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Digital Regulatory Reform in Japanese financial industry

Masa Masujima
February 05, 2023

Digital Regulatory Reform in Japanese financial industry

Masa Masujima

February 05, 2023
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  1. 2 増 島 雅 和(ますじま まさかず) 2006 米国ウィルソン・ソンシーニ法律事務所(シリコンバレーオフィス) 2007 ニューヨーク州弁護士登録

    2010 金融庁監督局保険課(銀行第一課兼務) 日経CSISバーチャルシンクタンク・フェロー 金融と知財の力で我が国産業構造のイノベーションを加速する“Startup Innovators”主宰(http://startupinnovators.jp/) 2013 経済産業省 新事業創出支援関係者会議 委員 2015 IMF外部カウンセル(米国FSAP:金融破綻処理法制担当) 日本ベンチャーキャピタル協会顧問、日本ブロックチェーン協会顧問、暗号資産ビジネス協会アドバイザー 2016 内閣官房ベンチャー・チャレンジ2020 アドバイザリーボードメンバー 内閣官房IT総合戦略本部 シェアリングエコノミー検討会合 委員 2017 経済産業省 研究開発型ベンチャー企業と事業会社の連携加速に向けた調査検討会 委員 森・濱田松本法律事務所 パートナー(弁護士(日本・NY州)・弁理士) 2018 内閣府 革新的事業活動評価委員会 委員 特許庁 知的財産国際権利化戦略推進事業有識者委員会 委員 2019 総務省 AIインクルージョン推進会議 委員 経済産業省 Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会 委員 内閣官房 デジタル市場競争会議WG委員 特許庁 オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドライン研究会 委員 内閣府 規制改革推進会議 専門委員 2020 内閣官房 ブロックチェーン官民推進会合 委員 内閣官房 Trusted Web協議会 委員 デジタル通貨研究会 委員 オンライン名刺交換用QR コード 2001 弁護士登録 2021 経済産業省/特許庁 産業構造審議会 知的財産分科会委 委員 2022 内閣府 スタートアップ・大学を中心とする知財エコシステムの在り方に関する検討会 座長
  2. 金融のデジタル化の潮流にあわせた金融庁の対応  暗号通貨法制  MountGox事件(2014)を受けてニューヨーク州BitLicense(2014.7)を踏まえ 2017.4法制化  Coincheck事件(2018.1)を受けて2020.5規制強化  2020.5セキュリティトークン法制を導入

     2023.6ステーブルコイン法制を導入  デジタル金融仲介法制  欧州PSD2(2015.11)を受けて銀行につき2018.6法制化  銀証保・貸金に横断するAPI金融法制を2021.11導入  金融機関DX法制  本体の業務規制範囲の拡大  子会社の業務規制範囲の拡大  持株会社の業務規制範囲の拡大  リスクマネー供給拡大  米国JOBS Act(2012.4)を受けて2015.5に株式型クラウドファンディング導入  グリーンシートから株主コミュニティ制度に移行(2015.5)  特定投資家制度の改革(2022.7)  PTS制度の改革/非上場株式取引(to come)
  3. 日本の金融規制改革の構造 4  横断的に金融制度を所管する強みを発揮  金融庁が横断的に金融制度を所管するため、制度横断的に整合的な規制改革を 進められている。  業界をカウンターパートに据えることで、環境変化に呼応して比較的アジャイルに 規制改革を進められている

     規制改革のドライバーは3つ  規制改革推進会議等を通じた業界の要望  FSBやFATFなど国際金融監督コミュニティによる規制強化要請  金融事故への対応  規制改革のプロセス  金融審議会の各WG/PT  法案作成  国会審議  政省令・ガイドラインの調製  パブリックコメント手続  施行
  4. アジェンダ:我が国が勝てる制度をデザインできているか? 5  導入された制度は所期の目的を達成できているか?  想定された数の事業者の参入が達成されたか?  想定された経済効果を生めているか?  そもそも経済の拡大(国富の増大)に対する想定を持てているか?

     金融規制監督の目的・視点は十分か?  「利用者利便の向上」を超えた国富の増大を目指せているか?  規制デザインは市場デザインであることを踏まえて規制のアーキテクチャをデザイ ンできているか?  イノベーションを利用者保護とバランスさせる価値という以上に、競争による市場 ダイナミズムを通じた国富の増大を目的とするものと捉えられているか?  現在の体制の延長で我が国の国際競争力低下を反転させられるか?  産業としての金融の国際競争力の反転は、国際金融センター構想で実現できるのか?  金融をレバレッジした経済全体への波及効果を狙った構想・規制デザインを描けて いるか?  現在のルール形成のプロセス・構造に見直すべき点はないか?
  5. ルール形成とエンフォースメントのプロセスレビュー  企画立案段階  新たなビジネスを可能にするための規制改革提案に対し、日本に需要があることの 証明を求める - 新たなビジネスは常に「仮説」に基づく(需要があることを事前に証明できるビジネスは存在 しない。だからこそ事業家がそのリスクをとり、成功者が利益を上げることができる) -

    規制によって適法にビジネスを行うことができない市場で、事前に需要の証明を求めることは 悪魔の証明  審議会・WGの運営 • テーマに対して適切なメンバー構成になっていないのではないか。 特にデジタルやイノベーションに対する理解や知見を十分に持ったメンバーとなっているか。 • 適切な利害関係者の意見が聴取されずに、事務局の方針が追認される方向で決定されていない か?  法案のデザイン(アーキテクチャ設計)  アナログを前提とした既存の法システムに、デジタル金融をはめ込む方法は適切か - 既存の法制にはめ込むため、他の制度との平仄によって法案の骨格と内容が決まってしまう - サイバー空間はアナログ空間とビジネスの「場」が異なることが考慮されない設計になる - 新法よりも既存法制の改正を選択するバイアス  ビジネスの「場」が異なると、同じ規制趣旨でも規制の手法やエンフォースメントの 方法が異なるはずだが、これが無視されてしまうことになる  規制内容(コンテンツ)は審議会で議論されるが、規制デザイン(アーキテクチャ) は明示的に議論されない
  6. ルール形成とエンフォースメントのプロセスレビュー  エンフォースメント(監督・検査)  ソフトタッチ・アプローチの限界 - レピュテーションに働きかけるエンフォースメントは、国際的な規制監督レビューで常に 改善を求められる - ペナルティ(課徴金制度)の脆弱性

    - 行政完結を過度に志向するエンフォースメント体制  検査体制 - 閉鎖的な検査プロセス - 検査プロセスの適切性が第三者から検証される機会が乏しい(検査妨害・検査忌避とされる)  個人の責任追及型のエンフォースメント - システムの失敗に対する結果責任が追及される傾向 - ビジネスジャッジメントルールが適用されない結果、経営陣が過度に萎縮 - いったん「失敗」すると金融村から排除されてしまう
  7. 制度の観点からの原因の分析  金融規制システムの制度疲労  ITシステムは設計した日から負債が溜まっていく(技術負債)ため、技術負債を定期 的にクリーンアップしないと競争に負けてしまう - GoogleやApple、Microsoftは、技術負債を定期的に解消、日本のITは旅館の建て増し型で負け てしまった 

    法システムも同じ。メンテナンスではなく制度負債を解消する更新をかけていかない と国家間の金融競争に負けてしまう - アナログ法制の上にデジタル金融規制を建て増すのは、日本の金融機関のスパゲティシステム と同じことをやっているという自覚が必要  規制デザインプロセスの制度疲労  金融版デジタル規制改革 - デジタル臨調が進めるデジタル規制改革は、デジタル5原則を制度に導入するため フェーズを3つに分けて進めている ・ フェーズ1:現状のアナログ規制 ・ フェーズ2:アナログ規制の手法をデジタルに置き換える ・ フェーズ3:規制趣旨に立ち返ってデジタルファーストな規制を再構築する データ⇒分析⇒制御のサイクルを自動で回すベターレギュレーションを実現  金融規制におけるフェーズ3を実現するための規制デザインプロセスを再構築する 必要があるのではないか  金融におけるアジャイルガバナンス・プロセスの開発
  8. 制度の観点からの原因の分析  金融エンフォースメントシステムの制度疲労  制裁システムの弱さ - 欧米並みの課徴金制度を導入することの憲法や他の法制度上の問題はないことが明らかになっ ている - クロスボーダーエンフォースメントの手法の開発は、Web3やメタバース環境下の金融を考え

    るうえで不可欠  企業犯罪への対応 - 企業というシステムの失敗への規制エンフォースメントが、経営陣への責任追及を指向するも ので良いのか - 欧米では、システムの失敗を改善するためのインセンティブを付与するエンフォースメント システムが採用されている
  9. 解決の方向性  金融当局のミッション(マンデート)のアップデート  利用者利便の向上、イノベーションの促進を超えた「国益」の追求を金融当局の ミッション(マンデート)として正面から掲げられないか? - 金融産業のGDP絶対額をどう増やすか - 金融をレバレッジした日本のGDP絶対額をどう増やすか

     議論ができる環境の変化 - 「日本は製造業の国」ですらなくなってきている - 安全保障環境の変化により国家を主語としたアジェンダを立てられるようになってきた - 経済安全保障の確立は強い経済が前提、ということがコンセンサスとなりつつある  戦略1:ルールメイクに対するポジションの明確化  激しい国家間競争が行われている金融ルールメイクに勝つ、という明確な ポジショニングを打ち立てる <期待される効果> • 現場で多用される庭先掃除ロジックの排除 • 現場で多用される立ってられない論の排除 • 利害関係者の調整者ではなく、日本の金融が勝つためのルールを作る当事者となる  国際的なルールメイキング競争に勝利する目標を立てれば、実現策として国内ルール の生成プロセスやルールの内容を見直さざるをえない <期待される効果> • 金融プリンシプルを共有する非金融デジタル関係者や専門家からの新たな知見の取入れ • 国際監督規制体系に沿った規制アーキテクチャの導入 • PDCAを回すために必要な定量的な数値目標の導入
  10. 解決の方向性  戦略2:規制・制裁・責任の一体改革  アジャイルガバナンスの新たなアジェンダとして、我が国のエンフォースメント改革 を掲げている • CPSを主要なビジネス空間としていくためには、現在のアナログなエンフォースメント体制で は無理であるとして、不確実性を前提とした責任概念の再定義(「責任=非難可能性」からの 脱却)と新たなエンフォースメントメカニズム(厳格責任を前提に情報開示と改善合意によっ

    て責任が軽減されるメカニズム)の提案がなされる予定  デジタル・イノベーションの前線基地である金融業は、エンフォースメント改革の 最大の受益者となりうる • ベターレギュレーションで掲げた行政処分ポリシーをアップデートする好機 • 検査プロセスを現代化する機会となり得る • デジタル金融で頭を悩ませているクロスボーダーエンフォースメントへのヒントともなり得る • 課徴金制度の改革につながる • AML/CFT/PF規制、サイバーセキュリティのエンフォースメント強化が可能
  11. まとめ 12  基本に忠実に、やるべきことをやってきた金融庁の伝統  バブル処理以降、国際金融の荒波の中で基本に忠実に監督権限を行使し、結果的に 日本と世界の金融安定を守護してきた • リーマンショック時の金融インパクトの最小化とTBTF政策への貢献 •

    LIBOR不正に対する警鐘 • 金融資本市場の分断(market fragmentation)に対する警鐘 • 分散金融に対する規制と国際金融政策のリード  デジタル版金融システム改革を検討する機が熟しつつあるのではないか  製造業凋落のなか、沈む日本を浮上させるためには金融の力をアンロックするほか に道が残されていない  Fintechに対応するためこの10年間に行った様々な制度改正をいったん効果検証し、 金融で国力を浮上させるために足りなかったもの、今後必要なものを再整理すべき  これまで何度も変態を成し遂げてきた日本の金融行政には、その力がある  正しいことやるだけでなく、国を富ませることによる国家貢献が今、強く求め られている  金融教育による長期戦略に加えて、数字を追求する中期金融国家経営戦略が必要  戦略である以上、整合性(インテグリティ)ではなくゴール(国富)達成に向けた アンビバレントなものを受け入れる必要 • デジタルとアナログの規制差 • サンドボックスの名のもとに別の規制体系を試行(例:EUのDLT Pilot Regimeのもとでの暗 号資産規制法制(MiCA)の制定)
  12. 連絡先 13 弁護士 増 島 雅 和 森・濱田松本法律事務所 tel. 03.5220.1812

    email. [email protected] facebook. https://www.facebook.com/masa.masujima twitter. @hakusansai discord. hakusansai#8831 オンライン名刺交換用QR コード