H. Mizuyama: Analyzing Intuitive Skills of a Waitperson in a Restaurant Dining Room Using a Serious Game, IFIP Advances in Information and Communication Technology, Vol.535, Springer, pp.526-533 (2018) 37 Hajime Mizuyama
  17. まとめ • ⽔⼭研究室で取り組んでいる研究テーマの柱のひとつである, 「⽣産システムの運⽤に関する研究」について,その背景や ⽬的,基本的なアプローチ,いくつかの研究事例を紹介した. • もし関⼼を持ってくれた⼈がいたなら,卒業論⽂や修⼠論⽂ のための研究として,この研究テーマに⼀緒に取り組めたら 嬉しいと思う. •

    この研究テーマの遂⾏に必要な技術基盤もあわせて紹介した ので,ぜひそれらを勉強することからスタートしてみてほし い(スライド21). • 経営システム⼯学科では,3年⽣の輪講の配属で研究室を選ぶ ことになる.⾃分はどの研究室のテーマに興味があるか,今 から考え始めても早すぎるということはない. 39 Hajime Mizuyama